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ヘキサグラム~我ここに在り  作者:
第1章 天在り・最初の冒険
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09_そんなことを聞きたい訳じゃない

この話の前半までが35年前の内容です。

「で、トトメス三世って何をした人なの。」

「彼は古代エジプト最大の覇王だよ。」

そう言って教授は、トトメス三世の業績を説明し始めた。

トトメス三世の在位期間は54年、その内の22年はハトシェプト女王の統治下にあった。

その後の32年、17回遠征を行い、南はナイルの第4急流まで、東はユーフラテス河畔まで古代エジプトの支配地域を広げている。

「この業績故に、彼は古代エジプトのナポレオンと呼ばれている。」

教授はそう締めくくった。

「17回も。余程暇だったのかしら。」

「暇ね。その合間にピラミッドも作ってたんでしょ。民はいい迷惑だよね。」

エドの言葉に、

「そうでもない。

古代エジプトに於けるピラミッド造りや遠征は基本的に農閑期に行われている。

それとこの時期ではもうギザのクフ王のピラミッドやスフインクスの様な巨大建築は作られていない。」

「何故。」

「盗掘に懲りたからじゃないかと言われている。

王家の墓が作られたのもこの時期だ。」

教授は一旦言葉を切った。

「建造物で言うと、この時期盛んだったのは神殿造りだよ。」

「例えばこの神殿の様な?」

ディジーはそう言って周囲を見回す。

建築学は専門でないので詳しいことは分からないが、ここが大したものであるということは理解できる。

圧巻なのは部屋中を埋め尽くす記号の群だ。少し前まで自分たちがいた部屋といい、この小部屋といい、壁中に象形文字が刻まれている。

見ているだけで頭が痛くなりそうだ。

「私、古代文字って専門じゃないからよく分からないけど、ここってすごく大事な場所でしょ。」

「ああ、そうだが。

確か君はラテン語とギリシャ語は取っていた筈だな。」

「ええ、どっちもある程度は読めます。

でもってエジプト語も象形文字も学んでません。」

「それで?」

「教授、ここに何て書いてあるか、分かります?」


「そうだね。大体のところは理解できる。

時間があればゆっくり調べて見たいな。現代ではこの大半は残っていないから。」

「ねえ、リチャード、ここの調査をするとしたらどれぐらいかかりそう?」

「1年はかかるな。」

「そんなにこんなところに居たくないわ。」

思わず大声を上げたディシーの口をエドが押さえる。

「ディシー、落ち着いて。人に見つかったら困るでしょ。」

「分かったわよ。だからこの手を離して。」

エドを振りほどき、一呼吸おいてから、ディシーは言った。

「そういえば、ここの人達と言葉が通じるかしら。

教授、古代エジプト人って何語を話しているの。」

「さあ。」

「さあって、教授は言語学が専門でしょ。」

語気を荒げたディジーに教授はやんわりと言い返す。

「現代のエジプト人とこの時代の人々とは文明的に繋がっていないからね。」

ディジーのストレートが教授にクリーンヒットした。


近くに人の気配を感じて場所を移動する。

何かの倉庫らしく埃が溜まった部屋の壁は厚く少々大声を出しても問題なさそうだ。

「状況を確認しますね。」

ディジーの声は低い。

教授とエドは大人しく頷く。

「ここがどこでいつだということは一旦置いておいておきます。」

なにかを言おうとした教授を目線で黙らす。

「今一番に考えなければならないことは何でしょう?」

ここでもなにかを言おうとした教授を今度はエドが口を塞いで答えた。

「元の場所に戻ること。」

ここにはリチャードの好きそうなものが沢山ある。

彼の好奇心に任せていたら一生掛かっても帰れないだろう。

エドとしてもリチャードの為に何とかしたいがそれはまず帰れる当てが付いた後。

あるいは帰るための方針を探す為の調査。

ディジーとて教授の好奇心を全て否定するつもりはない。

が、その前に優先順位をはっきりさせ、次の指針を立てる必要があった。


「最初に確認したいんだけど。

あの部屋に入ったことは?」

「僕は無いよ。」

「・・・無いと思う・・・」

歯切れの悪い教授にディジーは黙って先を促した。

「分からない。

エドにも話したが扉の文字で知っている言葉だったのは最初と最後だけ。

大いなるものに祈りを捧げよ。

祈りは力となり、門を開かん。

選ばれざるものよ、

門に近づくなかれ。

そには裁きの門とならん。

の部分だけだ。」

「じゃあ、途中の部分は読めなかった?」

「ああ、なのに頭に浮かんだ」

「・・・」

「その部分は今まで知られてるルーン文字とは違う。

前後の部分は後から書き加えられたものだ。」

「・・・そうかもね・・・」

「ディジー?」

「教授の言う様に真ん中の部分と前後は彫られた時期が違うってのはその通りだと思う。」

「どうして?」

エドの言葉にディジーは答えた。

「摩耗具合が違うから。」

「よく分かるね?」

「実家に居た時散々古文書の解析とか骨董品の鑑定とかさせられたからね。」

「なるほど。」

「主に鑑定させられたのは中国系かローマ、ギリシャ系。

漢文やラテン語、ギリシャ語なら大体判る。

あとまあこっちにきてケルト語もある程度。

で、大体のものをみれば彫られた年代とか差異は判る。」

「それであの扉は何時のものなの。」

エドの言葉に首を振った。

「彫られた時期の違いは判るけど時代はね?

あの扉、凄くアンバランスだと思う。」

「アンバランスとは?」

「一枚板の様に見えるけど本体の上と真ん中と下で年代が違う感じがする。

木の若々しさというか加工仕立てみたいで木の香りがする部分に千年は経ってますという部分。

なんか色々不自然の塊だった。」

「そう?」

エドは特に違和感を感じなかったらしい。

「正直勢いで開けたけど・・・あの違和感、何であの時無視できたのか?」

3人は黙ってここに来る直前の行動を思い出していた。

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