エジプトにて
教授とエドは当初の予定通り、7月の終わりにエジプトに向かった。
ディジーは教授達が居なくなった後、メイドとしての資格を取るべく勉強に入る。
彼女の帰省は資格試験を受けた後になるらしい。
カイロ国際空港のラウンジでチャールズを待つ二人、背後にイワンが付いている。
「ディジーもくれば良かったのに。」
「そうは言うな。彼女は我が家の使用人ではあるが臨時だ。」
「そうだけど、また来てくれるかな。」
「あの様子じゃ求人広告を出しても来ないだろうな。」
そう言って持ってきたポットのお茶を飲む。
「そうなの?」
「学生課で持っている情報を確認したが。」
「ふむふむ。」
「彼女は短期含めて全て違う職種を選んでいる。」
ディジーが長期バイトが馘になるのは割込み仕事で休む羽目になるからだった。
短期は非常に優秀で次も頼みたいというのが大半である。
最後だけは別の理由だったが・・・帰省するので多分そこもそれで終わっていただろう。
「職員に話を聞いたら色々体験してみたいということでわざと系統の異なる職種を選んでいるらしい。」
「ということは?」
「今回ハウスキーパーの仕事を経験したから次は受けないだろうね。」
「そっか、別の仕事を考えないといけないね。」
あの屋敷の仕事は何であれうけないだろうが・・・
1週間後、今回の発掘現場であるトトメス3世の葬祭殿にやってきた。
教授は前に来たことがあるがエドは初めてである。
あの時も神殿の外に出たのはディジーだけで神殿の敷地から一歩も出ていない。
「ここがそうか。」
教授の言葉にチャールズが頷く。
「ああ、もう少し分かりやすいい謎掛けにして欲しかったよ。」
「そうは言うな。」
周囲を見渡しながら教授は尋ねた。
「ここはどういう場所だったんだ?」
「ああ、何というか・・・」
チャールズは歯切れが悪く言葉を続けた。
「忘れられた場所だったんだよ。」
「どういうこと?」
エドの言葉にチャールズは頭を振った。
「見えているしあるのは知っている。なのに意識に上らない。」
ここでため息をつく。
「なんて言っていいのか?
何かする時に無意識に除外する場所だったよ。」
「そうか。」
「大体そう言う場所って言うのは大きな事件とかあって、忌避する場所っていうのが多いんだが。」
「それで。」
「ここにはそれがない。」
「・・・」
「だから、誰もここに何かあるなんて思っていなかった。」
「そうか。」
ディジーはここに忘却の呪陣を仕掛けたと言っていた。
その効果は3,500年もの間有効だったようだ。
「あれはどうなったんだ。」
「エジプト政府がカイロ大学の研究室に預けているよ。」
「そうか。」
「その内、博物館で期間限定で公開されるだろうけど。」
「ずっと公開しないの?」
「パピルスは傷みやすいからな。丁寧扱わないとあっという間に劣化する。」
「そうなんだ。」
「大英博物館が公開したいから貸してくれって言っているけどな。」
「公開されたら見に行くね。」
「お前らは写真で見ただろ。」
「実物を見たい!」
「それもそうか。」
「発掘現場はあそこか。」
「そうだよ。」
ロープで囲われた場所は立ち入り禁止となっている。
「今、探知機で他にないか確認している。」
「金属探知機か?」
「金属探知機で反応が無いのが分かっているからな。」
「ダウジングでもしたのか?」
「それもやったんだが・・・今回発掘されたものは反応してなかった。」
「よく発見できたね。」
「まあな。当りを付けて10か所位掘ってやっと発見した。」
やっている最中は周りに変な顔されたよと笑う。
「ま、凄いものが発見出来たから良しとするさ。」
周囲には二匹目のドジョウを狙う発掘者達の姿が見える。
自分達が埋めたのはあれ一つだから他は無いだろうが・・・
「そろそろ帰るか。」
「そうだな。」
チャールズは発掘現場の知人に挨拶して背を向けた。