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これで全ての模擬戦が終了したね



《パッシブスキル【自動反撃】を発動します》


 久しぶりに響く脳内音声と共に、俺は陽介が振り下ろす剣を避ける。

 これはいつもと同様、自身の足りない動きをスキルが補ってくれる感じ。


「陽介、前より動きが速くなってるな」


「いえ、まだまだです!」


 2回戦、最後の枠。

 海成VS陽介の開幕だ。


 開始早々彼が放つ最速の剣撃、俺はパッシブスキルの補助によりなんとか躱すことができた。


 たしか陽介はC級だったはず。

 しかしその実力は、数日前対峙した鈴木と負けず劣らず、以前一緒にダンジョンを攻略した時に比べると格段と動きが良くなっていることが分かる。


 だけど俺もここで強くなった。


 自身の身体能力が高まったことで、発動したパッシブスキルの質もグッと向上している。


「はぁぁっ!」


 ダンッ――


 【自動反撃】による攻撃と陽介の剣がぶつかり合い、鈍い音が響き渡る。


 陽介、反射速度も速い。

 俺の拳に対し、一瞬の間に守りへと転じる反応の速さと咄嗟の判断力。


 彼こそ明日のダンジョン探索にうってつけの実力なんじゃないか。

 そう思ったが、それを決めるのは俺じゃない。

 今は目の前の戦いに集中せねば。


 ダンッ――


 ダンッ――


 ダンッ――


 何度も交わる武器同士。

 しかしその威力は皮肉にもステータスの影響が大きく、俺の拳は確実に自分よりレベルの高い陽介の剣に大きく弾かれてしまう。


 互いの武器接触によって俺は一瞬バランスを崩したが、その瞬間をもちろん陽介は逃さない。


「これで、終わりですっ!」


 陽介は最短の剣筋、突きで確実に俺を狙い打ってきた。

 避けようのないほど完璧な攻撃。


 そう、これが冒険者という圧倒的ステータスゲーにおける戦い。

 昨日一昨日、俺は瑞稀と戦って嫌というほどその意味を理解させられた。


《パッシブスキル【自動反撃】を発動します》


 しかし、俺にはそれを覆すほどの優秀なスキル達がある。

 まぁこれは自分の力というよりマジックブレイカー様々なので、あまり俺が威張れることではないのだけれど。


「……っ!? 避けられた!?」


 うん、問題ない。

 一瞬姿勢を崩しはしたが俺はすぐさま立て直し、陽介の突きに自らのグローブをあてがうことでわずかに軌道ズラし、なんとか避けてみせた。


「また、戦おう」


 俺は誠意を持って陽介にそう伝え、突きにより大きな隙ができた彼の胸部めがけて全力の拳を叩き込んだ。


「ぐあっ!」


 大きく飛ばされ、倒れ込む陽介。

 しかし気を失ったというわけではなく、彼はゆっくりその場から立ち上がる。

 そして静かに手を挙げた。


「ここまで立て直すのに時間がかかってちゃダメですね。すみません、僕の負けです」


 そう言って、負けを認めたのだった。


 そのまま戦おうと思えば戦えただろうが、実戦において体勢を立て直す時間など存在しない。

 なぜならその間に奇襲されて終わりだからだ。

 そういった謙虚な気持ちが彼に白旗をあげさせたのだろう。


「……分かりました。じゃ、ここまでにしようか」


 悠真さんもその様子を見て首を縦に振ったところで、この試合は幕を閉じたのであった。


「うぉー! 海成さーん!!」

「おめでとうございます!!」


「なんだあの武闘家」

「1試合目の勝利はマグレじゃなかったのか」

「おい、誰かあの武闘家を止めてくれ!」


 武闘家仲間の声援と他職の声がこの演習場を一瞬の間支配した。


 特に他職達、中でも剣士の奴らがうるさい。

 しかし中身的には武闘家を穢すものではなく、考えを改めようとする気持ちが垣間見えるような言葉がほとんど。

 これから少しずつでも、職種間の偏見がなくなればいいが。


「よし、2回戦も無事に終わったね。少し休憩を挟んで、3回戦といこうか」


 悠真さんから休憩の勧め。

 俺達は静かにその指示に従った。




 ◇




 そして時は少し流れ、決勝戦。

 試合を観覧する冒険者達は、決勝の舞台に立つ2人へ応援を飛ばしている。


「頑張れよ、2人とも!」

「どっちが勝ってもおかしくないぞ!」

「早く、試合始めてくれ!」


「そうだね、そろそろ始めようか。2人とも準備はいい?」


「こっちはいつでも準備できとる。気合いも入りまくりや!」


 悠真さんの声に瑞稀は威勢よく答える。


