ヲタッキーズ90 彼女がスク水に着替えたら
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第90話"彼女がスク水に着替えたら"。さて、今回は代替現実ゲーム中にリアル殺人が発生!
賞金目当ての容疑者が次々と現れる中、パラダイムシフトを狙った異次元人スーパーヒロインの影もチラついて…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 プライマリキーを探せ
神田台所町の古い雑居ビルの屋上。
何が何処へ通じているのか、のたうつダクト、唸る空調機。
熱風が吹き荒ぶ屋上にスマホを片手に背広姿の男が現れる。
「やっぱりココだ」
梅雨明けの太陽に灼かれたダクトの影に隠された茶筒←
中にはビニール袋入りのフィギュア、トランプ、トイ…
「とゆーコトは…」
振り向くと隣のビルの空調機にQRコードが貼ってある。
読み取ろうとスマホを片手に身を乗り出した次の瞬間…
ビルとビルの暗い狭間に落ちて逝くw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「遺体は35才、男性。"blood type BLUE"。異次元人です。90分前に南側からビルの狭い谷間に転落。飛び降りか突き飛ばされたかは不明」
「目撃者は?」
「いませんが、次元パスポートで身元は判明。ヴィタ・ウェバ。"リアルの裂け目"の向こう側では検事さんのようです」
部下から報告を聞く万世橋のラギィ警部。
焼きつく太陽の下、サングラスをかける。
「ワザワザ次元を超えて来た挙句に飛び降り自殺?秋葉原に何しに来たの?」
「さぁ。独身で脱税事件担当の公務員。経歴に傷なし。ロックダウン中にコッソリ内緒で聖地巡礼とか?」
「ヲタクなの?ロックダウンって?」
「コロナです。"裂け目"の向こうでは時計が数年遅れます。未だ全員がワクチンを未接種とか」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「また、エージェントからテレビ出演の依頼だわ。来週まで一杯だから無理だと断ったばかりょ」
「ルイナ。貴女はベストセラー"ヲタ友の作り方"の作者なのょ?我慢しなきゃ。ネットショップでトップ10入りしてたわ」
「あぁ暫くはセクシーな下着はお預け?車椅子にゴスロリのホーキンス路線でイメージ固定だわw」
ルイナは、史上最年少の首相官邸アドバイザーを務める、超がつく天才だ。普段は車椅子でゴスロリがトレードマーク。
「ソレにしちゃサエない顔だな」
「テリィたん!いつ宇宙から戻ったの?お坊さんと座禅を組まなくちゃ」
「急かすなょユックリ1歩ずつだ」
会議アプリでラボのルイナに話しかけた僕は、第3新東京電力で宇宙発電所長をやっている。
会社は、僕が宇宙勤務を終える度にカウンセリングか、僧院で座禅を組むコトを求めて来るw
「ベトナムのお坊さんから"歩く瞑想"ってのを教わった。アキバを3時間かけて歩くコトを薦められてるw」
「3時間も?でも、今はミユリ姉様の御屋敷からでしょ?」
「意識的な歩行により、代謝が下がり、集中力は増し、犬の糞も華麗に避ける。有意義だ」
僕の推しミユリさんがメイド長の御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装した"潜り酒場"で時間を潰す僕←
「大いなる飛躍ね。テリィたん、楽しそう」
「恐怖の日々だ。電気街に出ると1歩も前に進めない。まいっちんぐマチコ先生だ」
「誰ソレ?新しい元カノ?」
「…とにかく、圧倒されたょ」
「想い出に?」
マズい。ルイナのペースだ。深呼吸して断ち切る←
「2週間も宇宙で暮らしてると、トンでもなく猥雑な街に見えルンだょな。我が秋葉原は」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
こーゆー場合、殺人現場が路上か屋上かは悩むトコロだが、とりあえず、屋上に顔を出したら、現場検証の真っ最中だ。
「警部、見てください!」
「何ょ?」
「HOスケールのドイツ空挺兵のフィギュアが落ちてます。激レアなトロピカルユニフォームバージョン。あとトランプのスペードの8。あとコレは何だろう?」
鑑識がピンセットで摘むのは…掌サイズの木片にXの焼印。
「何なの?誰かのお宝?」
「犯人のでしょうか?とりあえず、指紋をとります」
「待て!僕は"選ばれし者"だ!」
早くも迷走スル現場に、さらに人騒がせなヲタクが現れる。
「誰なの?」
「アンソ・ブラト。現場に密かに侵入を図ったので、とりあえず身柄を…」
「"キングダム85"はプライマリキーを追っていた。ついに見つけたのか?やったな!」
警官に両脇を捕まれ屋上に姿を現したのは…ヲタクだ。
黒Tにジーンズ。コレで手提げ袋があればコミケ帰りw
「"キングダム85"?アンタ、ヴィタ・ウェバの知り合いか?」
「知り合い?無礼な!彼は我がアライアンスの代表だ」
「アライアンス?何ソレ?美味しいの?」
鼻先でフンと笑うヲタクw
「我々は"ミッド秋葉原ブッチャーズ"だ。老舗MMO RPGにしてメタバースの覇者」
誰も反応しない。
「PvP RPGとARGの融合だ!」
全員が凍りつく。
「integrated fantasy MMO…とにかく!残りは72時間ナンだ!」
ココでようやくラギィ警部が口を挟む。
「ゲームなの?でも、MMOって…少し古くね?」
「100万ダルーの賞金がかかってルンだ!僕に触るな!ヴィタは何処だ?」
「亡くなったわ」
「また戦死か?で、リアルは何処にいる?」
警官に手招きされ、ビルの谷間を覗き込むと…
因みにダルーは異次元の通貨だが、最近安い←
「死んでる!ホ、ホンモノの死体って初めて見た。しかし、ゲームと同じだな」←
「アンタ、その賞金100万ダルーを独り占めしたかったンじゃないの?ちょっと過去2時間の行動を教えて」
「僕は…"旅の仲間"だ」
「改造銃だっ!」
元首相の銃撃直後で誰もが過敏に反応!全員が拳銃、短機関銃、ロケットランチャーを構えて、全周警戒!そして僕は…
「いてて。重い!ドイてくれ!エアリ!マリレも!」
「テリィたん、ごめんなさい。でも、姉様からモシモの時はテリィたんの盾になれって…」
「わかったから…エアリの巨乳の谷間に顔がハマったw」
メイド服の魔法使いとロケットガールが僕の上からどく間に狭いビルの屋上でヲタク相手にもう1つの劇場の幕が開くw
「待て!待ってくれ!コレは電子コードの読み取り銃だ!読み取り専用だから弾は出ないょ!ホラ、隣のビルの空調機にQRコードが貼ってアルだろ?」
ヲタクが手作り機器をQRコードに向けるや…再び全捜査員が叫びながら殺到、押し倒し、彼を潰して改造銃を奪う!
