14、双子とルイス 11
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
「父様に親友!?」
ぼくは、つい口走ってしまった。すると、それを聞いたニコルさんが、大きな声で笑い始める。
「ハハハ、ルーヴェンスと違って、元気が良さそうな坊ちゃんだ。何の勉強が好きかい?」
「あー、お勉強はあまり好きじゃないです」
まさか、好きな勉強を聞かれるなんて想像もしてなかったから、ぼくはドキッとした。
「それは困ったなぁー。この街の人々から頼りにされる人になってくれないと~」
ニコルさんは、戯けた表情と声で、ぼくに言う。
――――う~ん、どう答えたら良いんだろう・・・。
「ちょっと、ニコル!ベンジャミン坊ちゃまになんて事を言うの!!」
アンさんは、ニコルさんの肩をバシっと叩いた。
「ハハハ、ごめんよ。ルーヴェンスに似ているから、つい揶揄ってしまった。それで、朝早くから、そちらの麗しいお二方まで従えて、どうしたんだい?」
「ええっと、ニコル、ちょっと待ってくれる?先にベンジャミン坊ちゃま方を奥の部屋へご案内しましょう」
「分かったよ」
「それでは皆様、奥の部屋へどうぞ。私が購入者を確認してくる間、応接室でお茶でも飲んで待っていて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
ぼくはアンさんにお礼を言った。アンさんはニコルさんに言伝をして、先に建物の中へ入って行った。
「では、ここからは私が案内します。こちらへどうぞ」
ニコルさんは、ぼくたちを店に招き入れた。
店内は文房具がキレイに陳列されていて、筆記具やノート、レターセット、鉛筆立て、大きな額縁など、面白そうなものが沢山あった。ぼく達はそこを通り過ぎて、お店の裏方へ入る扉を開き、更にその奥へと進む。
――――辿り着いたのは、フカフカのソファーが置いてある部屋だった。
「では、こちらへお掛けください。今、お茶を準備させますね」
ニコルさんはそういうと部屋から出て行った。壁に掛けられた時計は九時五分を指していた。
「宰相の親友に会うなんて思わなかったな。弱点でも聞いておこうか」
「アズさま、それはちょっと・・・。ベンジャミンさん、インクを譲ってくださる方がいらっしゃると良いですね」
「はい、お願いをしに行かないといけないのは少し不安ですけど、頑張ります」
「ええ、私も一緒にお願いしますから、心配しなくても大丈夫ですよ」
王女さまは、ぼくにガッツポーズをしてみせる。――――とても心強い気分になった。
コンコンとノックの音が響く。
「はい」
ぼくが答えた。一様、リーダーだから・・・。
「失礼いたします」
ティーセットを持った若い男性が入ってきた。手慣れた様子で茶器を用意して、お茶を三人分注ぐ。
「ありがとうございます」
王女さまが、柔らかな笑顔で目線を合わせてお礼を言うと、男性は手で口元を覆い、一礼してから部屋を出て行った。――――あの人、王女様のファンになったかも。
アズ兄様は何も気にしていないのか、ぼくがチラリと確認すると紅茶に口を付けていた。うーん、やっぱり雑なアズ兄様に、美人で心優しい王女さまは勿体ないと思うんだけど・・・。でも、ぼくがそんな事を言う権利なんて無いから、黙っておこう。アズ兄様を怒らせたら結構、怖そうだし。
――――――――
時刻は九時半。
コンコンと、ノックの音がした。
「はい」
また皆を代表して、ぼくが返事をした。ドアを開いて、ニコルさんが入って来る。
「先程は失礼いたしました。ベルファント王国のマーゴット王女殿下、並びにバッファエル公爵家のアズール様、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
ニコルさんは深々と礼をした。多分、アンさんに二人のことを聞いたのだろう。
「店長、今日の俺たちはベンジャミンの助っ人なので、そんなに畏まらないで下さい」
アズ兄様が、ニコルさんへ声を掛ける。
「はい、ありがとうございます。母から『虹のしずく』の件も聞きました。今、購入者リストを確認しています。後ほどご購入いただいたお客様のところへ向かう際は私も同行させていただきます」
ニコルさんはそこまで話してから、ソファーの向かい側へ座った。
「ニコルさん、ありがとうございます」
ぼくはお礼を言う。
「こちらこそ、直ぐにご準備出来ず、申し訳ないです」
「ニコルさん、先ほど『虹のしずく』はホロロ帝国から来ているとアンさんに教えていただきました。その珍しいインクは何が原料なのでしょうか?」
王女さまが尋ねる。
「王女殿下、あのインクは製造方法も材料も極秘とされていまして、一様、伝え聞いてはおりますが、勝手にお答え出来ないのです。ただ、一つ言えることは特に怪しいものは使われておりません」
「それは植物や鉱物を使って作っていると言う事ですか?」
「まぁ、そういう類だとお考え下さい。夜になると虹色に光る不思議なインクですから、怪しい原料を使っているのでは無いかと疑われることも良くあります」
「夜に光る?」
「はい、アズール様。夜になると筆跡が紙から浮き上がり、虹色に輝くのです」
「日中は?」
「普段は黄色いインクですので読みづらいですよ。そう言う意味で秘密の手紙などに最適とされるインクです」
ニコルさんはニヤっと笑った。秘密の手紙かぁ・・・。
「ベンジャミン坊ちゃん、ルーヴェンスは元気にしていますか?」
ぼーっと考え事をしていたら、ニコルさんが話しかけて来た。
