このダンジョン終わったら覚えとけよ
A級ダンジョン1回層、森林地帯にて――
「アタッカーの皆さん、50メートル前方からブラッドウルフが3体同時に攻めてきてます! 戦闘準備を!」
まずサポート役のチヒロさんから合図がかかる。
「ここは僕にっ! スキル【炎舞天翔】」
陽介が指示された方角へ炎の斬撃を飛ばした。
「残り、2体です!」
「よっしゃほな海くん、1体ずつといこか!」
「えっ、あ、おう!」
早川リーダーからの指示。
てっきり1人で倒しに行くもんかと思ったが、どうやら一緒に行くようだ。
ダッダッダッダッ――
「ミイナが隙を作る」
ここで名乗り出るは女子高生タンカー。
迫るモンスターが俺達に飛びかかってきた瞬間、彼女は1つのスキルを唱えた。
「スキル【ディフレクション】」
するとブラッドウルフ達はまるで固い壁か何かに張り付いたように留まる。
「今や、海くん!」
「おっけ! 【フィジカルブースト】」
俺と瑞稀は宙で留まるオオカミに向かって全力の拳を放ち、ぶっ飛ばす。
ギャウッ――
モンスターは短い悲鳴とともにその姿をポリゴン状へと変えて、この場から完全に消え去った。
「やっぱりすごいですね。このスキル【ディフレクション】でしたっけ?」
「はい。モンスターの種別をその都度ステータス内で指定する必要がありますけど、その分強力なスキルです」
「モンスターの攻撃は通さず、冒険者側の攻撃のみ届くってまさに理想のタンクスキルだなぁ!」
陽介はミイナのスキルに感激の色を示す。
「いや、そんなこと……ない」
彼女は少し目を逸らして、照れにも近い慎むような返答を返すが、実際その通り。
ただえさえアタッカーが多いだけで相当幅広く戦えているにも関わらず、ミイナの持つ絶対的な障壁のおかげで戦いやすさは数倍にも膨らんでいる。
もちろん彼女の力だけではなく他のサポートメンツ、チヒロさんやユイさんがいち早くモンスターを感知できることが前提だが。
パーティでの戦闘って、これほどまでに楽なものだったのか。
俺は密かに感銘を受けている。
ってな感じで今のところ1階層は余裕綽々。
モンスターの出現は事前に把握できるし、攻めも守りも完璧といっていいくらいだ。
それにこの魔力感知、モンスターの奇襲を防ぐことができるだけでなく、2階層へ続く道も分かるという。
聞けば、階層ごとにモンスターの特徴や魔力量が大きく変わるため、見つけるのは容易らしい。
「皆さん、もうすぐ着きますよ。今日のゴール地点です」
チヒロさんが最前列へ飛び出して、前方を勢いよく指差した。
「な、なんとか夜までに到着できましたね。ふぅ、ほんとによかった……」
ヒーラーのユイさんは心底安心した様子。
大きく安堵の息をつく。
「これで1日目終わるっちゅーのも、なんか物足りんなぁ。けど夜はさすがにモンスター側が有利なわけやし、明日の2階層に向けて今日はゆっくり休むか。な? 海くん、陽介くん!」
「それがいい。良かったよ、瑞稀がこれから手合わせしよとか言わなくて」
「えっ、手合わせ!? そんなのしてたら明日の戦いに響いちゃいますよ」
「おっと、その考えはなかったわ。そんな発想に至るなんて、海くんもずいぶん武闘家らしいメンタルになってきたやんかぁ! 手合わせの件、ちょっと休んでから考えよか!」
瑞稀はなるほどなと言わんばかりに手をポンと叩き、上機嫌になった。
「瑞稀、嘘だよな!?」
「瑞稀さん、僕も無理ですよぉ……」
「さっ、はよ進もか!」
俺と陽介の決死の叫びはどうも彼女に届いておらず、そのままチヒロさんの後に続いてこの森林地帯を抜けたのだった。
森を抜けると、そこには再び広い土地。
しかし今回は草原というよりか、岩肌が露出している不毛の荒地といった感じ。
そんな乾燥地帯が際限なく目の前に広がっており、まさにゴールのない旅路とも言えてしまうほど
