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リップクリーム

作者: 二雫

「雨、なんとかもってよかった。このまま体育祭が終わる最後まで降らないといいけど。」

「そうだね、きっと大丈夫でしょう。」

 学校見学で見に来た体育祭の観覧席で三人あたりさわりのない会話が続く。

「この春入学した子たちは、久しぶりの運動会なのかな。すごく楽しそうだね。」

「・・・。」

「あ、ほら金髪の子も結構いるね~。自由な校風でよさそう。うちもちょっと来年あたり茶髪にしちゃう?」

「・・・・・。」

「・・・・。」


生徒たちは、一生懸命に演目に取り組んでいる。久しぶりにみる光景だ。


体育祭が前半終了の演目に近づいてきたころ、ふと一人の生徒が観覧席に近づいてきた。

「お母さん、あれ持ってきた?」

「うん、もってきたよ。」

二列前に座っていた男女のうち「お母さん」と呼ばれた女性のバッグから取り出されたリップクリーム。

「はい」と生徒に手渡した。お母さんは笑顔だ。

「ありがとう」「うん」

「・・・・・。」「・・・・・・。」

しばらく沈黙がつづいて、生徒が言った。

「お父さん、お母さん、今日は見に来てくれて本当にありがとう。もういいよ」

それから何度も「もういいよ」を連呼した。照れくさいからもう帰っていいよ、ということらしい。

「やだ!」とペロっといたずらっぽく女性は返した。

「私達は適当に見てから帰るから気にしないで!」と笑顔で返すと、生徒は微笑みながら戻っていった。

「・・・・・もういいよ・・・・か。」なんて素敵な言葉なのだろう。子供の自立の一歩目に立ち会った気がした。他人事なのに気が付いたら泣いてしまっていた。

「となりで、ぼうっとしている我が子に届いているといいな」と強く願った。










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