「クリア!」←
「何?何ナンだ?離せ!死ぬ!」
「コレがメタバースの銃か?」
不思議な形の改造銃を取り上げた警官が叫ぶ。
「け、警部!ガンサイトに謎の数列が…」
第2章 メタバースにようこそ
下の殺人現場。
異次元から来た検事の死体は、駐車中の黒いセダンの屋根に無惨に手足を伸ばした姿でメリ込んでいる。
周囲を黄色や赤の回転灯を点けた救急車やパトカーが取り囲み、黄色い規制テープが野次馬を遠ざける。
「テリィたん。もう少し右。そこ。そこょ」
「え。コッチ?あ、逆か」
「あ、ルイナ。貴女の本、半分まで読んだわ」
車椅子のルイナに代わり、現場を歩く僕。ルイナは、僕のスマホ画面の中からリモートで現場検証中だ。
一緒に屋上から降りて来たラギィ警部が、僕のスマホを介してルイナと会話スル。僕は彼女のデバイス?
「飛距離を見る限り、誰かに背中を押された可能性が高いわね。で、この人は誰なの?」
「ヴィタ・ウェバ。"裂け目"のアチラ側では、連邦検事らしいわ…出来れば他殺の証拠が欲しいンだけど」
「見てみるわ」
超天才の頭が目まぐるしく回転してるw
「で、彼はARGをプレイしてたみたいなの。えっと…プライバシー?」
「プライマシー」←
「あら。テリィたん、知ってるの?」
「うーんプレイしてた(元カノがw)」
「え。マジ?いつから?」
「学生の頃から」
ラギィは、何故か安堵した様子で色々聞いて来るw
「どんなゲームなの?」
「ARGはイベントでMMO RPGの1部だ」
「MMOって?」
「多人数同時参加型オンラインゲームだ。ウェブで戦闘やクエストをこなして、リアルでお宝をゲットする。アキバを舞台にした"聖地ARG"は、異次元人に人気だって聞いた。"裂け目"の向こう側じゃメタバース以前の熱狂がアルらしい」
ラギィは頭をヒネる。
「うーんテリィたんが何を言ってるのか、半分もわからないけど、私より役に立ちそうょ。屋上へ上がって。ルイナにも屋上を見て欲しいし」
雑居ビルのミシミシいう狭い階段を登る。
「でも、意外。テリィたんがMMOやってるナンて」
「熱心なプレイヤーではないな、僕達」
「僕達?」
マズいw
「もちろん、アライアンスの仲間のコトだ。古い友達。学生時代から一緒にプレイしてる」
「ミユリは知ってるの?」
「いや…何かヲタクだと思われそうで」
「今さら?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
屋上に上がる。
「ARGは、現実を利用した宝探しゲームだ。ウェブでヒントをゲットして、リアルでお宝をゲットする」
「ソレが楽しいの?で、コレが現場に侵入しようとしたヲタクが持ってた改造銃だけど…」
「自作のオプティカルスキャナだっ!しかも、メインフレームからソフトを入れてカスタマイズしてある。こりゃカメラ付きスマホの100倍進んでるな」
確かに銃にも見えるが、手前の液晶画面が明滅している。
「数字が点滅してる?恐らく、この数字は暗号化されたゲームのヒントだ。URLなら自動的にメインフレームにアクセスしてポイントをもらえるけど、コレは違うから、GPSカモしれないな」
「ちょっと見せて。ソレは16進法のアルファベット暗号だわ。"ビーチ"って意味ね」
「すげぇルイナ。一眼見て暗算かょ」
僕のスマホからルイナの声。
「一応、天才だからねwで、近くに"ビーチ"を連想させる何か怪しい落書きとかナイ?多分、次のヒントょ」
「あの形は…アルゼンチン?いや、福島県かな?」
「ソレがプライマリキー。隠されたターゲット。つまり、お宝の在り方ょ。今度の賞金100万ダルーは、クリエイターのポケットマネーって聞いたわ」
何だょルイナもゲームヲタクじゃナイかw
「ルイナ、プレイヤーは何人ぐらいかしら?全員、容疑者ナンだけど」
「"リアルの裂け目"のコチラ側とアチラ側で数万人ってトコロ?」
「ちょ、ちょっと多過ぎルンですけど」
ラギィ警部は目を白黒させる。
「OK、ラギィ。"進化的アルゴリズム"を使って、プレイヤーの暴力的傾向を調べてみるわ。ね、スピア?」
「うん。攻撃も要素ょね。現実の殺人は違うけど…だって、
ゲームの殺害対象はモンスターだから」
「異常な攻撃行為だけを計算で割り出しましょ」
ストリート育ちのハッカー、スピアはルイナの親友だ。
「みんなも聞いて。例えば、池って、捕食者と獲物のバランスが取れた生態系でしょ?でも、外敵が侵入スルと生態系のバランスは崩れる。計算で異常性を弾き出せば、バランスを崩す問題点を特定出来るカモしれないわ」
「でも、ルイナ。ARGでの異常攻撃行動の特徴って何かしら?」
「ルール無視の無差別攻撃。グリファには待ち伏せ専門のプレイヤーとか、何晩も寝ずにプレイするキャンパーと呼ばれる連中もいるわ。サーバーにアクセス出来れば、プレイヤーの凶暴性をパターン分析出来るけど」
ラギィ警部の出番だ。
「はいはい。捜査令状を取るわ。ソレから、このガラクタは何か役に立つ?ってか、コレ何?」
ラギィが示す証拠品袋の中にはフィギュアやトランプ。
「プレイヤーが現場を訪れた証拠として残す"紋章"ょ。いわばリアル足跡ね。現場を訪れた容疑者を特定スルのに使えるわ」
ルイナ。絶対ARGヲタクだろ?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に立ち上がった捜査本部では、早速取調べが始まる。
「このフィギュア、お前の指紋だらけだ。被害者が飛び降りる前に屋上に行ったな?なぜ嘘をついた?犯人だからか?」
「待ってくれ!確かにウソをついた。ゴメンナサイ。実は、アライアンスの中で口論になって…」
「盛り上がって、つい彼が屋上から落ちたんだな?やっぱりお前が犯人だ」
最初の取調べは、屋上に侵入を図ったアンソ・ブラトだ。
「僕は、実はヴィタ・ウェバと会ったコトはナイ。昨日、初めて会う予定だったンだ。ソレまでは、アバターのアイコン"ウクライダ・ゼット"しか知らなかった」
「いつ屋上に行った?」
「昨日だ。事前に偵察に行ったんだ。彼がプライマルキーを見つける手助けが出来るかと思って」
「今朝は何処にいた?」
「台東区の方の秋葉原。夜通し段ボールの組み立てのバイトだった」
「アレ、儲かるの?ってか、も少し頭、使ったら?」
ココで初めてムキになるアンソ。
「バカにするな。僕は梱包やラベル貼りだって出来る!」
「…ヴィタとは会ってナイの?」
