荒れ狂う暴走賊!轢かれるシュラ
地鳴りのような音が段々と近づいて来て、土煙と共に騎馬の一団は現れた。不揃いな装備は土埃にまみれて薄汚く、隊列などとは無縁の無秩序な動きから、賊であることは明らかであった。
聖印徒の二人は、ソドムの予測が的中したことに感心している。
「本当に賊が現れるとは・・・恐れ入りました」と、アザムが言い、
「そうではあるが、百人どころではなさそうだぞ」クインは少し警戒を強める。アザムと違い、【帰還】で戻れるポイントが現在地であるため、敗北は死を意味するからだ。
賊の人数は膨れ上がり、まさに雲霞の如く・・・というのであろうか、その数は千人を超え、窪地にいるソドム達は完全に包囲され、退路を断たれた。
ここまでの規模ならば、もはや軍隊である。とっくに包囲網を完成させている彼らは、馬のいななきや、それに牽引させている車両の音など気にも留めていない。たった数人を相手にするのだ、無理もないだろう。
心配事と言えばお宝の分配くらいで、不謹慎なものは「なるべく手こずって、こっちが多く死ねば実入りが増える」などと考えるものまでいた。所詮は賊、自分の欲が満たされればよく、仲間意識は希薄であった。
クインの不安は大きくなったが、自分ばかり恐れをなしているのは悔しいので、アザムにも不安をおすそ分けすることにした。
「なんという大軍、これでは貴公の帰還場所も安全とは言えぬな!」
「な!?なにを言うかと思えば、私が自分だけ逃げる算段でいるとでも?そもそも、光の神ホルスが我らをお見捨てになるはずがなかろう。今に光の使徒が助けに現れる、それまで持ちこたえればいいだけではないか!」と、アザムは保身しか考えていないことを悟られまいと強がってみせた。
この二人とは真逆に冴子は落ち着いている。彼女の着込んでいるアイアンゴーレムは、物理も魔法も無効に近い上に怪力なので、人間の一軍団くらいと渡り合えるからだ。
ソドムは、うつ伏せで死んだふりをしながら、賑やかな敵の出現にホッとした。
(よし!これで稼げる。余った金を使ってギルドから有料魔神情報を買うか…。今回はケチってリサーチ不足だったからな)
とはいえ、周りが気になるソドムは、ゆっくりと薄目を開けた。
まず見えたのは同じく死んだふりをしているシュラであった。冷静さを保っていたソドムだが、シュラの死んだふりのヘタさに怒りを覚えた。
(あっんのバカ野郎~!仰向けに倒れてたら、呼吸がバレやすいだろが!ただでさえ、ビキニトップにミニスカっていう半裸状態なのに・・・。いや、もはやどうにもならん。俺の指示が足りなかった・・・のか?前に指摘したような・・・。いかんいかん、まずは様子を見るしかない)
賊たちは、すぐには襲い掛からず、待機している。
ただ、正規軍とは違って整然と待つことなどはできず、散歩前の犬のように はしゃぎながら突撃の合図を待っていた。
冴子とセイントらは、一頭立ての戦車に乗っている白い無精ひげの老人に指揮権があるのだと遠目でわかった。その老人の近くには黒っぽい旗が靡き、おそらく本陣を示していると思われたからだ。
ちなみにチャリオットは馬に二輪の荷車を引かせているような乗り物で、荷台に立って乗るという・・・馬も御しにくく、なんとも戦いにくい見掛け倒しの兵器である。正規軍では当然採用されてはいない。
この賊は、ほぼ騎馬であるが、わずかに戦車を採用している。使い方としては、略奪帰りには自分が騎乗し、荷台には財宝や人質を乗せれるので役に立たないこともない。
長身でオレンジ色のモヒカン頭の男が、嬉々として老人に話しかけた。男の片頬には大きく×印のような火傷がある。
