なにゆーてんねん
午前9時。
オリエンテーションが始まった。
悠真さんは大きなホワイトボードに概要を記載していく。
この『上級冒険者研修』の悠真さん主催で、去年から開催されているらしい。
つまり今回が第2回。
こんな大規模なイベントを、B級冒険者である悠真さんがなぜ主催することができるのか。
簡単に説明があった。
彼、煌坂悠真はB級冒険者であるが、その実力はA級冒険者以上らしい。
なのになぜB級で留まっているのか、それは冒険者の階級昇格方法に理由がある。
俺はE級に始まり、現在もE級のため知らなかったが、自身のステータスが昇格可能条件を達成していればボタン1つでなれるのだという。
《〇級に昇格しますか?》
ステータス画面からの提案。
これに返事すればいいだけなのだ。
彼はそれに達しているのにも関わらず、B級という階級で留まっている。
その理由こそ本人の口からは語られなかったが、これからも昇格する気はないとのこと。
そして煌坂悠真の実績が、配られた資料の中に記載されていた。
・B級ダンジョン単独踏破
・A級ダンジョンパーティ踏破
・犯罪者ギルドの壊滅
どれもこれもスゴいことだが特に犯罪者ギルドの件に関しては、冒険者側が圧倒的不利な中、煌坂悠真が参加した途端に形勢は逆転。
そのまま流れるように敵を鎮圧したのだ。
B級ダンジョン、A級ダンジョンにおいてもこの資料に書いてあるが、そもそもB級ダンジョンからは難易度が格段に跳ね上がるようで、チームでの行動が必須となるもの。
基本的な推奨人数は同階級の冒険者が6名以上。
内訳はアタッカー3名、タンク1名、ヒーラーが1名にダンジョン内のマッピングや罠の配置確認と、ダンジョン攻略における案内人のような立ち位置であるサポーターが1名。
このような複数人の冒険者が協力してようやく踏破できるようなB級ダンジョンを、煌坂悠真は1人で攻略してしまったのだ。
これだけの実績ゆえ、同じ冒険者からも羨望の眼差しをあてられ、本社上層部の人間からも特別扱いされている。
おかげでこういった研修会を主催として開いたりできるのだという。
うんうん、こりゃ悠真さんすげぇわ。
やっぱりただのB級冒険者じゃなかったな。
にしても悠真さんの実績含めた自己紹介で、すでに講義時間は1時間を越し始めている。
そんな中俺の隣は未だ不在なわけで。
バタンッ――
すると講義中閉められていた扉が勢いよく開かれた。
「いやぁえらい遅れてもーてすんません。ちょっと体動かしよったら、研修の時間完全に忘れてしもてたんです」
そこには明らかにスポーツ女子と言わんばかりの服装をしている黒髪ショートヘアの女性。
すらっと引き締まった体のラインの割には出るとこ出ているっという目のやり場に困るようなスタイルをしていて、且つスポーツブラと短パンというコーデで露出が多いのが余計気になるな。
そんな彼女は何度も小さく頭を下げながら、異様に目立つ方言でつらつらと謝罪している。
「早川さん、理由は分かったから席に座ってね」
「えっと、ウチの席どこやろか?」
「1番後ろのあそこだよ」
遅れてきたのにも関わらず、堂々とした態度。
他の冒険者はまるで煙たがるような怪訝な様子で彼女を見ている。
そりゃ遅刻しておいてなんだその態度は、と思う大人は一定数いるだろうな。
一方の悠真さんはそんなこと思ってなさそう。
表情は全くいつも通りの爽やかさで、彼女の席を指差しているし。
そしてその席とは……。
「お隣失礼するで。……って君も武闘家やん! 嬉しいわぁ、仲良くしてや」
「お、おう。こちらこそ」
やっぱり俺の隣か。
彼女が入ってきた時からそんな気はしていた。
にしても運動後とはいえ、なんて格好だ。
どこ見りゃいいか分からん。
しかも運動した直後に急いできたからか、まだ乾き切ってない新鮮な汗がツーッと彼女の体を上から下へ滑らせている。
そのクセになんでこの人から甘い匂いがするんだよ……っていやいや、オリエンテーション中なんだし、集中せねばっ!
