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今からお楽しみのダンジョンやで



 ダンジョン攻略当日。

 メンバー発表を終えた後、俺達含めた今日の参加者は別の講義室で今日挑むA級ダンジョンの説明が軽く為された。


 ちなみに今回は上級冒険者研修のために選定したダンジョンのため、事前調査としてすでに信頼できるサポート冒険者がマッピング済みである。

 

 そこで得た情報だが、今日挑むA級ダンジョンは以前攻略したD級ダンジョン同様、多数の階層が存在するらしい。

 そして肝心の第1階層目、ここは非常に広大な森林地帯。

 そんな外みたいな環境があるのかと疑問だったが、攻略難度が高いダンジョンにはそういった場合もあるようだ。


 出現モンスターは平均がB級、チーム6人が協力して戦えば余裕で突破できるレベルだと悠真さんは言っていた。


 ダンジョン最奥のボスに関しての情報まではさすがに得られなかったが、おそらく今回のメンバーで倒せる範囲だろうとのこと。

 しかし念には念をということで、悠真さん含めた何人かのメンバーが内部で待機してくれるらしい。

 何かあれば駆けつけてくれるようなので、その点は安心だ。




 ということで一頻り説明が終わった後、俺達は今回のダンジョンがある神奈川県のとあるマンションへ向かった。


「しかしまぁよくマンションの住人さん達も、立ち退いてくれたよなぁ」


 俺は今日の目的地である28階建てタワーマンションを前にそう呟く。


「まぁ本社の力を使えばそんなのは簡単だよ」


「悠真さん、その笑顔が妙に怖いんだけど」


 何が嬉しいのか、悠真さんは俺の隣でそう言いながら笑みを見せる。


「僕は煌坂さんと親しげに話す戸波さんの方がよっぽど怖いですけどね」


「なんや、自分悠真さんのこと怖いんか? そりゃまぁスゴい人なんは知ってるけど、同じ冒険者なんやしそこまで気ぃ遣わんでもいいんとちゃう?」


 続いて陽介と瑞稀。

 ここまでは大型の普通車3台が俺達ダンジョン参加者+悠真さんの計13名を運んでくれた。

 そして今、順番に降車しているところだ。


「はは、早川さんらしい回答だ。その通り、僕は一介の冒険者にすぎない。今は上級冒険者研修の責任者という立場で関わらせてもらってるけど、本質はみんなと同じ冒険者なんだ。陽介くんも気軽に話してくれたら嬉しいな」


