13、双子とルイス 10
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
時刻は七時半。車窓から見える景色は、まだ薄暗い。
――――馬車の中で、王女さまとぼくは、ある話題で盛り上がっていた。
「最初から重い剣を持とうとするのは、ダメなのです。少しずつ鍛えて筋肉が付いてから、重くしないと腕を痛めます」
剣を習いたいと話したぼくに、王女さまが剣士としての心得や習得するにあたっての注意事項を話し始めたからだ。まさか、隣国の王女さまが剣の達人だなんて思わなかった。王族って、剣が使えて当たり前なの?しかも、王女さまは二刀流らしい。
「俺、マーゴットと剣で戦ったら勝てる気がしないよ。剣すじが綺麗で、実は戦闘中に見惚れたことがある」
アズ兄様は、ぼくの向かいで、王女さまに言った。
「そんなに褒めないで。わたくしは、アズ様の魔法の方が凄いと思っているのに」
王女さまはアズ兄様からの褒め言葉に反論した。アズ兄様と二人だけの会話になると、王女さまはいつもより気軽な感じで話している。アズ兄様と本当に仲が良いんだなぁ〜。
それにぼくみたいな子供に対しても、王女さまは全然威張ったりしない。王女さまって、かっこいい。
そこで、ふと疑問が浮かんだ。
「ねぇ、ぼくはアズ兄様が、魔術を使うところを見たことがないんだけど、アズ兄様って、そんなに強いの?」
「ベンジャミン、俺は主であるルイスの指令を受けた時にしか魔術は使わない。俺にとって、魔術は仕事の道具で、私用で使う事は殆ど無いんだよ。今だって、ゆっくり馬車で移動しているだろう?こういうのが大切なんだよ」
そっかー、普段は使わないんだ、残念。
「アズ兄様達って、いつもは馬車で移動しないの?」
「任務の時は人目を憚って移動するからな」
「確かに最近はアズ様に転移魔術で連れて行ってもらう事が多くなりましたね」
王女さまは、ふふふと笑う。
「その前は、どうしていたの?」
「駿馬で移動していた。だけど、遠方に行くなら、数回、馬を乗り換えないと行けないんだ。それが案外目立つし、手配も他の部署に頼んだりと、そのまぁ、、、色々面倒になって、今は殆ど転移魔術で任務先に飛んでいる」
「転移魔術って、何で移動出来るの?」
ぼくは魔術のことを全く知らないから、疑問をそのまま質問した。
「何でって・・・。そう聞かれると難しいな」
アズ兄様は顎に手を置いて、考え込む。ぼくの質問って、そんなに難しかったのかな?
「ベンジャミンくん、わたくしも魔術の原理を全く理解出来てないので、同志です!!どうして、一瞬で違う場所に行けるのか、本当に不思議でなりません」
王女さまは、ぼくに優しい。
アズ兄様は、しばらくすると急に声を上げた。
「よし!考えたぞ。転移魔術はな、簡単に言うなら、ドアを開くんだ。今いるところから、これから行く場所に通じるドアを開いて入る。そんな感じだ。分かるか?」
アズ兄様、ごめん・・・。
「全くわからないよ」
「わたくしも、それでは分かりません。アズ様」
ぼくと王女さまは、首を捻る。
「うーん、ダメか!!俺、何かを説明とか解説したりすることに結構自信があったんだけどなぁ。ベンジャミン、今度シータに聞いてみろ。上手く分かるように説明してくれるから」
まさか、アズ兄様がシータに丸投げするとは思わなかった。
「何で、シータなの?」
「俺に言わせるなよ。アイツは、バッファエル公爵家で一番優秀なんだよ」
「そうなの!?」
あのシータが???
「ああ、アイツはこの国の次期王宮筆頭魔術師に就任することが、既に決まっているんだ」
「・・・・・・」
「おい、口が空いてるぞ」
アズ兄様は、ぼくを見て笑った。
いや、シータって、僕たちより一つ年上なだけなのに、もう将来の仕事が決まっているって、スゴくない?
