マジックブレイカー、か
「ほら、最後は海成くんだぞ」
「……えっと、はい」
今から俺もボコボコにされるんだな。
そう思いながら、俺は横で気を失っている瑞稀を横目に健斗さんの元へ向かった。
「さて海成くん、ようやく2人っきりになれたわけだが……」
「えっ!? なんですか!?」
唐突なピンクの雰囲気に俺は思わず1歩後ずさる。
「君、【隠蔽】使ってるだろ?」
話の続き、それは俺にとってピンクよりも望んでなかったこと。
【隠蔽】についての情報漏洩だ。
誰かが健斗さんに言った?
いや、久後さんなら【隠蔽】前の俺のステータスを知っているはず。
兄弟だからそこから漏れた可能性も。
しかし彼は上級冒険者研修で指導者をしているほど、本社との関わりも濃いそうな人。
本当にバレて良かったのだろうか?
「海成くん、その顔じゃ図星だと言ってるのと同じだぞ」
「えっ!? いや、そんなことはっ!」
俺は全力で否定の手振りを見せる。
「その慌てっぷり、こりゃマジだねぇ。こっちは少しカマかけただけだったんだけどなぁ」
健斗さんはそう言って、ワハハと笑っている。
なるほど、俺の態度が自然と物語っていたってことか。
なんたる失態っ!
不覚、不覚としか言いようがないぞ……。
「まぁ安心しろ、別に誰かに言おうってことじゃない」
「じゃあ俺は何を?」
「……ブハハ、だから取って食おうとも思ってないって! 君は渉の言う通り、真面目な男なんだな」
思わず吹き出した健斗さん。
彼はそのまま話を続ける。
「冒険者初めて間もない冒険者がステータスを隠すってこたぁ、理由はおそらく1つ」
「1つ……?」
少し間が空いたので、聞き返す。
「ま、戦えば分かるだろ。構えろよ、海成くんっ!」
いきなり戦闘モード!?
俺はすぐさま構える。
《パッシブスキル:自動反撃を発動します》
突然脳内音声のみが先走った。
え――
俺の体は一瞬にして数歩後ろへ下がると、目の前を爆風が駆け抜ける。
「拳を伸ばし切った長さまで計算して後ろへ下がったか。いいもん持ってるな」
とブツブツ語る健斗さんの拳は、すでに俺の眼前。
鼻すれっすれだ。
今の動き全く見えなかったぞ。
続いて俺の体は横跳びで右サイドへ数歩移動、どうやら右蹴りを避けたらしい。
「これも避けるか。ならこれはどうだっ!」
また健斗さんが姿を消した。
《パッシブスキル:自動反撃を発動します》
再度耳へ届く自動音声。
俺の体は如何に避けていくかを思考し電気信号として各筋肉へ伝達、行動と健斗さんの攻撃を颯爽と避ける。
そして2発目を躱わすため、再び体が動こうとするところで、俺の体は完全に停止した。
「ぶ……っ!」
彼の拳はモロ俺の胸部に直撃。
あまりの痛みに、俺はその場で疼くなるほど。
肺が圧迫され、息が苦しい。
ズキズキと痛む苦痛により俺の心拍はドクドクと強く脈打ち始める。
これ、鈴木に蹴られた時よりも痛い……って思い出してきたら、蹴られた脇腹の痛みも出てきたぞ。
「ありゃ、一応寸止めしたんだけどなぁ」
意識が遠のく中、健斗さんのそんな声が聞こえてきた。
なんだよ……まだ全然全力じゃなかったのか。
そんなやり切れない想いを胸に、俺はその場で気を失ったのである。
◇
目が覚めた。
天井は真っ白で背中はもふもふ。
暖かい掛け布団に包まれて、もう心は夢見心地だ。
あれ、俺は何してたんだっけ。
「……ここは?」
「おっ、目覚めたか」
目覚め1発目で聞こえた男性の声。
「健斗さん? ここは?」
初めはこんなおじさんの声じゃなく、可愛い関西弁が聞きたかったと思ったのはここだけの話にしよう。
「ここは医務室だ。ちなみに瑞稀らは全員もう目が覚めて先に帰ってるぞ」
あ、そうだ。
