11_帰るための条件
今一つピンときていない教授を置いて会話を続けた。
「教授、教授がここで知りえたことに対してどうしたいですか?」
「どうとは?」
「自分が知っていれば満足ですか?それとも世間に公開したいですか?」
その言葉に暫く黙った後、口を開いた。
「知りえた内容を公開したいと思うだろうね。だけど・・・」
「未来では失われている。」
「ああ、そうだ。」
「バタフライエフェクトが怖いですから私としてはここで生きている人たちに関わるのは避けたいです。」
「そうだね。」
「だとすると出来ることはタイムカプセルを残す位ですか?」
「タイムカプセルね。
3,500年をどうやって持ちこたえさせる?」
「パピルスなら条件を整えておけば残せそうですね。
教授が知っている範囲内でここなら確実に残っているって場所あります?」
「いくつか思いつくがどうするんだ?」
「色々細工してそこの地下に埋めておきます。」
「やりたいことはわかったがどうやってどうやってパピルスを手に入れる?
この時代のパピルスやインクを使わないと証拠としての価値はないぞ。」
「買うしかないでしょうね。」
「どうやって?ポンドやユーロは使えないぞ。」
「これを使います。」
そう言ってナップサックからメイプルリーフ金貨を出した。
「金ならどこに行っても貨幣としての価値を持つからと持たされているんです。」
「君の実家は一体・・・」
「でどうします?」
「分かった。
立て替えて貰った分は戻ったら払おう。」
黙って話を聞いていたエドが言う。
「リチャードならパピルスとか持ってそうだけど?」
「部屋には幾つからあるが今の時代のがあっても意味はない。
この時代の物でないと。」
「それじゃ買出しに行ってきます。」
「私も同行しよう。」
「駄目です。
教授とエドは色彩的に目立ち過ぎます。
私ならちょっとした術で誤魔化せるけど教授達を誤魔化すのは厳しいです。」
「言葉はどうする。」
「それは大丈夫です。
大人しくタイムカプセルに残す草案でも考えていてください。」
そう言ってディジーは隠れていた部屋を出て行った。
(まずは姿替えっと。)
神殿の中を足音を消し、気配を隠して歩く。
大体の建物構造と人の動きを確認した。
その中から神官達の控室らしき場所で衣装を一つ拝借する。
さらに水を入れる皮袋も拝借する。
神殿内の井戸から水を汲み上げ皮袋入れた。
人気のない場所で水を小皿入れて染料混ぜる。
それを使って自分自身の肌色を濃くして違和感を消した。
この状態で神殿を出て周辺を歩き回る。
神殿の中と同じように街の構造を確認した。
市場、スラム、平民街、職人街、貴族街
言葉は街中を歩いている内に大体の内容は理解できるようになった。
(細かいニュアンスは術で何とかなる。)
扱っている商品や物の相場、貨幣の単位等交渉に必要そうな情報は粗方手に入った。
残念ながらパピルスや筆記用具を大量に売ってそうな店は市場に無さそうだ。
市場で筆記用具らしきものを扱っている店はあったがこちらが必要とする量は無さそうである。
(職人街?貴族街かどこかの商人の屋敷を探すしかないか)
大体の当たりを付けて人気の少ない場所に移動する。
大きな屋敷の裏手で日陰となった場所を見つけてそこに潜んだ。
(地図があれば楽なんだけどな。)
次に自分の欲しいものが手に入る場所を探す準備をする。
ナップサックから水盤を出し、皮袋の水を注ぐ。
水盤に欲しいものを書いた紙を沈めた。
ディジーは祝詞唱えて水盤を覗く。
そうして浮かび上がった場所を目指して歩きだした。
辿り着いた場所は豪商か貴族か何かの屋敷のような場所だった。
暫く様子を窺っていたが・・・
(うーん、多分ここの主は同業者ね。
色々防御の仕掛けがされている。
人の出入りは多くないし、それに紛れて入るのは難しそう。
素直に正面から入るか?)
そう思って観察していたら猫が寄ってきた。
(使い魔、見つかったか。)
猫はディジーの顔を見て一声鳴く。
(ついてこい?)
頷いて猫の後についていった。