10_秩序の形
「「定まらぬものには秩序を示さん。」でしたか。」
「そうして見えたのはカルメンと1984年の世界。」
「どっちも破滅ですよね。」
「智に働けば角が立つ情に棹させば流される」
「夏目漱石ですね。情に棹させば流されたのはカルメンのホセですが。」
「1984年の世界で智に働いたものは居ないですよね。」
「居ないね。ウィンストンはどっちかというとホセ側だ。」
「カルメンが自由がもたらす破滅と言うのはまだ理解するけど。
1984年が秩序の世界と言うのは認めたくないですね。」
「監視社会だからなあ。」
「秩序に幾つかの形がある。
一つが絶対王政等に代表される上位下達の秩序
一つが話し合いによる秩序
一つが三国志等の力の均衡による秩序
一つが1984年に見られる相互監視社会による秩序
後は不干渉による秩序なんていうのもあるな。」
「確かに監視社会は上位下達の一種かと思ったけどよくよく考えると絶対王政と全く系統が違うよね。」
「姉さんが秩序として望むのはどれ?」
タイガの言葉にディジーは首を振った。
「どれというよりブレンドかな。
上位下達はスピード感があるけど独裁の恐怖がある。
話し合いはギリシャの衆愚政治の例がある通り、結論を出すのに時間が掛かる。
均等はバランスが崩れた時の混乱が酷い。
監視は天網恢恢疎にして漏らさずなら良いんだけどね・・・お隣さんをみるとああはなりたくない。
不干渉は秩序とは言えないので除外。」
「・・・異界で示さなくてもイメージが出来ているじゃん・・・」
エドの言葉に皆が苦笑いだった。
「秩序を抜きにして迷っていることって何?」
「放浪の意味かな。」
「・・・説明を頼む。」
「母さんの一族は放浪の民。
もっとも30年前の一件で母さんの属する一座は日本に亡命して大半は定住しているけど。」
ティーテーブルには紅茶ではなく緑茶と羊羹が並んでいる。
「元凶の眼を逃れるため素性を隠し、日本名を名乗っている。」
「家の関係者は母さんを含め、皆金髪碧眼じゃなくてこげ茶や褐色の髪や瞳だからね。
多少彫の深い顔立ちだけどそこまで目立たない。」
彼らは元凶の死後再び放浪することを望まず穏やかにひっそりと暮らしている。
「全員帰化して日本国籍取ったし、国の仕事をしている人も多い。
従妹達は大半が日本生まれなんで放浪する気もないみたいだし。」
「それの何が問題なの?」
羊羹を手にしたエドの言葉にディジーとタイガは交互に答える。
「30年前まで母さんの一座は一族のまとめ役を務めていたの。」
「日本に来る際、その役割は別の一座に託した。」
「だけど、何か起こる度に母さんを頼る人達が居てね。」
「それで父さんが状況次第で手助けしていた。」
「君達の言う元凶が何かしたのか?」
教授の言葉にディジーは首を横に振った。
「元凶とは表向き和解していたから直接の手出しはないわ。」
「ただね。どこかに帰属せず放浪することが難しくなってきているんだ。」
「大体は生まれた土地に籍を置いて放浪しているんだけど色々ね。
不法移民扱い受けたり犯罪組織に狙われたり・・・」
「問題が起こると母さんに助けを求めるんだけど・・・その頻度が多くなって国から睨まれている。」
「国が手助けするのはその国の国民。多少は目を瞑るけど・・・」
「特に僕達は国の中枢に近い位置にいるからね。」
「母さんの親戚達は皆日本に帰化しているから良いんだけど助けを求める同胞はそうじゃないから。」
「助けを求めるなら帰化して日本国籍またはちゃんと特定の国に帰属してそこに助けて貰えって。」
「こちらの好意に甘えるな!我が家には甘やかすなって言われている。」
「偶に犯罪に加担していることもあるから。」
ディジーが席を立って各々の茶碗にお茶を注ぐ。
「放浪したいけど身の安全は欲しい。身の安全のために国に所属したくない。」
「わがままと言われればその通りなんですよね。」
「国の方は役に立つなら放浪することは構わないって言っている。」
「そうやって紐付きになるのが嫌みたいで。」
タイガは濃い目に入れられた緑茶で口を潤している。
「自由と言うものは義務を果たして始めて主張できるものだと思っている。」
「助けを求める同胞達は昔ながらの暮らしを続けていたいんだろうけど。」
「僕達から見ると権利だけ主張して義務を果たしていない様に見える。」
ディジーはタイガの顔を見つめた。
「そういう連中来ているの?」
「うん、こっちに来てから結構な人数がね。」
タイガは茶碗を置いてため息をついた。
「良い大人が助けてと言うだけでこっちの言うこと聞きはしないんだから嫌になる。」
「やっぱりそうか。」
「姉さんのところには来てないの?」
「私は表立ってそちらと関わってないし、それに国の仕事もしているからね。」
「そう言えば父の系譜を継いでいると言っていたね。」
「ええ、父方の仕事ばかりしているので。」
「さて試練はどういう秩序を見せようとしていたのかな。」
ディジーは立ち上がって周囲に浮かぶ扉を見回した。
「下手に開けたらその世界に行くことになるんだろうし・・・」
扉には大きな南京錠が付いていて絶対開きませんと主張しているものもあれば、
開けてくださいと言わんばかりにプラプラしているものもある。
「あっちの扉にはのぞき窓があるね。」
「本当だ。いくつか覗いてみようか。」
閲覧、有難うございます。




