21、双子とルイス 18
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
「ベルーナ高原にいるよ。だけど、どうしようか?あそこは樹木も無いし、背の低い草ばかりで、僕らの隠れる場所が無いよね」
僕の方を見ながら、ロイ王太子殿下は言った。
確かに一つ目のリンドウの森は背の高い草の中へ、二つ目のラジーの岩場は岩山の天辺に下ろしてくれたから、何の問題もなかった。だけど、隠れる場所のないところは流石に・・・。
「そこは心配しなくていい。何とかする」
ルイス兄様はキッパリと言い切った。
「アズ、シータ!最短で行くぞ!!」
「はーい!」
「最短ね」
アズ兄様の返事と共に風景が変わった。
――――ルイス兄様のスピード感は一体何なの?早過ぎて目が回りそうなんだけど・・・。
サーッと音を立てて、風が吹き抜けていく。足元には、背の低い草がビッシリと生えていた。秋らしい枯れた色の草。
僕とロイ王太子殿下は草原の凹んだ場所に転移した。分かりやすくいうなら、ちょっと低い落とし穴に落ちた感じ・・・。
屈んだら完全に姿は隠れる。
ルイス兄様は、ここをいつ見つけたんだろう。地形を判別って一瞬で出来るものなの?さっきから、ルイス兄様の行動は僕の想像をはるかに超えていた。
僕の言語力ではそれを見た時の驚きや高揚感を上手く表現するのが難しい。
――――だから、スゴイと言うしかないのだけど・・・。
それはさておき、またここに来てから、三人(ルイス、アズ―ル、シータ)の姿が見えない。三人は気配も完全に消せるから、ここに居るのかどうかも僕には分からない。それは隣にいるロイ王太子殿下も同じらしい。
気を取り直して僕は周囲を観察していく、少し学習したので口を閉じて、ジーっと視線だけを動かす。遠くに見える山が低く見えるのはこの場所が高地だからか・・・。
ベルーナ高原といえば、ここへ至るまでの道のりが険しいことで有名なんだけど『登山が好きな人たちにとっては聖地なのです』と家庭教師から聞いたことがある。
「アズ!仕留めたぞー!」
背後から、ルイス兄様の声がした。僕らはクルリと振り返る。
「・・・・」
「これ、これだよ!!レノン君!スゴイだろう?ベルカウは山みたいに大きいから、なかなか捕えるのが難しいんだよ。ルイスはこんなのを簡単に倒しちゃうからさ~。本当にビックリするよね~」
ロイ王太子殿下は驚きを上手く言葉にした。だけど、僕は驚き過ぎて声が出ない。
――――いや、大きいというか・・・。コレ、小さめの山小屋くらいあるんだけど!!これ邸に送って、大丈夫なの!?
「ロイ王太子殿下、ナイフを下さい」
音もなく突然、アズ兄様が現れた。でも、僕は驚かなかった。
――――慣れって怖い。というかベルカウの迫力が凄すぎる・・・。
ロイ王太子殿下はトートバッグからナイフを取り出した。今回のナイフは刃渡りがかなり長い。
準備をしてくれたマーキュリーは、獲物の大きさとかもちゃんと分かってた上で複数のナイフを用意したみたいだ。そして、ロイ王太子殿下は獲物に合ったナイフを選択して、アズ兄様へ渡していたってことだよね。ロイ王太子殿下もさりげなくスゴイ!!
