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体感してみろ


 上級冒険者研修が本格的に始まった。

 とりあえず武闘家は、指導者である久後健斗さんが俺達1人1人の実力をみると言って、順に手合わせしていっている。


「うわぁ――っ!」


 ちょうど1人目が戻ってきたとろこだ。

 戻ってきたというよりか、横1列に立ち並ぶ俺達の元へ吹っ飛ばされてきただけな気がするが。


「ほらぁ、早く次ィ!」


「は、はいっ!」


 1人目の彼が健斗さんの元へ向かってはや1分。

 もうすでに2人目が立ち向かおうとしている。

 順番的に瑞稀が5番目、俺が6番目、最後だからと気を抜いていたが、このペースじゃすぐ回ってきそうだ。


「やっぱり健斗さんは半端ない強さやなぁ、海くんっ!」


 3番目、4番目の彼らが次は自分の番だと震え上がっている中、瑞稀を声を弾ませている。

 やっぱりこの人、戦い好きすぎるよなぁ。

 武闘家みんながこんな感じかと思ってたけど、彼らが正常な反応だ。


 俺だって正直今は怖いが、いざ戦う時になればきっと大丈夫。

 いつものパッシブがあるってのはもちろんのこと、今はそれだけじゃなくこれまでの戦闘経験によって積み上げられた自信みたいなものが俺の中に芽生え始めている気がするのだ。


「瑞稀、健斗さんってぶっちゃけどんくらい強いの?」


「ほぉ、ウチにそれを語らせると長いで?」


 瑞稀はニタリ顔を俺に寄せてくる。


「え、うん」


 よく分からないが、とりあえず返事しておく。


「えっとまぁなんや、このままやと一瞬で自分らの番が回ってくるやろから、できるだけ手短に伝えるわ。まずあの人はA級以上の階級に上がったことがない武闘家の中で唯一S級に到達した男。そう言ったらどれだけヤバいか分かるやろ?」


 たしかにヤバい。

 そう思ったが、俺の場合この『ヤバい』には2つの意味合いがある。

 1つはそのままの意味、健斗さんが強すぎる件について。

 そしてもう1つは少し角度が異なるが、武闘家の戦力に関してだ。


「ヤバいな。……だけど、なんで武闘家にはA級がいないんだ?」


 問題はここだ。

 さっきの剣士の一件で、武闘家があまり良い立場ではないことは分かった。

 なら瑞稀のいう武闘家にA級以上がいないのも、何か理由があるんじゃないのか?


「まぁせやな、今日のオリエンテーションでゆーてたやろ? B級ダンジョン以上に挑む時はチーム行動でって。あれ、中々ウチら呼ばれへんねん」


「……なんで?」


「そりゃみんな剣士の方がええんちゃう? ダンジョン攻略の時、チームの要は専用要員。いくらサポートが優秀でもモンスターを倒せへんかったらいつまで経っても攻略できひんやろ? だからアタッカーの冒険者は基本A級の剣士を連れていくのが暗黙の決まりになっとるっちゅーわけや」