「父ですか?ぼくは一年以上会っていませんが、多分、元気だと思います」
全然、会ってないから、父様が元気なのかどうかなんて分かんないよ。
「お手紙を書いたりはしないのですか?」
ニコルさんは、ぼくを覗き込む。
「書いた事が無いです」
ぼくは正直に答えた。と言うか、手紙を書くと言う選択肢が僕の頭の中に今の今まで無かったんだけど。
「おススメの便箋がありますよ。たまにはいかがですか?」
あ、おすすめの便箋!!それもミッションにあったんだった。咄嗟にアズ兄様の顔を見たら、軽く頷いてくれた。
「はい、オススメの便箋を見てみたいです」
「では、便箋コーナーが有る店内へ行ってみませんか?」
「はい」
ぼくは、ニコルさんと一緒にお店の方に移動する。アズ兄様と王女さまは、もう少しお茶を楽しむからと応接室に残った。
――――――――
ニコルさんは天井までレターセットが色別に並べられている棚の前に立った。
「こちらは分かり易いよう色別の陳列にしてありますが、一つ一つを取り出すと、また個性豊かな柄や型押しが施されているんですよ。紙の質感もそれぞれ違います。どうぞ、手に取ってみて下さい」
そう言うと、ニコルさんは、ぼくの後ろに下がった。じーっと棚を見上げる。左端には黒い便箋が並び、段々と色が薄くなって行って、右端は真っ白な便箋。
――――何処から手をつけたら良いのか分からない。
とりあえず、真ん中あたりにあったグリーンの便箋を棚から引き出した。上の部分は植物の柄でグリーンだけど、文字を書くところは白い。そっか、紙全てがこの色と言うわけではないのか・・・。
――――どうしよう、種類が多過ぎる。
「お悩みですか?そうですね、送ろうと思う相手の好きな色や好きな物を思い浮かべてみるのはどうでしょう」
ニコルさんは、背後から助言をくれた。このミッションは父様からだから、父様の好きな色か・・・。
――――残念ながら、ぼくは知らない。あっ、そうだ!
「ニコルさん、父の好きな色を知っていますか?」
振り返って、ニコルさんに尋ねた。
「あら、頼っていただけるなんて、光栄です。ルーヴェンスは黒が好きですよ。昔は長い銀髪をいつも黒いリボンで束ねていましたから」
そっかー!黒が好きなんだ、父様。――――知らなかった~。
「では、黒い便箋の中から選びます」
「ええ、黒い便箋に『虹のしずく』でお手紙を書けば、秘密のお手紙感が増しますね!」
ニコルさんの言葉に、ぼくは首を傾げる。
「黒の便箋に黄色のインクだと日中は見えなくて読めませんからね。夜、真っ黒な紙の上へ浮かび上がった文字をこっそり読むのって、――――秘密っぽいでしょう?」
うわ!何それー!?超カッコいい!!
「ふふふ、坊ちゃんいい顔しますね」
ニコルさんが笑った。
「ぼく、秘密のお手紙を書きたいです!!黒い便箋でカッコいいヤツはありますか?」
「ええ、良いのがありますよ」
ニコルさんは棚の上の方から、三種類の便箋を取り出した。どれも紙自体が真っ黒。不思議な紋様が縁に型押しされているものと、縁取りに二本の金色のラインが入ったものと、銀の妖精の絵が大きく右上に描かれているものだった。ぼくは迷わず、不思議な紋様が縁に型押しされている真っ黒な便箋を買おうと決めた。
――――怪しげな方が秘密の手紙っぽい。
「ニコルさん、これにします」
ぼくは買おうと決めた便箋を指差した。
「お!なかなか良いですね。秘密感たっぷりです。封筒はお揃いの物がこちらにあります。封蝋はどうしますか?スタンプも秘密めいたシリーズがありますよー」
封蝋!?あのロウを温めて押すヤツだよね。ミッションとは関係ないけど、手紙を出すのに必要なら買ってもいいよね。
「見せて下さい」
「はい、こちらへどうぞ」
ぼくは、レターセットを選んだら、父様に手紙を書きたくて堪らなくなった。結局、銀色のロウと、一角獣のスタンプも一緒に買うと決めた。
ぼくって案外、ニコルさんみたいに商売上手な人からオススメされたら、簡単に買ってしまうタチなのかも知れない。
――――気をつけなければ・・・。
――――――――
ぼくが、応接室に戻ると壁掛け時計の時刻は十時二十五分を指していた。こんなに時間が掛かるって、思わなかったなぁ。
―――――午前中にミッションを終えるのは難しいかも知れない。
それはそうと、ぼくが便箋を選んでいる間にお店が開店した。流石、人気店なだけあって、直ぐに多くのお客さんが雪崩れ込んで来て、賑やかになった。先に便箋を見せてもらって助かった。今からだと、ゆっくりは見れなかったと思う。
「ベンジャミン、良いヤツが見つかったか?」
「うん、カッコいい便箋が沢山あったよ」
「宰相に手紙を書くのか?」
「絶対書く!!」
ハハハ、アズ兄様は勢いよく笑った。ぼくの何がそんなに面白かったのか、よく分からない。
「ベンジャミン、宰相は絶対泣いて喜ぶぞ!どんどん出してやれよ!!」
「父様が喜ぶ?」
「ああ、手紙は嬉しいものなんだよ」
「あら、そうなのですか?」
「その反応からすると、マーゴットも手紙は余り書かない派か?」
「そうですね。主に伝達用です」
「たまには陛下に出してやれ。絶対喜ぶから」
アズ兄様の言葉に、王女さまは腕を組んで、うーんと考え込む。そして、こう言った。
「話すことが無い場合は、何を書いたら良いのでしょう?」
「マーゴット、辛辣だな」
ぼくもアズ兄様の意見に同意した。
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