6/18 & 6/20
『卒業式と夏休み開始』
逞しくこれからを生きるために
6/18
「卒業生代表、レネ・ガルシア」
「はい」
レネさんが卒業生の総代として壇上に上がり学位の記された卒業証書を受け取った。
そう、今日は卒業式なのだ。総代として壇上に呼ばれたレネさんは凛々しい。宮廷魔導士の証である指輪とバッジがキラリと光る。全校生徒の憧れがそこにいる。
私はそのうち、賢者になるのが夢の一つだけど、できれば私もレネさんのように凛々しく気高く、そして堂々とした人になりたいと思う。オルガさん、ベレジュナーヤ先生、そしてレネさん。私が素敵だな、いいなぁと思った年上の女性達。いつかこういう姿になるのもいいわね。
もっと勉強して、もっと魔法をうまく使えるように練習して。そして、誰かの目標になれる人になりたい。
レネさんの卒業が、私の中で一つの転機になったのは言うまでもなく。私が更に頑張るきっかけになった動機の一つであり、それがあったから、私は更に前に進むことへの躊躇いを持たない。
とにかく、今日は今以上に頑張ることを決意した日だったのよ。
6/20
今日から夏休みが始まった。
学校からの宿題は出ていないけど、この夏休み中は魔法の技術向上や、座学で学んだことの復習など、それぞれの課題を見つけて取り組むのが、この学校では暗黙の了解らしい。遊び呆けて授業についていけなくなる、なんてことがあったなら、成績が落ちて退学しなければならなくなるものね。
貴族の生徒達は各領地へ戻ったり、王都に残る貴族達はお茶会や夜会なんかを開催したりして、子息・令嬢の結婚相手探しなんかをするんだとか。ハルトやベルメール先輩が憂鬱そうにしていたわ。
特にハルトはウォード辺境伯領に戻らなくちゃいけない。馬車で一週間の道のりだというから道中本当に大変そう。待っててね、私が無属性の転移の魔法を覚えたら絶対領地まで送ってあげるから。
レイン先輩は王都のレイン邸と領地を行ったり来たりするみたい。王都で見かけたらお茶しましょうね、って約束した。レイン家も密偵や諜報の情報収集のお仕事があるし、貴族が活発に動く今が繁忙期だろうから、あまり無理はしないでほしいわね。
ミケーレ先輩はお父様の仕事の手伝いで裁判の資料なんかを纏めるみたいなことを言ってた。確か法律系の授業を取っていたわね。来年度もその授業を取る予定で予習するんだって張り切ってた。
弁護士になるのか、裁判官になるのか、どちらになっても、きっとミケーレ先輩は真面目に忠実に職務をこなすんだろうな。
アンリ先輩とマティアス先輩は実家の方へ帰省して、寮で育てている薬草を栽培実験するんだって。レネさんの卒業パーティーで言っていた夢のために動く。夏休みはいつもそうしてるみたい。
そう言えば、学外で薬草採取の依頼を受けた時に、珍しい植物を見つけたって言ってたわね。お家の農園にそれも持って帰るのかしら。そもそも植物ってどうやって持ち帰るものなのかしら? 普通に手荷物で持ち帰ると大変なことになりそうだけど……。
キリコさんはレネさんの引っ越しの手伝い(勿論、私も転移魔法でお手伝いするわ)。それが終わったら魔法を活かしてガラス職人の修行だって。ガラス作りの技法や新しい技をこういう長期休暇で研究しないと、修行時間が取れないって言ってたわ。学生だから学業を疎かにできないものね。王都の商会のお店から職人達のいる郊外の町へ行くから、休暇中はほぼ会えない。それはそれで応援もしたいけど、年の近い同性の先輩に会えないのは少し寂しい。
レネさんなんてもっと会えない。引っ越しに王城勤務が始まるから忙しいもの。7月から宮廷魔導士として働き始めるから色々大変だと思う。
ギュンターさんやラツィオがたまに戻ってきた時に様子を聞こうと思う。あまり無理をして体を壊していないか心配だし。
一応、皆の連絡先は教えてもらっているから手紙を書いてもいいかも。
