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短編集

4足と2足

作者: 暮 勇
掲載日:2024/02/04

 この季節は、体がむず痒くて堪らない。おまけに、日々暑くなってゆく。お陰でまだ長い毛が残る体の一部が熱を保ち、熱くて不快だ。

 私は背中の痒みと毛が落ちればと思い、地面に背中を擦り付ける。この辺りの地面は硬く、ざらついている。これで長い毛が全て抜けてくれればいいのだが。

 幾度か体を擦り付けた後、体を起こす。スッキリしたとは言えないが、何もしないよりはマシだ。

 乱れた毛を整えながら遠くをちらと見やれば、木の根元に黒いのがいた。暑さにやられたのか、些か無防備に四肢を投げ出し寝そべっている。木陰とは言え、涼しさに限界があるのだろう。


 日は空の天辺に登り、陰が少なくなる時間帯だ。おまけに、あの二足で歩くデカいヤツらの往来も多い。

 あいつら、こっちをじろじろ見るだけならまだいいが、中には知り合いでもない癖に無遠慮に近づいてきて、こちらが嫌がってもお構いなしに体に触れようとする輩もいる。全く、けしからんヤツらだ。

 とは言え、見知った顔であれば話は別だ。そいつらは無理に近づいては来ないし、こちらが近づいても勝手に体を触ったりはしない。たまに気に食わん匂いを纏っているヤツもいるが、こちらが匂いを付け直せばいい。その間もヤツら嫌がることなくじっとしている。私達の礼儀を理解しているのだろう。


 その中でも、今私にマッサージをしているコイツは、私の1番のお気に入りだ。

 礼儀を弁えているのは勿論、マッサージの力加減も心得ている。おまけにコイツの足に体を擦り付けると、長い毛がかなり抜ける。会う度足や体の毛の色が変わるのは不思議だが。そういうヤツも世の中にはいるのだろう。

 だが、今日のコイツは妙にそわそわしている。しきりに周りを見渡し、別の二足のヤツが横を通り過ぎようとする度、警戒している。何か、同胞に悪さでもしたのか。


 周囲が静まり返った頃、ソイツは見慣れぬ何かを手にし、近づいてきた。

 四角い板に、銀色の短い爪が幾つも付いている。爪が日の光を反射し、目を眩ませる。

 こんなものは見たことがない。

 私は飛び起き、ソイツの手にある何かから目を離さぬよう距離を取る。

 爪の先は曲がっており、一見では鋭利そうに見える。しかし、よく見るとその爪の一本一本は非常に細い。攻撃には向きそうにない。

 コイツも私が警戒しているのが分かっているのか、それを私に近づけようとはしない。

 武器ではないのか。

 私は恐る恐る鼻先を近づける。おかしな匂いは特にしない。そして、近くで見ることで明らかになったのは、爪先は尖っておらず、攻撃に向かないということだ。

 そして、興味が湧いた。コイツは果たしてこんなものを、一体何に使うのか。

 私は自ら危害を加えないと意思表示をするために地面に腹をつけ、寛いだ。勿論、爪からは目を離さないように。

 ソイツは私が警戒していないことを察したのか、じりじりと私に近づいてきた。いつもならマッサージを始める距離だ。

「――――――――――」

 コイツら二足の鳴き声の意味は相変わらずよく分からないが、いつも以上に声色が優しい気がする。

 そして、あの銀の爪群が、ゆっくりと背中に当たる。当たってはいるが皮膚に食い込みはせず、皮膚の上をなぞるってゆく。正直ちょっと気持ちがいい。

 しばらくそれで背中をかかれた後、ソイツがついさっきまで背中を掻いていた爪を私の目の前に持ってきた。そこには、私の長い毛がびっしりと絡まっていた。

 驚いた。今まで様々な手段を用いて長い毛を取り除こうとしていたのに、コイツはその悩みを一気に解決する手段を持っているのだ。

 流石は私の1番のお気に入り。私の悩みを察して解決策を持ってくるとは、できたヤツだ。

 普段は暖かく分厚い肉球をでばかり触れてくるので、まさかこんなにいい爪も隠し持っているとは思わなかった。

 私は欠伸ついでに一声かける。

 今回の功績への労いと、再度背中を掻くように、と。

 まだ、長い毛は残っているからな。

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