12、双子とルイス 9
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
竿をスタンドに置き、ロゼ王太子妃殿下は食事の入ったバスケットを両手で左右に開く。左側にはチキンと野菜のサンドイッチ、ブドウ、アイスティーのボトル。右側にはおしぼり、カトラリー類、布に包まれたボトル(温かい紅茶)と紙袋。――――紙袋の中を確認するとチョコチップクッキーが入っていた。
「あら、急にお願いしたのに随分と豪華ね」
「僕、ベルカノン家のサンドイッチが大好きなんだ。自家製のマヨネーズがとても美味しいんだよ」
ロイ王太子殿下は、サンドイッチを指差しながら言った。
「それは楽しみね。では、まず、手を拭きましょう。ロイ、レノン君、シータ君もね」
ロゼ王太子妃殿下は、僕たちにおしぼりを配る。その後、四人で、朝ごはんを食べた。
僕はこのサンドイッチのマヨネーズがそんなに特別なものとは知らなかった。他の家のマヨネーズって、どんな味なんだろう?いつもよりも味わいながらサンドイッチを食べる。その間もウキが沈むことは無かった。
――――時刻は十時を回った。
辺りはすっかり明るくなった。でも、集中している僕らは口を開かない。湖畔はとても静かだ。
僕は水筒から温かい紅茶をマグカップに注いで、クッキーと一緒にみんなへ配ることにした。
「レノン君ありがとう。なかなか釣れないね。よくよく考えたら僕、金の魚の大きさも形も知らないんだよね」
ロイ王太子殿下はマグカップを受け取りながら、ボヤく。
「小さな魚が泳いでいる姿は見えるけど、金色じゃないのよね~。、もっと深いところにいるのかも知れないわ。ロイ、思い切って、釣り糸を長くしてみようかしら?」
ロゼ王太子妃殿下は僕を挟んで、ロイ王太子殿下に聞く。僕は話を黙って聞きながら、ロゼ王太子妃殿下にもマグカップを渡した。
「レノン君、ありがとう。金の魚、早く釣り上げたいわね!でも、釣りって焦ると釣れないってジンクスがあるのよね~」
ロゼ王太子妃殿下は、僕にウインクをする。――――ちょっと、ドキっとした。
「シータ、どうぞ」
僕はシータにも、マグカップを渡した。
「レノン、ありがとー。あのね、ボクは最後の砦だから、まだ様子を窺っておく~」
ニコニコしながら、また僕には理解出来ない事を言う。だけど、シータが最後に何かしてくれるなら、頼りになりそうだ。
結局、ロゼ王太子妃殿下は釣り糸を長めにしたものの、何も釣れないまま時間だけが過ぎて行った。
――――時刻はとうとう、十一時を回る。
「そろそろ、ボクの登場じゃない?」
岩に腰掛けている僕に、シータが話し掛けて来た。
「登場って、どういうこと?」
「金の魚のことを聞いてみるんだ!」
「誰に?」
僕が眉間に皺を寄せると、シータは言った。
「勿論、妖精だよ」
「――――まさか、呼べるの?」
「呼べるよ」
「何で最初から呼ばないの!!」
僕は、思わず立ち上がった。――――ロイ王太子殿下とロイ王太子妃殿下がこんなに頑張ってくれているのに・・・、今頃になって何を言い出すんだよ、シータ!!
僕は王太子ご夫妻への申し訳なさを心の声で叫んだ。シータは絶対、聞いていた癖に涼しい顔でやり過ごして、こう言った。
「ボクに任せて」
シータは、ロゼ王太子妃殿下の横に歩いて言った。彼女に何かを耳打ちしている。ロゼ王太子妃殿下は頷く。二人は竿の前から立ち上がって、こちらへやって来た。
「レノン君、クッキーを貰うわね」
そう言うとロゼ王太子妃殿下は紙袋の中から、クッキーを三枚取り出した。
彼女はそれを右の手のひらに乗せて、頭の上の高さに掲げる。
「では、見ていてね」
シータは、目を閉じて、小声でゴニョゴニョと聞き取れないくらいの声で何かを呟く。僕は状況が分からず首を傾げる。
すると、ロゼ王太子妃殿下が空いてるほうの左手で僕の袖を引っ張った。僕はロゼ王太子妃殿下の方へ視線を動かす。
「――――はぁ!?」
人間って、驚き過ぎると倒れるんじゃなくて、時が止まってしまうんだな・・・。
――――夥しい数の妖精が、僕たちを取り囲んでいた。いつの間に?
