07_門は開いた
それから10数分後、3人は広間の真ん中、他より1段高くなった場所に集まっていた。
「これ、六芒星だよね。」
「他に何に見えるというの。」
エドの言葉にディジーが投げやりに答える。
3人の立っている場所は大きな一枚岩であり、その足下には直径約5mの円と、その内側に正三角形が二つ彫られていた。
さらに円を6等分するように円と正三角形の接点に丸い石が埋め込まれている。
そして、二つの正三角形の重なり合った部分に先程の扉に刻まれていたものと同じ文字が彫られていた。
「教授、何て書いてあるの。」
「もう少し、待ってくれ。」
ディジーは地面に片膝を付いた教授の視線の位置に懐中電灯の光を当てながらつまらなそうに周囲を見回す。
「あ~あっ、期待してたのにな。」
ディジーの呟きにエドが答える。
「何を。」
「てっきり、ここに棺桶であって、吸血鬼が出てくるとか、
ゴーストバスターみたいに幽霊かお化けの大群に襲われるとか、
あるいは訳の解らない古文書が出てくるとか、そういう展開を期待してたのに。
何にも無いんだもん。
こんだけ雰囲気作っといて、詐欺だわ。」
「でもリチャードも知らないような古代ルーン文字が見つかったじゃない。」
「それだけよ。
それで何が起こった訳でなし。
現実なんてこんなものかしら。」
「いいじゃない。僕は楽しかった。」
「あんたは良いわよ、気楽で。
私はどうなるの。ばれたら首かしら。」
ディジーは戯けて首に手刀を当てる。
そこへ、
「それは無いと思う。」
「びっくりした。脅かさないでよ。教授。」
ひざに付いた埃を払いながら教授は立ち上がった。
「私に頼まれたことにすればいい。
それで駄目なら続きは私の助手をするということでどうだ。」
教授の言葉にディジーは戸惑いの表情を浮かべた。
「えっ、バイト先失わずに済むなら嬉しいけど、
私、専門違うし、第一、教授には専門の方がいるじゃないですか。」
「彼らは現在休暇中だよ。」
そういって教授は微笑んだ。
「それにエドには年の近い友人が必要だからね。」
「ちょっと、年が近いと言っても・・・。」
思い出せば、エドの周囲には大人しかいない。
執事さんやロッテ、アンナは言うまでもなく、教授は一回り近く違うし、一番年の近そうなイワンにしてもそう大差はない。
確かに3つか4つしか違わない自分が一番近い。
既に大人のつもりの自分が子供の友達扱いさせるのは気にいらないが、断る理由には弱い。
大体、エドにはよく遊ばれている。
うーん。これでは断れないじゃないか。
分が悪くなったのでディジーは話題を変えることした。
「で、教授、何て書いてあったの。」
「ああ、それだが。」
そういって教授は再び地面に跪いた。
それにつられてディジーは視線を床に戻す。
教授は地面に刻まれた文字の最初の行をなぞりながら、意味不明の言葉を紡ぐ。
周囲が突然、明るくなった。
「えっ、何が起こったの。」
良く見ると正三角形の内の一つが光を放ち始めている。
「見て、トムの機械が反応してるよ。」
エドが訳のわからん機械のメーターを示す。
針はグルグル回りだんだん加速していく。
続けて教授が、次の行をなぞり始めた。
今度はもう一つの正三角形が光り始める。
「うわっ。」
エドの持っていた機械の一つが煙を噴きだした。
「ちょっと、教授。何をしたのよ。」
それに答えず、と言うよりは耳に入っていない様子の教授は最後の行に取りかかっていた。
「教授、聞いてんの。止めてよ。」
頭に来たディジーは実力行使に出ることに決めた。
教授の口を塞ごうとしたまさにその時、一面目映いばかりの光に包まれる。
その光が収まったとき、そこには誰もいなかった。