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悪役令嬢ローザリンダの逆転婚約破棄

作者: 但馬いぬ
掲載日:2025/03/16

「ローザリンダよ、お前との婚約を破棄させてもらう!」



 両家の者たちが居並ぶ貴族パーティでのこと。

 我が良人となるはずのオズワルドが怒声をあげた。



「いったいどういう事かしら。理由を聞かせて頂戴、オズワルド」


 私はいたって冷静に尋ねる。



 オズワルドは伯爵家の長子。

 そして私、ローザリンダは男爵家の令嬢。

 ふたりは許婚だ。

 親同士が勝手に決めた、言わば政略結婚である。


 そこには愛も何もあったものではないが、この貴族社会ではとりたてて珍しいことではない。

 個人の感情よりも家の繁栄をこそ優先するべき。

 それこそが当たり前の常識なのである。


 とりわけオズワルドといえば真面目で誠実、そして責任感の強い男として各方面から高い評価を受けている。当然ながら、家のためにこの婚約を快く承諾したと聞いている。

 家の格式では、我が家が劣っているものの、それでも我が家と繋がりを持ちたい理由が彼らにはあるのだ。

 つまり両家はほぼ対等な立場にあると言える。


 それだけにオズワルドの発言は皆に衝撃を与えた。

 私の両親も、あちらの両親も、信じられないといった面持ちで私たちのやりとりを静観している。



「理由を話さなくては誰も納得などできないわ、オズワルド。皆にもわかるように、貴方自身の口で説明なさい」


 私はもう一度、説明を促した。

 もちろん私には、心当たりがある。


 やがてオズワルドは苛立つようにして説明を始めた。


「開き直るつもりか、ローザリンダ。いいだろう、皆の前で断罪されることを望むというなら、その通りにしてやろうじゃないか」


 大げさに腕を広げ、遠くまで声を響かせるようにオズワルドは言う。

 その芝居がかった身振りは人目を引き、私たちは注目の的となった。

 彼による断罪劇が始まろうとしている。


「僕はお前の悪事の数々を耳にした。そして思った。お前のような極悪令嬢は、我が栄えある伯爵家に近づけるべきではないと」


 眉間にしわをよせて、怒りを演出するオズワルド。

 サラサラと揺れる金色の髪が今にも逆立ちそうなほどの迫力だ。

 端正な顔立ちは怒りに染まってもなお美しい。


「フン」


 私も負けじと亜麻色の長い髪を掻き流す。

 そして腕組みから仁王立ちの構えだ。

 私とて美貌には一定の評価と自信があるし、日ごろの努力の賜物である見事なボディラインを際立たせる深紅のドレスは、緊迫の場面において迫力で後れを取ることは無い。


「聞かせてもらおうかしら、その悪事とやらを」


 そして見せていただくわ。

 貴方がどこまでやれる男なのかを。



「まずはお前の妹、ポピアミサイルに関することだ。お前は血を分けた姉妹であるポピアミサイルに、執拗な嫌がらせを続けていることを僕は知っている」


 ポピアミサイルとは私の実の妹である。

 父譲りのピンク色の髪色に、人々の庇護欲をそそる童顔を兼ね備え、誰彼からも愛される才能を持った我が妹なのである。

 もちろん私にとっても、可愛い可愛いたったひとりの妹だ。


「先日などはローザリンダ。お前はポピアミサイルのドレスのおしりにひっつき虫をひっつけたな。そのまま椅子に座ったポピアミサイルはおしりにひっつき虫が刺さり、たいそう痛かったそうだ」


「それで?」


「それだけでも度し難いというのに、あろうことかお前は、痛がるポピアミサイルを指さしてゲラゲラと笑い転げていたと聞く。これは明らかに人道を外れた行為だ」


「その情報はどこから?」


「無論本人からだ。ポピアミサイルを疑うわけでは無いが、念のために人を使って周辺の聞き込み調査を行い、裏どりもした」


「ふうん」


 なるほど、なかなか熱心なことだ。

 でもその程度ではまだまだ認められないわ。


「で、それだけ? 他には?」


「まだあるぞ。10日ほど前の夕食のことを覚えているか」


「なんだったかしら」


「お前の家での夕食の席のことだ。その日、お前は夕食の時間の前だというのに、うす塩味のポテトチップスを一袋すべて平らげてしまった。そして案の定、夕食をたくさん残してしまったそうだな」