「約束してなかった。実は、来るなと言われてた。でも、どうしても会いたかったンだ。尊敬してるから」
何故かウットリした顔になるw
「なぜヴィタから来るなと言われたの?」
「"アキバの夜の魔女"と雌雄を決するから。彼は、対決スル気だったンだ」
「え。何?対決って」
この世界では、何が行われているのだろう。
「"アキバの夜の魔女"は、チート集団で正義の戦士を汚いワナにかけて殺戮して回ってる」
「あ・の・ね。今は、現実世界の殺人の話をしてるの」
「わかってる」
押し黙るアンソ。
「僕達にはゲームが人生そのものナンだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
中央通り沿いにある高層タワーの1フロア。
「御社のゲームが殺人事件と深い関係が…おっと危ない」
「あ。ゴメンナサイ、CEO!」
「ゲスト目掛けてフリスビーを飛ばすな!」
ラギィ警部自ら事情聴取でスタートアップを訪問。
新興のゲームメーカーでポロシャツのCEOが応対。
「でも、ゲーム用のデータ録りナンで、あと12回飛ばしマスけど!」
「…警部さん、すみません。しかし、あのARGは、賞金獲得まで72時間を切ってる。悪い噂は困るんだ。評判が落ちると命取りになる」
「でも…」
いかにも業界人のCEOは、気取った声で話すw
「どうぞ。僕のコトはビッキと」
「では、ビッキ。亡くなったヴィタ氏は"リアルの裂け目"の向こう側では検事でした。公務員殺しとして、厳格な捜査が求められています」
「OK。警部さん、何でも聞いて」
フランス人みたいに掌を天に向けるCEOビッキ。
「先ず容疑者となるプレイヤーの数は?」
「全世界で550万人。常時接続者となると、も少し少ないけどね。だいたい20〜30万人がプライマシーMMO RPGをオンラインでプレイしている」
「ちょっと容疑者の数としては空前絶後ナンですけど」
おやおやという顔のビッキ。
「でも、大多数はARG自体を理解してないゲーマーだ。実際に、大金を得られるお宝ゲットを狙っているのは5000〜6000人ぐらいかな」
「御社サーバーのアクセス許可をください」
「法律で保護された個人情報ばかりだ。企業秘密だし、お出し出来ないな」
「では、この捜査令状をどうぞ。ヴィタ・ウェバと"アキバの夜の魔女"メンバーのIDと紋章の一覧もお願いします」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日の午後から、捜査本部の取調室は"外神田の夜の魔女"メンバーを名乗る老若男女でゴッタ返すw
「コレは、貴女の紋章ですか?えっと…"スタイリッシュビキニX X"さん」
ラギィ警部のPCには真っ赤なビキニのグラマー美女が三日月剣を振り回す画像が映っている…が、その画像の先に座ってるのは、どー見ても後期高齢者の老女だw
「貴女は、いつ雑居ビルの屋上へ?」
「昨日です。午後には孫が帰宅するので、その前に行きました」
「ヴィタ・ウェバ氏とは会われましたか?」
「誰ソレ?美味しいの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「確かに、スペードの8は俺の"紋章"だ」
「今朝は、何処にいましたか?」
「昨夜から完徹で昼まで仕事してた。上司に聞いてくれ。ソンなコトよりゲームは続行だょな?どうしても、賞金が必要だ!さもないと自己破産ナンだ、警部さん!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「お金ナンか要らないわ。私の楽しみは、暗号を読み解くコトだから。あ、ゴメンナサイ。NY市場が開いたわ」
「スマホはしまって!今朝8時から10時は何処に?」
「毎朝6時には出社ょ。シンガポール市場の開始に合わせてね。腐女子だからって朝が弱いワケじゃナイの!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ラギィ警部。全員アリバイがあります!」
取調官が根を上げるw
「え、マジ?ヴィタ・ウェバのアライアンスは?」
「全員シロでした!」
「じゃ別のアライアンスも調べて!」
ソコへ捜査本部のモニター画面からスピアの声がスル。
彼女は、ルイナの親友でストリート育ちのハッカーだ。
「警部。例の"外神田の夜の魔女"だけど、10人中3人はプロフィール写真なし。IP電話にも出ないわ」
「あらあら」
「次は"ファラオ875"って…コレもダミー?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
親友スピアは働かせといて、ルイナは僕とダベってるw
「で、テリィたん。今後の計画は?また3時間かけて秋葉原を彷徨うの?」
「そう聞くと吟遊詩人みたいだな」
「でも、ソレだけ俗世間が興味が増すだけでしょ…そうそう。興味が増すと言えば…」
いたずらっ子みたいな視線で僕を見上げる。
「私、ヒッグス粒子研究への参加をオファされたの」
「"神の粒子"だ。スゴいな!精神世界と宇宙を統べる統一理論を同時に探求出来るね」
「テリィたん、相変わらズ面白いコトを言うね。確かに、真理の探求に貴賤はナイわ」
ルイナは、クスクス笑う。
「人類を代表して、ゼヒ超対象粒子を追求して欲しいな」
「光速の99.99%で陽子を衝突させて、全く新しい粒子を作り出す。もしかしたら、神が作った宇宙の解明に近づけるカモしれないわ」
「何て崇高な仕事だ。素敵だな」
知性の高揚を目の当たりにスルのは楽しいモノだ。が…
「ところで!テリィたん、ARGに詳しいね。昔のネット仲間とズッとプレイしてるの?」
「まぁね。ソレが何か?」
「ううん。でも、往々にして昔のネット仲間と今も特別な関係が続いてる可能性がアルと思って。例えば…ミユリ姉様の前の推しとか」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「出ないわ。"ファラオ875"は電話に出ない。次は"ブルドック47"。青森県弘前市在住。彼も写真が…あら?本名はマクス・太郎。93才。2021年11月に死亡?ヤダ。よぼよぼのおじいちゃんだわ」
「このアライアンスのダミーI.D.はコレで6人目です!」
「"外神田の夜の魔女"って、実際には存在しない仮想同盟だったの?…え。何?」
その時!
