はっ、おもろくなってきたやんけ
「いいじゃねぇか! 受けて立ちましょうよ、瑞稀さん!」
「そうだ、ここまで言われて黙っておけねぇ!」
「武闘家が強いってことを奴らに教えてやりましょう!」
剣士の男が提案した『一本勝負』に、まず他の武闘家が盛り上がる。
そしてそんな仲間の様子を見た後、瑞稀がソイツに言葉を返した。
「ええやろ、先鋒はウチがいく! それで全員しまいや!」
どうも勝手に話が進んでいっている。
とりあえず戦うことは決まったらしいけど。
「ガハハッ、ならこっちも俺がいく!」
1番偉そうなリーダー。
瑞稀も武闘家内では中心の人物らしいし、先鋒からいきなり大将戦みたいになってきた。
「あの鈴木さん、ここは俺に行かせてくれませんか? 俺にはあの女と因縁があります」
と思っていると剣士側、他の男が先陣を切りたいと名乗り出る。
たしかアイツは、オリエンテーションの時の男。
因縁って喧嘩売ってきたのはそっちだけどな。
「……あぁ、さっきの言い合いの件か。いいだろう。ならば俺が中堅だ」
どうやら向こうの話はまとまったらしい。
それにしてもあのリーダー格男、鈴木ってめちゃくちゃ普通の名前じゃん。
見た目だけは『馬浪』とか『鬼塚』みたいな顔してるのに。
それからすぐ瑞稀と先鋒の男は、演習場の中心で向かいあう形をとる。
そして各職業、武闘家は瑞稀側、剣士は男側、少し離れたところで観戦、という形だ。
一応簡単なルール説明があった。
しかし説明といっても本当に簡単。
一本勝負の名の通り、一撃先に加えた方の勝ち。
そしてこの一撃の判定、それは胴体か顔に攻撃が当たり、受けた位置から1歩でも動けば負けだ。
つまり四肢を使ったガードや、攻撃を受けたとしてもその場で踏み留まることができたらセーフということ。
「おい女、あの時はよくもあんな場で突っかかってくれたよな!」
「……あれはお前がウチらを見下したからやろ。ほらごちゃごちゃ言っとる暇があったら、さっさとかかってこいや」
一本勝負前に啖呵を切る男に対して、瑞稀は挑発を……ってあれはそういうあれじゃないな。
彼女はあくまで冷静な様子、本心から早く終わらせたいと思っているような冷たい目をしている。
「……はは、分かった。腕の一本くらいは覚悟しとけよ! インベントリッ!」
男は空間に手を伸ばし、本物らしい太刀を引き出した。
「ふん、武器使わな何もできひんねんな。【フィジカルブースト Lv5】」
彼女がそう唱えた直後、視認できる光が体から溢れる。
それは太陽のような暖かい黄色がかったオレンジ。
当然だが、初めて聞くスキル。
「降参するなら今のうちだぜ。【瞬光】」
男は太刀を構え、足を踏みこむ。
「武闘家じゃあの速度は見えねぇな」
「あれはB級モンスターでさえ、気づく間なく真っ二つ。きっとあの女も痛い目みるだろうよ」
剣士達が笑い合う中、先鋒の男は演習場の床を強く蹴り込む。
すると、男は一瞬にして瑞稀の前へ。
彼女へ向かって、全力で手に持つ太刀を振り切った。
危ない――っ!
そう思う間もないほど速い攻撃。
「……あ?」
太刀を振り終えた男は素っ頓狂な声を出した。
おそらく想定と違ったのだろう。
男の目論見としては、今の一撃で試合終了。
それどころか四肢の一つでも持っていってやろうとまで考えていたはず。
しかし予想は大きく外れた。
「どこ見とんねん」
静かな一言。
その声は男のちょうど真横から放たれる。
どうやら瑞稀はさっきの一振りを容易に躱わし、今の位置へと一瞬で移動したらしい。
「なんだと……うっ!?」
彼女の間髪入れず繰り出された裏拳に、男は為す術なく吹き飛ばされた。
今の技、相手の頬へもろに直撃、さすがに意識があるわけなく、完全に伸されている。
すごい。
今の相手を一撃か。
「さすが瑞稀さんっ!」
「早川さんには勝てねーってことだな!」
2人の動き、正直俺の目じゃ全く追えなかったな。
果たして仮にあの男と対峙した時、今の攻撃を避けられただろうか?
まぁ【自動反撃】があるからどうなるか分からないが、少し勝てるかどうか怪しい。
実際のところ俺はまだこのレベルではないんだろうな。
「ほら、さっさと次出てこんかいっ!」
瑞稀は、剣士側に勢いよくそう叫ぶ。
そうだ、これは3人勝ち抜き戦。
残る2人の剣士を倒さなきゃいけない。
「……ま、しゃあねぇ。俺がいくか」
2人目の相手に名乗り出たのは、向こうのリーダー的存在。
たしか鈴木って名前だったな。
2人が演習場中心で向かい合う。
いざ並ぶとかなりの身長差。
ぱっと見、瑞稀は160センチ、鈴木は190センチくらいか。
鈴木はそれに加えて体格もいい。
この体格差、瑞稀はどう埋めるつもりだろう?
「おい、女。次はお前からこい。全攻撃守ってやるよ」
鈴木は自身の拳同士をぶつけ合い、余裕の笑みを浮かべている。
「ふん、一撃喰らってから後悔しとけ」
やる気満々の鈴木に対して、冷たく落ち着いた声色の瑞稀。
その堂々たる立ち姿は戦士そのものだ。
そんな彼女を見て俺は憧れに近い感情を抱いた。
こんな武闘家になりたいな、と。
それから瑞稀はすぐ攻撃に移った。
さっき発動していた【フィジカルブースト】は健在。
今もエネルギーをまとったまま、果敢に攻めていく。
1発目、2発目、3発目。
拳から脚からと見てるこちら側でも、次の手が予想ができないほど洗練された動き。
しかし男は自身の手や足を使って瑞稀の攻撃を受け止めてみせる。
数発の打撃を打ち終えた後、マズイ流れだと思ったのか、瑞稀は一旦後ろへステップし大きく鈴木から退いた。
「ガハハッ、この程度なら剣を使う必要もないな」
軽快な口調でそう言う鈴木。
後ろで剣士達も同じように高笑いしている。
剣なしでこの力か。
やはりあの鈴木、剣士職を率いるべき確かな実力がしっかりと備わっているらしい。
「はっ、おもろなってきたやんけ。絶対剣使わせたるっ!」
一見不利にも思えるこの戦況、瑞稀は頬を緩めている。
あんな華奢な女の子に向けるのは失礼な言葉かもしれないが、その姿はまさに戦闘狂そのものだ。
それからすぐ、2人の攻防は再開された。
次は鈴木も本気で攻めに来ている。
攻め側の攻撃を守り側は四肢で防ぐ。
隙を見て攻防が入れ替わると、お互いがすぐに戦況に順応し、対応する。
観客側がようやく目で追えるような戦いを、この2人はいとも簡単に実践しているのだ。
そしてお互い動きを止め、一度距離をとる。
「素手の戦いを得意とする武闘家が、剣士の素手と互角とはなぁ」
あいも変わらず鈴木は余裕の笑み。
瑞稀の呼吸も乱れてきたし、このままじゃジリ貧になる。
「しゃあないか」
そんな瑞稀はボソッと呟いたのち、ある1つのスキルを唱えたのだった。