「さて、どうだったかしら」


「しかもビッグサイズだったという。料理をつくってくれたコック達に悪いとは思わなかったのか。お前は彼らの愛情と尊厳を踏みにじったのだ」


 なかなか細かいことまで調べ上げている。

 でもこの程度ではまだまだ貴方の思い通りになどならないわ。


「ちなみにそれも聞き込みを?」


「ああそうだ。誰とは言えないが、お前の家の者からもたらされた情報だ。よほど怒っていたことから察するに、一度や二度のことではあるまい」


「ふうん。で、他には?」


 私はさらに尋ねた。


「なんというふてぶてしい女だ。だが次の話を聞いて、己の罪の重さに押しつぶされるがいい」


 そして一拍置くオズワルド。


「……ヘリンズ。この名前に覚えはあるか」


「ヘリンズ……ああ」


 確か貴族学園のクラスメイトにそんな名前の学友がいた。

 緑色の髪が目に優しい、きれいな顔立ちのおとなしい男子だ。


「ヘリンズは僕の従弟だ。幼い頃から、実の弟のようにかわいがっていた。年齢はお前と同じで、貴族学園に通っていたお前の同輩にあたる」


「……」


「ヘリンズはお前に桃鉄のパッケージ版を貸していたそうじゃないか。やってみたいとせがむから、仕方なく貸してやったと言っていた。だがお前は桃鉄のパッケージ版をヘリンズに返すことは無かった。何度返せと催促しても、お前は忘れた、今度持ってくるの一点張りだったという」


「……」


「そしてお前とヘリンズは貴族学園の卒業を迎えた。以来、お前たちは連絡を取っていないとか」


「……」


「これを借りパクというのだ。鬼畜にも劣る、悪魔の所業というのだ。可哀そうに、ヘリンズはいつか桃鉄を返してもらえる日が来るかもしれないと思うと、買いなおすこともできなかったという」


「……」


「まだまだあるが、このままお前の悪行をあげつらっていてもきりがない。以て婚約破棄をするには十分な理由だろう。どうしたローザリンダ。己の罪の重さに気付き、声も出ないか」


「……ウフフ……」


「?」



「アーッハッハッハ!!」


 私は噴き出した。

 その意図を理解できない周囲の人たちにどよめきが走る。

 

「な……なにを笑うローザリンダ! 追い詰められて気がふれたか」


「可笑しいから笑っているのよ、オズワルド」


 私はハアとわざとらしいため息を一つ吐く。


 なるほどずいぶんと熱心に調査をしたらしい。

 しかし婚約破棄を実現させたいなら、そんな理由だけではまだ足りない。

 貴方にはこれから越えなければならない壁があるのだ。


 見せてもらうわ、貴方の覚悟を。



「仮にその話が本当だったとしましょう。でも、だから何?」


「なんだと」


「私たちの婚約は家と家との約束事。両家の将来と利得を考えた上での契約なのよ。そんな理由で突然に、それも一方的に婚約の破棄などを言い出して、両家にどれほどの迷惑をかけるかわからないの? 婚約を取りまとめてくださった方々の面目を潰してしまうと、わからないのかしら」


「く……」


 言葉につまるオズワルド。

 実際、独断で婚約破棄を決めるなどとうてい許されない話だ。

 聡明なオズワルドであれば、通常ならばそんなことはすぐに気づくはず。

 道理を欠いた己の行動に、彼自身も戸惑っている。


 ではなぜオズワルドはこんなことを言い出したのか?

