27、双子とルイス 24
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
「絞り袋の用意が出来ました!」
セレナが、三つの絞り袋を、ぼく達の前に置いた。
「こちらは奥様方で流し込みをお願いします。私達も絞り袋を用意して、ドンドン流し込んで行きます!」
ぼくがベーカーを見ると、次の絞り袋に生地を詰める作業をしていた。
「お母様、二分の一でいい?」
「ええ、そうね。ベンジャミン、型の二分の一の深さまで流し込んで頂戴。焼くと膨らむから、入れ過ぎないでね」
「分かった。ええっと、最初に母様が流し入れるところを見ても良い?」
「そうね。では、お手本を見せましょうね。まず、絞り袋の口金に左手を添えて、絞り袋の上の方を右手で掴んで、下のほうへと絞っていくのよ。そうすると、袋の上の部分に生地が残らないでしょう?」
「なるほど、、、」
「そして、口金を型の中へしっかりと差し込んでから、ギューっと」
母様の絞った生地が、ニューッと型に流れ込んだ。
続けて、三個流し込んでいるのを見た。
「もう大丈夫だと思う。してみるね」
今度は、ぼくが流し込むのを、母様が見守る。
あれ?姉様まで横に来た。
姉様、、、この作業に慣れてるなら、ぼくに構わず、どんどん絞って欲しいんだけど。
手に絞り袋を持ち、口金を型に添えて、少し力を入れる。
思ったよりも柔らかい感触。
口金から生地がニュッと出て来た。
直ぐに、二分の一になったから、力を抜いて持ち上げる。
「あら、上手じゃない!!」
母様が、声を上げた。
いや、まだ一つ目、、、。
ぼくは顔を上げず、次に取り掛かる。
ニュッ、ニュッ、ニュッ、おお!
これ楽しい。
「ベンジャミン、直ぐに慣れたわね。私も頑張るわ」
姉様は、やっと元の場所に戻って、置かれた型に、生地を流し込み始めた。
調理場に静寂が訪れる。
全員で流し込み作業に集中。
だけど、直ぐに静寂は終わる。
作業人数が多いから、百二十個の型に流し終えるまで、五分しか掛からなかった。
手の空いた人が、生地の入った型を大きな天板に並べていく。
全て並べ終えると天板六枚分になった。
それを予熱したオーブンに、マートンとヨゼフが手早く入れていく。
最後に扉をパタンと閉めると、拍手が起こった。
ぼくも拍手する。
母様も姉様も。
みんなで、集中して作業をしたから、予想よりもかなり早くオーブンに入れることが出来た。
「さあ、後は焼き上がりを待つだけですね。よし、皆は持ち場へ戻ってくれ!お疲れ様」
ベーカーは、もう次の指示を出した。
ぼくたちは、これで終わりだけど、料理人の方は、まだ仕事が続く。
手伝ってもらえて本当に助かった。
ぼくは感謝の気持ちで胸がいっぱい。
「皆さん、ご協力ありがとうございました」
大きな声で、お礼を伝える。
「どういたしまして、中々こんな機会はありませんから、楽しかったですよ」
ベーカーは、笑顔で答えてくれた。
マートンとヨゼフは、カッコよく片手を上げて、奥の調理台へと移動した。
セレナとリリーは、目礼をしてから、ナイフを持って、根菜の皮をむき始める。
料理長も奥のコンロが並ぶエリアへ、戻って行った。
「ベンジャミン、良かったわね」
姉様は、ぼくの肩を叩いた。
「うううん、みんなが手伝ってくれなかったら、絶対、間に合わなかったと思う。本当に感謝しかない」
「そうね。皆さんお仕事の途中なのに、嫌な顔もせずに手伝ってくれて、良かったわね」
母様は、相槌を打ってくれた。
「姉様と母様にも感謝しているよ」
ぼくの言葉を聞いて、母様は後ろを向いた。
どうしたんだろう?
「ベンジャミンの言葉に感動したみたいよ」
姉様がこっそりと耳打ちしてくれた。
そうか、母様にお礼の気持ちを伝えたのは初めてかも。
「焼き上がるまで、お茶でもどうぞ」
リリーが、グラスに冷たい紅茶を入れて持って来てくれた。
一緒に置かれた小さなお皿には、ハートのチョコレートが三粒乗っていた。
「リリー、ありがとうございます」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ぼくと母様と姉様はお礼を言う。
「どういたしまして」と、リリーはハニカミながら、去っていった。
「お母様、ベンジャミン、ちょっと極秘のお話があるのだけど、、、」
突然、姉様が小声で僕たちに顔を近付けて来た。
「殿下が言われていた重要なお話のこと?」
母様が問う。
「そうなの。絶対口外しないで欲しいのだけど、、、」
姉様はそう言うと、母様の耳にヒソヒソと何かを話した。
目に見えて、母様の顔色がクルクルと変わっていく。
最初は驚いて、次は戸惑って、最後はまた難しい顔。
一体、何を話したのかな。
姉様が話し終わって離れると、母様は言った。
「殿下に謹んでお受けしますと伝えてくれる?」
「ありがとう、お母様。私も時々、様子を見にルイス様に連れて行ってもらうから」
「ええ、そうして貰えると助かるわ」
ん?何処に行くの?
