一本勝負と行こうじゃねぇか!
ふぅ。
とりあえず大きな揉め事にならず済んだな。
今から1週間も顔を合わせる仲、気まずいのは嫌だし。
悠真さんの話が終わって、皆ゾロゾロとこの場から退室していく。
少し休憩を挟んでから、各自演習場へ移動するためだ。
たしか俺達近接戦闘組は地下1階にある演習場だったな。
移動時間含めて30分ほど時間もあるし、ゆっくりと行くか。
「ちょい君っ!」
席から立ちあがろうとした瞬間、隣から声をかけられた。
「お、俺!?」
「せや、君しかおらんやろ。戸波海成くん」
彼女は俺のことを当たり前のように指を差す。
「えっと、早川さんだっけ? 何か俺に用?」
そう問うと、彼女はダハーッっと大きく息を吐いて肩を落とした。
「そんなん同じ武闘家仲間なんやからちょっと話しよう思っただけやん。何か用? って冷たっ! これやから関東の人は冷たいゆわれんねんで」
いや、知らんけど。
そんなガッカリされてもこちとら関東と関西の違いなんぞ分からんぞ。
「ま、まぁそれもそうだな。せっかく今から一緒に訓練するわけだし」
とはいえ彼女の言うことも一理ある。
ここは俺も早川さんの提案に乗ることにした。
「へぇ、ちゃんとノリええとこもあるやん。海くんっ!」
彼女は呼称と同時に物理的な距離も縮めてきた。
そして繰り出す肘ツンツンは割と性的かつ暴力的だ。
「海くんって、急に距離が……」
「そんなん気にしたあかんって。海くんもウチのこと名前呼びでええんやで。ほら、言ってみ?」
「言ってみ、たって君の名前知らないんだが」
そう言うと、彼女は少し考える素振りをみせる。
「あーそっかぁ。E級なんやったら【鑑定】のレベルもまだあげられへんやろしなぁ」
【鑑定】のレベル。
そういえばレベル4以上に上げないと、冒険者のステータスが見れないって教わった気がする。
こりゃ俺が使えないのは当たり前だ。
「よし、なら自己紹介からや! ウチは早川瑞稀。海くんと……せやな、同い歳。ウチも28歳や。よろしく!」
「お、おん。よろしく早川さん」
早川さんが手を伸ばしてきたので、俺はその手を握る。
にしても【鑑定】スキルよ、今更だけど年齢とかも分かっちゃうんだな。
冒険者達のプライバシーは何処に?
「……海くん? ウチだけ名前呼びなんやけど?」
彼女の握る手に力が入る。
「い、痛……ッ!」
「なぁ、ウチも名前で呼んでやぁ」
いや、なんでこんな握力強いのっ!?
痛い痛い痛い痛い痛いっ!
力をめいっぱい入れてるだろうに、なんだその爽やかな笑顔は。
そんな屈託のない表情がむしろ怖いまである。
「わ、分かったよ瑞稀っ!」
すると、スッと手が解放された。
「こっちこそ、よろしく海くんっ!」
よかった、呼称を変えたことでようやく血流が手を巡り始めている。
あのままだと虚血状態になって、切断すら選択肢にあったかもしれない。
「ほな、まぁ時間も時間やし、演習場行こか」
なんだかんだ話していると、次の集合時間までずいぶん迫っていた。
やっぱり30分って短いな。
「そうだな」
◇
俺達は地下へ向かった。
少し瑞稀と話していたおかげか他の冒険者と少し時間がズレて、エレベーターも比較的スムーズに乗ることができた。
エレベーターから出て目の前に広がるのは、だだっ広い空間。
なんとなく高校や大学の体育館を思い出す構造。
まさか降りてすぐ演習場だとは思わなかったな。
「へぇめっちゃ広いや〜ん! こんなところで戦えるなんて幸せ〜っ!」
瑞稀は演習場を見渡すや否や頬を緩ませている。
まるでデザートを食べる女子。
しかし彼女が口にしたセリフはただの戦闘狂だ。
「やっぱり我慢ならねぇな! お前ら武闘家と同じ空間にいるなんてよ!」
「それはこっちのセリフだ! 武器がねぇと何にもできねぇ臆病野郎共がっ!」
「……っ!? んだとゴルァ!」
「あぁ? やんのかっ!?」
演習場の中心で男2人が取っ組み合い、その男達の後方ではそれぞれ数人の外野が野次を飛ばしているという対立状態がすでに出来上がっていた。
ここへ降りて来た時からなんか不穏な感じしてたけど、やっぱり揉めてるじゃん。
それに聞くところ、さっきオリエンテーションで瑞稀がブチ切れていた問題と同じようだ。
「剣士と武闘家めちゃくちゃ仲悪いじゃん」
「まぁなー。これも各職業上官の教育方針が悪い気もすんねんけど」
瑞稀はため息混じりに俺の一人言を拾う。
それから彼女は、今にも紛争地帯となりそうな現場へ躊躇うことなく歩みを進め、声を上げた。
「お前ら何揉めとんねんっ! どっちが喧嘩吹っかけたんや?」
「み、瑞稀さんっ! 違うんです。アイツらがさっきのオリエンテーションの件で」
武闘家側か、片方の男は明らかに彼女を慕っているような口ぶり。
「そもそもお前ら武闘家が本社にやってくること自体おこがましいんじゃねぇのか?」
しかし一方は、さっきから武闘家を蔑むような発言ばかりしている。
よくこんな職業同士を『近接戦闘組』とかいって分けたな。
「なんや自分、偉そうにごちゃごちゃものゆーて。剣士がどんだけ武闘家より強いねんっ!」
瑞稀は剣士組で1番先頭切って突っかかってくるリーダーっぽい男に、負けじと言い返す。
よく見ればさっきオリエンテーションの時、瑞稀と掴み合いになった男も外野から野次を飛ばしていた。
そしてさらにその後ろには少し控えめな様子で押し黙り、どっちにつけば良いかと迷っているような人がもいる。
っていうか知ってる人だ。
陽介。
そういえばダンジョンで戦った時も剣で戦っていたっけ。
でもここで声をかけると、彼の立場がどうなるか分からない。
黙ってる方がいいだろうな。
「ふん、ならここは剣士と武闘家で一本勝負と行こうじゃねぇか!」
「あ? なんや一本勝負って?」
「1対1の模擬戦。先に一撃入れた方の勝ち。人数はそうだな、3人。先鋒、中堅、大将の勝ち抜き戦ってのはどうだ?」
剣士の男はニヤリと笑み、勝負の提案をしてきた。




