5、双子とルイス 2
楽しい物語になるよう心がけています。
誤字脱字等のご連絡は感謝いたします。
ルイス様とお母様が消えて、五分も経たないうちに双子は帰って来た。
――――両腕にパンを抱えて。
「レノン、ベンジャミン?そんなに沢山どうしたの」
「厨房で働いていたミランが、街にパン屋さんを開いたんだ」
レノンは自慢するように話す。
「母様が注文しているパンを取って来てって言うから、お店に行って来た。母様は何処?」
ベンジャミンは、何時もいるはずのお母様が見当たらず、既に不安そうな顔をしている。
「さあ、私には分からないわ。取り敢えず水分補給でもしましょう」
私は、部屋の外にいた使用人を呼び、パンの山を託した。そして、冷たい飲み物を二人分持って来てと頼む。
ベンジャミンは、ソファーにドンっと足を投げ出して座った。レノンは、ペタリと床に座る。
家族の前だとは言え、ルーズ過ぎる・・・。
――――――――
双子達が白ブドウジュースで喉を潤したころ、ルイス様が部屋に戻って来た。
「うわー!!」
「えええ!?」
転移魔術で、人が現れる場面に遭遇したことのない二人は、飛び上がって驚く。アタフタする様を、側から見ていると面白かった。
「ただいま、リゼ、レノン、ベンジャミン」
私達に、王子スマイルを浮かべてルイス様が優しく言った。
「おかえりなさい、ルイス様」
「おかえりなさい、兄さま」
「おかえりー、兄さま」
ルイス様には、素直に挨拶をする二人。
「さて、お前たち。オレとゲームをしないか?」
「ゲームって、どんなやつ?」
ベンジャミンが、食いついて来た。レノンは、様子を伺っている。
「ミッションを達成しながら、ゴールを目指すタイプだ」
「ミッション?」
次は、レノンが質問した。
――――ルイス様は、ポケットから六枚のカードを出した。
「一人一枚ずつ、これを引く。書かれてあることを達成したら、ここに戻って来る。そして、次のカードを引く。明日の夜までに、このカード六枚分のミッションが終われば、お前たちの勝ちだ。王都へ遊びに連れて行ってやる」
「えー!!本当に?行きたい!!」
レノンが、嬉しそうな声を上げる。
「えー、ぼくはあんまり王都とか、行きたくない」
反して、ベンジャミンは王都へ行くことに、乗り気ではないようだ。
「それなら、違う希望を言っていいぞ。どうしたい?」
「ぼくは剣が欲しい。剣術を習ってみたい」
「そうか、それならレノンは王都に遊びに行く。ベンジャミンは剣を買い、剣術を習うでいいか?」
ルイス様の言葉に、二人は強く頷いた。
「あのう、私は?」
まさか、私はのけ者ではないですよね?と、ルイス様に目で訴えながら聞く。
「リゼは、ニ人の手伝いをしていいぞ。お前達も、リゼやオレや使用人など、誰でも頼っていい。ただし、ベンジャミンとレノンが、二人で組むのは禁止する」
ほう、別々に頑張らせるのね。
――――早速、ルイス様は二人にカードを引かせた。
「お互いの内容を見せたらダメだぞ。さあ行ってこい!!」
ベンジャミンは、カードを見るなり、外に走って行った。
レノンは、立ち止まったまま動かない。
「レノン、どうしたの?」
「姉さま、僕はこの字を読めない」
レノンは、カードを私に見せた。
「ああ、これはベルファント王国の文字よ。図書室で、辞書を見れば分かると思うわ」
「一緒に来てくれる?」
先程とは打って変わって、しおらしい態度を見せる。
「良いわよ。ルイス様はどうします?」
「そうだな、とりあえず俺も一緒に行く」
私達は、図書室へと移動した。
――――――――
――――ベンジャミンはカードを見て、直ぐに部屋を飛び出した。
カードには、『ミルク農家・カーンさんのお宅に行って、生まれたばかりの子牛の名前を聞いてくること』と書いてあった。
カーン農場は、馬車でも一時間半はかかる。既に時刻は十四時、早く執事に頼まなければ、今日中に行って帰って来れないと気付いたベンジャミンは焦っていた。
「マーキュリ―!!」
玄関ホールで執事の姿を捉えて、叫んだ。マーキュリーは、全力で走ってくるベンジャミンに啞然とする。
「坊ちゃん、廊下は走らないで下さい」
「そんなこと言っていられないよ!ぼくとても急いでいるんだ!!」
執事マーキュリーの前で、立ち止まったベンジャミンは、息を切らしていた。
「マーキュリー、今から馬車をお願い出来ますか?」
ベンジャミンは、いつもより丁寧な言葉で、マーキュリーにお願いした。
「坊ちゃん、どちらへ行かれるのですか?」
マーキュリーは、落ち着いた態度で確認する。
「急ぎの用事で、カーン農場まで行かないといけないので、お願いします」
マーキュリーは、ベンジャミンの別人のような口調に驚きながらも、頭の中では、次の段取りを考え始めていた。
「かしこまりました。急いでご用意いたしますので、そちらに掛けてお待ちください」
