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E級のアンタじゃB級には勝てん!


 

「スキル【樹海の手】」

 

 すると彼女の右手は肩から指先にかけて、エネルギーにより創り出されたいくつもの大きな木の根が複雑に絡み合い、1本の大きな腕となる。


「……女、スキルに逃げんのか?」


 瑞稀の樹海の手を見て、鈴木は少し言い淀む。

 たしかにあの手、大まかに見積もっても、人の胴体部分を丸ごと叩けそうなくらいの大きさをしているし、相手が戸惑うのも無理はない。


「はっ、職業とスキル込みで冒険者やろ? 鈴木さんこそ、この戦いプロレスかなんかや思てはるんちゃいます?」


「テメェ……ッ! いい度胸だなっ! インベントリッ!」


 あからさまな挑発に乗せられた鈴木が空間から取り出したのは、瑞稀の身長とそう変わらないほど大きな大剣。

 真紅の剣柄を片手で強く握りしめ、剣をブンブンッと振り回す。


「スキル【マーダ・シャドウ】」


 鈴木の剣出現からすぐ瑞稀は樹海の手を前にかざし、何やら別のスキルを唱えた。


「なんの、スキルだ?」


 どうやら鈴木もそのスキルを知らないらしく、あちこちを見渡している。

 そして何かを察し右へ視線をやると、そこには鈴木へ迫る瑞稀の姿があった。


「な……っ!? 分身か!?」


 分身。

 そう言われると樹海の手を宿した瑞稀は同じ場所から動いてないし、分身側は心なしか色素が少し薄い気もする。


 ある意味不意をついた良いスキルだったが、残念ながら全く効いていない。

 大剣を水平に振ることで、鈴木は分身を見事叩き斬ってみせる。


 瑞稀、一体この後どうするつもりなんだ……ってあれ、彼女の姿が見えない?


