28,双子とルイス 25
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
ガーリックのいい香りが中庭に漂っている。
これはパエリアの香り?それともステーキ?
僕はいななき鳥の焼き鳥を器用に焼く、アズ兄様の手先を少し離れて眺めている。
あの後、お肉や野菜の下処理を料理人の人たちがテキパキと手伝ってくれた。
お陰様で、調理はとてもスムーズなスタートを切れた。
僕は把握していなかったのだけど、今回のメニューは、我が家の定番おもてなしメニューだったらしい。
レシピも調理人の人たちが知っていて、安心した。
僕は、いななき鳥を串に刺す係を任されたのだけど、、、。
そこで、焼いていないお肉は串に刺す時、滑りやすいと初めて知った。
手を刺しそうになって、ヒヤッとすることも数回、、、。
そういえば、ルイス兄様はどこに行ったのだろう?
少し席を外すといってから、だいぶん時間が経ったけど、、、。
「遅れてすまない」
背後から急に声がして、僕は飛び上がる。
「ああ、驚かせたな」
冷静な声で、ルイス兄様が僕の頭に手を置く。
「スゴくビックリしたー!!ルイス兄様、お帰りなさい。お仕事に行ってたの?」
「ああ、ただいま。半分は仕事で、半分はベンジャミンの手伝いだな」
「ベンジャミン?」
「ああ、ここの厨房が使えなくて困っていたんだ。王都のベルカノン邸に送って来た」
「もしかして、僕たちのせい?」
「間違いなくそうだな。大体、似たようなカードを用意した宰相が悪いんだ。こういう風に重なることを予測して、、、。あー、まさか、ワザとか!?」
ルイス兄様は、話している途中で、額に手を当ててため息を吐いた。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。それで、レノン、状況はどうなんだ?あと一時間もないが、ミッションは完了しそうか?」
「うん、多分大丈夫だと思う。一番難しいパエリアは、ロイ王太子殿下が料理人のマリアンと一緒に火加減を見ているし、ベルカウのステーキは、シータと料理長が焼いてるから。僕とアズ兄様は、いななき鳥の焼き鳥の係なんだ。小さめに切った鶏肉を串に刺したのは、僕と料理人のセルヴィスなんだよ。お肉が滑るから結構難しくて大変だったんだ」
僕は身振り手振りで、お肉を刺した時のことを伝える。
ルイス兄様は、僕の話を真剣に聞いていた。
「レノン、頑張ったなぁ。肉を刺す作業は聞いているだけで、難しそうだ。肝心な時に手伝えなくて、ごめんな」
そう言って、頭を撫でてくれた。
「うううん、助っ人が沢山いたから大丈夫だよ。ルイス兄様は、お仕事もあったんでしょう?」
「そうだな。この後も、また王都に戻って、夫人とベンジャミンとリゼを連れてくる。宰相も仕事に目途をつけて、パーティーには絶対参加すると言っていたから帰ってくるぞ。レノン、楽しみだろう?」
「えっ、父様も!?」」
父様、そんな急に帰って来れるの!?
「ああ勿論。それに、今後は毎週末、おれが宰相の送り迎えで、王都と行き来することになった。週末は家族団欒で楽しめるようになるぞ」
家族団欒!!毎週末!?