とても気になるのだけど、、、。
「ベンジャミンにも教えてあげる」
心の声が届いたのか、姉様はぼくの側にやって来て囁き始めた。
「あのね、アズールとマーゴット様に赤ちゃんが出来たのよ」
「え、ええええええ!?」
「ちょっと、声を出さないでよ。目立つでしょう!」
「あ、ごめん。だけど、何で秘密なの?」
ぼくが質問すると、姉様が固まった。
口がパックリ開いていて、面白い。
「ごめん、聞いたらダメだった?」
「うーん、違うのよ。上手に説明出来ないなぁと思って、ごめん」
「ふふふっ」
ぼくたちのやり取りを見守っていた母様が笑い出す。
「ベンジャミン、ちょっと耳を貸してくれる?」
母様は、ぼくを手招きする。
「結婚式をする前に赤ちゃんが出来たから、みんなを驚かすために秘密にしておくのよ。 それとね、女の人は赤ちゃんが出来ると急に体調が悪くなったり、それが続いたりすることも良くあるの。だから、周りに気を使わなくて良いように、王女殿下をベルカノン領の我が家で預かって欲しいって殿下からお願いされたのよ」
「そうなの!?」
「ええ、勿論引き受けることにしたわよ」
「やったー!!」
王女さまのお腹に赤ちゃん!!
スゴイなぁ。
ぼくは、再び、母様に小声で話す。
「赤ちゃんが産まれたら、ぼく、お兄ちゃんだよね」
母様は、ぼくを見て頷く。
「お母様、上手に説明してくれてありがとう」
姉様が母様に言った。
「どういたしまして。ただ、殿下は内心ガッカリしたかも知れないわね」
母様はクスクスと笑う。
何でガッカリ?
ぼくは、姉様に視線を送った。
姉様が、ぼくに耳打ちする。
「私とルイス様の結婚式は延期になったの。先にアズールとマーゴット様の結婚式をしないといけなくなったから、、、」
あー、それは、、、。
「ルイス兄様、可哀想」
「お母様達の持つルイス様へのイメージは、一体何なの?」
「だって、、、」
「エリーゼ、殿下はいつもあなたしか見ていないもの、フフフ」
「そ、そう?そうかも知れないけれど、ルイス様は恨み言の一つも言わないのよ。“アズ、バカヤロウ”くらい言えばいいのに」
姉様は、不満をぶち撒く。
「殿下は、臣下であるアズールのことも大切にしているのよ。エリーゼ、余計なことは言わないようにね」
「は〜い。実はルイス様にも、さっきクギを刺されたのよね、エヘヘ」
姉様の発言に、母様が呆れた顔を見せた。
「姉様、ルイス兄様に育てられてない?」
「あー、確かに」
ぼくが、呆れて放った言葉を、姉様はあっさり肯定した。
母様は額に手を当てて、天を仰ぐ。
小声で盛り上がっていたら、「チン!」と言う音が聞こえた。
三人でオーブンの方へ視線を向ける。
料理長が、オーブンを開けて中を覗いた。
「奥様方、上手く焼き上がりました。そちらのテーブルにお持ちします」
ベーカー、マートン、ヨゼフは、天板を二枚ずつ持って、こっちへやって来た。
ふんわりバターとシナモンのいい香りが漂ってくる。
「ベーカー料理長、ベルカノン領に持ち帰る用と、こちらの皆様へ差し入れで置いていく用に分けたいの。清潔なリネンをかけたカゴを二つ用意して下さらない?」
「はい、かしこまりました」
ベーカーが、席を外している間に、マートンとヨーゼフは大きな網を持って来て、テーブルに置いた。
そして、二人は焼き上がったキャロットケーキを型から素早く外していく。
よく見ると布の手袋をしていた。
「ベンジャミン、焼き上がったら、直ぐに型から外して冷やすのよ。そのままにしておくと、型に残った熱で、焦げてしまうこともあるの。あの手袋は火傷しないためにしているのよ」
母様は、ぼくの疑問を説明してくれた。
「それにしてもいい香りですね。自分、キャロットケーキは初めてなので食べるのが楽しみです」
マートンが言った。
「僕も野菜を使ったケーキは初めてッス。美味しかったら、実家のニンジンが嫌いな弟に作ろうかなー」
ヨーゼフも興味津々?
二人は楽しそうに型から外したキャロットケーキを、大きな網の上に美しく並べていく。
型から外したキャロットケーキは、貝の形をしていた。
「カゴをお持ちいたしました!」
真っ白なリネンを掛けた大きなカゴを、ベーカーが二個持って来た。
「カゴには、キャロットケーキの粗熱が取れてから入れた方がいいでしょう。ええっと、今は十七時四十分ですから、あと十分ほど待ちましょう」
「ええ、待つわ。ありがとう」
母様が答えた。
型外しが終わったマートンとヨーゼフは、使い終わった型を抱えて、壁沿いの洗い場に持って行った。
洗い場では、リリーが待ち構えていて、直ぐに洗浄作業を始める。
彼らの流れ作業には無駄が無い。
つい、見惚れてしまう。
「ベンジャミン、結局、着替えなかったわね。夕食パーティーの前に、着替える?それとも今のうちに着替える?」
「うーん、姉様の服はイヤだから、帰ってから着替えるよ」
「そう?可愛い服を着せてみたかったのに残念だわ」
「エリーゼ、、、。あなたは本当にもう」
母様がため息を吐く。
姉様の言う通り、姉様って本当に優等生ではないのかも知れない。
だって、ぼくがいつも聞いている母様のセリフとため息だったから。
だけど、姉様はぼくたち双子より、色々な事が出来る。
それは、努力したからだよね。
ぼくはベンカノン領に帰ったら、レノンに今回のミッションで感じた事を話してみよう。
勿論、レノンがどう感じたのかも知りたい。
王女さまもしばらく一緒に暮らすなら、沢山お喋りしたいな。
ベルファント王国のことを教えてもらおう。
考えただけで、ワクワクして来た!!
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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