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これならパッシブオフでもよかったな



 いよいよ模擬戦の当日を迎えた。

 今日はどんな会場で対戦するのかドキドキしながら出勤した俺だったが、これまた拍子抜け、アタッカーの模擬戦は外への危険がないよう1番密閉性が高い地下演習場で行うことになったらしい。


 結局3日間同じ場所かよ。

 なんて一瞬思ったが、よくよく思えばそっちの方が実力が発揮できるんじゃないかと、ある意味では1番役得かもしれない。


 実際その通りで模擬戦の初戦に選ばれた瑞稀は、自身の同等級であるB級の魔導士を一瞬にして蹴散らしていたし。


 この模擬戦、どうやらアタッカー、タンク、サポートとそれぞれ戦いの形式が違うらしい。

 もちろんアタッカーである俺達はガッツリ1対1での一騎討ち、しかもトーナメント方式だ。

 人数は鈴木が抜けたことで奇数の15名、つまり全て勝てば合計4回戦うことになる。


 それを各職業責任者と悠真さんが、端で観戦しているという感じ。

 おそらくあの人達の判断で、明日のダンジョン探索に臨む6名のアタッカーを決めるのだろう。


「戸波さん、次じゃないですか?」


 隣から話しかけてきたのは陽介。

 剣士と武闘家の軋轢がある中、俺に話しかけてきても大丈夫なのかと事前に確認したのだが、その概念が強く根付いている鈴木がここにいないのであれば、大きく問題ないとのことだ。

 やはりアイツが剣士を牛耳っていたらしいな。


「あぁ、順番的にな」


 そう、もうすでに1回戦は6度の戦いを終え、残り1試合となっていた。


 模擬戦開始前に引かされた数字の書いたくじ。

 俺が引いた『14』という数字、どうやらこれは戦う順番だったようで、模擬戦が『1』VS『2』から始まった時点で1回戦が最後になることは容易に想像できたのだ。


「はーい、じゃあ次の戦い。もうここまできたらみんな順番も分かってると思うけど、次は『13』対『14』だよ」


 ほらやっぱり。

 というかまだ戦ってないメンバーは3人だけだし、今まで数字順で呼ばれてきたのだから、間違えようがない。

 ってことは15番はシードってやつか。


「海くん、1発かましてきーや! ほんで、決勝はウチとやで!」


 バシッと瑞稀は俺の背を叩く。


「できれば瑞稀とは当たりたくないけど、うん、とりあえず頑張ってくるわ」


「海成さん! 頑張ってください!」

「戸波さん、ファイトです!」


 自分の周りに集まる武闘家メンバーや陽介は、俺を精一杯の声援で模擬戦に送り出してくれた。


 さて相手は誰かなと思考を巡らせながら中央に立つと、向かいには知ってる男。

 たしか初日瑞稀と言い合いをしていた剣士の人だ。


「お、お前、たしか鈴木さんとやり合ってた武闘家……」


 めっちゃ嫌そうな顔して俯いてるし。


「大丈夫! 相手はE級だ! 鈴木さんに勝ったのも何かネタがあるはず!」

「そうそう! 田中の方がステータス強いんだから心配ないよ!」


 仲間剣士さん達の慰めにより、ようやく彼は顔を上げた。

 ってか鈴木の次は田中か。

 剣士のくせに平凡な苗字が多いのな。


「そ、そうだよな。俺がE級になんて負けるわけがない!」


「よし2人とも、準備はいいかい?」


 悠真さんは向かい合った俺達に再確認をする。


「はい!」

「はい!」


 ちなみに悠真さんのいう準備とは、各自使用可能な武器のことである。

 剣士なら木製の剣、武闘家なら革製のグローブ、魔道士なら杖なしでの魔法、と戦い方を極力殺傷性の低いように統一した結果がこれなのだ。


 そして準備が整った俺達2人は揃って返事をしたのち、悠真さんがお決まりの合図を言い放った。

 

「ready fight」


 その流暢な発音、試合の度に聞いてるけど、めちゃくちゃ流暢でオシャレだな。


「ぼーっとしてんなよ、E級!」


 剣士、田中は木製の剣を俺に振るう。


「これならパッシブオフでもよかったな」


 俺はそう呟き、軽くその攻撃を避けた。

 そして反撃の拳をそのまま顔に叩き込む。


「え、はや……ぶっ!?」


 田中は後ろへ勢いよく転がった。


 今の感じ、いつもみたいに【自動反撃】が発動する感じしなかった。

 つまりこのパッシブ、自分が対応出来ない時にのみ働くってことか?


