1/20_その3
今回も引き続きハルトとの模擬戦。
キュリアもあの手この手で攻めますが、ハルトだって負けてはいませんよ。
「ギルドで手に入れた知識まで使うなんて、君は本当にすごいね。あの魔獣、扱いが大変じゃなかった?」
「結界内で乾燥させたからそんなにかな。でも。お陰で魔法の使い方の応用や発想力ってものが広がった気がする。魔法を使うって楽しいわね」
組み合わせて、重ねて、工程を意識して、効果や結果を知って、イメージして……。無限に広がる使い方の可能性に試してみたいことが止まらない。今、この瞬間にもこれが使えるんじゃないか、という手段が思いつく。
ニヤリ、と好戦的な笑みを浮かべてしまう。私ってこんなに戦闘狂だったかしら?
「うわぁ、見たことないくらいえげつないイイ顔してるぅ……。期待に応えられてるかな、僕」
「楽しいから安心してよ」
「……よぉし。僕の最大の魔法で更に期待に応えてあげよう!」
最大の魔法に心が躍る。どんな魔法か大人しく聞いて見てやろうじゃない。
「大海の奏者」
驚くほど短い詠唱の後、私とハルトの立つ地面から水が染み出し、フィールドは水浸しになった。私の膝下まで水位は上昇して、ハルトの準備は整ったようだ。
魔法でできた水なら魔獣が吸収してなくなってしまうはずだけど、とチラリと目を巨大生物達の方へ向ければ、植物の方はパラパラと崩れるところで、ミラはその大きさを人間サイズくらいに小さくして、フラフラになっていた。ギリギリ魔獣くんの負けってことね。多分凍らされたか塩水で枯れてしまったのね。
……ん?
塩水?
「しょっぱっ!」
そういうこと!? 水を舐めたらしょっぱいってことはそういうことよね。
あの魔獣も植物。塩水を飲ませたら成長が早いがゆえに枯れるのも早い。植物に塩水をかけたら塩分濃度が高くて枯れちゃうからね。成長が早いってことは老化も早いってこと、つまり、急成長し続ける最中に毒を盛られたらすぐに死んじゃうってこと。
え。でも待って待って。この大量の塩水はどこから持ってきたの? これだけの水をどこからから持ってくるなんて転移魔法で持ってくるぐらいしか……
「ちょっと! 貴方そんなコトして平気なの!? 魔力残ってる!?」
「大丈夫。ちゃんと海からここまで引いてるから平気だよ。さぁ、キュリア……やろうか」
手をひらりと動かす。私の周りの水がタワーのように四本吹き上がった。それらは徐々に私に近づいてくる。転移で逃げて様子を見てみましょ。
「転移……え、うそっ」
空間を跳べない。水が足にまとわりついて邪魔してる。私一人分を運ぶための魔力量じゃ運べないくらい一体化するレベルで……。いや、一体化しようとしてる?
私達の体は6〜7割が水で、少しの塩分やなんやらで構成されている。この水が私の体に染み込んで一体化しようとしてるなら、もう既にこの技を出された時点で私はハルトに負けていた?
膝から下はもう水に浸かっている。足を上げてみたけど、粘度の高い水飴みたいにまとわりついてる。
私の最終手段として、痛みに耐え足を自切して脱出する?
いや、まだできることはあるはず。痛いのは本当に最終手段。
跳べないなら、翔ぶ!
「大気の翼!」
翔べる! けど、にゅっと粘度の高い水が引っ付いてくる。もっと高く、速く、この水を引きはがすくらいの勢いで!
「空気爆弾!」
空気が爆ぜて、空へと一気に押し上げる。纏わりつく水は千切れそう。
もっと。もっともっともっと!
もっと翔べ。高く、速く!
水を引き千切る!
「特大のぉぉぉ……空気爆弾!!」
魔力を多く割いて素早く展開し、瞬時に爆発させた空気の塊は私の体を水の柱よりも高く高く舞い上げた。足に絡まるようにしてくっついていた水は、千切れたことで通常のサラッとした普通の水に戻っていく。足元が濡れて冷たく寒い。温めたいな。
それにしても、今のでわかったことがあるわ。
あのまとわりついていた水は、ハルトから離れればただの水・液体になってハルトが操れなくなること。ハルトの思うように自由に水の粘度や形も変えられるみたい。おそらく、射程距離とかも水が届く限り伸びるってことよね。
それでいて、攻撃にも防御にもかなり優れてる。普通に攻撃しても水を分厚い盾にして受け止めるでしょうね。ただし、ここまで強力な技なのはハルトに水が触れていて、そこから魔力を直に流し込んで、操っているから。
なら、ハルトに捕まらないようにするか、ハルトの防御が及ばない場所から攻撃を仕掛けるか、それかもう水自体を無くしてしまうか。この大量の湧き出す水がある限りハルトは無敵なわけだし。この水、邪魔だな、無くしたいな。吹っ飛ばす?