「毎週末の送り迎えって、それ、姉様がルイス兄様にお願いしたの?」
「いや、国王つまり、おれの父上からの命令だ。ベルカノン家を今まで頼りすぎたお詫びなんだろう」
「だけど、それじゃあ、ルイス兄様ひとりが大変になるよね?国王陛下は、何もしてないじゃん、ズルくない?」
「お前、結構、、、真理を突いてくるな。まあ、おれはいいんだ。転移魔術なんて、大して負担にもならないし、言うなれば、ドアを開けて、別の場所の部屋に入るってくらいの感じだから」
「ふーん、別の場所の部屋がドアの先に来るってこと?」
「ああ。そんな感じだな」
「僕も魔術が使えたらいいのになぁ・・・」
つい、羨ましくなって呟いてしまった。
ルイス兄様は穏やかな笑顔で、拗ねる僕を見ている。
「ルイスー!ちょっといい?」
パエリアを見張っていたロイ王太子殿下がやってきた。
「戻って来たんだね。少し見張りを代わってもらってもいい?」
「三十分くらいなら大丈夫だ。そのあとは王都に行く」
「それくらいあれば大丈夫だよ。実はロゼに、今夜ベルファント王国へ帰国することを、まだ話せていないんだよ」
「ああ、そのことならロゼ殿へ既に話した。二時半ごろ、姫が畑に行く途中で体調が悪くなったんだ。その時、付き添いとしてロゼ殿も一緒にベルカノン邸へ、おれが送った。その後、ベルカノン家の医師の診断結果も一緒に聞いていたから、ついでに伝えておいた」
「え、待って待って!!何その話?聞いてないんだけど!!アズ君は知っているのか?」
「ああ、アズはベルカウの血抜きのあと、直ぐに姫のところへ行ってもらったから、一部始終を知っている。それで、話次いでで済まないが、結婚式まで姫はこの邸へ匿ってもらえるように手配をしておいた。ここなら、秘密が漏れることもないだろうからな」
ルイス兄様の話を聞いて、僕は狩りの合間にそんな出来事があったことを初めて知った。
多分、僕と一緒にいたロイ王太子殿下も。
「ル、ルイス、、、。一体、いつそんな手配をしたの?」
「いや、狩りをしている間に父上と宰相へ伝えて、今、王都のベルカノン邸と父上のところへ行ってきた。夫人からの承諾も、リゼ経由で得たから心配はいらない」
「狩りの間にそんな隙間あった?」
ロイ王太子殿下は、僕に向かって言った。
僕は首を振った。
どうしたら、そんな風に立ち回れるんだろう。
「ルイス兄様って、いつもそんなことをしているの?」
僕が質問すると、ルイス兄様は不思議そうな顔をする。
「そんなに大層なことはしていない」
冷静な声でそう言った。
「いやいやいや、普通じゃないから!?」
ロイ王太子殿下が突っ込みを入れる。
「それは褒めてくれているのか?」
ルイス兄様が首を傾げた。
「そうだよ!!ルイスは凄い!!」
「そう、、か、ありがとう」
ルイス兄様は微妙なトーンでお礼を口にした。
「ロゼに話が伝わっているなら、僕は持ち場に戻るよ」
ロイ王太子殿下は、軽く右手を挙げて、そのまま大きなパエリア鍋のほうへと戻っていった。
「ねえ、ルイス兄様、王女様は具合が悪いの?」
僕は少し小さな声で尋ねた。
アズ兄様が慌てて駆け付けたって言うし、ここで静養するってことは、結構重病なの?
ルイス兄様は、屈んで僕の耳元で囁く。
「姫はな、、、。」
「えっ!!本当に!?」
「ああ、本当だ。だが、まだ秘密だからな。誰にも言うなよ」
ルイス兄様は、口元に人差し指を置いて、僕に口止めの合図をする。
「分かった。でも、何で?ルイス兄様と姉様には、、、」
そこまで言いかけたところで、ルイス兄様は急にクスクスと笑い出した。
「どうしたの?」
「いや、リゼと全く同じことを言うから、、、」
姉様が、僕と同じことを言ったって?