その火傷の痕は、街から追放される際、熱したセイントの盾を焼き印代わりに押し付けられたためであった。そう、以前にルゼッタを拉致したスペードという男である。
ついでながら、その時に同席した赤髪の小娘によってコメカミに♠スペードの素人タトゥーが彫られていた。
また、小娘は男の髪を掴んで、無理やり剃ってモヒカンにした挙げ句、剃り上げた頭皮を布で血が滲むほど擦り、摩擦熱で火傷に近い状態にして、髪が生えにくくなる嫌がらせまでやった。
以来、彼の髪型はモヒカンかスキンヘッドの二択しかなくなり、仕方がなくモヒカンにした。ところが、この髪型が仲間達にはウケたようで、真似する者や更なる奇抜な髪型にするのが流行って・・・異様な集団へと変性していくことになる。
また、スペードが愛用している、金棒(サボテンのようにピックが付いてる)や、刺付き肩パットも結構真似するものが多く、いつの間にかファッションリーダー的な感じになり、実力はなくとも存在感は大きくなっていた。
「旦那、予想通りギルドの同士討ちがあったようで。見たところガーターズ腕利きの奴らが死んでるみたいですぜ。へへ、あの赤髪の小娘は直接いたぶりたかったが残念ですわ。ヒャハハ」
旦那と呼ばれている首領の老人は、「わかったわかった」というジェスチャーで、よく吠える犬の相手でもするかのように、スペードを一旦黙らせた。
「戦ったことがあれば、わかりそうなものだが・・・」と、スペードを一瞥し、
「プラチナランクの連中がゴールドに負けるはずがない・・・。火矢を射掛けよ!当たらずとも、跳ね起きるだろう」
その言葉を受け、スペードは火矢を射かけるように命じた。全員が火矢を放てるわけではないので、散発的にパラパラと威嚇程度の火矢がソドム達に到達する。
「アチッ、何なのよ今日は!熱いことばっかじゃん!てか、敵・・・多すぎ!!」
「バカ野郎!もう少し我慢できないのか!?あ・・・」直接当たらなくても、ソドムとシュラは弱点である火を嫌い、身を起こしてしまった。死んだふり作戦が失敗したことを悟ったレウルーラは、召喚魔法の詠唱を始める。
死んだふりをしていた二人が、全然我慢せずに起き上がったのを見て、賊たちは少し呆れた。
「まじかよ!死んだふりをして反撃するつもりだったのか。あの二人だけで何十人がやられちまう」スペードは小娘をいたぶりたいと言いながらも、本当は手強いから戦いたくなかったので落胆している。
「やはり、生きておったか」言うや否や、老人は傍らに置いていた魔導書を手に取り【火球】を詠唱し、容赦なくシュラを狙った。
火球の魔法は、中級以上の魔術師が使える魔法で、セイントやサムライなどでも扱える火の礫などと違って、爆炎を引き起こすため、魔導を極めたものでなくとも十名くらいは死傷させれる強力な魔法である。
「いけない!あれは火球です!」四賢者でもある冴子は、詠唱と動作を見て、いち早く危険を察知した。
ダンジョン外にいるメンバーで、冴子は魔法無効、セイントは魔法抵抗が高いからいいが、ソドム・シュラの魔人二人にとっては命に関わることであった。
ソドムは、朽ちた死体のふりをさせていたスケルトン達を全面に押し出し、辛うじて防御態勢を整えることができたが、シュラまでは守れそうもなく、自身の機転もしくは運にゆだねるしかなかった。
いつものソドム達なら、人間と対峙する場合に魔術師の有無を確認しているのだが、今回は野盗ごときに魔術を扱えるものはいないと高をくくって、全くの無警戒であった。
どこでも高額で迎えられる魔術師が、賊に成り下がるなど聞いたことがないからだ。年間収入で考えたら十倍の開きはあるだろうし、ハイリスクで良いことなどない・・・頭のいい魔術師が、そんなことも分からない筈がないのだから。
