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冒険者同士仲良くしようよ


 ボス部屋ということは最下層。

 階段を降って到着した先には、鉄でできた立派な門扉がある。

 縦横かなり大きく、巨人用に設計されたんじゃないかと思うほど。


「これ、どうやって入るんだろ?」


「ボス部屋のドアって一応触れたら開く方式になってるはずだけど……」


 ギィィィィィィィィ――


「おっ、本当に開いた」

 

 古臭い開閉音を鳴らし、奥への道が開かれる。


「よかった。いよいよボスね。この奥にいるはず」


 完全に開かれた扉。

 その奥には今までで1番広い空間が現れた。


 そして紗夜さんの見立てなら、この先にボスがいるらしいが……。


「あれ、何もいないですが?」


 確認のために、俺は紗夜さんに視線を送る。

 すると彼女は口が開いたまま、ある一点を見つめていた。

 唖然とした、そんな様子で。


「紗夜さん、どうしました?」


 俺も同じ方に顔を向けると、そこには人がいた。

 金髪のイケメン、黒のチェスターコートを着ている。

 こんな不可解なダンジョンだったのにも関わらず、その服装には全くの乱れや汚れが見当たらない。

 表情だって爽やかでまるで戦いなんて知らないかのようだった。


 そんな彼が俺達に気づき、手を振ってくる。


「おーい、こっちおいでよ〜」


 呼んでるけど、行っていいものなのだろうか。


「紗夜さん、どうしましょ?」


 彼女は俺の呼びかけにようやく反応を見せる。

 

「えっ、あ、そうだね、行こっか。海成くん、一応彼は有名な冒険者だから安心して」


 有名な冒険者、か。

 どっかで見覚えあるんだけど、どこだっけ。

 と、俺は思考を巡らせながら金髪の彼に歩み寄った。


「これはこれは最もA級に近いと言われている冒険者の内の1人、『相羽紗夜』さんじゃないですか。こんなところで会えるなんて光栄だね」


 そう言って彼は紗夜さんに手を伸ばした。


 やっぱり紗夜さんはすごい人なんだな。

『最も』とか言いつつ、『内の1人』とかいう複数人いるような言い方はなんか矛盾してて気になるけど、とにかく彼女のすごさは充分に伝わったのでよしとしよう。


「……いえ、それはあなたも同じじゃないですか。()()さん」


 紗夜さんは差し出された手を控えめに握る。

 

 煌坂さん?

 名字すら聞いたこともあるんだけど何でだぁ??

 思い出せよ、古臭い俺の脳みそめっ!


「それと君も久しぶりだね、戸波海成くん。うんうん、やっぱりあの時の僕の()に狂いはなかったようだ」


 眼?