アズ兄様は刃渡りの長いナイフを手に持って高く飛び上がった。そして、何の迷いもなく、その刃を山のように大きなベルカウの首へグサっと刺す。
――――刃を抜くなり、アズ兄様の姿は忽然と消える。それと同時に大きなベルカウの後ろ足が見えない力で釣り上げられ、頭が下になった。
首からド―ッと音を立てて、夥しい量の血液が流れ落ちていく。あまりに迫力のある絵面で僕は目が釘付けになった・・・。
不意に肩をトンと叩かれて振り返るといつの間にかルイス兄様が立っていた。
「無事に狩りのミッションを終えられて良かったな。これでパーティーが出来るぞ!」
優しく笑っているルイス兄様。
「――――もう満腹だよ・・・」
僕はもう無理と手を振る。
「ハハハ、もう満腹なんて、レノン君は面白いことを言うね!」
ロイ王太子殿下が豪快に笑った。
――――――――
あり得ないスピードで狩りは終わった。
僕は獲物が走っている姿のひとつも見てない。
「ルイス兄様はどうやって獲物を見つけたの?僕、全然、獲物を見てないんだけど・・・」
「それは・・・、確実な方がいいだろう?寝ているヤツを狙っただけだ」
「寝ている奴!?」
ルイス兄様はバツが悪そうに僕から視線をズラした・・・。
「ルイス、君はもしかして・・・、獲物の巣が分かるのか?」
ロイ王太子殿下は真顔でルイス兄様に尋ねる。
「ああ、地中でもどこでも見えるからな」
「魔術師って、怖っ!――――絶対、敵にしたくない!!」
「いや、これくらい普通・・・、じゃないのか?」
「ルイスのいう普通って、世間一般の普通じゃないから、絶対!!」
ロイ王太子殿下に指摘されて、ルイス兄様は苦笑いを浮かべている。
「ロイ兄様!ロープを下さい」
絶妙のタイミングでシータが現れた。
「はい、これが最後のロープだよ」
ロイ王太子殿下はトートバッグから、グルグル巻きにされた長ーいロープを取り出す。
――――どう見ても、これはベルカウ用・・・。
シータはそれをポイっと宙へ無造作に投げる。は空中をニョロニョロと蛇行しながら飛んで行き、ベルカウにグルグルと巻き付いて勝手に結び目も出来ていく。
「よし、邸に転送するぞ」
ルイス兄様が腕を軽く振ると、ベルカウの姿は消えた。
「次は調理だな。戻るか」
「はい、ルイス兄様お願いし・・・」
僕が言い終える前に風景は切り替わり、見覚えのあるベルカノン邸の西館入口に戻って来た。
ちょうど厨房の料理人達が建物から出てきて、カイザーラビットを運ぼうとしているところだった・・・。
僕はここに戻って初めていななき鳥の姿を知る。茶色の丸い体から、長い首と足が伸びていた。 一羽でも結構大きい。五羽重なると結構な山になっていた。
隣にはいななき鳥、そのまた隣にはベルカウも積み上がっていて、三つの山になっている。
「ルイス兄様、この三つの山だけど、パーティーまでに調理を終わらせるのは無理じゃない?」
「レノン、別に全てを今日使わなくてもいいんじゃないか?オレ達が食べる分以外はどうしたい?命を貰ったんだ。真剣に考えろよ!」
ルイス兄様の話にドキっとした。僕たちの都合で殺してしまったんだから、責任を持たないといけない・・・。
「はい、取り敢えず、調理場に行って、獲物を捌いたらどのくらいの量になるのかを確認して来ます」
「ああ、行ってこい!オレはここにいるから」
僕は獲物の山の向かい側にある調理場のドアを押して入る。中を覗いてみると、料理人たちが忙しなく働いていた。
「すみません!質問が有ります」
勇気を出して、大きな声で叫んだ。
すると、奥から長いコック帽子を被った人が出てきた。
「レノン様、料理長のピエールです。どうされましたか?」
「料理長、僕達は狩りをして来ました。だけど、想像していたよりも獲物が大きくて・・・。今夜のパーティーの食材には多過ぎるよね?」
僕はドアを開いて、獲物三種の山を料理長に見せる。
想像していなかった量に驚いた料理長は目を見開く。
「これだけあったら、祭りが開けますよ」
――――だよね。僕も何となく、それくらいの量じゃないかと思ってた・・・。
「今日使う分以外は、誰かにあげようと思うのだけど、お肉が痛むかな?」
「そうですねぇ~、内臓をキレイに取り除いて切り分ければ、直ぐには痛みませんよ。お肉を孤児院や病院へ差し上げたらとても喜ばれると思います。あとは塩漬けにして、災害時用の備蓄にしても良いかもしれません」
――――なるほど、いいアイデアだ!!
