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コイツまだ本気じゃねぇからな


 

 上級冒険者研修、3日目に突入した。


「2人とも立てっ! 休憩は終わりだっ!」


 健斗さんの掛け声。

 疲労で座り込む俺と瑞稀を鼓舞させる。


「大丈夫、まだいけるで」


「お、おっす」


 時刻は夕方の16時すぎ。

 朝の9時から休憩しつつもほぼぶっ続けなので、正直体は限界だ。

 それに昨日から罰ゲームの筋トレもエグい。

 みんなが筋トレを嫌がる理由が分かったが、その日の罰を重ねる度初めは100回、2回目は200回、3回目は400回と回数が倍々になっていくシステムだったのだ。

 もう5回目になろうもんなら1600回と、筋トレだけで4時間くらいかかっちゃう。

 ちなみに昨日今日、俺は全ての罰を受けたので、腕も足も体もパンパン。

 

 だけどようやくスキルなしでも体が動くようになってきて、楽しくなってきているのも事実としてある。

 明日の模擬戦ではどこまで通用するか分からないが、やれるところまで頑張ってみたい。


 そんな好奇心ともとれる感情が俺の中に少し芽生えており、それが今の行動原理の一部となっている。


「海くん、次はそっちからきてええで」


「分かった。じゃ、遠慮なく。【フィジカルブーストLv3】」


 俺はまず昨日の夕方習得した強化スキルを使用した。

 そしてダッと床を蹴り込み、瑞稀へ攻撃をかましていく。


「【フィジカルブーストLv5】」


 我負けじと身体強化した瑞稀は、自らの腕と足で俺の物理技を徹底して防いでみせた。


「まだまだやな、海くんっ!」


 そして隙をみて、彼女は俺の腹部へ蹴りを決め込む。


「く……っ!」


 仕方ない、一度後ろに下がるか。


「こら、逃げるな海成っ!」


 健斗さんからの叱責。

 これは俺が戦いに慣れ始めてからずっと受けている注意だ。


「よし、チャンス!」


 俺の後退に、瑞稀はここぞとばかりに詰め寄って拳を何度も振るってくる。


 攻撃は最大の防御というが、これは基本的な武闘家の戦法らしい。

 逆に言うと逃げは相手に最大のチャンスを授けると捉えている。

 つまり俺の今の行動は瑞稀に攻めのチャンスを与えてしまったに過ぎないという。

 実際そう、今、俺は彼女の連撃に守る他ない状況なのだから。


「これで、しまいや!」


 瑞稀は俺のガードが崩れたタイミングで、左脚を使った水平蹴りを放ってきた。

 狙いは横腹か。


「まだまだっ!」


 俺は最短で届く拳を正面に放った。

 古武術を利用したスムーズな足運びと体全身を使った突き動作。

 これは昨日健斗さんから学んだ技術だ。

 

 この技で少しでも速く相手に拳を打っていく。


 俺の攻撃は予想通り相手の左肩へ命中、【フィジカルブーストLv3】により強化された攻撃なので威力もそれなり。

 瑞稀を後ろへ退けぞらせ、転倒させることができた。


 しかし相手は【フィジカルブーストLv5】、しかも下肢から放たれる強力な蹴り。

 俺の拳で、さすがに瑞稀の攻撃までは止められず。


「うっ!」


 俺の攻撃とは比にならないほど強く、ガッツリぶっ飛ばされた。


「よし、そこまでっ! 一旦休憩!」


 