捜査本部に非常ブザーが響き渡り、全モニターに顔をひきつらせ、屋上から飛び降りるヴィタ・ウェバの画像が流れるw
第3章 飛び降りる前に
モニターは、ヴィタの飛び降り画像を無限ループw
「3時間前、ARG公式サイトにUPされた画像だそうです」
「スタートアップ側は、外部からのハッキングを主張しています」
「ネットでは、ARGを盛り上げるためのヤラセだと噂になってます」
ラギィ警部は、小さく首を振る。
「でも、ビッキは違うって…」
「え。警部、誰ですか?ビッキって?」
「あ。しまった…」
珍しく恥じらったのも束の間、秒で持ち直すw
「ねぇテリィたんは何処?」
「ランチミーティングです」
「え?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「エリス…さんだっけ?」
「僕が秋葉原に来る前の話だからエリスじゃナイ。だから、そもそも"彼女"は"推し"じゃナイ」
「じゃリアルの恋人?キャー!」
どーゆーワケか、ルイナは国宝級の超天才にはあるまじきキャピキャピぶりだ。もっと事件の解決に集中して欲しいな。
因みに、エリスはミユリさんの前の推しで彼女もスーパーヒロインだが、先日変身したミユリさんをボコボコにしてる←
「待て、ルイナ!火のないトコロに火炎放射器だw神田明神に誓って彼女は恋人じゃナイ」
「じゃ"元カノ"ね?テリィたんに"元カノ"発覚ょ!キャー!不潔!」←
「不潔かどうかは知らんが、彼女は、えっと、その…」
うーん確かに彼女は僕の何?
「迷いがアルの?なら、きっぱり切らなきゃダメ。あくまで"推しゴト"優先ょココは秋葉原ナンだから」
「わかった。ちょうどミユリさんから呼ばれたから逝くょ。ランチをありがとう」
「あのね、テリィたん。ミユリ姉様は今の"推し"でしょ?"推し"って神聖なモノなの。ちゃんと姉様と向き合って」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
キャピキャピしながらも、サスガは超天才。
集積したデータを解析、捜査会議に報告中。
「万世橋警察署のみなさん。今回のARGは、1ヵ月前に始まってます。モニターに映したグラフは、縦軸がアライアンス、横軸はアライアンス間の闘争の激しさを数値化したモノです」
ラボから会議アプリで捜査会議にレクするルイナ。
全捜査員がモニターを見つめて熱心にメモを録る。
「2週間前、1歩抜きん出た7つのアライアンスが、ホボ互角の闘いを見せてた。ゲームの進行パターンも、その時点までは健全な状態だった。でも、10日ぐらい前から状況が激変スルの」
「何があったの?」
「36時間以上、首位を取ったアライアンスが次々に脱落して…完全に消滅してる」
「誰かが潰して回ってる?」
「順位は未公開だから、ARG関係者か腕の良いハッカーの仕業ね。4つのアライアンスに続き、ヴィタのアライアンスも彼の死で消えた。残るは"レディーメイズ"と"外神田の夜の魔女"で、いずれも優勝候補ょ」
ラギィ警部が口を挟む。
「でも、ソレは同時に容疑者候補でもアルわ。ね?スピア」
「"外神田の夜の魔女"は、架空のアライアンスょ。10人中6人が個人だけど、その内の4人がダミー」
「でも、アバターを操っている人物は必ずいるょね?」
「ソレは、イコール賞金を手にスル人物でもアルし」
「私がARGの中で接触してみようかしら」
ストリート育ちのハッカー、スピアが割り込む。
ルイナの横のテーブルに胡座をかいて座ってるw
お行儀悪いぞw
「上手く行けば相手のプロバイダを追跡できるカモ」
「関係者のデッチ上げの可能性はナイ?」
「内部不正は難しいわ」
ラギィがつぶやく。
「でも、開発者なら可能だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の取調室でビッキCEOと向き合うラギィ警部。
「ビッキ。昨日の朝はどちらに?」
「六本木で朝食会があった」
「あのスタートアップを1年半前に売却したのね」
「フリーソフトの商品化が当たった。今は雇われ社長だ」
「何で売却したの?」
「別に。もともと金には興味がナイ」
「マジで?」
「YES。僕達は、新たな地平線を作っている。情報は、本ではなく、ネットの中にある。でも、仮に探し方を知らなくても、ARGでデジタル時代を生きる素養が身につく…と、同時に業界も潤う。だからこそ、ポケットマネーで1000万ダルーも出してプレイヤーを刺激してるのさ」
「少し刺激し過ぎたカモ」
「…確かに威圧的なアライアンスの存在は否定しない」
「威圧的?」
「スパミングに通信妨害さ。でも、ゲームが事件にまで発展するナンて…夢にも思わなかった」
その時、透明なガラス戸をドンドン叩く音!
制服警官に連れられたアンソが叫んでいるw
「ビッキ・ピンキだ!おーい、神様!」
「さぁ行くぞ」
「待て。彼は、スゴい人なんだぞ!」
「じゃ遠くから拝んでろ」
連れ去られるアンソを見てクリエイターは苦笑い。
「彼は、私のヲタクだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ARGの裏街をメイドが…ん?メイドだょな?
確かにメイド服ナンだが下はハイレグ水着w
「ダメだわ。誰も絡んでくれナイ」
「な、何で下半身が水着なの?」
「若かったの」
"水着メイド"は、スピアのアバターだ。呆れるルイナ。
「ものすごくホットね。テリィたんがミユリ姉様に着せたそうw」
「あのね。格ゲーの時は、この方が手加減してもらえるの…だめだわ、みんなオフライン」
「じゃあ次の"外神田の夜の魔女"は"姫闘巫女34"ょ。あ、スマホだわ。もしもし…」
車椅子のルイナは、うるさそうな顔をしながら話す。
「TV出演の前にメイクをさせろだって」
「昨日のワイドショーは、アイラインがイマイチだった」
「ソレ言う?…あ、姫闘巫女、降臨!」
ラボのモニターで水着メイドの前にビキニ巫女が降臨w
「"姫闘巫女"だわ。トランスポートステーションを奪おうとしてる。ゴングが鳴った!」
「長引かせて。IPアドレスからプレイヤーのリアル現在地を探ってみるわ」
「ぐっ強いwついにリアルメンバーの登場だわ!」
ビキニ巫女の卍固めに水着メイドが喘ぐw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「警部!SATOのゴスロリ姐さんから1番!」
「ルイナ?ラギィだけど…え。"外神田の夜の魔女"の"姫闘巫女"と格闘中?OK。ビッキから巻き上げたリストがアルわ…いたわ。フラン・リガド。blood type BLUE?フランス系の異次元人なの?今から、自宅を急襲スル。なるべく長くゲームで引き止めておいて」
「早く!水着メイドはもうボロボロなの!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「万世橋警察署!万世橋警察署!フラン・リガド、ドアを開けなさい!」
と言うより早く破城槌がドアを吹き飛ばして、銃口がラッパ型に開いた音波銃を手にした警官隊が室内へと雪崩れ込む。
「焦げた臭い?お前達はキッチン、お前達はコッチだ!」
「クリア!」「クリア!」
「警部、死んでます」
フランはデップリ太った白人女で歯医者のような豪華な椅子に、まるで眠るように横たわるが…プスプスと焦げているw
「リモコン片手に感電死?」
歯医者のイスの前に、証券トレーダーのような大型画面を3面並べ、シェイク片手の極楽ゲーム環境だが…死んでいるw
「自動プレイなの?」
画面の中で"水着メイド"にロメロスペシャルがキマる!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「スピア!現場に行ったら"姫闘巫女"ことフラン・リガドが死んでたって。自動プレーだそうょ。"夜の魔女"は別にいるわ」
「ええっ!この相手、コンピューターだったの?ヤンなっちゃう。ルイナ、IP追跡は出来た?」
「ソレが…ダイナミックIPを使ってる。行く先々で車を盗んで逃げる逃亡者を追うようなモンね。サーバー追跡だから、コッチもスピアの方がお得意カモ」
ラボでは、ルイナとスピアがキャアキャアやってるw
「やった!ギブアップょアイテムを盗んだわ!」
ニードロップを食い、苦悶にのたうつビキニ巫女のトップをむしり取る水着メイド。颯爽と飛び立ち、画面から消えるw
「さぁ盗んだアイテムの中身を拝見」
まるで昭和な空き地に舞い降りて、真っ赤なブラトップを逆さまに振ってみせると、何やら数式が画面に躍る。暗号か?