「やっぱりそういうことかよ」


 思ったとおりだ。

 しかし攻略に行くのは命懸け。

 できる限り生存率を上げたいのだから、安全のためにより強い剣士を選ぶのは至極当たり前のことか。


「……にしてもあの蔑まれ様はひどいな」


「まぁなんか昔色々あったらしいで。武闘家と冒険者の間に」


「色々って?」


 俺の問いと同時に4人目の武闘家が俺達の列まで吹っ飛んできた。

 よく見れば、全員元いた場所に戻ってきている。

 これは健斗さんの持つ力のコントロールが優れている証拠だろう。


「次は瑞稀、お前だぞ!」


「よっしゃ、腕が鳴るっ! ほな海くん、行ってくるわ!」


 瑞稀は健斗さんの元へ行こうとするも、途中で一旦立ち止まり俺に振り返る。


「……あ、あとその色々、ウチには分からん。また海くんが分かったら、こっそり教えてな」


 そう言い残して、彼女は足取りを進めていった。


「俺に分かる日なんてくるのかね」


 ため息と同時にそう言葉を漏らしたところで、2人の手合わせが始まった。


「ほないくで、健斗さん! 【フィジカルブーストLv5】」


 鈴木との戦闘で発動したスキル。

 あれはきっと身体能力を底上げするものだろう。


 漲った力で、さっそく健斗さんに拳を放つ瑞稀。


「Lv5かぁ。腕上げたなぁ」


 なんて言いながら、健斗さんは軽く手で捌いていく。

 それから瑞稀は何度も攻撃を仕掛けるが、全て彼の手によって弾かれた。


「はぁ……はぁ……Lv5までスキル上げたのに、あの人まだ素手かいな」


「瑞稀、ほら他のスキルは?」


 健斗さんはまだ何かを引き出そうと、伸ばした手先をクイッと2度曲げる。


「その余裕、このスキルでなくしたるわ。スキル【樹海の手】」


 肩から指先まで根太な樹木が絡みつき、大きな樹海の手を生み出した。

 腕のリーチなんて、通常の2倍くらいはありそうだ。


「……完成させたか、その技を」


 彼女の手をみた健斗さん。

 さっきまでの表情と少し変わった。

 なんというか、今の彼はより楽しそうだ。


「受けれるもんなら、受けてみぃ!」


 瑞稀は右の樹海の手を上から下へ叩き殴るよう攻めた。

 あんな重そうな手なのに攻撃速度はまるで変わらない。


「さすがに、ヤバいかっ!」


 ここで健斗さんは初めて攻撃を避ける。

 それから一旦距離を空けるため後ろへ跳んだ。


「逃さへんで」


 瑞稀が残った左手を前にかざすと、そこから鞭のようにしなる数本の(つる)を伸ばし出した。

 狙うは宙を未だ跳んでいる健斗さん。


 彼は目前に迫る蔓を手で払おうとするが、しなりが強くてどうも攻撃が伝わっていないようだ。


 そして複数の蔓はようやく健斗さんを捕らえた。

 四肢に1本ずつ、彼は完全に逃げ場を失ってしまう。


「……くっ!」


 何度も手を動かし蔓をちぎろうと試みているも、全くびくともしていない。


「せめて1発は喰らってみぃ! いけぇっ!」


 瑞稀は右の樹海の手を使って、最速の右ストレートを打ち込んだ。

 速度から見て、今日一の全力だろう。


 左手から出した複数の蔓で相手を拘束、そして右手で一気に仕留めるか。

 これ以上ない完璧な戦術だ。

 さすがのS級冒険者、久後健斗もこの攻撃を受けてしまっては、無傷じゃ済まないだろう。

 ここまで彼を追い込むなんて、やっぱり瑞稀は強いんだな。


「仕方ない。【フィジカルブーストLv9】」


「……っ!?」


 健斗さんの体が輝き出した。

 瑞稀と同じ黄色がかったオレンジ色。

 ただ彼の場合はさらに濃く、例えるなら本物の太陽を見たような刺激が視覚から伝わってくるほど。


 バチバチバチッ――


 瑞稀の拳は見事直撃。

 しかし何かが弾けるような音。

 と同時に瑞稀の手は先から粉々に砕け散っていっている。


「なんだ、何が起こってる!?」


 俺の目から見てもわけが分からない。

 見たものをそのまま言うのであれば、健斗さんの体に触れたものが勝手に壊れていっているという感じ。

 実際、さっきまで彼に巻きついていた蔓もいつの間に無くなってるし。


「これが、Lv5と9の差だ。体感してみろ」


 健斗さんは輝く腕を目一杯振りかぶる。


「うわぁっ! 待って待って!」


 瑞稀は攻撃直前だったため、健斗さんへ向かう勢いが止められずにいた。

 すでに樹海の手も破壊され、彼女守るのは己の体と【フィジカルブースト】のみ。


「はぁぁぁっ!!!」


「い、いやぁぁぁぁっ!!!!」

 

 もちろん健斗さんはその後も一切手を抜くことなく、全力で瑞稀へ拳を振り抜いたのだった。

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