 俺は以前にも同じような台詞を聞いたことがある。

 それに彼が自身の眼を指差す動作、どこかで見たぞ。


 脳をフル回転させていると、ある景色が思い浮かんだ。


 冒険者、初日。

 レベルアップコーポレーションの1階エントランス。

 多くの人が通る中、唯一俺に声をかけてきた人物。


「そうだ、煌坂悠真!」


「ははっ。いきなり呼び捨てとは嬉しいなぁ」


 驚愕した俺の様子がよほど面白いのか、彼は腹を抱えて笑っている。


「あ、いや、そういうつもりじゃ……すいません」


 やっぱりこの業界、自分より階級による上下関係があるのだろうか。

 瑠璃や陽介、陽菜は年齢で言葉遣いを変えているようだけど、果たしてそれが正しいのかどうか、冒険者としての経験が浅い俺では分かりかねる。


「いいや、君はそのままでいい。僕はこの冒険者界隈で少し有名でね、みんな僕に敬語で話すもんだから少し新鮮だったんだよ」


「そうなん、ですか」


 なぜ有名なのか知らないが、たしかに彼は近寄りがたい何かを持っている。

 なんというか有名な女優俳優と対面した時のような風格がある、そんな感じ。


「だ、か、らっ、タメ口で良いって。同じ冒険者同士仲良くしようよ」


 彼は俺にも手を伸ばしてきた。


 しかしそんなすごい人なら、本当にタメ口で良いのかな。

 チラッと紗夜さんに一瞥くれてみるが、彼女も静かに首を何度も縦に振っている。


 ……仕方ないか。


「分かった。でもせめて呼び方は悠真さんにさせてくれ」


 俺は覚悟を決め、悠真さんと握手を交わした。


「うんうん、これからよろしくね。海成」


 彼は距離の縮め方が絶妙に上手い。

 唐突な呼び捨てにも全く嫌な気がしないし、むしろドキッとしたくらい。

 こりゃ女性ならコロッと落ちてしまいそうだ。


「……ところで煌坂さん、ここ、ボス部屋ですよね? あの、ボスは?」


 一頻り挨拶が済んだと踏んだのか、紗夜さんは彼に疑問を投げかける。


「あぁ、ちょうどさっき倒したんだ。ほら、出口のゲートも現れてるでしょ?」


 悠真さんは後ろを振り向く。


 そこにはさっきまではなかったゲートの存在。

 俺達がここに入った時にはまだなかったので、お互いの挨拶中に現れたということになる。

 つまりボス撃破からゲート出現まで、わずかなラグがあるってわけか。


「……でも煌坂さん、ここに来るまで『テイマー』の青年が立ちはだかっていたと思うんですが、どうやってここまで?」


 彼女がそう疑問に思うのも無理はない。

 ここに来るまで階段は1つ、通り道だってあそこ1本だった。

 そして現在の階層、ここも他に通路は見当たらない。


「『テイマー』の冒険者? 僕がこの最下層に降りたのはつい昨日。その時にはそんな人いなかったけどなぁ」


 嘘をついてる様子はない……気がする。

 ただ昨日降り立って、今の今ボスを倒したってのが謎だけど。


「……海成、なんでこの人は1日中この階にいたんだろう、みたいな顔をしてるね」


「えっ、まぁそうだけど」


 なんだこの人。

 人の心を読むスキルでも持ってんのか?

 そんなのあったら今すぐ欲しいわ。


「君も冒険者として知られたくないことがあるように、僕だって秘密の1つや2つあるってことさ。海成、分かるでしょ?」


 強い眼力。

 あまりの威圧感、首元にナイフを押し付けられているようだ。


 《パッシブスキル:不屈の闘志を発動します》


 パッシブスキルの誤作動。

 

 彼はその場にただ立っているだけのはず。

 しかし俺の本能が敵として認識してしまうほどの威圧感。

 今まで出会ってきた冒険者の中ではあまりに異質だ。

 

 実際に冷や汗で服が背中に張り付いている感覚がする。


「……なんてね。僕はダンジョンとモンスターが大好きだから、少しボスモンスターと戯れていただけだよ」


 そう言って悠真さんは俺の肩に手を置いた。


「ボスと戯れる?」


「はは、当然の反応だね。1日かけてゆっくりモンスターと戦う。これこそが至福。いや、快楽といってもいいっ! なんて本心を語っても気味悪がられるだけだろ? だから言わなかったんだ」


 至福?

 快楽?

 本心だと?


 何を言っている?

 

 しかし彼は変わらず爽やかな表情。

 当たり前のように俺の問いに答えるが、こちとら1ミリも理解できない。


「さっ、雑談はこの辺にして、2人はゲートから出ようか」


 悠真さんは話題を変えてきた。


「えっと、煌坂さんは?」


「僕はもう少しダンジョンで調べることがあるから、後で行くよ。ほらお先にどーぞ!」


 そう柔らかな表情で彼はゲートを手で差している。


 どうするべきかと紗夜さんに視線を送るもちょうどバッチリ目が合ったが、彼女自身も困惑している様子だった。


 さてどうするべきか……いや、そういえば1つすることがあったな。


「あの悠真さん、俺達ダンジョン攻略したことを伝えなきゃいけない人達がいるんです」


 そう、陽介と陽菜だ。

 彼らにはダンジョン攻略が済んだら、直接伝えに行くと言ってある。

 それまで『テイマー』の青年も預かってもらってるわけだし、俺達だけ先に出るわけにいかない。


「……なるほど。仲間と来てるんだね」


 俺の発言に悠真さんはうんうん、と噛み締めるように頷いてくれているので、そのまま青年の身柄を押さえていることも一緒に伝えた。


「そっかそっか。じゃあ一緒に上に行こっか。その『テイマー』の彼も見てみたいしね」


 悠真さんはニッコリそう微笑む。


 ということで俺達と悠真さんは、上の階層まで共に向かうことになったのだ。


 

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