「コレは…GPS座標と、あと解の0241は時刻ね」
「ラギィ。新しいヒントをゲットしたわ。場所を特定して欲しいの。私達、ソコへ向かうわ」
「その座標は、神田リバーのノースゲートょ。でも、ルイナ。貴女の外出には、護衛に戦闘ヘリを飛ばさなきゃならないし、そもそも首相官邸の許可が要る。ウチの警官隊を直ちに向かわせるわ」
「警官のみなさんに謎解きが出来るの?ARGをやったコトある人はいる?目の前に次のサインがブラ下がってても、わからなきゃ意味ナイわ」
「…わかったわ。でも、現場はスピアだけ。ソレもヲタッキーズの護衛付きで」
「ROG」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ノースゲートは、都市型河川である神田リバーの放水路だ。
ゲートが出来る前、リバーは何度か氾濫しては水害が発生。
「スピア。私の後ろについてて」
「エアリとマリレ、ありがとう。GPSの示す位置には、約5mの誤差があるの」
「スピア、何か見つかった?」
ジャージ姿のスピアは、錆びた標識を指差す。
「傾いた標識の矢印は、典型的なARGのヒントょ…間もなく0241だわ…」
「あら?干上がった排水溝の底に小石が積んでアル。無茶苦茶怪しくね?」
「まるでガールスカウトの追跡シンボルだわ」
排水溝の底に降りる錆びたハシゴを降りるスピア。
護衛のヲタッキーズが"飛んで"先に舞い降りる。
その時!
Bi Bi Bi…
ブザーが鳴り響き、何と水門が上がって行く!暗闇に真っ白な水飛沫を上げながら神田リバーの濁流が流れ込んで来る!
「スピア!」
飛行呪文とジェットで飛び上がるヲタッキーズ。スピアはハシゴを登るが…濁流に押し流され、ハシゴから手が離れる。
「ああっ!スピアが濁流に飲まれた!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「SATO司令部!こちらヲタッキーズ!神田リバー北水門でコード5!オーバー!」
「コチラ、量子コンピューター衛星"シドレ"です。Ms.スピアはブルーのレッドの3にある橋梁に漂着。救助を要請中。ヲタッキーズ、直ちに急行せょ」
「ROG」
"シドレ"は、アキバ上空3万6000kmの静止軌道に浮かぶSATOのコンピューター衛星でアキバ全域を24時間監視中。
「スピア!手を伸ばして!」
「マリレ、何が起きたの?突然、水飛沫が…」
「もう大丈夫ょ。あら?スピア、ジャージの下は…スク水なの?そっか、貴女のトレードマークだモンね!」
その中でも白スク水は、彼女の勝負スク水だw
「"外神田の夜の魔女"は、私を殺す気だった?」
「どうやら、そのようね」
「ヲタクがARGのために連続殺人するナンて!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌日の捜査本部。
「スピア!もう大丈夫なの?」
「ええ。擦り傷です」
「この時期は、秋葉原の熱帯化に伴って、毎夜放水がアルみたい。私達は、ガセネタをつかまされて、ワナにハマったのょ」
首から腕をつり、厨二なのか眼帯に松葉杖だけど、勝負スク水(着替えてるw)のスピアを、捜査本部の全員が取り囲む。
「"外神田の夜の魔女"は、こーやって自分よりハイスコアなゲーマーを殺してルンだ」
「感電死したフラン・リガドも?」
「サーバーから証拠のメールが見つかった。最初は、賞金を山分けスル気だったみたいだけど、ヴィタ・ウェバをアッサリ殺した手口を見てヲタクのフランは…」
ラギィの推理に口を挟むのはスピア。
「ビビったのね?」
「YES。フランは、純粋にお金欲しさだったけど"夜の魔女"は違った。魔女の目的は"ブロックチェーンファクター"という新しい概念のゲームを作るための資金調達だった」
「"ブロックチェーンバスター"?」
「ファクターょ…いずれにせょ"夜の騎士"の生き残りは、
コレで魔女本人だけになったわ」
万世橋のプロファイラーからの報告。
「事故を装った連続殺人犯です。恐らく犯罪歴はなく初犯。このARGに執着する余り、理性を失いつつアル。従って、ARGがゴールに近づくにつれ、狂気は加速します。ARGの即時中止を具申します」
「却下。ソレでは"夜の魔女"の足取りも消えてしまうわ」
「警部!ゲームを続ければ、魔女の攻撃性は増すばかりです。既に、彼女は正気を失っています」
ラギィに食ってかかるプロファイラー。その時…
「待って。犯人を捕まえる方法がわかったわ」
「ルイナ?何か名案がアルの?」
「ARGに限らズ、ゲームってプレイしなきゃ勝てないわょね?なら、ゲームを乗っ取ったらどーかしら。ハッカーをハックするの」
ラギィは、全捜査員を代表して頭をヒネる。
「裏でゲームを操るとか?」
「その必要は無いわ。ねぇみなさん。鉄道の駅をイメージして。プレイヤーは、駅に入る電車です。つまり、駅に相当するモノをゲームの中に作る。そして、全プレイヤーに駅を通過してもらうンだけど"夜の魔女"の時だけ、ポイントを切り替えて進路を変更、別のホームに入れてしまうの」
「ポイントを変えたと気づかれないかしら」
「そのための"ミラーサイト"ょ。フィッシング詐欺ナンかに使われる偽サイトと同じ。ゲーム会社に依頼して、ココに"ミラーサイト"を作らせるのょ」
「OK。私、ビッキに頼んでみるわ」
パッと顔を輝かせるのはラギィ。
モニターからはルイナが念押し。