「え、えぇと、その……がんばります!」


 そりゃあんな堂々と爽やかにされると陽介が吃るのもよく分かる。

 本当にこの人は外見だけじゃなく、中身もイケメンな人だ。


「煌坂先生、これからすぐ中へ入るのでしょうか?」


 どうやら他のメンバーも出揃ったようだ。

 中でも1番真面目そうなザ・サラリーマンの彼、岸辺総一郎は悠真さんへ問いを投げる。


「うんうん、そうだね。事前に話した通り1階層は広大なマップだから、早めにダンジョン入って時間をかけて攻略する方がいいでしょ?」


 悠真さんがそう返すと、皆が同意した。

 中でもサポート役の冒険者達は激しく何度も頷きを見せている。

 アタッカーはみんな自分の腕に自信があるからか、そこまで緊張している様子はないが、サポートの人達は少し雰囲気が違う。

 なんというか単純に不安って顔に書いているような、そんな表情。


 ちなみにサポート役の中で知っている人物は陽菜1人だけ。

 やはり彼女は優秀だったようで、総一郎さん側の班、いわゆる1軍としてダンジョンへ潜ることになっている。

 よく考えれば、前のD級ダンジョンで共に行動した時も、彼女の魔力感知がなければ攻略できなかったかもしれない。

 そんな陽菜が1軍ってのは、今思えば当然の結果だと思う。


「じゃ、みんな中へ入ろっか。ついてきて」


 俺達は、そう言ってそそくさと先へ進む悠真さんの後を追っていった。


 順番は岸辺班の後ろを俺達早川班がついていく形。

 お互いなんとなく優劣関係を意識しているのか、何も悩むことなく今の隊列となった。


 そして進むのは高級感あふれる1階のフロントを抜けた先の非常口。

 中を開くとさっきまで白色に明るく照らされていた室内とは裏腹に、そこは踊り場の壁に点いている1本の誘導灯のみ。

 しかもオレンジの電球色で、暗さがより際立っている。

 壁や床もなぜか造りがコンクリ打ちっぱなし、心なしか漂う空気も冷たい感じ。


 俺達は今、縦1列で階段を昇っていっている。


「……なんでこんな高級タワマンの非常口がお化け出そうな感じなんだよ」


「と、戸波さん! そそそ、そんなこと、言わないでくださいようっ!」


 ちょうど俺の後ろをついて歩く陽介の震えた声。


「何、陽介怖いの〜?」


「こ、こ、怖くなんてないですよ!? ただモンスターと違って、お化けは倒せないなって! そう思っただけです!」


「いや、ちゃんとビビッてんじゃん」


 1人の大人が怖がっている姿。

 意外と面白いかもしれない。


「何をしょーもない話しとんねん。今からお楽しみのダンジョンやで。絶対お化けなんかより何百倍もおもろいはずや!」


 俺の前を歩く瑞稀はこの雰囲気などそっちのけで、やたらとハイテンションだ。

 そうだ、彼女が戦闘狂なの忘れてた。


「そ、そ、それよりみなさん! 自己紹介しません!? ちょっとでもお化けから気が逸らせそうですし!」


 陽介は今にも泣き出しそうな声で、そう提案する。

 兎にも角にも、彼は意識を逸らすのに必死らしい。


「さ、賛成です!」

「私も!」

「これから3日間過ごす仲間ですもんね!」


 陽介の後ろ3人、つまり俺達早川班のサポート役冒険者の方々だ。

 みんな割と若めで俺と同い年か年下くらいの見た目の女性達。

 なんかこれだけ女性がいれば、つい気持ちが浮かれてしまいそう。


 なんて思いつつ、早川班が自己紹介ムーブに移っていったところで、隊列の動きが止まった。


「さぁ、みんな着いたよ」


 先頭から聞こえる悠真さんの声。

 しかしその姿は見えない。

 何せここはよくある180度の折返し階段。

 さらに長蛇の1列縦隊で、俺達は彼のいる場所より十数段下にいる。

 そのため、この階段を昇り終えた先の踊り場をさらに折り返して昇らなきゃいけないわけだ。


 とかまわりくどいことを言ったが、踏み出してみればあっという間。

 俺達早川班は今の隊列を崩し、踊り場の折り返し地点まで昇り切った。


「……ここが、A級ダンジョンの入口っちゅーわけか」


 瑞稀はこの先のゲートを見て、声を滾らせる。

 見た目はまぁ、他のダンジョンと変わらないか。


「さぁみんな、ここからが上級冒険者研修、最後の項目だ。準備はいいかい?」


「……あの、煌坂さんもこのまま一緒に入られるのですか?」


 悠真さんの問いに、岸辺班の女性サポート冒険者が問いで返す。


「えっと僕は、後で行くよ。一緒に潜るメンバーがまだ来てないんだ」


「そう、ですか」


 どうやら悠真さんとは別行動らしいな。

 一応その回答に納得したのか、質問者である彼女は一言謝意を示している。


「では、皆さんいきましょうか」


 さっそく岸辺班リーダー、総一郎は一歩踏み出す。


「先生、お先です」


 彼は最後に挨拶をしたのち、ゲートを潜った。


「い、行ってきます!」

「……行ってきます」

「頑張ってきます!」


 他のメンバーも同様、それに続いていく。


 そしてやってきた俺達の番だが……。


「よっしゃ、やっとダンジョン行ける! ムズムズしよってん!」


 そう言って早川瑞稀ことウチの戦闘狂担当は、一目散にゲートへ飛び込んでいった。


 おいおい、ゲート横に立つ責任者は無視かい。

 ってまぁ彼女の場合は無視というよりか、本気で気づいてなかったんだろうけど。

 仕方ない、俺からは前列と同じように挨拶していくか。


「悠真さん、行って来るよ。何かあったら助けてね」


「はは、君ほどの冒険者が僕の助けが必要とは思えないけど?」


「さすがにそれは買い被りすぎ。俺はただのE級冒険者なんですから」


 そう言い残して俺はゲートへ足を向かわせると、最後に悠真さんから一声かかった。


「海成」


「はい?」


「……楽しみにしてるよ」


 いつもながら満面の笑みで、彼は俺にそう言う。


 果たして何が楽しみなのか。

 ダンジョン攻略自体を?

 皆無事の帰還を?

 それとも俺の活躍をか?


「はい、わかりました」


 結局その言葉の真意は分からないまま。

 しかし俺は後がつかえている今の場所からできるだけ早く退くため、とりあえずの返事を返してからそのゲートを潜ったのだった。

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