海成、お前にご指名が入った
D級ダンジョン攻略から1週間。
俺は3日ほど休暇をもらったおかげで、壮絶な戦いにより溜まった疲労をなんとか回復することができた。
まぁその内の1日はダンジョン内の出来事や『テイマー』の彼についての事情聴取で1日取られたので、休みではなかったが。
それから4日は軽い任務からこなしていっているという感じ。
紗夜さんに至っては事情聴取含めた1日の休暇で仕事復帰してるんだから、すごいとしか言いようがない。
どうもB級冒険者とは忙しいらしい。
立て続けに任務があるそうで、休む暇はないのだと。
……無理して体を壊さなければいいのだが。
俺は用意してもらった事務所のデスクに腰をかけ、そんな物思いにふけっていた。
すると噂をするとなんとやら、張本人から声がかかる。
「海成くん、1人?」
「おぉっ!? 紗夜さん! 帰ってたんですか!?」
彼女は俺を見て苦笑い。
そりゃびっくりしすぎて椅子から転げそうになったのだから当たり前か。
くそぅ、完全に1人だと思って気抜いてたぜ。
「今さっきね。久後さんは?」
「あぁ、久後さんはたしか本部に行くとか言ってましたよ」
そう、久後さんが珍しくこの事務所から離れたのだ。
いつも社長用デスクでずっとゲームしている彼だけど、今日は何やら呼び出しがあったらしい。
さすがの久後さんでも本部の命には従うんだな。
「本部……本部……ってあぁもうそんな時期か!」
「紗夜さん、何か心当たりが?」
「あーううん、きっと海成くんにはまだ関わりのない話だと思うから気にしないで? あるとすれば、私の方だから……」
妙に納得した紗夜さん。
心なしか、雰囲気がズンッと暗くなったように感じる。
「えーっと、わかりました。じゃあ気にしないようにします」
正直めっちゃ気になるが、紗夜さんの顔も少し引き攣っているし、あまり言及しない方が良さそうだ。
「それより海成くん! この前のダンジョンの件聞いた?」
「あーそういえば陽介からメッセージ来てましたね!」
ダンジョン攻略したあの日、事件の詳細に進展あれば連絡したいので、と陽介と連絡先を交換したんだった。
そしてちょうど昨日、俺のスマホへ一通のメッセージが届いたところ。
一応あの時揃った4人それぞれ連絡先は交換したので、今日紗夜さんがこの話題を出してきたってことは、俺と同じように連絡が入ったんだろうな。
「やっぱり海成くんにも来てたのね。内容について、君はどう思う?」
彼女の言う内容。
あの『テイマー』の青年改め楠木零は悠真さんによって本部へ連行、現在に渡って事情聴取が行われているとのこと。
どうやらレベルアップコーポレーション内部には、警察のような組織があるらしい。
ま、普通の警察には扱えない案件だろうな。
陽介はそこで得られ、本部内にて共有された情報をメッセージにて教えてくれた。
まずは動機。
現実世界に家族や友達がいない彼は、ダンジョンで出会ったモンスターが友達だった。
外にモンスターは連れ出せないから、内部で一緒に生活していたと証言した様子。
ここに関してたしかに彼と対峙していた時、自分のモンスターが殺られて発狂していたことを考えるとまぁ納得。
次に数人の冒険者殺害に関して。
これは自分の築いた世界が荒らされることを危惧しての出来事。
その冒険者達の亡骸については全てモンスターが喰べてしまったと。
そして冒険者を喰べたと思われるモンスターの突然変異。
そう、あの時のデスウィーバーは異常だった。
通常のヤツとは明らかに違う大きさにフォルム。
あの一緒に見ていた紗夜さんも、あんなヤツは見たことがないようだった。
零本人は、あのデスウィーバーが勝手に人を喰べて強くなったと言っていたが、通常、モンスターが人を喰らうことはないらしい。
本部の見解としては主が指示したんじゃないかとのこと。
しかし当の本人は否定し続けているらしい。
仮に楠木零が嘘をついているのだとすれば、その理由はなんだ?
そんなことをして、彼になんのメリットがあるのだろうか。
……まぁそもそも嘘かどうかも分からないのだし、俺が1人悩んでも、堂々巡りというやつだ。
少し考えを巡らせたところで、俺は声を発する。
「彼の事情聴取の件、仮に嘘をついていることがあるとして、メリットがあるんでしょうか?」
「……そうね」
紗夜さんは顎に手を置く。
そしてしばらくして口を開いた。
「まず嘘の可能性が高い部分……楠木零がモンスターに人を喰べることを指示したか否か、ね。それを踏まえたメリットだけど……例えば自分の背負う罪を軽くするためとか?」
「あぁ、殺人の罪を犯した人が、僕はやってませんって訴えるみたいな?」
「そうそう! 冒険者界隈において、モンスターを使役した犯罪は未だかつてなかった。だから罪状も刑罰も決まってないからそれを恐れたのかも」
「なるほど」
それは一理ある、かも。
彼はまだ若い。
だからこそ自分のやってしまったことに対して今になって怖じ気づき、そういった行動に走ったのかもしれないな。
「もしくは……」
「もしくは?」
俺は言い淀む紗夜さんに問い直す。
「もしくは……嘘をついてでも守るべき相手がいた」
「え、それってつまり協力者が他にいるって……」
ガチャッ――
タイミング悪く、事務所の扉が開いた。
「おうおう、2人とも揃ってんねぇ〜」
久後さんだ。
変なタイミングで帰ってきやがったな、このおじさん。
「えらく早いお帰りで」
「なんだ海成、機嫌悪ぃじゃねーかよ。そんなに紗夜と2人が良かったのか?」
「ち、違います! 違いますよっ!?」
深刻な話だった故、そのままのテンションで話してしまった。
おかげであらぬ誤解が生まれそうだったので、久後さんだけでなく、紗夜さんにも視線を送り、訂正の意を伝える。
「久後さん、本部に行ってたって」
それから話題は一変、紗夜さんが久後さんへ問いを投げた。
「あぁ、今年もやるそうだぞ。あれが」
今年もやるってなんの話だ?
たしか紗夜さんもさっき似たようなことを言っていたような。
「久後さん、あれってなんですか?」
なんか俺だけ蚊帳の外みたいな雰囲気。
紗夜さんの表情がまたもや曇ったところを見るに、あまりいいものではないようだけど。
「海成、お前にも話さなきゃって思ってたところだ」
久後さんはそう言って口角をグッと上げ、話を続ける。
「上級冒険者研修。今年は海成、お前にご指名が入った」