「……わかったよ。じゃあ決勝戦! 武闘家、早川瑞稀VS魔道士、岸辺総一郎。ready fight!」


 2人の戦いが始まった。

 そう、俺こと戸波海成は3回戦で敗退したのだ。

 彼、岸辺総一郎さんの手によって。


 30代、黒髪短髪、高身長で体格もスラッとしており、サラリーマン時代に着ていたらしいスーツがよく似合う。

 そんな総一郎さんは、魔導士で重力魔法を極めたB級冒険者。


「……ウチは、そんな魔法に負け、へんでっ!」


 現在、彼の発動した下方向へ働く重力に瑞稀は【フィジカルブーストLv5】で対抗している。


「さすがは武闘家のエースさんですね」


 そんな拮抗を見せる2人、しかし俺の場合は一瞬にして押し潰されてしまった。

 今の彼女同様、俺だって【フィジカルブースト】を発動したが、どうやらLv3では耐えきれず。


 そしてさらに大きな問題、ここでは【魔力吸収】が使えないのだ。

 そりゃそう、だってこんな冒険者まみれの界隈で上位職のパッシブスキルなんて使っちゃここまで隠してきた意味がない。

 だからこのパッシブだけはオフにしてある。


 ……おかげで瞬殺されたわけだが。


「おい、アイツの強さマグレだったみたいだぜ」

「はは、そりゃそうだ。E級がまず勝ち上がれるわけがないんだし」


 俺の敗北によって意見をコロッと変えるようなやつばかり。

 とまぁ今更気にしてないんだけれど。


「うおおおおおおおお!」


 俺が脳内で回想している間に、歓声が上がった。

 どうやら勝敗が決まったようだ。


「winner、岸辺総一郎!」


「だぁぁっ! くっそぉ!」


 突っ伏した瑞稀が床を強く叩いている。


 一応隣で一部始終を観戦していた陽介に話を聞くと、総一郎さんは近接戦闘にも長けており、自身の拳に魔法で重みを加えた戦闘手段で瑞稀へダメージを負わせたのち、遠距離からの重力魔法で見事押さえつけたとのこと。

 よって動きを封じられた瑞稀は泣く泣く降参。

 こういう流れだったらしい。


「これで全ての模擬戦が終了したね。みんな、お疲れ様」


 そんな中、悠真さんが笑顔で話を締め始める。

 その後観戦していたアタッカー職の指導者3名から一言ずつコメントがあり、この場は解散となった。


 陽介は「明日のメンバー発表楽しみですね!」と言ったのち、剣士達の元へ駆けていく。

 やはり陽介といえど、長時間武闘家メンバーと共に過ごすのは気まずさがあるらしい。

 そりゃ職同士にここまで蟠りがあれば当然か。


「瑞稀さん、元気出してください!」

「そうですよ! 瑞稀さんはきっと明日のメンバーに入ってるんですから、ここはダンジョン探索で結果出して、他の職をあっと言わせましょう!」


 それから俺達は完全に瑞稀の慰めモード。

 

「……よっしゃ、ほな今日は3回戦で負けた海くんの奢りで中華や。ほんで今日の反省会しよか」


 そしてなんとかご機嫌になった彼女の提案により、今から何故か晩御飯を食べに行くことになったのだ。




 ◇



 

 反省会終わりの帰り道。


「くそぅ、人の金で食う飯はさぞ美味かったろうな!」


 ……独り言である。

 周りには誰もいないので大きな声を出してしまった。


 いつもの帰り道、最寄り駅から自宅までの通路には比較的街灯も少なく、おまけに人通りも少ない。

 子供の頃ならこんな暗がり死ぬほど怖くて1人じゃとても通れなかっただろうが、今はもう立派な大人。

 なんの感情も抱かずにスタスタ歩けるのだ。


 しかしつい熱い武闘家論を交わしてしまって帰りが遅くなってしまったな。

 スマホを見ると、すでに時刻は22時を回っている。


 明日の集合は確か朝の9時だったっけ。

 早く帰って風呂入って寝よ、マジで。


「おい」


 そう思っていた中、突然ドスのきいた男の声。

 どうやら俺の後ろにいるらしい。

 声の感じ、10メートルほどは距離があるか?


「はい、何かご用で?」


 俺はゆっくり振り返る。

 こんな夜遅く、男が男をナンパか?

 それとも不審者?


 なんにせよ、今の俺は冒険者であり武闘家だ。

 多少強い人間が現れようともなんの問題もない。

 ま、とりあえず早く帰らせてほしいところだが。


「俺のこと、分かるだろ?」


 その声からは強い怒りの念を感じる。

 街灯がチラつく中、わずかに見える彼の姿。

 俺よりも高い身長でガタイもいい。

 そして何より、見覚えのあるそのイカつい顔。


 俺は思わず奴の名を小さく漏らした。


「……鈴木?」

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