戸波さん、メンバー表!
「へっ、俺は忘れねぇ。お前から受けた屈辱の数々を!」
鈴木はそう息巻くが、こちとらそんなつもりもないし見覚えだってない。
むしろそれは武闘家側のセリフだと思うのだが。
「一体何のことを言ってるんだ?」
「お前のせいで、俺は『落ちぶれた剣士』なんて周りからは言われ、上級冒険者研修から名前も除外された。あの研修にさえ居ることができていれば、俺の名は広まり、今後はB級ダンジョン……いや、A級ダンジョンにだってたくさん声がかかるはずだったんだ! 俺の冒険者人生を壊しておいて、知らねぇなんて言わねぇよな、格下冒険者?」
「いや、あそこまで暴れたのはお前が勝手にしたことで……」
「うるせぇ! お前が武闘家を格下だと認めなかったのが悪ぃんだろうが!」
さすがにそれは暴論すぎる。
そもそも職種間に優劣をつけようという考え自体がおかしい。
今回の研修でよく分かったが、そういった偏見がどうやらこの冒険者界隈に染み付いてしまっているようだ。
「なんでそこまで武闘家を毛嫌いする?」
「……どうもお前はその辺の理解が乏しいらしい。良い機会だから教えといてやる。お前達武闘家の先輩が築いてきた過去の汚点をな」
鈴木はそう言って語り始めた。
その内容は20年前の東京で起こったダンジョンブレイク事件。
かなり前に遡ったが、どうやらこの頃にはもうすでに冒険者という影の職業がこの日本で暗躍していたらしい。
その当時には非常に珍しかったS級ダンジョン、その攻略に多くの冒険者を費やして挑んだが、ボス討伐寸前に惜しくもダンジョンブレイクを起こしてしまった。
本来ダンジョンとは異空間。
今はまだ解明するに至っていないが、おそらく地球外に存在する別の領域とのこと。
ダンジョンブレイクとは、地球とダンジョンという異なる空間同士の周波数が徐々に一致していき、最終的に双方が同一の空間になってしまうこと。
つまり突如現れたダンジョンという別空間は、時間をかけてゆっくりと地球に馴染んでいくというのだ。
そうなれば、もちろんダンジョン内のモンスターは外へ自由に行き来できるし、逆も然りで一般の人がダンジョンに迷い込むこともある。
それが20年前、東京で起こったのだ。
その時日本各地の冒険者が東京に集い、なんとかボスを倒すことでダンジョンブレイクから日本を救うことができたようだが、どうやらそんな危機に『武闘家』だけ不参加だったらしい。
『なぜ武闘家だけ来なかった?』
『アイツらは臆病だから?』
『いや、きっと実力がないんだよ』
『俺達が死ぬ思いで戦ってたってのに、武闘家様はいい身分だな』
『負け犬だよ、負け犬』
そういった出来事が、今現在までに及ぶ武闘家職の汚名に繋がったのだ。
尚、なぜ武闘家がその時その場にいなかったのか、本当の理由を知るものはいないという。
「……それだけじゃ、武闘家が悪いとは限らないだろ」
俺は全ての話を言い終えた鈴木にそう言葉を返した。
「だが武闘家が戦闘に参加しなかったことは事実なんだぜ?」
それは……そうだ。
鈴木の言うことが本当なのであれば、その事実は消して変わらない。
そしてそんな大変な中、1つの職業だけが顔を出して居ないとすれば、逃げたと思われても仕方がないと思う。
「だから肝心の戦いに尻尾巻いて出てこねぇ、そんな武闘家のお前に、俺の人生が壊されたなんてあっちゃならねぇ!」
鈴木は再び怒りを表に出してきた。
「……ここでお前を殺して残りの武闘家も順に殺していく。これで俺の復讐も、剣士と武闘家の因縁も全ておしまいだっ! スキル【憑依:剣聖】」
鈴木が演習場で戦った時と同様に剣を地面にまっすぐ突き立てると、剣を伝って具現化した紫のエネルギーが体の中へ入っていく。
「結局戦うことになるのかよ!」
「あぁぁぁああああああっ!」
苦しむように唸る鈴木は苦痛のあまりか、体を仰け反らせる。
あのスキル、【憑依】とはたしか禁忌だったよな。
正式な免許が必要とかって。
それを鈴木は今目の前で再び使用しようとしている。
しかもいくら人目が少ないとはいえ、一般の人も通る道でだ。
これはさすがに冒険者として見逃せない事態。
というか止めなきゃ街もヤバいし、俺も死ぬ。
なんとかしないと、ってこれどうすれば奴を止められるんだ?