「では、孤児院や病院へ届けるのはマーキュリーに頼むとして、料理長にはお裾分け用のお肉の下処理と備蓄に回す分の塩漬け作業をお願いしても良いですか?」
「はい、あの量の肉を捌いていいのなら・・・、新人の練習に持ってこいです。ありがとうございます」
「こちらこそ、色々教えてくれてありがとう」
僕はしっかりお礼を言ってから、ルイス兄様のところへ戻った。
――――――――
ルイス兄様は、大きな山の前で、マーキュリーと立ち話をしているところだった。
「ただいま!料理長に聞いて来ました」
「ああ、おかえり。それで、コレはどうするんだ?」
ルイス兄様は、獲物の山を指差した。
「今日使う分以外は・・・、料理長にお願いして内臓を取り除いて切り分けて貰うことにしました。それはベルカノン領の孤児院と病院へ配ります。ただ、それでもお肉は残るだろうということで、あとは塩漬けにして災害時用の備蓄にします」
「レノン坊ちゃん、それはいいお考えですね」
「マーキュリー、殆ど料理長のアイデアだよ」
「では、わたくしは孤児院と病院にお肉を届ける手配をいたしましょう。新鮮なうちに運んだ方が喜ばれますからね」
「うん、よろしくお願いします!」
「では、王子殿下。打ち合わせどおりに」
「ああ、宜しく頼む」
マーキュリーはルイス兄様に一礼してから、去っていった。
「レノン、なかなか良いアイデアだった。それで肉はいいとして、この皮と羽根と毛皮はどうする?」
――――え、皮と羽根と毛皮!?
僕がポカーンとしていたら、ルイス兄様は僕の顔を右手で掴んで、両頬をムニムニと押す。
「あ、良いなぁ~!」
後ろから、シータが現れた。
ルイス兄様は反対の左手でシータの両頬を掴んで、同じようにムニムニっと押した。
――――シータ、とっても嬉しそう。
「殿下、何やってんだよ」
アズ兄様とロイ王太子殿下が獲物の山の裏から出て来る。
「いや、肉の行き先は決まったんだが、皮と羽根と毛皮はどうしようかと話していたところだ」
「いやいやいや、そうじゃなくて・・・、殿下、何で二人の顔を掴んでんの?」
アズ兄様はルイス兄様に問う。
「モチモチしていそうだったから」
「はっ?」
「ほら、お前たちもしてみるか?」
ルイス兄様は僕たちから手を離した。
ロイ王太子殿下が、僕の顔に手を伸ばしてくる。
――――コレって、僕、されるがままにしないといけないパターン?
ムニムニムニムニ・・・。
「うっわー!?モチモチだねぇ。楽しいよ!」
「アズ兄ちゃんもしてみる?」
シータは自分の頬を差し出した。次の瞬間、アズ兄様はガシッとシータの顔を掴んだ。
「イタタタ!!違う!違うって!!」
シータは腕を振り回して抵抗する。
「おい、アズ!ヤメろって!」
見兼ねて、ルイス兄様が止めに入った。
「アズ兄ちゃん、最悪!!」
やっと手を離してもらったシータは頬を摩る。赤くなっていて、見るからに痛そうだった。
「アズ、やり過ぎだ。おい、シータ大丈夫か?」
ルイス兄様はシータの顔を心配そうに覗き込む。
「ルイスって、何だかんだ優しいよね」
ロイ王太子殿下が、僕にコッソリと言う。僕は力一杯、頷いた。
結局、皮と羽根と毛皮を何に使うのかはルイス兄様からの宿題になった。後日、答えを聞くからな!って・・・。
狩りって、獲物を捕まえて終わりじゃないんだね。
今回は沢山、獲りすぎた気もするけど、それを色々な人に分けて、食べてもらえるのは嬉しい。――――で、皮と羽根と毛皮はどうしようかなぁ・・・。
――――――――
――――現在の時刻は十六時五分。
この後、下ごしらえの終わったお肉と食材が揃ったら、中庭に移動して料理を始める。
その前に、僕たちは二十分ほど、休憩を取ることにした。
獲物の山の前じゃ落ち着かないということで、みんなでロビーへ移動。椅子に腰掛けたら、すぐに侍女が冷たい飲み物を持って来てくれた。
僕は冷たいレモネードを一口飲み、ベンジャミン達はどうしているかなぁ~と考える。
ここで隣に座っていたルイス兄様が急に立ち上がった。
「レノン、済まないが、オレはしばらく席を外す」
「はい」
ルイス兄様の姿は一瞬で消え去る。
姉様にでも呼ばれたのかなぁ~と思いながら、僕はレモネードをもう一口飲んだ。
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