「でも…ねぇみなさん!コレだけは約束して。スピアの協力はネットだけ。もう現場には行かせたくナイわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部の一角が仕切られ、老若男女がPC持参で集合w
「どのように座る?」
「みなさんはデイジーチェーンの端に」
「ソレ何だ?ウマいのか?」
テンヤワンヤだw
「全員着席して!ゲームの心得がある人は参戦。その他はランダムにタイプょ。何百人もがアクセスしてるように見せかけるの!」
「警部!でも"夜の魔女"がプライマルキーに近づく終盤では、プレイヤーも減るハズでは?」
「簡単に勝たせちゃ怪しまれる。俺が攻撃を仕掛けて、絶対2、3発ぶち込んでやる!」
おや?ARGヲタクのアンソ・ブラトだ。
「あら。アンタ、保釈になったの?」
「逮捕されてない!ヲタクだけど善良な市民だ!」
「わかったけど、最後は"夜の魔女"を勝たせるの。私達は群衆のように動き、スピアが"夜の魔女"と闘い、魔女を東秋葉原の和泉パークに誘き出し逮捕スル作戦ょ…さぁ準備はOK?」
ラギィ警部が"ゲームセンター"で立ち上がる。
「では始めましょう。みんな、ゲームの時間ょ!」
第4章 メイドがスク水に着替えたら
メイド服の下はハイレグという、ホトンド反則な水着メイドがARGの街を行く(アバターだけど)。
立ちどころに、街のならず者達が次から次へと集まり、思い切り卑猥な言葉を浴びせてはナンパ。
「"夜の魔女"さん、いつ現れるの?出てらっしゃい!」
「雑魚は任せて!」
「"黒石お婆"!戦斧で壁を壊して!」
装甲プロテクターで全身を覆った"お婆"(のアバター)が現れ、煉瓦積みの高い壁を一撃で破壊すると…闇の闘技場だw
「気をつけて!"運命のフロア"だわ。ラスボスが…」
「来た!上ょ!」
「え。ぎゃ!」
牛みたいな黒い角に黒レオタード。絵に描いたような"悪の女幹部"の降臨だ!このママ、ヒロピンAVに出られそうw
"水着メイド"の背後にテレポートした"悪の女幹部"がフルネルソンで絶叫を絞り、さらに締め上げLPを奪い取る←
「チャットで話しかけて来た!アルゴリズムで音声化してスピーカーに流すわ!」
「…(技から逃げられないょ。しかも、盗んだヒントの解読に失敗してる)」
「今、やってるトコロ、と」
「(さっさとギブアップしてアイテム返せ)」
「欲しければ取ってみな、と」
ラギィからルイナにリクエストが飛ぶ。
「このチャットの追跡は出来ないの?」
「衛星回線にスクランブルがかかってるwハッカーのスピアなら出来るカモ」
「ただいま接客中!」
サイバー空間で激しい技の応酬が続く。あっという間に時は過ぎラギィ警部自らコーヒーを配るが決着は未だつかない。
「スピア、さっさと勝たせて和泉パークに誘導して。余り構ってるとバレるわ」
「わかった。でも、ねぇ早く腕を治して!」
「精一杯だょ!」
画面では、水着メイドの骨折した左腕をミニスカ女医が目から光線を放って"治療"している。ところが、この女医は…
「僕のアバターからLPを光線にして送ってる!僕は、水着メイドのためなら死ねる!」
「いーから早くして!」
「水着メイド、もう終わり。トドメょ!」
またまた背後から忍び寄った"悪の女幹部"が負傷した"水着メイド"に必殺技バイルドライバーの構え…
一瞬早く回復した"水着メイド"は、振り向きザマに"ロンギヌスの槍"で"悪の女幹部"を刺し貫く!
「"ドンタコスの槍(語呂が似てるが違うw)"を食らえ!」
「…こ、こんなのプロレスじゃない」
「往年の名セリフね…激マズ!殺しちゃったわ!」
ラギィ警部以下、捜査本部の全員がスピアを取り囲むw
「スピア!ダメじゃないの、殺しちゃ!」
「ごめんなさーい!つい出来心で…条件反射だったの。私、メールして会うわ」
「ダメょ。恐らく何もしないのがベスト。犯人は、たった1回の敗北で全てを諦めたりはしないハズ」
犯罪心理に詳しいラギィの見立て。
「じゃ…待てば良いの?」
「その前に教えて。アバターが死んでもチャットって可能なのかしら?」
「恐らく。だって、それしか話す方法ナイし。とりあえず、やってみる?」
誰も答えられズにいると…ルイナに電話。
「ルイナです。はい…はい。わかったわ。ごめんなさい。くだらないTV出演の時間だったわ。テリィたん、一緒に行ってくれる?ところで、もし、犯人から連絡があったら?」
「会う約束をして待ち伏せ、犯人を逮捕」
「その時、スピアは現場には行かせられない。OK?」
ルイナの断言的な発言。誰も口を挟めない。
「もう、スピアを危ない目に遭わせられないわ」
「別にスピアの顔がバレたワケじゃない。何なら、代わりに私が行くわ。オトリ捜査なら経験アルし」
「俺でも大丈夫だ。ナースのコスプレをすれば、まさか誰も男とは思わないだろう」
ヲタクのアンソの発言に、全員が一斉に振り向き首を振るw
「何だょ言ってみただけだょ」
「私はどーかしら?水着メイドのコスプレで」
「え。」
またまた全員が声の方を振り向く…な、何とミユリさんだw
「ミユリ姉様が?!」
「姉様!」
「結構ハイレグょ?」←
この時、実は僕はもうルイナと局に向かってたンだけど、捜査本部は軽い興奮状態だったらしい。興奮したのは、特に…
「ミユリさん!僕のアライアンスに入らないか?せめてメルアドを教えてくれ!」
「はい、御協力ありがとう。貴方はココまで。家まで送るわ(パトカーで警官がw)」
「え。何で?おーい、ミユリさぁーん!」
ヲタクのアンソ、捜査本部から摘み出される←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"は、アキバ発の巨大メディア企業だ。