「……あっ!」
ふと思い出した。
これまでオフにしていたパッシブスキルを。
俺はステータス画面を目の前に表示させ、そのスキルを使用可にする。
「うぅぅぅ……あぁあああああっ!」
紫のエネルギーを纏い、悶え苦しむ鈴木へ俺は手をかざした。
そしてそれに合わせて俺の脳内に音声が流れる。
《パッシブスキル:魔力吸収を発動します》
久しぶりだ。
鈴木の纏うそれは、俺の手へ徐々に吸収されていく。
そして全てを吸い切り、鈴木から何も排出されなくなったところで、奴はその場に倒れ込んだ。
「……さてここからどうするかね」
俺は思考を巡らせる。
とはいえ今この場で連絡を取れる相手なんて限られている。
しかもこういった面倒ごとを押し付けても怒らなそうで、ある程度立場が上、さらに鈴木よりも強い冒険者じゃなければいけない。
彼が目を覚まして、暴れ回らない保証なんてないからな。
「そんな都合のいい相手なんて……いたわ」
俺は思い当たるピッタリの人物像、久後渉へ急いで電話連絡をした。
彼はすぐに応答してくれたが、事情を話すと「え〜めんどくせぇ」とか「なんで俺が」とか予想通りゴネまくる。
しかしこの辺の反応はもうすでに織り込み済み。
あまり使いたくない方法だったが、彼の弟である健斗さんの名を出して、「久後さんがなんとかしてくれなかったので、明日の研修へ向かうことができないんです」と伝えてやると半ばほぼ脅し文句的なことを言うと、久後さんはやれやれといった様子で引き受けてくれた。
なんか……めっちゃ悪いことした気がする。
しばらくして久後さんが到着した。
「……おい海成、新人のくせに言うじゃねぇか。お前が研修に行けないとなれば、うちの弟に何言われるか分かったもんじゃねぇ。それに比べりゃ、このヘボ剣士を引き取る方が何倍も楽だわ」
「すいません、久後さん」
一応謝罪したが「ったく悪いと思ってねぇだろ」とため息を吐きつつ、久後さんはこの場から鈴木を連れてどこかへ去っていった。
これで一旦落着か?
とにかく、彼の処遇がどうのってのは久後さんがなんとかしてくれるだろう。
俺は明日に備えて帰って風呂入って寝る。
それだけだ。
そう頭を切り替えて、俺は自宅へと足を進めたのだった。
◇
次の日、完全に気持ちを切り替えた俺はレベルアップコーポレーション本社12階に到着した。
どうやら上級冒険者研修初日に集まった講義室のホワイトボードに今日のメンバーを張り出しているらしい。
……学校かよ。
なんて思いながら、俺は講義室の扉を開けた。
「海くん、遅いやん。はよこっちきいや!」
入室後、さっそく瑞稀に声をかけられた。
「戸波さん、メンバー表! 見てください!」
陽介も同様、俺を急き立ててくる。
「はいはい、行くってば」
たしかに今日のメンバーに入っているか、俺自身昨日から気になっていた。
何せ俺は3回戦で負けたわけだし、スタメンかどうかも微妙なラインだろう。
とはいえせっかく参加した上級冒険者研修だ。
ここでぜひ、A級ダンジョンというものを経験しておきたいというところ。
俺はホワイトボードに貼られた紙を覗き込んだ。
「これは……っ!?」
「ま、当然の結果やな。よろしくやで、海くん!」
「まさか僕まで選ばれてるとは思いませんでした。よろしくお願いします、戸波さん!」
そのメンバー表に書かれた名前。
ダンジョン探索第2班、アタッカー担当(リーダー:早川瑞稀 その他:戸波海成、工藤陽介)
えらいご都合展開。
アタッカーに関しては知ってる奴だけだ。
にしてもその他ってひどいな、その他って。
そして第1班にはアタッカーの模擬戦で優勝していた岸辺総一郎の名。
つまるところ、俺達は第2班という分類通り2軍的な立ち位置だろう。
「よろしくな、2人とも!」
1軍でも2軍でも関係ない。
とにかく俺はメンバーに選ばれた。
それも知ってる仲間と共に。
正直これほど嬉しいことはない。
たしかダンジョンへ向かうのは、今日この後すぐだったはず。
別に周りの評価や功績なんてのは気にしていないが、ここで選ばれたからにはA級ダンジョンという環境で全力を尽してやる。
そして攻略後、胸を張って、自分は上級冒険者だと名乗ろう。
心の中でそう誓った後、俺は瑞稀、陽介と共に、ダンジョン攻略メンバーが集う別の講義室へ向かったのだった。