迫りくる炎の魔法に、シュラの胸に付けてある金のブローチが反応した。
カブトムシ型のブローチは、勢いよく羽ばたき、全身で魔法を受けた。
「ドゥォン!」という爆発が起き、激しい音と衝撃が辺りに伝わる。
「ヒャッホー!流石は旦那、剣技だけでなく幅広い魔法を扱えて頼りになりますわぁ」と、スペードは褒め称え、他の賊達も手を叩いて歓声を上げた。
元々は怠惰な連中の集まりなので、勝率が高いほうが嬉しいのだ。彼らの武器は、スペードと同じように実戦向きではなく、弱者をいたぶることに特化したような物が多く、勝てそうな相手ばかりとしか戦わないポリシーすら感じられた。
実際には、金のブローチが魔法を受けたおかげで、爆炎の威力も低下したようで、シュラ達には熱風程度の被害しかでなかった。
シュラは、魔法から守ってくれた金のカブトムシに驚きと感動を持った。
ソドムも驚きはしたものの、危機を察知して逃げようとしたと受け取って、そのブローチに疑念を抱いた。
(魔法生物なのか?これまで生命体だとは気がつかなかったぜ。とまれ、敵は大軍、魔術師もいる。攻撃を受けてから、逆包囲など不可能になった)
火球を食らって「ボテッ」と地面に落ちた金のカブトムシは、少し間をおいてから動き出し、何事もなかったかのようにシュラの左胸乳首に止まった。動かなくなれば、どう見ても精巧なブローチにしか見えない・・・が、シュラは話しかけずにはいられない。
「何!?アンタ、すごいじゃん。つーか、生き物だったのね!」と、遠慮なくガッシリ掴むシュラ。
『慮外者!!余を誰と心得る?』年配男性のような心話が、ソドムらに届く。
「あ?何だ、偉そうに。俺に威張っていいのは、報酬くれるギルドマスターくらいなんだが、わかってんのかな?」と、ソドムは おそらく心話の主であろう金のカブトムシに詰め寄った。その時、背後の風圧が強まり、そこに召喚されたスタグビートルが現れ、カブトムシに憤るソドムをなだめた。
スタグは、身を低くして畏敬の念を表し、
『その黄金色に煌めくお方は、富と命の象徴たる森の神。無礼があってはなりません。諸事情により、お力を取り戻されるまで、眠っておられたのです』虫に虫への言葉遣いを指摘され釈然としないソドム。だが、単純なシュラは違う。
「えー!神様なの!言ってくれりゃ、毎日磨いてあげたのに・・・」シュラは、ソドムを払ってカブトを撫でる。
『うむ、良い心掛けである。そなたには封印を解いて貰った恩義があるゆえ、今回は救っただけだ。毎回助けるなどと思わぬようにな』
「なぁ~にが神だよ、しかも森とは範囲が狭いな。どこの森だよ、弱いからガラスに閉じ込められてたんだろ」と、ソドムは先のホワイトウィルム戦で手に入れたお宝の事を思い出して、馬鹿にする。たまたま落として割っただけで、封印を解くなどという大げさな事ではなかった。
『わかっておらんな。余を倒す決め手がないから、封印せざる得なかったのだ。その方ら人の子には余の影響力など想像もつかないだろうな』
難しい立場のスタグ。召喚者には刃向かえないが、森の神を崇拝する心もある。
だが、気持ち的には神を冒涜されたままでは納得できない。
『森の神が現れれば、樹液に群がりし眷族は恐れ慄き、例外なく退いて樹液を譲ります。また、神が求めれば雌は必ず受け容れると聞きます。森の絶対者なのです』
「ほう…」気のない返事をするソドム。樹液とかメスカブトの話をされても全然羨ましくはない。戦闘中なので人間に置き換えて考えるほど余裕はなかったのもあったが。
レウルーラは洞窟から出てきて、ソドムに小声で注意した。