コミュニティ誌を売り歩く零細メディアから出発したアキバドリームの勝ち組。
「テリィたん。オンエア直前まで付き添ってくれてありがとう。応援してくれる世界一のヲタクって言うトロフィーを送ろうかしら」
「あれれ?ルイナ、何か僕に頼みゴトか?」
「実は話がアルの。テリィたんの"元カノ"のコトだけど。秋葉原に来る前の"推し"じゃない、リアルな"元カノ"さんのコトょ」
国家的天才ルイナの外出には、護衛に特殊部隊と戦闘ヘリがつくが、この会話も全て聞かれているワケでエラい迷惑だw
「え。何で会いたいの?」
「だって…興味がアルのょ。ヲタクになる前のテリィたんを知る女でしょ?…元カノとしては先輩だし」
「ラッツだ」
「え。」
「アキバに来る前の僕のネーム。テリィじゃなく、ラッツ」
ルイナは、車椅子から僕を見上げて微笑む。
TV用のメーキャップのせいかヤタラ美人w
「私もラッツって呼んで良い?」
「絶対不可」
「"元カノ"さんとは会ったの?お元気だった?」
「シングルマザーになってた」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ねぇ"夜の魔女"が何も言って来なかったらどースルの?」
「スピア、心配しないで。今、犯人は戦略を練り直しているトコロょ。どちらにせょ、スピアに連絡スル以外、犯人に残された道はナイわ」
「私達も待つ以外にナイのかしら」
果たしてスピアのスマホが鳴るw
「もしもし」
「プライマリキーを返して」
「"外神田の夜の魔女"なの?」
捜査本部の全員が一斉に振り向き、瞬時に静まり返る。
「なぜ…私の電話番号を知ってるの?」
「もっと知ってるわ。今、オンライン?」
「YES」
「自分のアバターをトリプルクリック」
スピアがクリックするや、捜査本部の全モニターにスピアのスク水画像がUPされる。かなり過去の画像まで拾ってるw
「貴女はストリート育ちの天才ハッカーのスピアさん。本名もマイナンバーも知ってるわ」
「貴女は何者なの?」
「提案があるの。損はさせないわ。フェアな取引ょ」
ラギィから渡されたメモを見てうなずくスピア。
「私、取引は大好きょ。どんな取引かしら?」
「単純なコトょ。私にプライマリキーを返して。そうしたら私は全て忘れる」
「マンマね。わかったわ。東秋葉原の和泉パークに7時に来て。私はスク水。貴女はレオタード」
唐突に通話は切れる。
「警部、逆探知は失敗です」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「うーん私のトレードマークがスク水だってコトまで知られてしまったわ」
「大丈夫。タダのコスプレイヤーだと思ってるから」←
「でも、万一ワナだったら…」
スピアの心配は尽きない。
「あら。もちろんワナに決まってるわ。でも、スピアは逝かなくて良いの。私が参ります」
「ミユリ姉様。でも、面も割れたし、住所もマイナンバーも知られた。やはり私が行かなきゃ"夜の魔女"は来ないカモ…ソレに私はスク水大好きハッカーだけど、姉様は(年齢的にw)」
「確かに、スク水って御縁がなかったわ。テリィ様も、お好きではなかったし…」
ビキニじゃないからな←
「でも、今どき戦隊ヒロインなんて、どーせ全員ヘルメットだから、猫耳ヘルに下がスク水なら(アラサーだからってw)文句を逝われる筋合いナイわ」
「でも、ミユリ。スピアの言う通り、別の選択肢も考えるべきょ。スピアなら"夜の魔女"を確実に誘き出せる」
「ラギィ。悪いけど私が逝くわ。私の"水着メイド"では、何か御不満かしら」
ミユリさんが一瞥スルと、全員が下を向くw
「わかったわ…で、テリィたんには相談スル?」
「no thank you。ルイナのTV出演が終わるまで黙ってて」
「了解」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ほとんど同時刻。"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"の人気ショー番組"アキバ2.0"がスマホ配信でオンエア。
「今宵のゲストは、超天才のルイナさん!今、話題沸騰の電子書籍"人気者の公式/ヲタ友作りは簡単"の作者です。センセ、どーしたら数学で恋人を作れますか?」
「センセなんて…ルイナと呼んでください。新しい数学を考えました。つまり、人間関係の微積分です。より相性の良い恋人を選ぶには、どうすべきかを数理的に予測します」
「私の男運の悪さも証明出来るかしら?」
「貴女の場合は、恋愛に少しだけ論理を持ち込むべきかもしれませんね」
「手ほどきしていただきたいわ。今は"推し"がいらっしゃるとか?」
「はい。今も番組を見てくれてると思います。私の人生の励みになるヲタク。私は、彼の元カノです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原の狭い路地を自転車で疾駆するスーパーヒロイン。
猫耳ヘルにメイド服+スク水という…いやはや何ともな姿←
TOの事前OKが必要だろ!
「ミユリ。右前方にある街灯の下で止まって…そう。ダメ、街灯を見上げないで。カメラがバレる。エアリ?」
「和泉パーク、北口ベンチ。全方向クリア」
「マリレ?」
「パーク中央の池の畔。異常ナシ…ムーンライトセレナーダーの新しいコス以外は。ぷぷっ」
ムーンライトセレナーダーは、ミユリさんがスーパーヒロインに変身した姿で、今宵から新コスチューム…になるのか?