たしか俺は健斗さんと手合わせ途中に気を失ったんだった。
そうか、俺も一瞬で倒されたんだったな。
戦い自体、正直全く目で追えていなかった。
あの数回放たれた攻撃を避けたのも、俺じゃなくスキルの力。
自分だけの力ならそもそも勝負にすらなっていない。
よくこんな実力で上級冒険者研修に参加できたな、と今改めて思う。
悠真さんは『才ある者が集う場所』と言っていたが、そう考えると俺は明らかに場違いだ。
やっぱりこの研修、辞退しようかな。
「あの、健斗さん」
俺は体をひょこっと起こし、健斗さんに向き直る。
しっかり自分の気持ちを伝えるんだ。
「俺、やっぱり……」
「マジックブレイカー、か」
「え?」
「お前の上位職だよ」
「えっと、まぁ」
今更隠したって仕方ない。
俺は迷うことなく肯定した。
「……まぁ安心しろ。俺、口は硬い方だからな。それに、実は渉から聞いてたんだ、上位職のこと」
「え、久後さんからっ!?」
「あぁ。今の力を隠すには海成くん、君自身の強さが必要だから鍛えてやってくれとな」
「そう、だったんですね」
なるほど。
実は裏で久後さんが動いてくれてたのか。
なんだかんだ、あの人は部下を大切に思ってくれてるんだな。
「それにしても君、あんなものっすごいレアなパッシブスキルをよくあそこまで使いこなせてるな! スゲェよ!」
「いや、全然! 俺はただスキルの力で避けただけで、実際は健斗さんの攻撃何も見えてなかったですし」
「あれ【自動反撃】だろ? あのスキル、避ける意思と自分に迫る攻撃を認知していないと反応しないんだ」
「え? でも俺、攻撃の認知なんて全くしてなかったですが?」
そうだ、今回は完全にスキルの1人走り。
俺は思うがまま操作されていたに過ぎなかったのだ。
「そう思ってても反応したってことは、無意識に体が認知していたってことだよ。冒険者になって日が浅い奴が、いきなり俺の全力に3発反応したんだ。海成くん、君は戦闘センスの塊だなっ!」
それから健斗さんは、俺に根掘り葉掘り質問を投げてきた。
とはいっても世間話に近いものだ。
「今までスポーツ経験は?」
「家族は?」
「趣味は?」
「好きな食べ物は?」
大した質問はなかったけど、俺が「バドミントンをしてた」と答えた時には「なるほど、だから反応速度が速いのか」と何か納得してた。
たしかにバドミントンの球速は平均で300㎞を超えると言われている。
常日頃あの羽を目で追って無意識でそれを拾っていたのだから、反応速度が速いかと聞かれれば速いと思う。
もしかしてたまたまその培った眼の力と自動反撃が噛み合ったってのか?
「……ふっ」
そう考えると自然に笑みが溢れてきた。
なんというか、今までやってきたことは無駄じゃなかったんだって実感できたから。
「海成くん、どうした? また俺と戦いたくなったか?」
「あ、いやそんなことないです!」
健斗さんは俺の頬の緩みを見て再戦を促してきたので、丁重にお断りをした。
「なんだよ」
一瞬だけつまんなさそうな反応をしたのち、彼は明日からの予定を話し始める。
「ま、とりあえず明日からのメニューは決まったな」
「俺は、何を?」
「海成くん……いや海成、君は基礎トレーニング、それと武の基礎を学ぶところからだ。俺と瑞稀が徹底して教えるから」
なるほど。
ちゃんとした戦い方を俺は知らない。
土台のないままスキルに無理矢理能力を底上げされた、ただのヘボヘボ冒険者にぴったりのメニューだ。
「ありがとうございます」
「基礎さえできれば、君の持つスキルの強さは何倍、いや何十倍も強力な武器となる。海成、今回の研修ではおそらく君が1番化けることになるぞ」
そう言って健斗さんは、至極満足げに口角を上げるのだった。