「ちょっと、ダメじゃない。仮にも神なら、眷族を集めたり、祟りとかもあるんだから、丁重に扱わないと!」
冴子も神ならばと気を使い軽く挨拶をした。
「神よ、助けていただき一同感謝しております。恐れながら・・・何とお呼びしたらよろしいでしょうか?」
『苦しゅうない。実際の余は神というよりも、森の王なのだ。豊富な知識ゆえに百識様などとも呼ばれておったのだが、そうさな・・・陛下 とでも呼ぶがよい』金のブローチは微動だにせず心話った。
「ねぇ、金カブ先生。あたし達、これから丘にいるゴミクズ共と遊ぶから、振り落とされないように気を付けてね!」とりあえず、魔法を直撃しなかったことは嬉しい誤算とし、魔術師がいる危険な敵だとわかったシュラは、乱戦に持ち込みつつ敵将を討つルートを考えていた。
『ちょ、金カブ?その方は余の話を聞いていたのか?だいたい、金剛聖拳を扱えるのなら、応用して対魔法シールドを展開すればいいだろう』と森の王は抗議するも、シュラは駆け出してして聞いてなどいなかった。
魔術師がいる以上、守りを固めてなどいられないのだ。ソドムは影武者と共に盾代わりにもなるスケルトンを近場に召喚し、突撃を始め、それに呼応し、スタグの背に乗ったレウルーラも突進した。
冴子は鎧型ゴーレムの命令を解除し、火球のお返しをすべく腰のバックから魔導書を取り出した。華奢な女性が重装鎧を着こんで魔法詠唱するのは、なかなかにハードだが文句も言っていられない。敵が導師級の魔術師なら、さらに火球を叩き込んでくる可能性があり、それを防ぐためにも一撃お見舞いする必要があった。
が、敵将はそれを察知して後ろに下がったため、下にいる冴子たちからは見えなくなってしまう。
首領は乱戦を避けるため百名ほどを突撃させることにして、指示を出した。正直、火球が効かなかったのには驚いたが、宿屋の宿泊名簿を見た時に伝説級のヤバい奴らの名が連ねていたので、「まさか?」と思いつつも多少想定はしていた。
(大戦から二十年、名を騙るバカもでてきてもおかしくはないと思っていたが、本物だったか。影王ソドムに四賢者が二人、吟遊詩人に・・・あの赤髪が戦士シュラ。全盛期の俺でも厳しい相手だが、こちらにも事情がある・・・)
「よぉ~し、第一波は俺と同じ 名前に《ス》がつく野郎だぁ!続けぇぇ~!!」
スペードが棍棒を振り上げながら叫ぶと、100人ほどの暴走賊が一気に丘を駆け下りる。小狡いスペードは、俺に続けと言いながらも、ワザと出遅れた。
(冗談じゃねー。あんな化物共に一番乗りしたら普通に死ぬだろ)
見慣れない巨大クワガタを従えてるとはいえ、相手は小勢。しかも、戦利品でもある女までいるので賊たちは狂喜し、我先にと群がった。
「ホッホォー!!」「ヒャハハ、金だ女だ食料だぁ!」「オラオラ、修羅奴は納税せぇ~い!」などと口々に叫び、暴走賊はとても楽しそうであった。戦術的な訓練はあまりしていないので、ボウガンや弓がある者は放ち、飛び道具のないものは威嚇のためだろうか、とりあえず武器を振り回してソドムらに迫った。
ちなみの修羅奴とは、ここ下界・・・すなわち彼らの主張する「修羅の国」の民を差す。修羅の国は、内輪でシュラクと略して呼んでいるらしい。
勝手に国家を名乗り、強制的に納税させるのが彼らなりの道理なのだ。気分次第で金・命・貞操なんでも奪う。
丘を駆け下りてくる騎馬は圧倒的に有利である。ソドムのスケルトン部隊は木っ端みじんに蹴散らされてしまう。
「おおぉぉぃい!お前らぁ・・・」多少の足止めを期待していたソドムは失望した。
(想定の十倍の戦力に加えて命知らずの無謀さとは厄介な!)
