10_選ばれしもの
天と地を結ぶもの、そは契約の証。
選ばれしものよ、
証を示して試練の門を抜けよ。
知識を望むものには世界を、
力を望むものには神の力を、
定まらぬものには秩序を示さん。
「次の確認、私達は選ばれしもの?」
「どうだろう」
首を傾げる教授にディジーは言った。
「選ばれてないと裁きの門になるんだけど?」
「僕達裁かれている?」
「閻魔大王は居ないわね。」
「渡し守も居ないね。」
「アヌビスの神像ならあったぞ。」
教授の言葉にディジーとエドは顔を見合わせる。
「アヌビスって確か死者の心臓を秤にかけて調べる裁きの神様じゃなかった?」
「少し落ち着こう。」
そう言って教授はティーセットを準備し始めた。
「教授、それどこから出しました?」
「えっ?」
どうやら意識していなかったらしい。
「四次元ポケットをお持ちですか?」
地下室に行くとき、教授はジャケットを羽織っていただけで手ぶらだったのは間違いない・・・
額を抑えるディジー、エドは嬉しそうに席についている。
結局、3人でお茶をしていた。
「で、今後どうするかですか、何か案はありますか?」
「今の僕達の格好は間違いなく目立つよね。」
「それは多分間違いないだろうね。」
「まずはここに居る人達がどういう人達か確認しないと。」
今の格好で出ていけば騒動になるなのは間違いない。
この中で一番目立たない色彩なのはディジーただ一人と思われる。
「仕方ない、奥の手を使うか・・・」
ディジーの言葉に何事と二人がこちらを見ている。
背負っていたナップザックから紙を取り出し、筆ペンで鳥、目と書く。
それを折って鶴のすると出入口からそっと飛ばす。
「これで良し。」
今度は鏡をティーテーブルに置いた。
そこには先程飛ばした鶴が見ている光景は映し出されている。
「これはまた。」
「実家の家業の一つです。
私はあんまり得意じゃないんですが。」
ディジーの実家、須藤家は表向き実業家で茶道の家元の一つと言われている。
実際は平安時代から続く陰陽師の一族だった。
もっともディジーが得意とするのは父方の陰陽術よりは母方か受け継いだ方だったが。
それでもある程度は習って使いこなすことは出来る。
「もう少し向こうの方がみたい。」
教授の言葉にディジーは首を横に振る。
「そろそろ力を失う頃合いです。」
その言葉と同時に鏡の光景は地上に近づいていき、ぷっつりと消えた。
「ああ。」
「私の力は強くないのでこんなものです。」
「あの式神はどうなったの?」
エドの言葉に
「力が消えると当時に燃え尽きます。」
ナップザックの中から簡単に摘まめるものを出し、お茶を再開する。
周辺に結界を張って人が近付けないようにするのも忘れない。
「さて、今見た光景からここは古代エジプトかそれに準ずる世界であることは間違いなさそうです。」
「そうだね。現地の人達、壁画やパピルスに掛かれた格好をしていたし。」
「で、私達がここにいる理由ですが。」
と言ってディジーは教授の顔を見る。
「どうかしたのか。」
「原因は教授だと思っています。」
「理由は?」
「この場所に執着があるのは教授だけだからですよ。」
「ほう?」
「私は古代エジプト史は取ってないし、お昼のティータイムで話を聞いた位の関心しかないです。」
「僕もないね。
ディジーを揶揄う方が面白い。」
ディジーの振り上げた手からさっと逃げる。
「教授はティータイムで取り上げるだけじゃなく論文を書くほど興味がありますよね?」
「ああ、あるな。
資料不足で検証できない部分があって・・・」
「ストップ!」
「まず、ここに来たのが教授の執着だと仮定します。」
「それで?」
「・・・証を示して試練の門を抜けよ。・・・」
「あれは試練の門だというのかい。」
「はい、裁きの門だというなら私が近付いた時点で反応があったはずです。」
「リチャードが手に触れ文字を読むまで反応は無かったね。」
「教授の行動が証であるとするならば試練の門を抜けたと仮定する。」
「選ばれたのは教授だとすると望むものは知識。」
「・・・知識を望むものには世界を・・・」
「ええ、その知識に近付くためにこの世界に来たと思います。
そうなると帰るためには教授の執着に対して何かしらの行動を起こさないと駄目だと思う訳です。」
「何かするとしてリチャードの好奇心を満たそうと思ったら1年じゃきかないと思うけど?」
エドの言葉にディジーは頷く。
「ええ、まずは帰ることを優先し、何が満たされれば条件が整うのか考えたいです。」
何か言おうとした教授をエドが抑える。
「人ならざる者と関わる場合の心得」
ディジーは指を折る。
一つ、自分が何がしたいのかはっきりさせること
二つ、相手が何を求めているか理解すること
三つ、欲張らないこと
「実家で叩きこまれたことです。」
「ディジーの実家って・・・」
「昔から色々神様やら妖怪やらと付き合いがあるです。
人ならざる者は価値観や感覚が違うから成果や対価を明確にしないと駄目なんです。」
「最後の欲張らないこととは?」
「人ならざる者に助力を願う場合、対価が必要です。」
「欲張れば欲張るだけ支払う対価が大きくなる。」
「そういうことです。
こちらが払える範囲内以上のことを求めてはいけない。」
「それは理解した。」
「今回の場合、教授の好奇心を満たすために私達が支払う対価は時間。
ここに1年も居たくないです。」
「僕も父さん達が帰ってくる前に向こうに戻りたいよ。」
エドの言葉に渋々教授は頷いた。
「そもそも1年もここに居るだけの準備をしてないですし。」
「準備とは?」
「食べるものに着替え、寝る場所の確保諸々です。」