ってな感じで悠真さんの話は再開。
ここからは割と本題だ。
研修は合計7日間。
1日目から3日目までは職種ごとで訓練。
4日目には全員で模擬戦。
そして5日目から7日目、全36名の研修参加者の中から12名を選出し、3日間かけてA級ダンジョンの攻略を行っていく。
尚、選出方法に関しては、ダンジョン攻略前日に行う模擬戦の結果を参考にするとのこと。
それから3日間の訓練についての内訳だが、主に4種に分けて行う。
まず近接戦闘組。
これは俺達武闘家や陽介のような剣士など、相手に近づいて戦闘を行うタイプ。
次に遠距離戦闘組。
これもそのまま、陽菜のように魔法を放ったり、弓矢を武器にしている人達もいるらしい。
それからタンク組と最後にサポーター組。
このサポーター組が特に重要。
ダンジョンのことを人一倍知り、トラップやモンスターの配置を把握しなければならない。
魔力感知を使うのは当たり前、団体戦闘での戦術も頭に入れたりとこの3日間は勉強に勤しむことになるだろう。
それとヒーラーは回復の基礎から応用まで行っていくそうだ。
「以上、ここまでが7日間に渡る研修の内容だけど、何か質問はあるかな?」
どうやらこれで一通りの話は終わりらしい。
誰も手を挙げないようならこれで……。
「あ、あのっ!」
「どうぞ」
質問したのは同列の若い男性。
俺より3つほど前の席にあたる。
「オレ剣士なんですけど、武闘家なんかと同じ枠組みにされるのは剣士としての名が廃ると言いますか……」
は?
何言ってんだあいつ。
遠慮気味に言葉を選んで話してるようだけど、喧嘩を売ってる以外の何物でもないぞ。
だけど俺は冒険者のことをあまり知らない。
もしかしたらこの界隈では、職種によって上下関係があるのかもしれないし、剣士と武闘家の間には軋轢のようなものがあるのかもしれない。
そういったことを知らない俺が、口を出せる問題ではない気がする。
ここは悠真さんの対応に任せよう。
バンッ――
「なにゆーてんねん、職業だけで強さや立場が決まるわけないやろ! お前ら剣士がウチら武闘家を蔑んでるんはよぉ知ってるけど、そんなつまらんプライド掲げる暇があったら、その間に自分の技でも磨いたらどうや!」
えーっとたしか早川さんだっけ?
隣の彼女は、机を勢いよく叩いてから立ち上がり、剣士の男に対して強く捲し立てていく。
「あ? B級だかなんだか知らないが、所詮武闘家だろ? パーティでも武闘家は足を引っ張ることしかできないってよく聞くし、そんな奴らと並べられたくないのは当たり前じゃないか!」
「おま……っ! ウチらの戦い見たこともないくせに、人づてに聞いた話で判断しとんか! バカも休み休みゆえや!」
負けじと言い返してくる剣士に腹を立てた早川さんはもう一度強く机を叩き、彼の傍に駆け寄って胸ぐらを掴んだ。
「もうええっ! ほな決着つけようや! 剣士と武闘家、どっちが強いのか!」
「え……っ!? あ、あぁ! 望むところだっ!」
早川さんの大胆な行動。
その露出度高めで、掴み返せないような服に男は一瞬たじろぐも、二つ返事で売り言葉を買った。
ま、どちらかというと彼女が向こうの喧嘩を買ったってのが正しいか。
「ちょっと2人とも落ち着こうか。近接戦闘組といっても戦い方はそれぞれ違うんだ。この3日に及ぶ訓練内容も指導教官も双方違うものになってるはずだよ」
ここでようやく悠真さんが言葉の仲裁に入った。
「え、そうなんですか? ならよかったです」
男は拍子の抜けた声を出す。
そして早川さんの手を払いのけ、席に座った。
「なんやお前、さっきまで偉そうにしとったくせに! ウチはまだ納得行ってへんで……」
「早川さん」
今にも男剣士の髪の毛を鷲掴みにせんとするところを、悠真さんの呼びかけで間一髪留まる。
「なんですか?」
「その気合いは4日目の模擬戦に置いておくのはどうだい? 公式的な場で決着つける方が白黒分かっていいと思うけど」
彼女は悠真さんの提案に、大きくため息を吐く。
「……分かった。とりあえずそういうことでええですわ」
そう言って早川さんがズカズカと元の席に戻ったところで、このオリエンテーションは幕を閉じた。