破竹の勢いの突撃に、シュラがとった対抗手段は・・・
こっちも突撃することであった。
クルリと横回転したシュラは、回し突蹴り(ソバット)を繰り出した。
「どぉぉぉおおりゃあぁ~!!」器用にも金剛聖拳を操り、足先に光のオーラを集中させ、馬ごと賊を蹴り飛ばした。その威力たるや・・・人と馬がグシャりとねじ曲がったまま吹き飛び、さらに転がって血が滴る肉団子のような物体になった。
が、悦に浸ってる暇などない。シュラは、破邪の剣を抜き放ち、次の騎馬をすれ違いざまに斬り捨てる。腹を斬られた男は、致命傷ではなかったが、服に火がつき、驚きと痛みで落馬した。
シュラクの暴走賊は、出鼻をくじかれたものの、止まらない。強い欲望に突き動かされ、死体を乗り越え続々と殺到する。セイント二人と冴子は、大楯を構えて彼らの攻撃をしのぎ、ソドムとダンジョン入り口を守っている。
レウルーラは、馬鹿共の進軍を押し返す為、スタグビートルを突進させた。
「ドカガッ!!」という激突音が響き渡る。スタグビートルが、長さ2mもの大顎で駆け下りてきた賊を2騎挟み込んだ。
「ぐふぉ!」血しぶきが舞い散り、騎乗者と馬は苦痛で呻く。もがくほど、ノコギリ状の突起が彼らに食い込み、傷は深くなった。
弓を持つ賊は仲間を助けるため、弓で援護した・・・が頑丈なクワガタの外骨格に虚しく弾かれるだけで効果はない。
が、なぜか挟みちぎる動作を止めるスタグ。これは弓矢に怯んだわけではなく、獲物をしっかりホールドしているか再確認してしまう悪い癖で、被害者側からすると「もしかしたら、見逃してくれるのでは?」という淡い期待を持たせてしまい、改めて締め付けられ両断される時に更なる絶望を与えるものであった。
スタグビートルに乗っているレウルーラは、束の間の安堵から悶絶死する賊を見てなかなか笑えたが、少しは心を痛めていた。ソドムと同じく賊には情けなど持ってはいないが、ズタボロに千切れた彼らを見て・・・「これでは損傷が酷過ぎてゾンビにできない」と悔しがっているのだ。
これらの惨状を目の当たりにしても、暴走賊は死体を乗り越え津波のように押し寄せる。スタグはともかく、小柄なシュラは健闘むなしく人馬の荒波に飲まれ、踏みつけられてボロ雑巾のようになっていた。
「いだだだだぁ!ちきしょー!!」土埃にまみれて転げながら、闇雲に剣を振るうシュラ。見かねて百識が声をかける。
『おい、小娘!光のオーラで身を守らんか!うまく使えば魔法とて防げるというに・・・』
「だって、めっちゃ疲れるじゃん。ぐはっ!いでで」命の危機であるに、律儀に返事するシュラ。
『そこは、使い方だ。攻撃を受ける瞬間に、窓ガラスのようなものを張って防御するイメージで展開するのだ。あくまでも、瞬間的にな。さすれば、消耗はほとんどないから、戦闘中こまめに使えるはず』かつては森の神と言われていただけあって博識であった。封印の影響で心話すらできずに、ずっとブローチとして黙ってぶら下がるしかなかった日々のストレスがあったのだろうか。随分と饒舌で、なかなかのお節介ぶりである。
「こうか!?」仰向けのまま揉みくちゃにされながらも、素直に意識を集中し、金剛聖拳のオーラを展開してみるシュラ。
すると、馬で踏みつけようとする賊との間に、不可視の膜のようなものが一瞬現れ、攻撃を防いだ。シュラは敵が見えない壁に阻まれてる瞬間、体をひねって突進をやり過ごした。
『おお!いきなり成功させるとは、やるな小娘』
「金カブ先生の教え方が上手いから!」と、転がりながらも礼を言うシュラ。
『ぐほっ!礼は後で良い、もう少し余を気遣った動きをせんか!』ブローチ状態で張り付いている彼にとっては、転げまわられると迷惑なのだ。
「あ、ごめん。てか、金カブ先生が何で詳しいのかわかんないけど、使いこなしをもっと教えてよ」
