久々の実家
「いってらっしゃい。」
菊音は妹と一緒に甥姪の手を握って久しぶりの外出を楽しむ二人の義姉を見送った。
その胸にはベビースリングに入った甥っ子がすやすやと眠っている。
「菊音、椿、夕飯までには帰ってくるかみっ君達をよろしくね。」
「はい、楽しんできてください。」
双子の兄の嫁さん二人は事情があって早い段階で須藤家に引き取られていた。
また姉達は引き取られた際、実家と完全に縁を切っている。
その為、菊音や椿にとって年の離れた仲の良い姉だった。
特に妹の椿にとって物心ついた時から一緒にいる姉に懐いていて甥っ子姪っ子の世話を積極的にしていた。
留学で暫く実家を離れていた菊音にとって強敵となっている。
「さて、マー君をベビーベットに移すね。」
「そうだね。みっ君、さっちゃん、今日は何をしようか。」
須藤家は世間一般には茶道の家元で複数の企業を経営する一族として知られてている。
現在の当主は菊音の父、龍吾
ただし、あまり家にというより日本に居ないので実際は祖父母と二人の兄が取り仕切っている。
遊び疲れて眠ってしまった甥姪にタオルケットを掛けて菊音と椿はちゃぶ台に置かれた冷茶を飲んでいた。
「やっと眠ったか・・・」
菊音は子供がぶつかっても危なくない様に合成樹脂で角を覆ったちゃぶ台の上に突っ伏した。
「姉さんが居た時よりもパワーアップしているからね。」
居ない間ずっと面倒を見ていた椿が笑う。
「忘れられて無かったのは嬉しいけど・・・」
「そりゃ姉さんが帰ってくるっていうんで散々写真見せて話して聞かせたからね。」
「しっかり、あの狸爺、知っていていたなら教えてよ・・・」
冷茶を一気飲みした菊音に椿はまあまあと言いながらポットの冷茶を注ぐ。
「お父さん、姉さんがイギリスに行くの嫌がっていたもんね。」
帰ってきた夕食の席で祖父から父親と教授の父親とエドワードの祖父が友人であったことを聞かされた。
特にエドワードの祖父は同業者だと・・・
エドワードの父親は素質が無く一般人であり、素養を継いだのはエドワードらしい。
エドワードが両親と離れ学校に行かず、あの館で過ごしているのはそれが原因と言う話だ。
父と教授は教授の両親の葬儀で会ったことがあるらしい。
もっともその当時の教授は生後半年の赤ん坊、流石に覚えていないだろう。
「そう言えばその教授ってお兄さん達と同い年なんだよね。」
「うん、私もそれに気が付いた時、びっくりした。」
「お父さんがわざわざイギリスまで葬式に出席したというのもびっくりだけど。」
祖父母や母から父の先妻への思いを聞いているだけに病弱な妻や生まれたばかりの子供を置いて行くほど親しい付き合いだったというのが信じがたい。
亡くなった先妻が生きている間は出掛けても日帰りの大半で泊まりすらしなかったと聞いている。
今はその反動か殆ど家にいない。
特に兄が結婚して家業を継いでからは日本に居ない。
これは父のせいと言うより役目柄仕方ない部分はあるが。
「で、どうするの?」
「暫くはあそこに通うけど状況次第では別の大学に移るかな。」
菊音は中学卒業と同時に大検、現在は高等学校卒業程度認定試験に合格し、ついでにInternational A レベル資格及び欧州バカロレア資格(EU)を取得した。
その為、イギリスや欧州の大学ならどこでも編入出来る。
現在、菊音がイギリスにいるのは実は父が行きたがらないからだった。
そうやって溜まっていた案件は大分片付いたので別のところに移ると言ってもそう文句は言われないだろう。
「そういう椿はどうするの。今年で卒業でしょ。」
「うーん、姉さんみたいに高校に行かないというのも考えたんだけど・・・」
色々迷っているようだ。
菊音と違って椿は日本に残ることが決まっている。
日本で今後も暮らすなら高校に行っておいた方が良い。
「明日には母さんもこっちに来るし相談したら。」
「そうだね。」
須藤家は色々秘密があります。
双子の兄と菊音は腹違い
亡くなった先妻と菊音の母は友達でした。