悪魔神殿の名物料理はいかが?
降伏の意を示した大悪魔と悪魔たちは、盆踊りのような謎の挙動をしたと思ったら黒い霧に包まれた。
敵の行動をを確認もせずに、ソドムとシュラは剣を収めて、「やれやれ」と肩を回したりして、戦闘後のストレッチを始める。
戦闘が終わったということで、
「ありがとう、ゴモラ。今度、ゆっくりと遊びましょ」優しく微笑んだレウルーラは、巨竜を送還するための詠唱を始めた。
『暴れられず残念なれど、ソドム様と眷族の方々にお会いできて嬉しゅうごさいました』そう心話うと、手を振るソドムらに別れの咆哮をあげて、ゴモラは霧散した。
キツネにつままれたような状況に、奮戦したレイコらアクシー民は呆気にとられている。
やがて悪魔らの霧が晴れ、そこには茶色いフードを纏った行商人風の男女が佇んでいた。
シュラが砂埃を手で払い、
「どうよ、今回の連携は!?」と、大悪魔だった初老の男に聞いた。
人の良さそうな初老の男は、
「お見事でした。久しぶりの手合わせでしたが、本気で挑まないと失礼かと、つい力が入り過ぎてしまいました」柔和な笑顔から一変して本当に申し訳なさそうに謝った。
彼の名はドゴス。前最高闇司祭に仕え、代が変わってからはソドムに忠誠を誓っていて、彼の配下もそのままギオンに組み込まれていた。
「不覚にもブン投げられちゃったけど、いつかみたいに踏まれて瀕死になったわけじゃないからさ・・・てか、どうせあたしの剣で斬りつけられても あんまりダメージないんだから、見せ場潰してほしくなかったわぁ」シュラは悪態をつきながら、愛剣で右肩をトントンと叩いている。
「すみません、つい蚊を叩くように体が動きまして…」
この2人のやりとりは、白髪が目立ってきた老商人に、クレーマーが絡んでいるようであった。
「まあ、そうイジメてやるな」と、ソドムはシュラをなだめる仕草をしてから、
「デーモンズの活躍は聞いている。ライオンズ同様 ゴールドランクになったそうだな」歩み寄ったソドムは、ドゴスと固い握手を交わした。
「いえいえ、モンスターと間違われてスムーズにクエストをこなせないのが悩みでして・・・ははは。随伴して下さる聖印徒殿には苦労ばかりかけております」
「それは・・・そうだろうな」
(実際、悪魔がウロついていれば、過剰反応するのは当たり前だ)
「ごめんなさいね、貴方がたも忙しいでしょうに、突然 模擬戦に付き合わせて」レウルーラが続いて手を重ねる。
が、再会喜ぶレウルーラの笑顔は、やや不自然であった。
(それと・・・わたしたち全員が整列前までは、貴方達のことを悪魔神殿から迷い込んだ野良悪魔だと思ってたことも)
「治安圏外は安全のため悪魔の姿での行軍なのですが、街が近いことを見落としてしまいまして変身を解除しておりませんでした。アクシーの皆様を驚かせて申し訳ありません」と、詫びた。
ソドムたち闇に属する者たちが、布教を止めてから数十年経つが、コキュー島の城内には未だに信仰している者たちへの神殿があり、その祭事はレウルーラが行っており、実質的な最高司祭と言ってもいい。
ドゴスらは司祭として彼女を支え、魔神ホワイトウィルムのような外敵が襲来すれば、我が身を省みず 尖兵として前線に赴いていた。
であるに野良悪魔と見分けがつかないのは、なかなか失礼な話である。
さて、彼らの忠誠の根源は 連邦に迫害されていた時に助けられたことが大きい。
さらに、闇信仰をひた隠しにしていたソドムが、連邦・帝国に戦いを挑み、ソドムの支配地域に限り信仰の自由を勝ち取って、彼らの居場所を作ってやった。
「ときに・・・何故ここにいたのだ?」と、ソドムが聞いた。ドゴスらが、後ろ手に縛られた人間を引き連れていたのが気になっていたのだ。
(まさか、人間をつまみ食いするためではあるまいが)
「お恥ずかしい話ではありますが、冒険者として大陸を行き来できるようになったのを幸いに、里帰り・・・といいましょうか、悪魔神殿に顔を出したくなりまして。里に帰るにあたり手土産として、道中で山賊を捕まえていたところです」
