靴屋の小人
ディジーは窓辺に置いたお供えの状態を確認して呟いた。
「ここには靴屋の小人がいる訳ね。」
ディジーは生まれた時から人外の存在と付き合いがある。
父方の式神や座敷童、母方の使い魔。
それらの存在故に実家では滅多に人を雇おうとしない。
雇われるのは訳アリだけである。
「ここも同じだった訳だ・・・」
今まで顔をあわせた使用人は執事、メイド長、料理人、運転手の4人
これだけ広い館を4人で切り盛りなど本来出来る訳がない。
使用人の代わりに靴屋の小人がいるなら納得である。
やりかけで終わった仕事が翌日には終わっていたのも小人達の仕業だろう。
その対価として窓辺のお供えを貰っていった。
ディジーがここで小人達の敵意を受けていないのもお供えのお陰かもしれない。
子供の時から傍にいる人外の存在に感謝を込めてお供えをしてきた。
その習慣はこっちに来てからも変わっていない。
「減りが早いことに気が付かなったのは失敗だったな。」
普段ならクッキー1枚のところを2枚、何となくではあるが増やしていた。
この何となくは多分靴屋の小人の存在を感じ取っていたからだったのだろう。
そして、今確認していたのはお神酒。
下宿先にいる時なら1週間は持つ小瓶のワインが二日でほぼ空になっている。
持ってきた荷物の中から新しい小瓶を出して供える。
空の小皿に2枚のクッキーを置いた。
「ここにいるならブラウニーかな?それともシルキーかな?」
今のところ問題がある感じはしないので自分についてきたものと仲良くしているのだろう。
自分がここにいるのは夏季の休暇の期間だけだ。
その間は仲良くしていて欲しいものだ。
そう思ってお供えの量を少し増やす。
「さて新しいお酒を貰ってこないと。」
自身で買い出しに行きたいがここでは足がない。
アンナかイワンに頼んでお酒を手に入れよう。
可能であれば自身で買出しに行きたい。
そう思って部屋をでた。
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「嫌がらせは終わりですね。」
背の高い女が言った。
「良かった。」
太った女の言葉に周囲がわざわざと喜ぶ気配がする。
「全くあっさり懐柔されて。」
「まあまあ元々この子達と付き合いがあるみたいだから。」
「そうは言うけどこの子達にお酒を覚えさせたのはちょっと困りますよ。」
小人達への報酬は本来なら新鮮なミルクなのだがディジーは実家の感覚でお神酒を供えていた。
「彼女にはお酒ではなくミルクを供えるように言っておきますか。」
振った女の言葉に小人達は抗議をあげる。
それを背に二人は仕事に戻っていった。
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メイドは高度な専門職である。
本来ならば講習を受けた資格のあるものでないとこういうところのメイドとして雇われることはない。
その為、学生課で提示された仕事内容はあくまでメイドの補助作業、
金額はその内容としては高いが、メイド職としては安い金額だった。
ディジーは家業を手伝うのに必要となり実家で家政婦として働けるだけの資格を取っている。
その資格故、提示された報酬がかなり上乗せされている。
(ここで働いた実績で欧州圏でメイドとして働くための資格を取れるかな。)
その為の推薦状をロッテやセバスチャンに書いて貰わなければならない。
嫌がらせが終わり、メイドとしての技術指導が始まったことでこの後のディジーの仕事は非常に楽になった。
アンナより本来のお供えは新鮮なミルクだと聞いたディジーは窓辺に牛乳を置いた。
が、小人達の不満の気配を感じてお酒とミルクを交互に供えるようになったという。