 俺が気づいたタイミングと同時期、観客側もそうだが、鈴木もようやく瑞稀が姿を消したことに気がついた。


「くそ、どこ行きやがった!?」


 乱雑に辺りを見渡すも、瑞稀は見当たらない。


「鈴木さんっ! 下です!」


 そう叫ぶのは、剣士側の冒険者。

 ちょっと外部からの干渉はズルいんじゃないのとは思ったが、どうやらそんな仲間の助けなど全く意味を為さなかったようだ。


「武闘家なめとるからや」


 そう言い放った瑞稀は、鈴木の死角斜め後ろから潜り込むように接近し、下から振り上げる拳をヤツの横腹に命中させた。


「……っ!?」


 横腹に彼女の拳がめり込み、鈴木は声にならない唸り声をあげ、後ずさる。


「勝負、ありや」


 瑞稀は相手の足元を人差し指で差した。


 そう、『一本勝負』のルール上、これでこっちの勝ちは決まり。

 彼女の指はそれを表すためのものだった。


「……何が、起こった?」


「自分、全くついてこられへんかったもんな」


 と納得のいかない鈴木に嫌味口を叩きながらも、瑞稀は今起こったことの説明を始めた。


 つまりはこういうことらしい。


 【樹海の手】という当たれば大ダメージを連想させるようなスキルを発動することで、相手から剣を引き出させた。


 それから次点で【マーダ・シャドウ】。

 これは自身が持つ怒りや殺意を幻影として生み出すスキル。

 コイツはあくまで影、物理的なダメージは与えられない。


 しかし初見相手には相手の気を逸らすことのできる有効な一打となる。

 そのおかげで彼女は死角からヤツを襲撃に成功したというわけだ。


「……なら、なぜ俺に剣を持たせる必要があった? 剣がなくとも、同じ芸当はできただろ?」


 鈴木の言い分には一理ある。

 今の流れでいうと、剣士に剣を持たせる理由が1つもない。


「鈴木、お前ほんまに剣士なんか? そんなん拳より剣の方が攻撃速度遅いからに決まっとるやろ。ま、リーチが長い分、別の強みはあるんやろうけどな」


 瑞稀の言う通り。

 別にどちらが強い、弱いなどではない。

 得手不得手があるというだけで、今回は自分のフィールドに持ち込んだ瑞稀の勝ち。

 それだけなのだ。


「ほら、負け犬はこっからはよ下がれ。大将は誰や? はよ出てこいっ!」


 瑞稀の挑発とも取れる言い回しで、次の相手を誘い込む。

 そうだ、あまりに迫力のある試合だったから忘れてたけど、後1人相手がいるんだった。


 そして一方の剣士側のメンバーは、お前が出ろよ、いやお前が……と完全なる大将戦の譲り合いが始まっていた。

 あの様子、どうやら鈴木が負けた時点で勝負は決まっていたという感じ。

 こりゃ、もう武闘家の勝ちで決まりっぽいな。


「……まだだっ!」


「え?」


 小さく呟く鈴木に瑞稀は聞き返す。

 

「まだ負けてねんだよっ! うおおぉぉああっ!」


 試合中以上の気迫をみせた鈴木は、瑞稀へと剣を振るった。


「……うあっ!」

 

「死ねっ!」


 瑞稀は不意の攻撃に対応できず、その場にへたり込む

 そして彼女の首を掴み、床に押し付けた。


「瑞稀さんっ!」

「早川さんっ!」


 武闘家側は心配の声をあげ、剣士側はリーダーの行動にどうしたものかとアタフタしている。


「負けを認めろ、武闘家は剣士よりも格下だとっ!」


 鈴木はそう言って瑞稀の首を絞め上げていく。

 その様子、どうしても剣士が上だと認めさせたいらしい。


 そんな気持ちが他の剣士にも伝わったのか瑞稀を助けんとする武闘家1人につき1人の剣士が立ちはだかる、という構図が出来上がってしまった。

 これでは瑞稀を助けにいくことができない。


「負け、へん……でっ!」


 徐々に首が締め上げられ、彼女の呼吸も浅くなっていく。

 自体は一刻を争っている状況。


 しかしそんな中、俺は1つの勝ち筋が見えた。

 俺の前に立ちはだかる剣士が友人であることだ。


「……戸波さん、行ってください」


 誰にも聞こえないような小さな声だったが、おそらくそう言っていた。

 陽介も剣士側とはいえ、こんな結末を望んでないということか。


 もちろん俺もだ。


「ありがとう、陽介」


 俺はすれ違いざまにお礼を述べてから現場へ向かった。


「負けを認めねぇなら、そのまま死ねっ!」


「う……っ!」


 俺は自身の出せる最高速度でその場へ向かい、ヤツの絞首を解くための最適な攻撃を繰り出した。

 そう、鈴木の顔へめがけてフルパワーの蹴り上げを。


《パッシブスキル:自動反撃(対象者、早川瑞稀)を発動します》


「うぐっ!」


 見事命中した脚技の勢いのままに、鈴木は後方へひっくり返った。


「大丈夫か、瑞稀?」


「……う、ゴホッゴホッ! 海、くん?」


 始めに助けたに向かったのがE級である俺だったのが意外だったのか、瑞稀は目を丸くする。


 そりゃ驚くのも無理はない。

 俺だって【自動反撃】の対象者を自分以外にも自由に変更できるなど、昨日ステータスをいじっていた時たまたま知ったこと。

 まさか昨日の今日でそれが活きるとは思わなかった。


 やはり【自動反撃】はすごいな。

 瑞稀を対象にしたことで、彼女を守るための最短ルートをスキルが導き出してくれたのだ。


 少し呼吸が落ち着いた彼女は、ようやく俺の手をとり立ち上がる。


「……海くん、ありが、とうな」


 なんとか途切れ途切れにも感謝の意を俺に伝える瑞稀だが、その様子を見るに万全ではないようだ。

 

「てめぇ、E級の武闘家がしゃしゃり出やがって!」


 鈴木は床に置いていた自身の剣を拾い上げ、俺に歩みを寄せてくる。


「あかん、海くんはこっから離れて! E級のアンタじゃB級には勝てん!」


 瑞稀は俺を庇うように前へ出るが、足取りはおぼつかない様子。

 そんな彼女を戦わせるわけにはいかない。


「大丈夫、みてな」


 そう言って俺は庇うようにさらに瑞稀の前に出る。

 そして迫る鈴木を迎え撃つのだった。

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