《???から贈り物が届きました》
鈴木は、俺に向けて大剣を振り下ろしてくる。
俺は申し訳ないと思いながらも安全を配慮して瑞稀を後ろに突き飛ばし、それから縦に走る剣筋を半身になって避けた。
しかし当然攻撃は終わらない。
そのまま続けざまに正面蹴りからの剣撃。
その敏捷な剣速からは、まるで小刀でも振っているのかと思わせるほど。
「避ける以外何にもできねぇのか?」
立て続けの攻撃に、俺は避けることしかできていない。
実際ヤツの言う通りなので言い返す言葉もない状況だ。
今の俺には鈴木を敵と認識することで【不屈の闘志】が発動している。
それに加え【自動反撃】により問題なく攻撃に対しては反応できているのだが、肝心の反撃までは至っていない。
なぜなのか、なんとなく分かる……というか、いつかこんな時がくるのだろうと思っていた。
そう、このスキルはおそらく発動者の身体能力に依存している。
今用いている数々のパッシブスキルは、あくまで俺の戦いを補助してくれているという形。
つまり身体的に、技術的に不可能なことまではできないのだ。
だから今の状況に合わせて説明すると、俺は鈴木との戦いに全くついていけていないということ。
まぁスキルだけが先走りしちゃってるって感じ。
「お前こそ、1発も当てられてないけど?」
さてこの戦いどうするべきかと思いながら、俺はヤツに挑発の一言を飛ばす。
憤りでちょっと隙ができたらなという淡い期待を込めて放ってみたがどうだろう。
「テ、テメェッ! このやろ……ブッ!」
あ、いけた。
自動反撃さんも相手の挙動を見て反応したのか、一撃の拳をまず顔面に叩き込んだ。
そして追撃、2発目、3発目もボディに打ち込んでいく。
「……E級が鈴木さんに一撃入れた、だと!?」
「攻撃も全部躱してたし、アイツ何者だ?」
「海くん、実はめちゃ強やったんか……」
今やこの場にいる全員が俺と鈴木の戦いを観戦している。
武闘家達の行く手を阻んでいた剣士達すら呆然と眺めているくらいだし。
それなら誰かこの戦い、止めに入ってくれてもいいと思うのだが。
まぁ俺自身【不屈の闘志】のおかげで絶大な勇気と自信を得ることはできているが、決して戦闘狂になったわけではない。
もちろん必要のない戦いはできるだけしたくないのが1番の本心。
「こんのヤロォォッ!」
そんな俺の気持ちとは裏腹に、鈴木は今日1番のブチギレ具合を見せてくる。
「ま、そりゃそうだわな」
格下だと認知している武闘家しかもE級なんかに挑発をされた挙句、数発の拳を堂々と叩き込まれたのだ。
どう見てもプライドの高そうな鈴木が怒らないわけがない。
そんな鈴木は咄嗟に手に持つ剣を投げ捨て、別の剣をインベントリから取り出した。
さっきまでのものを大剣と呼ぶのなら、今握った剣はさながら片手剣といったところか。
「……別に研修中、E級が1人死んだところでかまわねぇよなぁ!?」
誰に問うたのか、辺りを見渡しながら乱暴に片手剣を振るっている。
やはり剣が変わると剣速も変化するようだ。
大剣に比べると当たり前だが剣を振った時の速さが段違い、風切り音まで鋭利に聞こえている。
果たして俺はあれを避けられるだろうか。
「うおおおらァァッ!」
どうやら動きまで段違い。
鈴木はひと蹴りで俺の眼前まで迫り、最高速度の振り下ろしを放ってきた。
もちろんスキルの補助ありきで避けていくが、相手もそんなの想定内と言わんばかりに2撃目、3撃目へと続く。
ヤバい、これ速すぎやしないか――っ!?
なんとか今は避けているが、常にギリギリのライン。
何度か冒険者と対峙してきたが、初めて感じる死の予感。
相手が本気で殺しに来てるのはいつも同じ。
しかし今回は地力が違いすぎた。
今までB級冒険者は何度も見てきたが、同じ階級でもここまで違うのか。
と、とりあえず避けなければっ!
一度でも刃に当たれば、殺られるぞ。
剣にさえ、当たらなければいいっ!
俺は必死に避け続けた。
相手の腕に集中。
振り切った肩のラインから次の剣筋を予想し、相手の初動に合わせて避ける。
そんな咄嗟ながらにも活用できた自身の洞察力とパッシブスキルの補助により、俺はなんとか鈴木の攻撃に対応できていた。
よし、少しずつ慣れてきたな。
「……っ!?」
その時、突如脇腹に強烈な痛みが走る。
重く鈍い感覚、それは内臓にも届いたんじゃないかと思わせるほどの強い衝撃。
そして気づけば、俺は体が吹き飛ばされていた。
「はっ、剣に気ぃ取られすぎだっての!」
鈴木の片脚を上げ、繰り返し行う蹴り込む動作。
それにさっきのセリフと脇腹の鈍痛から導き出される答え。
俺はヤツに足蹴りを喰らわされたのだ。
「……くそ、脚まで見る余裕なかったな」
俺は痛む脇腹を押さえつつ、その場からなんとか立ち上がる。
「ほぉ、さすが武闘家だ。頑丈さだけは立派らしい。ここからは俺のいい砥石になってくれや」
そう言って剣を振りながら俺に歩みを寄せる鈴木。
どうやら戦いは続行らしい。
しかしこの痛み、肋骨にヒビでも入ってそうだ。
これではさっきのようにアイツの攻撃を避けるのは難しいだろうな。
さてどうするか。
「おい、鈴木。海くんはもう戦えへんっ! 今回は武闘家の負け、それでええやろ?」
すると、瑞稀が俺と鈴木の間に入った。
「瑞稀?」
「海くん、ウチを庇ってくれてありがとう。もうこんなしょーもない意地の張り合いは終いや。ウチらは別に剣士より格下でええ。残りの研修、みんなで楽しも」
彼女は笑顔でそう言った。
「今回は、だぁ!? 勘違いするなよ、武闘家。お前らは常に剣士より格下。普通こうやって競うこと自体が間違ってるんだ。それをよく頭に刻み込んでこれからの冒険者人生を歩め。分かったな?」
「分かった。分かったからもうウチらとは絡まんとってくれ。……海くん、歩けるか?」
瑞稀は鈴木の主張を聞き流すような返事をした後、すぐ俺の身を案じてくれた。
「……え、あぁ」
どことなく素っ気ない返しになってしまったが、実のところ俺はそれどころじゃなかった。
鈴木と瑞稀の会話中、突然目の前のステータス画面に初めて目にする文字が現れたのである。
《???から贈り物が届きました》
《今すぐ開きますか?》
これは……開いていいものなのかどうか、一生懸命考えていた。
そしてものは試しということで開いてみたところで、ちょうど瑞稀から声がかかったのだ。
そりゃあんな素っ気ない返事にもなるというもの。
「ほな海くん、いこか」
俺に手を伸ばす瑞稀。
まるで後光が差すような明るい笑顔で。
いや本当に後ろに何か光って……。
「……って危ないっ!」
「えっ!?」
瑞稀が気づいた時には、もうすでにそれが目の前まで迫っていた。
「くたばれっ!」
証明が剣身に反射した光。
そう、鈴木が剣を振り下ろさんとする瞬間だったのだ。