ベンジャミンに玄関横の椅子へ座って待つようにと指示をし、マーキュリーは厩舎へ向かう。ベンジャミンは機敏な動作で去っていくマーキュリーの背中を目で追っていると、感謝の気持ちが湧いて来た。
――――――――
椅子に腰掛けていると、侍女のレナがやって来た。
「お坊ちゃま、カーン農場に行かれるなら、手土産に、これを持って行って下さい」
ベンジャミンが、カーン農場に行くという話し声を聞いた彼女は、先ほど『パン屋ミラン』から受取って来たばかりの焼きたてパンを八個カゴに入れ、可愛いリネンのクロスとリボンを掛けて持って来た。
ベンジャミンは、それを受け取る。
「カーンはミランと友人なので、これを持っていけば喜ぶと思いますよ」
侍女レナは、何故パンを持って来たのかをベンジャミンに伝える。
「そうなんだね。分かった。パン屋さんの話もしてくる。教えてくれてありがとう、レナ」
ベンジャミンは、侍女レナにお礼を言った。
「どういたしまして。どうぞお気をつけて」
侍女レナは、笑顔で一礼してから、持ち場へと戻って行った。
「ベンジャミン坊ちゃん、ご用意が出来ましたー!」
玄関の外から、マーキュリーの声がする。ベンジャミンは立ち上がり、かごを大切に抱えたまま馬車へと乗った。
――――――――
図書室では、レノンがカードの文字と睨めっこをしていた。
「まず一文字目から探すのよ。そうRの文字のページ。そしてニ文字目はXだから、この後ろの辺りよ。三文字目は、、、」
私はレノンの横に寄り添って、辞書の引き方を指南していた。レノン、何と他国の辞書を扱うのは初めてなのだとか。
“まさか、語学の勉強を全くしていない!?”――――少し怖い事実を、気付かなかったフリに出来ないのが辛い。
「そっか、文字の形から探せば、読めなくても意味は辞書に書いてあるから分かるんだね」
「そうよ。読めるようになれば、検索するスピードも、もっと早くなると思うわ」
「姉さまも兄さまも、お勉強したの?」
ルイス様の方を見て、レノンが質問した。
「そうだ。幼いころから、語学の勉強も嫌というほどした。だけど、最初は、オレも何故ランドル王国に住んでいるのに、他国の言語を習得なんかしないといけないのかと思っていた。でも、今は分かる。何故なら、王立学園には、他国の子女が多く留学して来るからだ。オレは、その留学生たちと最初に言葉を交わす時は、必ず相手の国の言葉で話すようにしている。そうすると、相手が安心した顔をするんだよ。ランドルへ来たばかりで、不安な彼らに安心感を与えられるのなら、嫌々でも努力して来て良かったとオレは思っている」
恐ろしくカッコいいことを言っているけど、レノンに伝わるのかしら。
「うん、外国のお友達が、僕の国の言葉を話してくれたら、とても嬉しいと思う」
「そうだろう。無駄な勉強なんてないんだ。興味を持ったら、とことん調べてみるといい」
ルイス様の言葉を聞いて、レノンは真剣に辞書と向き合いだした。
「姉さまたちは、サロンに戻っていていいよ」
とうとう、本気を出したレノンに、私たちは図書室から追い出される。
――――――――
二人でサロンに戻り、ソファーに並んで座った途端、私は疲れをドッと感じた。
「良く考えたら、私達はお昼過ぎに、ようやくここへ辿り着いたのですよね。今日、ハード過ぎません?」
「そうかもな。二人のミッションは、しばらく掛かるだろうから、のんびりしよう」
ルイス様の肩をお借りして、しばし休憩・・・。
――――――――
リゼから、スース―と寝息が聞こえ出した。
――――しばらく寝かせておくか。
オレは、長ソファーにリゼを横向きに寝かせ、寒くないようにと、上着を脱いで彼女の上に掛けた。
――――先ほど、宰相の元に夫人を送って行った時のことを思い出す。
突然、オレたちが出現したものだから、宰相は物凄く驚いて、椅子から滑り落ちた。夫人は、そんな宰相を見て、楽しそうに笑い転げていた。目の下に濃いクマを浮かべたまま・・・。
改めて、子育てって大変だなと感じた。夫人一人で、双子の面倒を見るなど、余りに負担が多過ぎる。最後に、宰相と夫人とオレの様子を静かに見守っていた父上が言った。
「夫人、長い間、無理をさせてしまい、すまなかった。これから毎週末、宰相を王都から領地まで、ルイスの転移魔術で送迎する。それで、どうか許してくれ」
あろうことか、オレに全振りして来た。まぁ、リゼの家族の為なら、それくらいお安い御用だけど、せめてアズに頼むとかさ。――――王子の安売りだな。
そして、今回のゲーム発案者は宰相だ。さあ、ベンジャミンとレノンは最後まで頑張れるかな?
リゼと一緒に、オレも楽しませてもらうぞ!
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