「ふむ、余も長いこと生きているからのぅ。よかろう、教えを乞うものとして、毎日はちみつを献上するのであればな」
「ハチミツね、頑張って稼いで、養ったげる」と言いながら、盾に仕込んであった苦無を賊の首に投げつけ、一人を葬った。
『や、養う・・・』
(まあ良い、まだまだ完全復活とは言い難い、栄養が最優先だな。とはいえ、金剛聖拳を使いこなそうが、この劣勢は覆らんぞ)
ソドムも旗色の悪さを何とかしなくてはならないと考えていた。
「ライダース、突撃して敵を押し戻せ!」ソドムが鋭く叫んだ。いつも余裕ある対応をするソドムにとっては異例中の異例の鬼気迫る命令であった。
小悪党など、一当てすれば霧散すると高をくくっていたが、損害を顧みず突撃してくるなど想定外もいいところであった。そこまで士気が高いと知っていたなら、ダンジョンまで引きずり込んで各個撃破したであろう。
だが、ライダースは洞窟から出てこない。参戦したところで焼け石に水と判断したのかもしれない。
ソドムは激しく後悔した。後ろを任せた連中が決して味方ではないことを。あまりにも従順だったので、部下扱いしてしまったからだ。
(俺としたことが、性善説などと甘い対応してしまった。だが、背後から攻撃してこないだけマシという考えもある)
ソドムの苦悩を察したレウルーラが近距離だけの心話で話しかけてくる。
『ソドム、山賊相手に降参なんて通用しないし、十重二十重と包囲されてる中、突破できないことくらいライダースは承知しているはずよ』
『だが、何とかして敵中で孤立しているシュラを回収しないと・・・』
『出し惜しみしている場合じゃないわね。冴子ちゃんのゴーレムを使うしかない!』レウルーラは心話を中断し、冴子に向かって声をかける。
「冴子ちゃん、中堅クラスのゴーレムで敵を阻んで!それからダンジョン入り口まで撤退よ!」
「了解」 冴子は少し後方に下がり、詠唱をはじめ・・・三体の土ゴーレムを召喚した。
通常の魔術師は、その場にある素材で一から作り出さねばならず、膨大な魔力と時間が必要だが、付与魔法のエキスパートである彼女は、予め魔力を込めてゴーレムを製作して保管しており、それを召喚することで消費魔力が少なく済み、詠唱時間が短い。
「土ゴーレムでも、重騎士なみにタフですよ」そう言いながら、ゴーレムを前進させた。ゴーレム達は敵の攻撃に怯まず全身で受け、倒れた敵を殴りつける。崩れ行く我が身など気にせず、物言わぬ巨人は次の敵へと攻撃した。
ソドムは僅かな隙をついて、倒れてるシュラのもとへ駆け寄り、右足首を掴んで引きずりながら安全圏まで連れてくることに成功した。万歳状態で運ばれたシュラは、大怪我している様子はないが、スカートは開け、衣服は汗に土埃が付着して泥まみれ状態で、生地自体は馬に踏みつけられたためにズタボロであった。
「ふぃ~、なんとかなったぜ・・・」安堵するソドム。
(こうなるとエロさは感じないもんだな)
よくわからないまま、窮地を脱したシュラは、むくりと起き上がり、重大な事をソドムに伝えた。
「大変だ!あいつら賊のくせに貴金属持ち歩いてない!」
「な・・・、なにぃ~!!」本気で驚き、転がっている賊の死体を確認し、明らかに士気が下がるソドム。
「か、金にならないんだったら、打って出た意味がないではないか!」
「そうなのよ!お宝持ってないんだったら、サッサと帰ってたのにぃ~!」と、プンスカ怒るシュラ。
「二人とも、お金よりも命が大事よ。とりあえず、洞窟まで走って!」危機感のなさを見かねたレウルーラは、馬鹿二人に避難するよう促した。
(山賊の組織力もさることながら、個人の財産を預かる信頼関係があるということ・・・手ごわいわけね。とはいえ、篭って戦うのは数の不利を覆せても、援軍ありきの戦法・・・。こうなったら、切り札のアイスゴーレム 冴子ガンダルフ魔窟をぶつけるか、制御できないのを承知で私が大物を召喚するか・・・)