さて、私はというと……。
「す、スイマセーンッ!」
盛大にガシャーン! って音が聞こえた。バイト君がまた派手にやっちゃったわね。
「はーい。落ち着いてねー。まずは破片を箒と塵取りで集めてねー。間違っても手で触れちゃだめだからねー。……キュリア先生ー? お願いできますー?」
「キュリア出動しまーす」
仕入れ兼看板娘にして店を取り仕切る(更に店長の娘でもある)オルガさんが厨房から呼ぶ。ホールからそこへ向かえば半べそかきながら破片を集めるバイト君は何度もスイマセン、スイマセンッ! って頭を下げてる。
バイト君を宥めながら私も破片の掃除を手伝いつつ、魔法陣を刺繍した布を用意する。ちりとりで集めた破片を広げた布の上に空けた。
「はい、じゃあ直していきまーす。時よ、戻れ」
白と紫の混ざった藤色の光。授業でやったように元の形を知り、その形にくっついて直るように願いを込めて、魔力を流して調節して、時間を操っていく。
大きな破片を起点にすると直しやすいことが、やっていく中でわかった。大きい破片がくっついて小さな欠片達が割れた穴を埋めるようにくっついていく。元の形に戻っていく。キッチンの中に散った小さな欠片も何処かから飛んできてピシッとはまっていく。
そして、ピンッと、高い澄んだ音が鳴った。
「はい、直りました」
「キュリアちゃんありがとー!」
「先生、アザッス!!」
私は習った無属性の魔法を始め、魔法で人の役に立ちながら、魔法技術を磨いている。勿論、ここ、『戦士の厨房』を拠点として。壊れた物を直すこと、少しの怪我なら治せるようになった。ただ、重症になってくると、まだ治すのに時間がかかってしまう。だから、指を切ったとか、転んで擦りむいたとか、そういう軽い怪我を治してる。
病気を治せないか、と怪我を治した人から訊かれたけど、残念ながらそれはモノによるのよね。例えば、手術で腫瘍を取り除くとか、骨折を治す、臓器の損傷を治す、だったら無属性の出番。でも、風邪や精神性の病気とか体の機能の衰えによるものといったザ・病気は対象外。それはもう私や先生、他の無属性でも無理なので、大人しくお医者様に行ってお薬をもらったり、治療してもらってほしい。
毒や呪いなら、まだギリいけるかも。毒は時間を戻して毒素を吸収される前の状態に戻してから転移で体外に出すか、呪いと同じで光属性の魔法で対処できるから。
でも結局、それがどんな病気で、無属性で治せるのかどうかのは、患者に会って調べてみないとわからない。それで治せないってなると、どうして、だとか、人でなし、だとか言われるだろうから、「病気は治さない、怪我は軽いものだけ」、という決まりを作った。治す時もそれを説明しているし、オルガさんとか『戦士の厨房』関係者など信頼できる大人に立ち会ってもらっている。
あとは、お医者様のお仕事を奪わないためもあるわね。最先端の医療や専門知識、治療法は一介の魔導学生には無いもの。餅は餅屋、という言葉があるように、専門的なことは専門家に任せるのが一番良いのよ。私みたいなただ、時間を巻き戻して元の状態に直すだけの子供じゃできることも少ないし。
そんなわけで、私の夏休みは習った無属性等の魔法をフルに活用にしてお店の手伝いや人の為の奉仕活動をしながら、魔法技術を磨くというものになるのだった。
カラン、と入り口のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ~、何名ですか?」
「一人だ。今日もやってるなキュリア」
「勿論。今日も無属性を使ってますよ、先生」
それぞれが課題を見つけて学び、研究し、実践し、力を伸ばしていく。そして、休暇明けには一皮むけて成長した生徒の姿が見られる。……多分、自分、そんないい子じゃなかったな。
今回も読んでいただきありがとうございました。
次回、第4土曜日、0:00更新です。