 そこには正義感、あるいは別の、なんらかの強い思いが彼の目を曇らせているからだと私は考えている。


 今からそれを正し、彼の目を覚まさせてあげなくては。

 この衆目の前で。



「オズワルド。貴方が述べた私の悪行について、私はあえて否定をしないわ。でもそれだけでは婚約破棄など誰も認めるわけにはいかない。貴方は道理をたがえた発言で皆を心配させてしまったことを、この場で謝罪するべきだわ」


「ぐ……おのれ、ローザリンダ」


「もっとも――……」


 私は少しだけ語気を強め、溜めをつくる。


 そして言った。


「婚約を破棄したい理由が他にあるならば、話は別だけど」


「……!」


 さあ。

 これがオズワルドにとって、助け舟となるか。

 それとも貴方にとどめを刺す皮肉となるのか。

 勝負の時よ、オズワルド。



「婚約を破棄したい理由が他に……か。確かに僕にはそれがある」


 ほう。


「しかしそれはローザリンダ。お前の面目と尊厳をこそ激しく傷つけてしまうと思い、今しばらくは秘しておくべきと考えていたが……お前がそうまで言うならば仕方がない。どうやらお前に情けをかけていた僕が間違っていたようだ」


「……」


「来るんだ、ポピアミサイル」


 オズワルドの呼びかけに応じ、やがておずおずと皆の前に歩み出たのは一人の少女。

 私の妹、ポピアミサイルだ。

 周囲に注目される中、ポピアミサイルは私とは目を合わせないように歩み進むと、オズワルドの傍へと真っすぐに向かう。

 そして彼にピタリと寄り添った。


「ど、ど、どういうことだ」


 狼狽する我が父の声が聞こえる。

 見ての通りなのでしょう、お父様。



「両家の皆様にも聞いていただきたい。この通り、僕とポピアミサイルは好きあっている。真実の愛で結ばれているのです。僕は罪深きローザリンダとの婚約を破棄し、ポピアミサイルとの婚姻を熱望します」


 さすがにどよめく周囲。

 通常ならば、これは普通に不貞である。

 だが彼の強調する『罪深き』がここで抜群の効果を発揮していた。


「わたくしからもお願いします。皆さま、どうかわたくしたちの婚姻をお認め下さい。わたくしならば決して、両家の名に泥を塗らないことを誓います。ですから、どうか……」


 ポピアミサイルもまた、オズワルドに倣う。

 普段は弱々しくも可愛らしいポピアミサイルが、勇気を振り絞っている。


「お姉様。わたくしはお姉様のことが怖かった。でもオズワルド様は……彼のことだけは、お姉様が相手であっても、ゆずれません。彼を、ほかの誰にも渡したくない……」


 今度は真っすぐにこちらを見据えてくるポピアミサイル。

 可愛らしい童顔が、精一杯の強固な眼差しを私へ向けている。


「いったい、いつから?」


 私は尋ねた。


「三年前です。雪が降りしきる聖夜祭のあの夜。お姉様はオズワルド様を置いて、来賓の方々にぶつける雪玉の中に仕込む手ごろな石を探すと言って出て行かれたあの時……一人取り残されて寂しそうに見えたオズワルド様に、わたくしから声をかけたのです」


 ああ、あの時か。


「お姉様の奇行、悪行に手を焼く者同士、わたくしたちは話が合いました。そしてふたりは逢瀬を重ね、密かに愛を育んでいったのです」


 目線だけはこちらに向けながら、オズワルドの胸に顔を押し付けんばかりに密着するポピアミサイル。

 オズワルドもまた、ポピアミサイルを守るように、その肩を抱き寄せる。

 ふたりの愛の絆は、もはや誰の目にも明らかだ。


「聞いての通りだ、ローザリンダ。僕の心は今やポピアミサイルの元にある。そしてお前の妹と婚姻を結ぶのであれば、両家の取り決めにはなんら影響を及ぼさないはず」


 オズワルドの目は自信と覚悟に満ちている。

 次に両親たちに向き直ると、こう続けた。


「今一度、僕は願う! 父上に母上、そして義父上に義母上。どうかこの極悪令嬢ローザリンダとの婚約破棄と! そしてこの僕オズワルドとポピアミサイルとの婚姻をお認めください!」


