02_その後のランカスター家
「聞いてないよ。」
ぶつぶつこぼすエドをアルベルトは宥めている。
「仕方ないだろう。彼女はこの国の生まれじゃないのだから。」
「そうだな。留年でしなければ2年後には国に帰っている筈だ。」
「そうだけど。」
お土産のクッキーは既に全員の胃袋に収まっていた。
ジルはお代わりを欲しそうにしていたのでやれやれとアルベルトは父であるマルクスを見る。
「お父さん、これを作っている人に会ったことがあるんじゃないかとという話ですが。」
その言葉にクッキー缶に入っていたカードを見ていたマルクスは答える。
「お前もある筈だぞ。まあ覚えていないかもしれんが。」
「私もあるのですが?」
「ああ、昔龍吾と一緒にいた健と呼ばれていた少年を覚えていないか?
確かお前より5つほど年が上だったが。」
「健兄さんですか?覚えていますよ。彼の作ったオムライス、美味しかった。」
そこから30年前の料理談議が始まる。
こちらの料理の単調さと味の濃さに根を上げた龍吾は早々に自炊生活を送っていた。
30年前の一件で龍吾や健の手料理を食べていたマルクスやアーサーはレシピを譲ってもらっている。
昨年、ディジーがランカスターの館で食事に不満が無かったのはこのレシピの存在が大きい。
ディジーも料理をするのでランカスターの料理は昨夏から一段と美味しくなっている。
「あちらは食に拘るとは聞いていますが500年前から支援ですか・・・信じられない時間ですね。」
「あやつと話していると100年200年はちょっと前だったからのう。」
「で、このクッキー、ジルが欲しがっていますが手に入りますか?」
「無理だろ、だがこやつの弟子の品ならこちらでも手に入る筈だ。」
そう言ってどこぞのホテルに入っている菓子屋の名前を告げた。
「えっあそこは確か予約で半年先まで埋まっているところじゃないですが。」
「後は・・・」
マルクスはアルベルトも付き合いのある商社の代表の名前を告げた。
「そこは健やその親戚が食材を滞りなく手に入れる為に興した商社だからな。」
「・・・なんか規模が食に掛ける情熱が違いますね・・・」
世界各地で永続的な食材の保護や支援を行っている商社である。
大手ではないので目立たないが彼らがそっぽを向けば一流のレストランが廃業に追い込まれると言われている。
「あ奴らにしてみればこちらのレストランに食材を卸すのはついでだからの。」
話が一段落したところでマルクスはエドに向き合った。
「お前はどうしたい?」
「えっと。」
「須藤菊音はこの国の人間ではない。だから時が来ればこの国を去る。
それは分かっていたな。」
「はい。」
マルクスの言葉に神妙に頷いた。
「彼女の父、龍吾がこちらにいたのは妻となる女性の状況を改善するためだった。
その取っ掛かりを手に入れたあの男は一旦国に帰った。」
ここで言葉を一度切る。
「あ奴はアーサーに力を貸す気があった。
アーサーの求めに可能な限り早急にこちらに向かってくれた。」
「私の頼みでエドの薬も用意してくれたしジルも快方に向かっている。」
アルベルトが口を挟む。
「そうだな。わしらは最後の試練をすることが無かったがお前達はどうしたい。」
エドは考えてから口を開く。
「リチャードの、僕の望みは叶った。だからディジーの望みも叶えたい。」
その言葉にマルクスは微笑む。
「そうだな。だが本人が望まぬとしたらどうする?」
「えっと?」
「お父さん、そうなのですか?」
「ああ、ここを離れたのがその証拠だろう。
試練は資格あるものが3人揃わないと始まらない。
お前やリチャードの試練は危険が無かったように思っているかもしれんがそれはあの子が安全策を取っていたからだ。
それは分かるな。」
「・・・はい・・・」
エジプトに行った時、外部の人間に接触したのはディジーただ一人。
交渉も向こう側に迷惑を掛けず、取引として利を示して早々に撤退した。
妖精の森の時も余分な欲は出さず大人しく過ごすようにしていた。
「欲を掻けば碌な目に合わない。」
それがディジーの口癖だった。
「あ奴とも話したがあの子は試練ではお前達の望みを最低限叶えて終わりにしている。
100点満点ではなく合格点、80点前後を目指していた。」
「うん。」
それでも妖精の森ではリチャードは一つ間違えば死にかねない怪我をしている。
「あの子は望まんよ。
そういうリスクを冒してまで試練を受ける気はない。」
エドはマルクスの顔を見た。
「番人に聞いたが今まで最後の試練を受けたのはわずか、前回は500年前程前だと言う。」
「えっ?」
エドの目はクッキー缶に向いた。
「多分それは関係無いだろうな。」
呆れたようにアルベルトは呟いた。
「定まらぬ者の試練、お前達の知恵や力の試練と異なり明確な形が有るわけではない。
それ故、資格あるものが3人揃って過ごしても始まらぬまま終わるのも少なくないそうだ。
そして始まっても結果を出す前に終わることも多い。」
「そうなんだ・・・」
「だからよく考えろ。お前がどうしたいのか?
あの子が何を望んでいるのか?
後悔の無い様に。」
「はい・・・」
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