エピローグ「緑の地平線」
十年後の世界。
かつての「死の荒野」は、世界最大の食料生産拠点「アルト大農園都市」へと変貌を遂げていた。
地平線の彼方まで続く緑の大地。
そこでは、あらゆる種類の作物が育てられ、世界中の食卓を支えている。
都市の中央には、伝説の農夫カイ・アルトの銅像が立っている……はずだったが、本人が「恥ずかしいからやめろ」と撤去させ、代わりに巨大な黄金のトマト像が鎮座している。
「パパ、あれ見て! ドラゴンさんが飛んでる!」
観光客の親子が空を指差す。
上空には、ベルとその子供たち(!)が編隊を組んでパトロール飛行をしていた。
この街では、ドラゴンと人間が共存するのが当たり前の風景だ。
農園の奥にあるログハウス。
そこは変わらず、質素で温かい佇まいを残していた。
「カイ、お茶が入ったわよ」
成熟した女性の魅力を湛えたリゼが、縁側で呼ぶ。
「ああ、今行く」
カイは三十代になり、精悍さを増していたが、その瞳の少年のような輝きは変わっていなかった。
彼は手を止めて、自分の作り上げた世界を見渡した。
多くの人々が笑い、働き、食べている。
飢えのない世界。
争いのない世界。
それは、一本のクワから始まった奇跡。
「さて、来年はどんな新しい野菜を作ろうかな」
カイはニカっと笑い、リゼと、そして空から降りてきたベルと共に、極上のティータイムを楽しんだ。
そのテーブルには、世界で一番美味しい野菜たちが、宝石のように輝いていた。