「わたくしたちは、本気です!」


 とうとう言い切ったオズワルド。

 そしてオズワルドに倣うポピアミサイル。



「うぬぬぬ……!」


 しかし迷いを見せるのはオズワルドの御父上。

 やはり話が急すぎて、考えが追いついていないのだろう。


「ポピアミサイルよ、本気なのか! いやそれよりローザリンダよ、彼の言っていた話はまことなのか。ならば我らも考えを改めなくてはならぬが……」


 私のお父様もまた、狼狽えを隠せずにいる。



 私は思った。

 よくもやってくれたわ、オズワルド。

 貴方はポピアミサイルとの愛の為に。

 政略結婚という壁に見事立ち向かって見せた。

 勇気と、覚悟を示してくれたわ。


 ならば私もその勇気に応えなくてはならない。

 私もまた、最後に覚悟を示さなくてはならない。


 私は両親たちに向き直った。



「お聞きになりましたか、皆々様! オズワルドとポピアミサイルの願いを……その真実の愛が成せる、勇気と覚悟を!」


 私は声高に叫ぶ。


「彼らの言うことは理にかなっています。悪評を纏う私でなく、気品に才知、容姿を備えたポピアミサイルこそが伯爵家の嫁に相応しいことは、これこそが道理! 私からもお願いします……どうかふたりの仲をお認め下さい!」


 私もまた、ふたりの婚姻のお認めを願い出た。

 だがそれを聞いたオズワルドとポピアミサイルは。


「なにい……ローザリンダ、どういうつもりだ!」


「お姉様……いったい……!?」


 私の発言の意図を図りかねているのか、動揺している。

 だが彼らの声には反応せず、私は語った。

 


「私はすべて知っておりました……。三年前のあの日から、ふたりの間に尊い絆が生まれ始めていたことを。しかし彼の婚約者が私である以上、ふたりは決して結ばれぬ運命」


 私は少しだけ目線を落とす。


「そして常々考えておりました……。家の為とは、何の為か。それが家族の幸せを願ってのことならば、真実の愛が犠牲になるようなことがあっては、決してならないと」



 そして私は、真実の愛で結ばれたふたりを見る。


「ふたりとも、幸せになってね」


 するとオズワルドが目を覚ましたようにハッとした。


「ローザリンダ、お前は……い、いや、君はまさか……!」


 聡明なオズワルドが、ひとつの可能性に行き着く。


「お姉様……あなたはまさか、わたくしたちのために……!?」


 ポピアミサイルもまた、何かを察した。



 私はふたたび両親たちに向き直る。


「私はオズワルドの話をあえて否定しません。ふたりが結ばれるのであれば、それで私は本望。さあ、あとはこの私を、如何ようにも罰してください」


 これが私の覚悟。

 今の私にできる、精一杯の覚悟だった。


 すると私のお父様が絞り出すような呻きの音を上げる。


「お……おおお……なんということだローザリンダ。ならばお前はふたりの愛を守るために、彼の婚約者の立場から身を引くために、わざと悪役を演じておったとでもいうのか! それほどの決意を、ただひとり秘めていたというのか……!」


 そして私は答える。


「……可愛い妹の幸せを願わぬ姉が、この世にいるでしょうか」


 心からの本音を。



 シンと静まり返る場。

 最初に沈黙を破ったのは、オズワルドの御父上だった。


「こうなれば二人の婚姻を認めようではありませんか、なあ、ローザリンダ嬢の御父上男爵よ」


「オズワルド君の御父上伯爵」


「思えば我らも浅はかであった。家の利得ばかりに目を奪われ、最も大切な家人の幸せを見落としていたとは。ローザリンダ嬢は、そんな我らの目を覚まさせてくれたのだ。なんと見上げた御令嬢ではないか」


「うむむむ……」


 何かを思い悩むお父様。

 そして私に向き直り、お父様は言った。


「……ローザリンダよ、すまなかった。父の決めた政略結婚が、お前にそれほどまでの悲愴な決意をさせてしまっておったのだな。お前たちの心を慮ることができないばかりに、お前をたった一人で悩ませてしまっておったのだな」


 その目にはうっすらと涙を滲ませ。

 そしてお父様は首を垂れる。


「父の不徳を許してくれ、ローザリンダ。……この通りだ」


 父親のこのような姿を見るのはさすがにしのびなく。

 私は声をかけた。


「顔をあげてください、お父様。お父様が決めた政略結婚もまた、家を、ひいては家族の幸せを思ってのことだったと私も理解しています。その愛情の深さを、私はとても嬉しく思っていますのよ」