 俺は飛ばされた勢いでぶつかった壁にもたれたまま休憩をとる。


 しかしこの2日で初めてだな。

 瑞稀に攻撃が届いたのも。

 そもそも【フィジカルブースト】の時点でレベル差が2もあるし。


 一応この数値、ステータスで表すとLv1につき攻撃防御がプラス20されたと思っていいくらいだそうだ。

 つまり瑞稀との単純な数値差は40、それに加えてレベルの差もあるため、普通に渡り合うのは困難ということ。


 初めは瑞稀を倒してやろうと思ってたが、ここまで差があるならさすがに無理。


 あぁ――なんだかバカバカしくなってきたな。


「いやぁ今の一撃、結構効いたで。ほんまE級のステータスなん?」


 瑞稀は座り込む俺に駆け寄り、手を伸ばしてくる。


「どうみてもE級だろ?」


 俺は堂々とそう言い放ち、彼女の手に捕まって立ち上がった。


 ま、嘘はついていない。

 いくら【隠蔽】で隠してるといっても、隠したステータスもE級なんだし。


「いや、すごいですよ海成さん! 手合わせで瑞稀さんに一撃入れた人なんて今までいなかったのに」

「そうです。C級の僕らでさえ瑞稀さんには手も足も出ないんですから!」


 いつの間にか俺は武闘家のみんなに囲まれていた。

 どうやら俺と瑞稀の手合わせを観戦していたらしい。


「そうだぞ、海成」


 そして健斗さんもこの流れに便乗。


「瑞稀に一撃くらわすなんて至難の技。それも階級差があってってのは君が初めてだろうな」


「健斗さんまで。褒められるのは慣れてないんです。その辺で勘弁してください」


 うん、本当に恥ずかしい。

 嬉しい気持ちが本音だが、さすがに照れが余裕で勝つ。


 すると、そんな様子の俺を見て健斗さんが卑しい笑みを見せる。


「それにな、瑞稀。コイツまだ本気じゃねぇからな」


「あぁ!? ウチとの戦いで手ぇ抜いとったってゆーんか!?」


 瑞稀は俺の肩を掴み、グッと顔を近づけてきた。


「そらそうだ。じゃないとあの剣士の鈴木と力で渡り合うなんてできないだろ?」


「それもそうか。あの時の海成さん、たしかにめっちゃ強かったよな」

「なら手を抜いてるのもあながち嘘じゃないっていうことか」


 なんか変な説得力が生まれて、みんなが納得していってる。

 ちょっとマジで勘弁してよ健斗さん。


「なんやと……っ! ほな次は本気の殺し合いといこうやないかっ! なぁ海成くんやぁ?」


 健斗さんの一言に瑞稀はさらに腹を立てたようで、俺の襟元を掴んで演習場の中央へ行こうとする。


「ぐぇっ!? ちょ、瑞稀さん? 俺もう戦えない……というか、首絞まるんで、引きずるのやめてもらっていいですか!?」


「あれで海くんが本気じゃないとすると、ウチも次は限界を超えないと勝てんわけか。仕方ない、足の裏ズル剥けになるかもしれへんけど、今まで以上に踏ん張って……」


 瑞稀さんがなんかグロいことぶつぶつ言ってて、俺の話を聞いてくれない。


「おっ、2人の試合、また見れるらしいぞ!」

「本気の海成さんと瑞稀、どっちが強いんだ?」


 それに周りも勝手に盛り上がってるし。


「よし、海くん。次は本気で来てやっ!」


「本気と言われましても……」


「ええからはよ構えっ!」


 演習場中央に到着した途端、またも彼女と対峙させられた。


 本気と言われても、健斗さんには明日の模擬戦まではパッシブスキルを封印するように指示されているし。

 一応チラッと健斗さんの方を見ても、静かに首を横に振っている。

 ありゃまだ使うなってことだろう。


 ということで本日もう何度目か分からない対瑞稀戦は、例外なくボッコボコにされて終わった。


 試合後、どうしても納得がいかないと瑞稀が騒ぎ立てていたが、さすがにここは健斗さんの出番。

 明日の模擬戦では本気を出すはずだから、対戦できることを願っておけと説得してくれた。

 結局戦わなきゃダメなんかい、と思ったが。


 それから最後に全員で、健斗さんに3日間の感謝を告げて解散となった。


「ほら、これで明日海成が急にパッシブスキル使って強くなっても、違和感なくなったろ?」


 ここを去る前、健斗さんが俺の耳元でコソコソそんなことを言ってきたが、そのせいでボコボコにされたことを俺は一生忘れない。

 ……が、ここで強くしてもらった恩もあるし、ちょうど差し引きゼロくらいだな。

 と、心の中で自己解決に至った次第である。

 

 そんなこんなで上級冒険者研修の3日目、最後の職業別訓練の日が幕を閉じた。


 そして明日はいよいよダンジョン攻略メンバーを選抜するための模擬戦。

 はたしてパッシブスキルを解放した俺がどこまで通用するのか。

 明日が楽しみだ。

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