やっぱり、姉様も赤ちゃんが欲しいのかな。
僕はルイス兄様を引っ張って、屈んでもらった。
そして、耳元に囁く。
「姉様も、赤ちゃんが欲しいって言っていたの?」
ルイス兄様は、そのまま僕の耳にこう返事をした。
「レノンは、リゼがそんな風に思ったと感じたのか?」
僕は、また小声で返す。
「うん、だって赤ちゃんって可愛いでしょ?」
「確かにそうだな。そうか、そういう風にも取れるのか。ありがとう。参考になった」
「どういたしまして!」
そう言うとルイス兄様は、立ち上がった。
「じゃあ、少しの時間だが、手伝いをさせてくれないか?」
「それなら、シータのところをお願い。ステーキを焼く火を用意しているんだけど、何となく危なっかしいんだ」
「ふーん、危なっかしいなら、おれがしっかり監督してくるとするか」
「うん、よろしくお願いします!」
僕はルイス兄様にお願いをしてから、焼き鳥を焼いているアズ兄様のところへ戻った。
クルクルと串を回しているアズ兄様の腕を引っ張った。
「おおお!急に引っ張ったら危ないだろ!!」
慌てた声で、いきなり怒られた。
「で、何か用か?」
僕は、アズ兄様の袖をもう一度引いて、屈んでもらった。
耳に囁く。
「赤ちゃんが産まれるんでしょ?」
僕が小さな声で話すと、アズ兄様は僕のほうを向いた。
「ああ、順番をおかしくしてしまったけどな」
「順番?」
「俺たちに子供が出来たせいで、殿下とエリーゼの結婚式が延期になったんだよ」
「なんで?」
「ベルファント王国では、必ず結婚式の後に子供が産まれないと不味いらしいんだ」
「ふーん、そんな決まりがあるんだ」
「だから、殿下が順番を譲ってくれた」
「ルイス兄様は、いい人だよね」
「ああ、物凄く良い上司だよ」
アズ兄様は、そう話しながらも、腕を伸ばして串をクルリと回していた。
僕からすれば、アズ兄様も有能でいい人なんだけどね。
「それとね、王女様は結婚式までここに匿うって、ルイス兄様が言ってたよ」
「えっ、それは今初めて聞いたぞ。そうか、それなら安心だ!!」
「ルイス兄様が、王都まで行って話を付けてきたんだって」
「殿下が?」
「うん、国王陛下も父様も母様もいいって言ってくれたらしいよ」
「あーーーーーー!!やばいな、俺。いろんな人にお詫びを言わないといけないじゃん」
アズ兄様は、頭を抱えた。
「うーん、赤ちゃんが理由なら、誰も怒らないんじゃない?」
「それならいいんだけどなぁ」
アズ兄様は遠くを見つめる。
「あ!姉さまには謝ったほうがいいかも。結婚式が延期になったって聞いたら怒りそう」
「・・・確かに!盲点だった!!俺、エリーゼのことをすっかり忘れてた。レオン、忠告ありがとう」
「どういたしまして」
僕は褒められて、ちょっと嬉しかった。
焼き鳥の煙がモクモク、香りと共に広がっていく。
「よし、これで全部焼いたぞ!!」
僕が焼きあがった焼き鳥を、大きなトレイに並べていたら、アズ兄様が叫んだ。
ビックリしたんだけど、、、。
「あー、疲れた!」
アズ兄様は、肩と首をグルグル回し出す。
僕は並べる手を休めず、その様子を眺めていた。
「おーい、アズ、レノン」
ルイス兄様が、やってきた。
「あー、殿下。レノンから聞きました。ありがとうございます」
「何だ?かしこまって。気持ち悪いな」
「お礼くらい受け取ってくださいよ」
「ああ、分かった、受け取っておく。それと、おれは今から王都にベルカノン家の人々を迎えに行ってくる」
「了解です。会場もマーキュリーたちが用意してくれているから、問題ないと思う」
「そうだな。レノン、ミッションの達成まで、あと少しだからな、しっかり最後まで頑張るんだぞ!」
「はい。ルイス兄様もお気をつけて!行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる。後でな」
ルイス兄様は姿を消した。
僕は、少し熱いけど、串を並べるスピードを上げた。
ルイス兄様のことだから、予想よりも絶対早く帰って来そうだもん。
母様が驚いてくれると嬉しいな。
父様は元気かな。
こめかみから汗が流れていることにも気づかずに、僕はみんなが喜んでくれる姿を想像しながら、焼き立ての串を並べていく。
こんなにワクワクするのは初めて。
ミッションって、楽しい。
父様に会ったら、ありがとうって言おう。
僕はふわふわと心地よい気分で、最後の一本まできれいに並べ終えた。
よし!ミッション完了だ!!
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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