「おお! お前という娘は……!」


 ぽろぽろと涙をこぼし泣き崩れるお父様。

 次いでオズワルドが声をかけてきた。


「僕も君に謝らなくてはならない。すまなかった、ローザリンダ。君の高潔な思惑になど思いもよらず、断罪などと息巻いていた自分が情けない……」


「いいのよ、オズワルド。妹を幸せにしてあげてね」


 済まなそうに眼を伏せているオズワルド。

 そんな彼を元気づけるように、私は笑顔で返した。


「ごめんなさいお姉様! お姉様はわたくしたちの為にここまでしてくれていたというのに、わたくしはあんなことを言ってしまって。わたくしは、わたくしは……」


 ふるえる声で謝っているのはポピアミサイルだった。

 私はポピアミサイルの頬を優しくなで、そして伝う涙を親指で拭う。


「駄目じゃない、ポピアミサイル。あなたは伯爵家の夫人になるのよ。もっと自分をしっかりと持ちなさい」


 ハッとするポピアミサイル。

 伯爵家の夫人となる彼女は、今までのような深窓の令嬢というわけにはいかない。

 これからは社交界での厳しい戦いが待っているはずだ。

 もう少し強気な姿勢を持ってほしいというのが姉の願いである。


「さっき私に切った啖呵は、恰好良かったわよ」


「あの! お姉様……これからもわたくしと仲良くしていただけますか」


「もちろんじゃない。たった一人の、私の可愛い妹だもの」


 私は菩薩のような笑みでポピアミサイルの頭をやさしくなでた。

 すると、ここまで緊迫していた妹の表情がようやくゆるんだ。



「まことにあっぱれなり、ローザリンダ!」


 突如として叫んだのは私のお父様だ。


「愛がために身を賭した悪役令嬢ぶり、見事であった! 罰するなどとんでもない、お前の罪は我らの罪である。お前こそは我らの良心! 我らの誇りであるぞ!」


 パチパチパチと誰かが拍手を始める。


 すると拍手が拍手を呼び、やがて私たちは大きな歓声につつまれた。


 こうして私の名誉は守られた――。




 ……危ないところだった。

 まさか、何もかもオズワルドにバレていたとは。

 それに、ふたりが真実の愛とやらで結ばれていたとはびっくりだ。

 口から出まかせで凌いでみたが、案外なんとかなるものである。


 婚約は破棄される運びとなったが、凛々しくて精悍なオズワルドはもとよりタイプではないし、さしたる問題ではない。

 そして私のお母様は最後まで冷えた目でこちらを見ていたが、今後もその調子で見守っていていただきたいものだ。




 後日のこと。


 さすがに借りパクは良くないと思ったので、私は棚の奥で埃をかぶっていた桃鉄のパッケージ版を引っ張り出し、ヘリンズへ返却することにした。

 彼の連絡先を知らないのでオズワルドに尋ねてみると、オズワルドにポピアミサイルを伴い、馬車で直接ヘリンズの家に伺う運びとなった。


 その家を見て私は驚いた。

 敷地の広さもそうだが、なんと彼は公爵家の御子息だったのだ。


 門まで迎えに出てくれたヘリンズに、私はちゃんとごめんなさいをした。

 それくらいの分別は、私だって持っているのである。

 さぞお怒りだろうと構えていたが、彼は桃鉄を快く受け取ってくれた。

 なんと心の広い方だろう。


 せっかくだからと、私たち四人はいっしょに桃鉄で遊ぶことになった。

 選んだ年数は99年。

 長期戦が予想されたので、私たちは屋敷の近所にあるコンビニで、お菓子と飲み物をどっさりと買い込んで戦いに備えた。

 私が選んだのはうす塩味のポテトチップス。もちろんビッグサイズだ。


 ゲームは夜を徹して行われた。

 ヘリンズの広い私室に、笑いと喜び、怒りと悲しみの声がこだまする。

 ひとりでしていた時はつまらなくて、すぐにその存在を忘れていたが、四人で遊ぶ桃鉄は信じられないぐらいに面白かった。


 積極的にボンビーをなすりつけようとしないヘリンズは、案の定劣勢を強いられていて私はやきもきしたが、私が目的地に到着すると彼は素直に褒めてくれた。

 その優しさこそがヘリンズの魅力であると知ったとき、私の胸の中に、なにかときめきのような感情が芽生えた。



 そうだ、今度また、ひっつき虫を集めにいこう――。

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