 それに【不屈の闘志】もだ。

 もしかするとこのスキルの発動条件には、相手とそれなりの戦力差が必要なのかも。

 田中くん程度じゃ反応しなくなってるのかもしれないな。


「マ、マグレ当たりでいい気になんなよっ!」


 さすがC級かB級か知らないが、上級冒険者研修に参加できるレベルの冒険者。

 今の一撃だけじゃ倒れなかったようだ。


 田中はさっきよりも速い動きで俺に迫り、剣を大きく振りかぶる。


 かなりの速度。

 だけど、俺の方が速い。


「ぶはっ!? なん、で……だよ!」


 相手が剣を振り下ろすより速く、俺の打撃が田中に届いた。

 拳がヤツの鼻にめり込む感覚。

 これはさすがに起きられないだろうな。


 と予想通り田中は突っ伏したまま起き上がらず。

 悠真さんが確認しにいったところ、彼は気を失っている様子。


「うんうん、決まりだね。WINNER、海成!」


「うおぉ! 海成さんすげぇ!」

「戸波さん、この前より速くなってる!」

「海くん、やっぱり昨日まで手抜いとったな!」


 身内から聞こえる賞賛の声。

 よかった、やっぱり俺強くなってる。


 これも健斗さんから教えてもらった古武術のおかげ。

 ちなみに古武術とは、簡単に言えば『昔から日本にある伝統的な武術の総称』といったところ。


 この中で俺が学んだのはたった1つ。


『膝抜き』という技術だ。

 これは下肢の動き出しのスピードを早める技法で、体重を支えている足全体の力を急速に抜くことにより地面にかかる荷重を減らすことができるというもの。


 おかげで避けるのもそうだが、打ち出した拳の速度が傍からみて限りなく速くみえる。

 実際に速くなったのは動き出しだけで、俺自身速くなったわけではないのだが。


 ま、これがこの『膝抜き』の強みでもある。

 

 そんな好プレーに仲間が盛り上がっている反面「なんでE級の武闘家が……」みたいな偏見の声も聞こえてくるが、もうほっとこう。

 相手をしてたらキリがないし。


「みんな、ちょっといいかな?」


 悠真さんが全員に呼びかけた。


「これは明日からのダンジョン探索メンバーを選抜する試験だと思ってもらっていい。初めにも説明したけど、必ずしも勝ち残った人から選ぶわけじゃなくて、模擬戦の結果から総合的に判断するつもりだから、最後まで気を抜かず頑張ってね」


「「「はい!」」」


 全員が力強い返事をしたところで、模擬戦の1回戦が終わった。

 そして2回戦に進むわけだが、はたして俺の相手は……ってまぁ順番的に決まっている。


「やっぱりこうなるんすね」


 陽介は神妙な面持ちで話しかけてくる。


「そうだな、ラッキーボーイ」


 俺は『15』と書いた紙を手に持つ陽介をそう呼称した。

 別に嫌味とかじゃなくこれはあれだ、1/15で引き当てたシード枠によって優勝までの戦闘がみんなより1回少ない彼を純粋に羨んで出た言葉だ。

 いやまぁここではさっき悠真さんが言った通り勝敗や優勝などは関係なく、戦いの内容で判断すると言っていたので、周りより1試合少ないということはアピールできる回数も少ないわけで、本当にラッキーボーイかどうかは正直微妙なところ。


「ふっ、たしかにラッキーボーイだ。こんなにも早く、戸波さんに僕が強くなったことを証明できるんですから!」


 陽介は心底嬉しそうに口角をあげ、自身の手を強く握りしめる。

 どうやら彼は俺の思っていたラッキーとは別の意味で捉えたらしい。


「ま、お互い健闘を祈るか」


「はいっ!」


 俺は2回戦の相手である彼、工藤陽介と熱い握手を交わすのだった。

 

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