9/17 その2
キュリア、勉強する。
衛兵の人から温かく見送られ、とうとう王都の外の森へ出てきた。ここからは先輩達の薬草採取場まで歩きながら護衛ね。特に危険な魔物や生き物は王都の周りにはいないけど、完全にいないってわけじゃないから油断はできないけど。魔物や野生動物避け用の薬は常に需要があるから、今日はそれの薬草と怪我を治す薬の原料となる薬草の採取をするってこと。5級の依頼だから先輩達には簡単で物足りないかもしれないけど。
「まぁ、5級じゃ確かに俺達にとっちゃラクだけどさ。でも、料金は低いし、子供でもできる。特にスラムの子供なんかはこういう依頼があれば日々を生きられる。だから、大人達も依頼を毎日出せるようにしてる。金がなくて犯罪が起きてちゃ治安も悪いし、安心して生活できないしな」
「ギルドって、ある意味犯罪の抑止にも繋がってるから、王都って他の町や村と違って治安がいいんです。王都は常に人を募集していますから。僕らの村なんか、皆で農業くらいしか仕事ないですからね。あ、あと、たまに害獣駆除とか土木作業とか」
そういえば、依頼板には子供でもできる依頼が多く貼り出されていた。大人になるまでに依頼を通じて様々なことを経験すれば仕事もしやすいでしょうし。早く等級を上げてそういう子供に仕事を譲ってあげたい。それには魔法の練習あるのみ。早く等級を上げなきゃ。
「薬草って似てる奴があるから、よく観察しないと間違える。間違ったやつを採取して渡しちまうと依頼達成にならないし、こっちの信用にも関わるからな。もし、採取の依頼だったら俺達を頼っていいからな?」
「わかったわ。私は魔法が使えたら嬉しいから、こうして護衛役には呼んでよね?」
とにかく魔法をたくさん使いたい。
話しているうちに採取ポイントに着いたみたい。でも、先輩達が先に進まない。何かあったのかしら。
「こりゃぁ、マズいかもな」
「何がまずいの、アンリ先輩?」
「アレさ。見えるか? でっけえハチ。ギガ・ビーっていう魔物だ。どうやら、ここに巣を作られたみたいだ。困ったな」
「今、新しい女王が出てきた頃ですからね……」
マティアス先輩が顔をしかめている。
ギガ・ビー、虫型の魔物。虫型の魔物の中では小さい方だけど、それでも大きさは大人の頭くらいあるわ。農作物や家畜も襲う。小さな子供だって狙うこともあるちょっと危険なやつだったわね、確か。
縄張りに入らなきゃ大人しいんだけど、先輩達の薬草採取場所が新しく縄張りにされちゃったみたい。駆除しておいた方がいいわよね。
「ようは、あれを倒しちゃえば問題はないんでしょ?」
「倒したら素材は手に入るから倒してもいいっちゃいいんだけどよ……」
「巣ができたら、ギガ・ビーの蜂蜜やハチの子など、それはそれで美味しいやつが手に入るから、僕らとしては悩みどころなんですよね。蜂蜜やハチの子も高級ですから……」
ハチの子は滋養強壮、蜂蜜は風邪薬の材料に。しかもかなりいい値段で売れるから先輩達も倒すのは渋っちゃうみたいね。追い払う一択か……。それなら仕方ないかな。
「じゃあ追い払うだけにしましょ。その代わり、ギガ・ビー退治の時は手伝ってよ。美味しい蜂蜜、食べてみたいし」
それなら、と納得してくれたみたいで先輩達が頷く。さて問題は、どうやって追い払ってやろうかしら。
「ギガ・ビーを始めとした虫系のモンスターも普通の虫と同じ習性です。光に集まりますし、煙を嫌います。ただし、火だと明るさで寄ってくるので避けましょう。それから、飛ぶやつらは湿気や水気を嫌いますし、羽が濡れると飛べなくなります」
「火を使うのは避けた方がいいのね。なら、煙か水か……」
うーん、でも、それじゃだめな気がするのよね。一時的に追い出すことに成功するだけで、また時間が経てば戻って来ちゃうだろうし。どうせなら、ここは天敵がいる危険な場所だって分からせた方がいいと思うのよね。
天敵だとすると、ギガ・スパイダーかしら。闇魔法で幻覚を見せて、煙で追い立ててみる、とか。
私は先輩達と作戦を考えて準備に取り掛かる。
煙玉やその他、森に落ちている枝なんかを拾い集め、火をつけて煙を集める。逃げないように風の魔法で煙を集める。たくさん集めて後で一気に吹きかけてやるわ。
「そろそろいいんじゃないか?」