ということを飛びながら考える。
こうして飛行しながらハルトの水攻撃を避けて作戦を考える。ハルトの周りには取り巻きのように水の龍が下から伸びている。龍の首がたくさんいて、それがどこぞの神話で聞いたような風景を思い出す。順々に首が追って来て食べようとするのをひょいひょいと躱す。風で散らしても、これと言って反撃の決定打にはならない。
やっぱり火か。火で蒸発させないと封殺できない。毒が混ざってた場合が怖いから火を避けていたけど、そうも言ってられないわね。私の体に毒による麻痺や体調不良が現れてないし、水に直に触れてるハルトにもそんな様子はない。多分、毒はないんじゃないかしら。私より水に触れてるハルトが苦しんでる様子はないんだから。
…………いや、待って。私、毒が効かないじゃん。
今まで無属性で無効化してきたじゃん。ここ2年ほどすごく平和で毒に侵されることなんてなかったから忘れてたけど、私……自分の無属性で毒なんて元に戻して、なかったことにできるから、効かないんじゃん!
そうと決まれば、燃やそ。
「火炎弾!」
まずは、この大量の水の湧き口を潰す。あれがある限り際限なく水が湧いてくるし。
ハルトの足元から水が染み出して来た気がする。だからハルトの足元から水が湧いているんじゃないかしら。他にそれっぽい穴は上からだと見えないし。それにハルトが一歩も動いていないのが気になる。その場から動かないってのは何か理由があるはずなのよ。
私がこれだけ動き回っていて、逆に一歩も動いていないハルト。普通、動いて遠くへ逃げられたなら、追いかけてきたり、魔法の威力を損なわないように近距離で撃ち込んできたりするものだし。
まず、ハルトを動かして、水の出口を塞いでっと。
連射される火の弾丸はハルトを目掛けて撃つけど、それはハルトの水で防がれることは予定通り。水と炎。熱せられた水により水蒸気が出る。今は冬だから、水蒸気は白く濃い。つまり、煙幕になるってこと。
「止めよ、押し戻せ。風の盾!」
煙幕で全てが見えなくなって、私の声も水と炎がぶつかる音や蒸発する音で聞こえなくなってきた頃合いを見計らって風の盾を放つ。防御の魔法で、この魔法は大きな風の壁、つまり広い面を持ち、風が絶えず吹きつけて攻撃を弾き返す。それをハルトの周りから水を一気に吹き飛ばす為に利用したってわけ。
「えぇっ!? うわあっ!!」
防御していた水の塊も吹き飛ばされ、その中心にいたハルト自身も風の威力に立っていることはできずに吹き飛ばされる。風の盾は水を吹き飛ばし地面を露出させた。
そこに、それはあった。
思った通り、ハルトの立っていた場所に人が嵌ってしまうくらいの大きさのそこそこ大きな穴、水の通り道があった。
それを結界の魔法を使い、水が出てこないように栓をする。
さぁ、準備は整った。
水は節約して使わないとね、ハルト。
私は、立ち上がるハルトを見すえる。彼は水を集めて戦う構えを取った。
「そろそろ決着をつけたいわね、ハルト」
「そうだね。僕の大海の奏者を破ったのは君が初めてだよ。残った水で僕も最大の魔法で応えるよ」
「楽しみね」
残った水でハルトは再び巨大な水龍を作る。太い首、いや胴。首をもたげて今にも私に飛びかかろうと口を開けてハルトの指示を待つ。
「来い!」
「! ……食らえーっっっ!!!!」
龍が私に向かって口を開けて飲み込もうと飛びかかる。私は動かない。ハルトに勝つために。
「結界」
それだけを展開して私は水龍に飲まれた。
観客は静まりかえって私達に釘付けになっていた。この魔法で私が死んでしまったのではないか、とショックで息を呑む人もいただろう。
だが、安心してほしい。私の命は、まだ、燃えている。
「イクスプロード」
燃える心を爆発させる魔法は、勝利の祈りを込めて静かに唱えられた。
今回の魔法
◆大海の奏者
ハルトのオリジナル魔法。大量の水を操る魔法。魔法を使うには大量の水と魔力を必要とする。今回はウルガルド王国の地下に海まで繋がるトンネルを水で掘った。海水を引き入れたことでしょっぱくなった。また、粘度もいじれるようでキュリアの転移魔法を無効化した。やろうと思えば毒も流し込めるが、大量の水で薄まってしまうので、大量の毒でなければ効果は十分に発揮されないだろう。なお、そこまでのオーバーキル能力をハルトは必要としていないため、この先毒を混ぜることはない。そもそも、えげつないと思っている。
◆空気爆弾
風属性。文字通り空気の爆弾。圧縮した空気を一気に開放させて爆発を起こす。速度より規模で攻める。
◆空気弾
風属性。文字通り空気の弾丸。圧縮した空気を対象に撃ち出す。エアーボムより小規模かつ速射と連発に長ける。規模より数で攻める魔法。
◆火炎弾
火属性。文字通り炎の弾丸。エアー・バレットとほぼ同じ。しかし可燃性の物に着弾したら、その物体は燃える二次被害あり。
(※前作のIMATEで解説した魔法については紹介を省略。)
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次回で模擬戦はラストです。さぁ、どちらが勝つのか。
お楽しみに。
今回も読んでいただきありがとうございました。
次回、第4土曜日に更新です。それではっ。