帰ったらシータへどうやって次期王宮筆頭魔術師に決まったのかを聞こう。
馬車はルブラン文具店の前に到着した。
時刻は八時十五分。外は霧も晴れ、柔らかな朝陽が降り注いでいた。
ルブラン文具店は、街で一番人気のあるメイプル通りに面している。その通りには、オシャレな雑貨店、高級な食器店、上質な洋装店も多く立ち並び、日中は多くの人が行き交う。
「ここは可愛い通りですね」
馬車のステップを降りながら王女さまが呟く。ぼくも石畳に降り立ち、辺りを見渡してみた。確かに温かみのある檸檬色や桃色、水色の建物が通りに沿って立ち並んで居る。今まで建物に興味を持ったことがなかったから、全然知らなかった。
ベルカノンの街ってこんなに美しかったのか・・・。
街を通りに沿って植えられたメイプルの葉っぱが紅葉していて、とても綺麗だった。空気もツンと冷たくて気持ちいい。
「良い季節だな」
アズ兄様が街路樹を見上げながら呟いた。
「おはようございます。ベルカノン家のお坊ちゃま、いらっしゃいませ」
背後から、穏やかな声が聞こえて来る。
振り返ると頭のてっぺんで真っ白な髪をふんわりとお団子にした、丸メガネのおばあさまが立っていた。彼女は目元に皺を寄せて笑っている。
「おはようございます。ベルカノン家のベンジャミンです」
「私は、ルブラン文具店オーナーのアンと申します。随分と早いお時間にいらっしゃいましたね。何か急ぎのご依頼でしょうか?」
アンさんは首を傾げながら、ぼくに問いかけた。
「はい、オススメの便箋と“虹のしずく“というインクを、父の使いで買いに来ました」
ぼくの話をゆっくりと頷きながら聞いていたアンさん。『虹のしずく』という言葉を聞いた途端、表情が固まる。
そして一度、瞼を伏せて何かを考えてから、ぼくにこう尋ねた。
「閣下は『虹のしずく』を急ぎでご入用なのでしょうか?」
「はい、出来れば今買って帰りたいのですが、難しいですか?」
やっぱり、入手困難なのかな?
「単刀直入にお答えしますとその商品はいつ手に入るかも分かりません。あのインクを売りに来る商人は定期的に来るわけではございませんので」
申し訳なさそうな表情で、アンさんは答える。
「すみません。わたくしはベンジャミンくんの知人で、ベルファント王国の王女マーゴットと申します。質問をしてもよろしいでしょうか?」
王女さまが突然名乗ったので、アンさんは目を見開いて驚いた。
「まぁ!隣国の王女殿下でいらっしゃいましたのね。直ぐに気付かず、申し訳ございません。質問とはどのようなことでしょうか?」
「その『虹のしずく』は、どちらで製造されているのですか」
「あのインクはホロロ帝国から来ているのですよ。ですので、なかなか手に入らなくて、そうですねぇ〜」
アンさんは腕を組んで、また何か考えている。
「おい、どうする?コレって、在庫切れで買えなかった場合は、仕方が無いから免除にするっていうようなルールはないのか」
「そんなルールは無かったと思う」
ぼくが正直に答えると、アズ兄様が頭を抱える。
「あのう、どうしてもお急ぎでしたら、前回お買い上げになられた方に譲っていただけないかと聞いてみましょうか?」
「それは・・・」
ぼくは咄嗟に何と言っていいのか分からなくて、言葉が続かなかった。譲って貰えるかどうかをアンさんが顧客に聞いてくれる?そんなことをして貰っていいのかな。いや、ここでアンさんに任せてしまったら、ぼくのミッションじゃなくなっちゃう。
「ぼくも手伝いたいです」
口から出た言葉に、自分で驚いた。ぼくに、何が出来るというのだろう。でも、アンさんは、ぼくの言葉をちゃんと受け止めてくれた。
「ええ、ベンジャミン坊ちゃまに手伝っていただけるのなら、先方へもお願いし易いですわね」
「ベンジャミン、俺たちも手伝うからな。アンさん、申し遅れましたが、俺はバッファエル公爵家の長男アズールです。初めまして」
「あら、魔術使いで有名なバッファエル公爵家のご子息様でしたのね。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
アンさんは、アズ兄様に会釈をした。
「アンさん、マーゴットは俺の婚約者なので、今一緒に居る次第で」
「あら、そういうことでしたのね。おめでとう御座います。ベルカノン領へお二人で来て下さり、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、この街に来れてよかったです。それにしても、この通りはとても素敵ですね」
王女さまは街路樹を見渡しながら、アンさんに語り掛ける。
「ええ、自然が豊かなベルカノン領で、一番賑やかで人気のある通りです。ここのに来れば何でも揃うとベルカノン領の人々は良く言いますのよ」
ふふふと、アンさんが笑う。
釣られて、王女さまも笑っている。
その時、まだcloseの札が付いている店内から、父様と同じくらいの年齢に見える男の人が出て来た。
「母さん、こんなところで立ち話?」
「あら、私ったら、中へご案内もせず、つい立ち話を、、、。ごめんなさいね。店長、ベルカノン家のベンジャミン坊ちゃまが来て下さったのよ」
「ベンジャミン坊ちゃんだって!?あー、しばらく会わないうちに大きくなったね。私は店長のニコルだよ。君の父上とは親友なんだ」
目の前のニコルさんは、ぼくの頭に手を伸ばしグルグルと撫でて来た。
えーっ、父様って、ベルカノン領に親友がいたの?
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