「ほう、なるほどな」と、ソドムは簡単に納得した。
レイコとルゼッタは、手土産のため人間狩りをしていたことにドン引きし、レウルーラとシュラでさえ「え・・・どうなの?」と軽蔑を隠せない。人間を食べたことがないのだから、当然の反応だろう。
ドゴスは今の一言で女性陣に嫌悪されたと感じ、
「違うんです!捕えるのは殺されて当然の極悪人に限ります!」といい、連行されている輩を指さした。
見れば・・・どの男も顔に焼き印もしくは刺青を施されており、街から追放された外道だとわかった。
遠巻きに話を聞いていたアクシー民も、それを確認して胸をなでおろす。
「それとですね、数多の被害者の無念を晴らすためにも、楽な死に方はさせませんので」
悪魔神殿に興味があるシュラは、
「なるほどねぇ、残酷だけど生贄になるわけか」と、ドライに納得した。彼女にとって修羅国の暴走賊は、魔物と同じ扱いで、駆除対象でしかない。
周りの警戒が薄れたのを見計らい、女神官(下級悪魔だった者)がフードを上げて、山賊の待遇を説明し始める。
「生簀のように出番が来るまでは、屋根付きの小屋で過ごしていただく形になります。お酒と食料も十分に与えられ、酔狂な悪魔が女に変身して遊んでくれたりするので、劣悪な環境というわけではありませんよ」と、ニコリ。
「それでは罰にはならんのではないか?」と、レイコが苦笑いした。アクシーズで捕まえた犯罪者や賊を、ネオギオンの伝手で悪魔神殿に売り払う・・・という金策を思いついたのだが、行った先で酒池肉林になるようでは示しがつかないと思いなおした。
ルゼッタも、聖印徒として命がけで捕えた犯罪者を野に放逐するだけでは生ぬるいと思っていただけに、さらに甘いのはいかがなものかと思った。
「神殿は毎日が祭りみたいで、屋台もでてるんでしょ?行ってみたい!」シュラは今さっき食べたばかりなのに、未知の名物料理に思いをはせた。
「ええ、是非ともいらしてください」ドゴスは穏やかに旅へ誘った。
女神官は屋台料理に興味を抱いて貰ったのが嬉しくて、
「シュラ様、屋台料理の[名物・地獄揚げ]は一見の価値ありですよ!」
「へ~、どんな料理なん?」目にしてみないと何とも言えないが、一応は聞いてみるシュラ。
「そうですね、伝わりにくいかもしれませんが、注文が入ったら、先ほどの生簀小屋から人を連れて来て・・・」
生々しい表現はマズイと思ったのか、少し言い直す女神官。
「え~と、ぬいぐるみを連れて来て、後ろから私の腕くらいの棒をねじ込みます。棒の先には返しが付いてますから、そのまま[わた]を30cmほど引きずり出し、臭いのでハサミで切って捨てます。そこからはスピード勝負です!手早く塩小麦粉をまぶし、生きたまま煮えたぎった油に投入してカラリと揚げる・・・」熱弁している神官は、場が凍り付いたことなど気づいていない。
シュラなんかは、あからさまに「ウゲッ」と吐くような仕草をしている。
「威勢のいい叫び声は食欲をそそり、素揚げされたことによる苦悶の表情は、鮮度の現れと言います。不慣れなものが調理すると、まごついてる間に死んでしまって、躍動感や悲壮感がない仕上がりになり価値は半減してしまいます。食べなくても、見ているだけで楽しいと思いますよ」と、にっこり。
「あ、肉厚なので、揚げては休ませを繰り返して、三度揚げするので仕上がりまでは時間がかかります」と、付け加えた。
冒険やご当地グルメを期待していたシュラたちは、最悪の絵面を想像してしまい、ただ虚空を見つめるしかなかった。
「実に興味深い・・・。とはいえ、ネオギオンの主力たる我々が、ホームタウンを離れたままというのは、どうにもよろしくない。本来の依頼は取消されたが、もう十分稼いだ。ここらで一旦スウィートに帰ろうか・・・」ぼそり・・・とソドムが言う。
「あらら?物語的には影王ソドムが悪魔神殿に行く流れじゃないの?」自分は行く気がなくなったが、ソドムを追い詰めるシュラ。
