エピローグ
夏の庭園の東屋で教授を部屋から引っ張り出したエドがお茶を楽しんでいる。
(お昼前だからアフタヌーンティーじゃなくてイレブンジスか。)
紅茶だけの教授に対し、エドの前には軽食が並んでいる。
(これでお昼もしっかり食べるんだから異次元胃袋か?)
ディジーは使用人としてここにいるのでお茶を用意して下がろうとしたらエドに捕まった。
それでも席に着かず立っているのはディジーの意地である。
夏とはいえ、東屋の中の日陰は涼しい。
湿度のせいで地獄となる故郷とは大違いである。
この時期だと朝の5時には陽が出て夜の9時過ぎでも明るい。
短い夏を楽しむべく南に行くものが多いがエドも教授もここで過ごすようだ。
ディジーがここにいるのは7月末までである。
お盆前には実家に帰る。
今回のバイトもその帰省資金稼ぎが目的だった。
思いついたように教授が顔を上げてこっちを見た。
「そう言えば君の雇用期間は今月末までだったね。」
「ええ、その予定です。」
「延長は?」
「実家に帰省するので無理です。」
お盆前後は家業が忙しい。
戦力の一人に数えられているので帰らない訳には行かない。
「えー、帰っちゃうの。」
「はい、家の手伝いをするので。」
「そうか。」
月末に二人はエジプト行を予定している。
ディジーはそれに付き合わないというか付き合う理由がない。
二人が向こうに行っている期間に契約は終わり、ここを出ることになるだろう。
大学近くのアパートは住み込みバイト期間中も契約を続けている。
馘対策でもあったが実家からの手紙や荷物を大家から転送して貰うためでもあった。
荷物はともかく今時手紙?というのはあるが、盗聴対策とメールでは仕込めない術の為である。
家業には協力者も多いが敵も少なくない。
大家には家賃の他に協力費も払っている。
絶賛反抗期で学費や生活費を稼いだお金で払っているディジーは何かと物入りなのだ。
「新学期からバイトを探すのか?」
「こっちでもだいぶ慣れたのでそろそろ学生課を頼るのは終わりにしようかと思ってます。」
彼女がバイトを頸になっていた理由、その大半は彼女の勤務時の態度が問題なのではない。
突発的に発生する実家の手伝いでちょくちょく休む羽目になるからだ。
また彼女が取りやすい単位を集中的に取っていたのもそこに理由がある。
彼女の都合などお構いなしに発生する実家の手伝いは実入りは良いが拘束が長い。
じっくり取り組む必要がある単位は取りづらいのだ。
今回の依頼が無ければ実家に戻って家業の手伝いで資金稼ぎをしていただろう。
父親とは親子喧嘩中だが腹違いの二人の兄とは仲が良いのだ。
小さな子供のいる兄達の手伝いや遠出の仕事の肩代わりはしてやりたい。
ついでに甥姪や妹の顔が見たい。
母親と弟はこっちにいるのでちょくちょく顔をあわせている。
が、こっちの大学に来てから正月も実家に帰っていない。
甥姪に顔を忘れられるのは悲しいのでそろそろ帰りたい。
とは言え、この一年で大分顔が売れたし、資金もそれなりに溜まった。
安い学生課経由のバイトをする理由もないし、逆に迷惑になるので新学期からは使わない予定だ。
まあ世話になったので短期のバイトを頼まれれば手伝う積りでいる。
「そうか。雑用を頼みたいと思っていたんだが。」
「秘書さん達がいるでしょう。」
「彼女達には頼みづらい。」
そう言ってエドの方を見たのでピンときた。
「エドワード様があちらに行かれるのですが?」
「ああ、そろそろ試験を受けさせようと思う。」