ロイ王太子殿下は腕を伸ばして、妖精たちを手のひらに乗せる。彼女の手のひらでクッキー狙う妖精達がおしくらまんじゅうを始めた。
「妖精、本当にいたんだ・・・」
シータの話では、ベルカノン家が妖精を守っていると・・・。
――――え、僕たちって、もしかして人間じゃないの!?色々な疑問が湧いて来る。
「レノン君、金の魚がいるわ!」
ロゼ王太子妃殿下が、僕の耳元へ囁いた。彼女の視線の先、右手のひらのクッキーに群がっている妖精たちの少し上で、金色の魚がふわふわと浮遊している。
その鱗は、虹色に輝いていた。魚は魚でも妖精!?
「ふふふ、魚って言っても、妖精だったのね」
ロゼ王太子妃殿下は、僕の心の声と同じ事を言いながら笑っている。
「でも、釣り上げるって・・・」
僕が呟くと、金の魚はクッキーに齧り付いた。
「ほら、釣り上げたわよ。クッキーで!」
ロゼ王太子妃殿下の言葉を聞いたロイ王太子殿下とシータが笑い出す。僕も何だか可笑しくなってきて、一緒に笑った。
――――お菓子で魚を釣るなんて難しいよ、父様~!!助っ人の三人が居なかったら、絶対無理だった。
「ねぇ、この場合はさ、どうやって、ルイス兄様に達成したって報告したらいい?」
僕の疑問にシータが答えてくれた。
「来るよ」
「来るよ?」
僕はシータの言葉を復唱した、すると、後ろに気配を感じた。
「レノン、ミッション達成だな」
背後から僕の肩に手を置かれる。
「うわっ!」
「そんなに驚くなよ」
ルイス兄様が、クスっと笑った。――――えっ、待って!?どう言う事?
「シータが、オレを呼んだんだよ」
「ルイス、朝、居なかったよね?」
ロイ王太子殿下がルイス兄様に話し掛ける。
「ああ、今朝はゆっくり休ませてもらった」
ルイス兄様はふわりと優しく笑った。――――へぇー、そんな顔するんだ!?
「ふーん」
ロイ王太子殿下は、少し含みのある返事をしたけど、ルイス兄様はスルーして、僕に語りかける。
「レノン、この森には古代から妖精達が暮らしている。森全体に竜神王の加護がかかっていて、認められた者以外は入れないようになっているんだ。ベルカノン家はここを守るという役目があり、リゼには妖精王の加護もある。詳しいことはもっと大きくなった時に話すから、それまで自分の家門のことをしっかり学んでおくのだぞ」
ルイス兄様は、僕が初めて聞く話をした。――――そうか、僕とベンジャミンは大きくなったら、この森を護る役目があるのか。
僕の周りには、数えきれない妖精たち。一人一人を観察すると、とても可愛かった。――――この子達が、安心して暮らせるようにしたい。何故、いつもお母様が勉強しなさいって言ってたのかが、少し分かったような気がした。
ルイス兄様は、ベンジャミン達が戻って来るかも知れないからと転移魔術で屋敷へ戻った。
僕たちも釣り道具を片付けて、ベルカノン家へ帰らなければ・・・。
――――――――
「妖精たちと会えるなんて・・・。一緒の思い出になったわ!!」
「ああ、一緒に見れて良かったよ」
ロゼ王太子妃殿下は妖精たちとのお別れを惜しみ、森を抜けるまで馬車の窓からずっと手を振っていた。シータも満足そうな顔で、妖精達を見詰めていた。
僕は次にここへ来るときは、ベンジャミンと一緒に来たい。姉様にも妖精のことをもっと教えて貰おう。
精霊王の加護持ちなんて、僕の姉様はスゴイ人だったんだと知って、何だか嬉しくなった。
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