「おいおい、お前こそ悪魔神殿の屋台料理に興味津々だったし、強敵と戦いたいんじゃなかったか?」
「はぁ?今 十分に悪魔と戦って満足よ!あんただって、未知の料理を食べたいって料理人の血が騒いでるんじゃないの!?」
「・・・俺としては、海鮮料理にラーメン、郷土料理の芋煮二種類まで馳走になったのだ、十二分に勉強させてもらった。それに、これ以上贅沢しては留守番の冴子殿らに申し訳が立たない。ましてや、手間暇かけてのこだわり料理を部外者の我々にはもったいないだろう!」相手様に迷惑をかけてはいけない、とばかりにシュラの両頬をつねって無理矢理笑顔を作らせる。
「そういえば、お前・・・下着はき忘れてただろ!?もう一度、常識を叩き込まなくてはならないようだな!」と、引きつった笑顔で力を込めるソドム。セクシーを通り越して、身内に痴女がいては武威どころではない。
その手を払い除けたシュラは、
「アホ!さすがにはいてるわ!」と、顔を赤らめて殴りかかり、恒例の喧嘩が勃発した。ただ、今回は喧嘩にかまけて、この話題から逃げようという二人の魂胆があった。
レウルーラは、戦ってるシュラのミニスカが捲れた瞬間、件の紛らわしい下着を凝視した。
「あっ、Tバックに動物の毛をあしらってるのね。しかし、こんな卑猥なもの見たことがないわ」と、あきれた。
「しょうがないじゃん、バイトで支給されんだから!」
「だとしても、そのまま出歩いたらアウトだろ!」と、戦いはヒートアップしてゆく。
女神官はハッとして、
「待たずに食べたい方のため、刀削麺のように連続して素早く肉を削いで茹でるという食べ方もありますよ!大型の悪魔は、踊り食い・・・言ってみれば丸呑みしたりもします」と、説明不足だったことを反省し、せっかち向けの補足をした。
魚・肉などに行う調理手段・食べ方と同じことを人間に行うだけの話なので、悪魔からしたら何気ないことなのだ。
「そうなんだぁ・・・。あっ、でも寄り道ばかりしてると冴子ちゃんに叱られるわ。やっぱり あたしたちは御暇しないと!」レウルーラは喧嘩している馬鹿二人を止めながら、うまい口実で爽やかに断った。
「・・・ですか」主に故郷を紹介したかったドゴス達は肩を落とす。ネオギオンの実質的な担い手である冴子の名前を出されたら どうにもならない。
常識の温度差がある彼らは、ソドムやトリスと同じく暗黒魔法の【変化】で悪魔を取り込んだのだが、対象を打ち負かして強制的に取り込んだのではないらしい。
前の最高司祭を護衛するために悪魔の力を欲した彼らは、悪魔神殿にてフル課金・悪魔特効武器をレンタルしたのだが、穏やかな性格と鍛えていない肉体では全く歯が立たなかった。
見かねた悪魔に事情を話したところ、すっかり同情された。
そして、「元の世界に戻れるかわからない退屈な生活より、いっそ同化してこの世界を楽しむか」という者たちが現れ、戦うことなく【変化】を受け入れ、身体は一つだが精神は二つという存在になった。つまり、普段は温厚な人間が、戦闘では悪魔が主導権を持つため非情になるという二面性があるわけだ。
常に悪魔が主導権を取らないところをみると、存外現状を気に入っているのだろう。
先ほどのようにお国自慢の話になると、嬉しくて・・・悪魔の常識が混じり、人間とはズレた発言をしてしまうのが欠点かもしれない。
「お邪魔でなければ、我々が・・・同行させていただきたい」と、月山九兵衛レイコが 思い切って言い出した。緊張からか、顔が紅潮している。
(どどど同盟関係を結んだ以上、彼の地で地獄揚げにされることは、たたた多分なかろう。これを機に悪魔神殿と関係改善し、罪人や敵対勢力を与えることで傭兵として使ってやる!そうすれば、戦力増強のみならず、悪魔の総数も減らすことができるというもの。どうせ悪の権化たる影王と同盟を結んだのだ、毒食わば皿まで・・・使えるものは使ってやる)