果てしなく先まで景色が続いている。
しかし俺達が進むのはそこじゃない。
すぐ先にある遺跡の中だ。
「あの中に入れば2階層に続く道があるはずです」
チヒロが指差す先、そこには遺跡というにはかなり小規模な、例えるならプレハブで建てた小さなユニットハウスくらい。
中はそれこそ8畳程度の。
「遅かったですね、皆さん」
そう声をかけてきたのは、先陣を切って進んで行った班のリーダー、岸辺総一郎。
彼らはもうすでにリラックスタイム、各自アウトドア用の折りたたみチェアなどに腰をかけて休んでいる。
「仕方ないですよ、岸辺さん。彼らの班には2人も武闘家がいるんですから。なんなら明日からの2階層は僕達だけでもいいかもしれませんね」
そう言ったのは、樹の移動スキルを使ってた彼。
含み笑いながらリーダーにけしかけている。
「ん、そうかい? まぁ私達だけでも充分に攻略はできているし、お疲れなら君達は先に帰還しててくれても大丈夫だからね」
「なんやお前コルァ! 武闘家舐めんのもいい加減にしろよ……」
「待て待て待て、落ち着け瑞稀! こんなところで争っても、明日の攻略に響くだけだぞ!」
「そうですよ、早川さん! 一旦落ち着きましょ?」
速攻で喧嘩を買った瑞稀を、俺とチヒロさんで急いで押さえかかる。
いやまぁ分かるよ?
岸辺さんはなんというか、無自覚系男子って感じで、悪意なく俺達が腹立てるようなことを言ってきてるけど、問題はもう1人。
あの豊田って男の含み笑い、明らかに武闘家を見下してきている。
彼はたしか魔道士の部類だったが、どうやら俺達を蔑むのは剣士だけじゃないらしいな。
「……ちっ! しゃーないな。くそ、このダンジョン終わったら覚えとけよ」
今にも岸辺班へ乗り込む勢いだった瑞稀は、吐き捨てるようにそう言った。
……って本当どこの輩だよとか思ったが、依然として豊田は余裕の表情。
岸辺総一郎に関しては「えっと、当然のことを言っただけなんだけどなぁ」とどうにも腑に落ちない様子。
あれは完全に人の心を読めないタイプだな。
しかし相手のチームを気にしたって仕方ない。
だって俺達の本来の目的はダンジョン攻略、コイツらと競う必要なんて全くないのだ。
元々ダンジョンを突破するに推奨されている冒険者の人数は6人。
すでに自分達の班だけで事足りるわけなのだから、気にせず攻略に集中すればいい。
俺も瑞稀同様、彼らの反応には憤りを感じる部分があるが、少なくともそうやって気持ちを切り替えることにした。
「皆さん、僕達も晩御飯にしません?」
空気の悪い中、第一声を発したのは陽介。
彼はユリさんとミイナの3人で、こっそり簡易テントを立てていた。
今完成した大きなテントはどうやら女性用で、陽介はもう一回り小さい簡易テントをインベントリから取り出し、俺を手招きする。
「陽介くん、気が利くやんっ! ユリちゃんもミイナちゃんもほんまありがとう!」
どうやら瑞稀の機嫌も少し戻ったようだ。
「女性陣の皆さん、先にご飯食べたりゆっくりしててください! 僕と戸波さんはこっちを使うんで」
陽介はこの未完成のテントを男性陣の居場所だと主張している。
ま、レディファーストはモテの基本。
できた男だ、陽介よ。
……とは言ったものの女性陣は、俺達がテントを立て終わるまで食べずに待ってくれていた。
「やっぱりみんなで食わないと美味ないやん?」
瑞稀の心温まる一言。
1日ダンジョンで戦っていたためか、その言葉が無性に沁みる。
「……じゃあみんなで食べるか!」
それから俺達早川班は1つのテントに集まり、たわいない話をしながら各自買い揃えたコンビニ弁当やお菓子を共に食すのだった。
こうして1日目の探索を終えたわけだが、今のところ順調……なはず。
俺は今日の戦いを含め、そう結論を生み出した。
そして来たる明日の2階層のために、今日は深い眠りにつくのだった。