"夜の魔女"からスマホ。
「スピア?え。"水着メイド"のコスプレで来たの?!ま、まぁ良いわ。そのままトンネルを抜けて」
「嫌ょ。貴女が池に来て」
「まぁ威勢が良いのね。ン10年ぶりのスク水で、ムダに心が若返った?」
早朝の公園で周囲を見回すムーンライトセレナーダー。
「"シドレ"、"夜の魔女"は何処?赤外線反応は?」
「コチラ量子コンピューター衛星"シドレ"です。和泉パークに該当スル赤外線反応ナシ。ブルーのレッドの3」
「赤外線吸収型のスーパーヒロインなの?パークの南側に移動スルわ。ヲタッキーズも来て」
ムーンライトセレナーダーは、池の畔で自転車をUターン。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"アキバ2.0"終了。
「お疲れ。ちょっとドジったけどMCの彼女、良い人ね」
「ルイナ。実は話がある」
「スピアのコト?まさか…あの子を現場に出したの?」
「彼女は無事だ。代わりにミユリさんが逝った(スゴいコスプレでw)」
「え。ミユリ姉様は今、何処にいるの?」
「今、手を出すとかえって危険だ」
僕は、生まれた初めて超天才に怒られるw
「何してるの?行ってあげて。今すぐ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
パークのサイクリングコースに緑道を潜るトンネルがある。
フラフラと自転車を漕ぎ入れるムーンライトセレナーダー。
ホームレスに混じったマリレが微笑みサムアップのサインw
「スピア。貴女のハッカー人生を変える提案がアルの」
「言ってみて」
「究極のゲームを作る。パートナーが必要なの。今までのゲームを根底から覆すわ。言うならば"パラダイムシフトゲーム"ね…トンネルを抜けたら奥の建物へ」
移動指揮車に陣取るラギィ警部から指示が飛ぶ。
「パレスから全ユニット。パーク北東の角にある古いポンプ場に急行せょ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「私は、ビッキのARGに期待してたけど台無しにされた」
「貴女、あのスタートアップの社員なの?」
「昔の話ょ。サインを読んで。貴女ならわかるでしょ?」
大正時代からあるポンプ場の古い煉瓦塀に、何やら丸バツや数字が落書きしてアルが、その意味は…まるでワカラナイ。
「わかったわ。話を続けて」
「さすがね。で、どーする?"水着メイド"なら闘うわ。でも、スピアはどーするかしら。さぁポンプ場に入って」
「ミユリ、待って。私が指示スルまで中には入らないで」
移動指揮車のラギィ警部からSTOPがかかるw
「エアリ。先に入って。ミユリは安全確認が済むまで現場待機」
「ROG。A班、突入スルわょ」
「相手もスーパーヒロインの可能性がアル。音波銃およびナトリウム弾頭のロケットランチャーの使用を許可!」
特殊装備の警官隊が古いポンプ場に潜り込む。その一方で、"外神田の夜の魔女"のムダなおしゃべりは止まらない。
「抽象的組み合わせ論の上で成立スル全く新しいゲームを想像して。"エマージェンスゲーム"が複合利益を無限に生み出し世界中のメディアでプレイされるの。ネットはもちろん、TV、メール、ラジオといったオールドタイプの既存メディアでも爆発的に広まる。どんな企業にもコントロールされないゲームの誕生ょ。ねぇスゴいと思わない?」
「思わない。そもそも一体何のために?」
「建物の中に入って」
「ねぇチェーンファクターってどーゆー意味?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「警部。逆探知に成功。"外神田の夜の魔女"は今、和泉町ポンプ場の中にいます」
「パレスから全ユニット。"魔女"は和泉町ポンプ場内。全ユニット、直ちに突入。エアリも入って」
「ROG!突入」
「私も行くわ!」
ヘッドセットを投げ捨て指揮車を飛び出すラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「貴女は、全てのゲームに命を吹き込む"エマージェンス"を目指してるのね」
「YES。さぁ建物に入って。中で貴女を待ってる」
「OK。私も貴女ともっとお話しをしたいわ」
古いポンプ場の中はカビ臭い匂いで満ちている。
「何処なの"夜の魔女"?来たわょ!」
「とうとう来たのね、さぁプライマリキーを渡して。ゲームの未来を一緒に語ろ?」
「そこまで!"外神田の夜の魔女"!膝をつけ!両手は頭の後ろに…わあああっ」
黒い角に黒いレオタードの"悪の女幹部"コスプレが姿を現すや、銃口がラッパ型に開いた音波銃が突きつけられる!
ところが、次の瞬間、包囲した警官隊の方が凄まじい"熱"に襲われ次々と音波銃を取り落とし、もがき苦しみ出す。
「ダマしたのね?私は、赤外線を自由に操るスーパーヒロインょ。"電子レンジアタック"!」
その前にシン・ムーンライトセレナーダーが立ち塞がる!
「その電磁波、私の大好物だから。丸ごとゲットして"雷キネシス"にして倍返しょ!」
「え。こんなのプロレスじゃない…ギャアアアッ!」
「え。プロレス?コレ、ヒロピンでしょ?」
ムーンライトセレナーダーの最大出力の必殺技をマトモに受けた"夜の魔女"は、瞬時に真っ黒焦げで地面に大の字だw
「万世橋警察署!"外神田の夜の魔女"、逮捕スル!貴女には、黙秘権がアル…」
「テリィ様!」
「ミユリさん…じゃなかった、ムーンライトセレナーダー(新しいコスプレは)大丈夫か?」
ラギィが権利を読み上げる横で、新コスチュームのスーパーヒロインが僕の胸に飛び込んで来る。ん?何で泣いてるの?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場。
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地が良くなって常連が沈殿スルようになり困ってる←
「スタートアップの元幹部の犯行だったのか」
「そのようです。数ヶ月前にクビになり、その後スーパーヒロインに覚醒。でも、エマージェンスゲームの話は悪くなかったカモ」
「彼女の妄想は、エマージェンスとは程遠い。エマージェンスとは、自然で突発的な進化のコトだし」
カウンターを挟み、メイド姿のミユリさんに絡んでる←
「ところで…自然な変化と逝えば、シン・ムーンライトセレナーダーのコスチュームなのですが…」
「え。アレで決まりなの?」
「ダメですか?」
「ダメじゃナイけど…今、アキバで流行ってるルイナの本を参考にスルとゲーム理論を応用する必要があるカモ」
「えっと、確か選択肢を列挙して、可能性の価値を数値化した上で優先順位をつけルンでしたっけ…って、やっぱり御不満なのですね?新コスチューム」
無駄な抵抗とは思いつつ、唇を尖らせてみる。
「だって、おヘソが見えないょ!メイド服の時は見られない大事なチャームポイントだったのに」
「でも、今度はメイド服のスカート付きエプロンを取るのですょ。しかも、取ると下はスク水、ソレも白スク水なのですが…」
「え。アレは飛行装備の"ロケットパンツ"じゃなかったの?」
「ソレは下に履いてます」
"ロケットパンツ"は、空飛ぶヒロインの必需品だ←
「でも、ホントの理由は違うンだろ?」
「はい。実は私、テリィ様の元カノの腹パンチに敗北した日から…」
「エリス?彼女と闘った(そして敗北したw)のは前々々話だょね?もう引きずるのはヤメなょ」
「だって…だから、どーしても新しいコスでは、ビキニは無理なのです。テリィ様、ごめんなさい」←
「ミユリさん。僕がビキニのスーパーヒロインに"推し変"スルとでも?」
「…しないとでも?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ラッツ。私が何を欲しがってると思う?」
「キス…かな」
「そう思う?で、どーするの?」
「も少し考える」
「…ラッツらしいね。クスクス」
「で、そーゆー君はどーするつもり?」
沈黙が数秒。
「今宵は帰るわ。貴方の気が変わらない内に」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"代替現実ゲーム"をテーマに、賞金目当てのゲーマー達、彼等彼女達の個性的なアバター達、スタートアップ率いる天才的ゲームクリエーター、殺人を追う超天才や敏腕警部、ヲタッキーズ、シン・ムーンライトセレナーダーなどが登場しました。
さらに、新コスチュームのヒロインの再生、主人公の秋葉原以前の元カノなどもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、コロナ第7波の渦中にある秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。