「これならギガ・ビーも驚いて大人しくなりますよ」
「じゃあ、作戦開始ね」
ギガ・ビーの縄張りに近づいて敵だと知らせる。これをしないと対象の方を見て攻撃体勢をとってくれないから。でも近づきすぎるのも自分が危ないから良くない。私は空間防御の魔法を使えるから別に近づいたっていいんだけど、先輩達の心労のために安全第一でいかないとね。
いい感じで顎をカチカチ鳴らせた威嚇音がしてきたわ。挑発もできているし、ここでギガ・スパイダーの幻影を召喚してやりましょう。
「幻」
私とギガ・ビー達には幻のギガ・スパイダーが見えているけど先輩達には見えない。だから捕まえている煙を出すタイミングでいかに本物のやばいのがいるって教えないといけない。幻を現実にするっていうエンターテイナー並みのことをするのよね。
というわけでそろそろ煙を出す為に決めた合言葉を唱えましょう。煙と共に進撃開始ってね。
「スモーク!」
アンリ先輩が風属性の魔法を操って煙をギガ・ビーの方へ送る。私は結界の魔法を発動させて煙から身を守る。漂う煙の中でギガ・ビー達が大きく震えたように見えたから、ビビらせることには成功したっぽい。けど、すぐに濃ゆい煙で見えなくなっちゃったから、その後どうなったのかはよくわからないけど。ただ、煙が所々強くピカッて光るのが見えたから、マティアス先輩達がギガ・ビーをうまく誘導してるっぽい。幻のギガ・スパイダーも煙に付いて行っているし。
煙が薄くなって辺りが見えるようになってきた。残った煙を風で吹き飛ばして私は残された巣を探す。巣をそのままにしておくと戻ってきたり、別の群れが入ってきてしまうからここで燃やしておかないと。
すぐに巣は見つかったし、作り始めだったから小さくてよかった。まだ一層目しか作られていないから奥にいるはずの女王も一緒に逃げたみたいね。心置きなく巣を燃やせるわ。周りに燃え広がらないように空間魔法で巣を覆い、火属性の魔法で燃やす。燃やし終わった私は先輩達を追った。
アンリ先輩は風を操りつつ、煙で上手く自分達の薬草採取場から少し離れた所へギガ・ビーを誘導している。風を操って誘導するなんておとぎ話に出てくる大魔導士みたい。アンリ先輩は私の姿を見て、もう幻影を解除していいと合図を送ってきたので、幻のギガ・スパイダーとお別れ。お疲れ様。
最後にマティアス先輩が光と電気で気絶させて終わり、という流れで終了の予定。仕掛けを終えてマティアス先輩が戻って来た。
私しか闇属性の魔法を使えないから目を守るために闇属性の魔法で目元を覆い準備完了。マティアス先輩が道具に魔力を流して辺り一面に眩い閃光と弱い電気を流した。
バチバチッ! っていうすごい音が辺りに響いた。周りにいた野鳥達が驚いて、けたたましい鳴き声を上げて飛び去り、静かになった。
「終わりかしら?」
「あぁ、これで俺達の狩場には今後近寄らないと思うぜ」
「ですね。じゃあ、採取依頼、始めましょうか」
ようやく薬草採取の依頼開始ね。今回は先輩達と組んだけど、モンスターの対処だったり、素材についてだったり、いろいろと勉強になるわね。今後も先輩達と積極的に組んで勉強していきたいわ。
◆ギガ・ビー
人間の大人の頭くらいの大きさ。小型の虫型魔物。肉も食べれば、草花の花粉や蜜を食べたり生産したりする雑食性。家畜や子供を襲うこともあるが、彼らの巣に近づかなければ基本無害。近づくと顎を鳴らして警戒音を出して威嚇する。火、煙、水に弱く、光に集まるという普通の虫と同じ生態。
素材として蜂蜜、蜂の子は風邪薬や滋養強壮の薬の材料になる。弱い毒も取れ、これは麻酔薬に利用される。
◆ギガ・スパイダー
大型の虫型魔物。肉食性。クモの魔物。頭から胴体は2メートル程だが、脚は10メートルもある。糸を臀部から出して罠や巣を作る。縦糸は強靭なため防具や武具に、横糸は粘着性に優れているため罠に利用される。
今回は幻として登場。
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知識って、力だな。
そう思う今日このごろです。
今回も読んでいただきありがとうございました。
次回は4月! 第2土曜0:00!
新しい年度は何が待ち受けているのか。不安も期待も同等です。震えて待て、と言うやつですね。




