なんや、あのスキル
ゲートを潜った俺は、今茂みの上に立っている。
どうやらここはちょっとした平原地らしい。
野球くらいは軽くできそうな広さ。
そして周り360度、森林が繁茂しており、先が全く見えない状態だ。
後ろにはさっきマンションで見たゲートと同じ物があり、ちょうどそこから陽介、サポート冒険者達が順に姿を現した。
「みなさん、到着しましたね。さてここからの進め方ですが、通例通り別行動で問題ないでしょうか?」
岸辺班はすでに、俺達早川班と向かい合う形でまとまっている。
「せやな。あんまりよーけ人数おっても、ワチャワチャして思い通りに動けんこともあるやろうし」
リーダーということもあって瑞稀がその問いに答えたが、彼女のいう通り、戦力過多によって1人1人の個性が薄まってしまうことだってある。
だからこそ多からず少なからずの6人班というのが定石、そんな話を初日のオリエンテーションで聞いたはず。
「……そうですね。では、私達は先に行きます。豊田くん」
「はい、岸辺さん」
彼の呼びかけに答えた豊田くんとやら。
パッと見リーダーと年は近い感じ、30代くらい。
ただ格好はサラリーマンというか登山家、荷物がそんな多いわけではないが、服装がアウトドアウェア的な物を身につけている。
そんな彼は静かにしゃがみ込み、地面に手をあてがう。
そして何やら唱え始めた。
「大地に根を張りし偉大なる樹よ、その加護を借りて路とならん。我と共に歩め、スキル【翠橋天樹導】」
ガガガッ――
すると地面から多くの太い樹の根が姿を現す。
各々が複雑に絡み合い、大きな円形の足場を造り出していく。
そしてそれは1分もしない間に岸辺班員全員を囲うほどの大きさにまで成長していった。
「では、お先に」
総一郎さんの挨拶と共に、そのスキルで生み出した樹の根は力強い音を出しながら天へ伸びていき、彼らを運んでいく。
しかもそれはただ真っ直ぐに伸びていくわけじゃなく、深く生い茂るこの樹海の高さを越したところで、前方へ進み出した。
「なんや、あのスキル。あんなんアリなんかい!」
「豊田くんは取得したスキルポイントのほとんどを樹関係のスキルに費やした人ですから。B級以上の立ち回りとしては充分すぎるくらいでしょうね」
そう語るのは、サポート役の女性。
白い長袖のトップスに黒のワイドパンツ。
森林地帯ということもあって動きやすさ重視、それに肌の露出もほどんと許さない、そんな格好。
比較的長いその黒髪は、ポニーテールで後ろに全て纏められている。
まさに今日の最適コーデ、といったところだろう。
「あ、私のことはチヒロと呼んで下さい。皆さんよりひと回りくらいオバサンかもですが、どうぞよろしく」
そう言って、チヒロさんは笑顔で丁寧に頭を下げた。
おばさんと自分で言うところ年齢としては30代以上なのだろうが、とてもそうは見えないほど顔立ちも整っている。
よく見積もっても30代前半にしか見えないので、これで40なんて言われようもんなら驚きだ。
まぁ本人が詳しく年齢を言わない中、話題をさらに掘ることはできないので、このままで流していこう。
と、この流れで話題は自己紹介へと切り替わった。
まずチヒロさん、彼女はサポートの中でもマッピングを得意とする冒険者。
冒険者としても経験が10年目とかなり長く、A級ダンジョンにも一度潜ったことがあるらしい。
チームに1人ベテランがいるとなればこっちとしても安心だ。
「え、えと次はアタシでいいんですかね? えとえと、アタシはユイです。ハタチです。足を……引っ張っちゃうかもです。ごめんなさい!」
なんかずっとオドオドしてる女の子。
栗色のショートボブ、毛先は内巻きにしており、なんというか今どきの髪型っぽい。
目もクリクリしてて身長も150センチ台くらい、どうしても目が合うと自然に上目遣いとなってしまうところに、あどけなさを感じてしまう。
彼女はいわゆるヒーラーというやつ。
体力の回復やバフなどの能力強化を行うことができるという。
しかもこの2人、どちらも魔力感知が得意らしい。
つまりモンスターが少ない安全な道を提案できたり、事前にモンスターからの襲撃をチームに知らせることができる人が2人もいるということ。
そして2人に続く最後の女性。
残るタンク役である。
「お願いします。こんな感じだけど、一応タンクやってます。ミイナです年下なんで、ミイナで大丈夫ですよ」
彼女の言うこんな感じ。
きっとそれは低身長でスレンダーな見た目のことを言ってるのだろう。
おそらくロングであろう黒髪を上にお団子でまとめているところ、チヒロさんと同じくダンジョンでの動きやすさを意識しているはず。
しかしずっと思っていたが、服装が学校の制服というのはどういうことだろうか。
「あ、これですか? 普段は高校生なんですよ。だから制服。ちなみに高2です」
俺達がその服装に注目したからか、ミイナは淡々と説明する。
冒険者って年齢、性別いとわない職なんだな。
それから俺、瑞稀、陽介の自己紹介が終わったところでようやくダンジョン探索開始。
俺達は岸辺班に少し遅れて足を進め始めたのだった。
◇
神奈川県のとあるマンション、ゲート前――
「悠真さん、お待たせしました」
「うんうん、ちょうどいい時間に到着してくれたね、零くん」
悠真は今回A級ダンジョンへ共に潜る冒険者、楠木零にそう声をかける。
「それにしても、こんなに早く悠真さんが約束を守ってくれるとは思いもしませんでしたよ。ここで出てくる子達は僕の力でテイムしてもいいんですよね?」
「もちろんだよ。その代わり3階層にいるボスモンスターをしっかりテイムして、僕の言うことをその子に伝えてほしいんだ。いいかい?」
「はい、分かりました」
零が悠真の条件を呑んだ後、もう1人の人物がゲート前に現れる。
「よぅ、オレっちもいること忘れんなよ」
悠真に話しかけた男。
首まで隠れる黒のフェイスマスクをしているせいか、少しこもったような声をしている。
「忘れるなんてそんな。これはノーネームさんが居て初めて成り立つ作戦ですから。今日はよろしくお願いしますね」
普段より丁寧な口調で敬意を述べる悠真。
「まっ、オレっちは金さえ貰えりゃなんでもいいんだけどよっ。で、そのボスモンスターを倒すだけでいいんだっけか?」
「はい。その後ウチの零くんがボスモンスターにテイムをかけるので、それまでは同行をお願い出来ればと思います」
「オーケーだ、ゆうま。貰った金の分はキッチリ働かせてもらうぜ!」
そう景気よく答える彼。
この男の素性は誰も知らない。
もちろんステータスも【隠蔽】で隠しているため、視えるものは全て偽りの数値。
基本どこのギルドにも所属しておらず、ダンジョンの攻略も他者から依頼があった時のみ。
彼はどんな依頼でも、報酬額がそれに見合うものであれば全てを引き受ける。
まさに冒険者世界のなんでも屋。
彼を知る者は皆、口を揃えてこう呼ぶのだ。
S級冒険者、ノーネームと。
「では行きましょうか。零くん、ノーネームさん」
「はい!」
「おうよぅ!」
3人は足を揃えてゲートに踏み出すのだった。




