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パーティーよ!!!
秋入学の学校は6月入ったら夏季休暇ってホント?
王都の一角にある飲食店街。その中の一件、『戦士の厨房』。そこでは今日、卒業間近の魔導生を主役としたパーティーが開かれている。
「えー、では、この度は私の姉、レネ・ガルシアの卒業パーティーにお集まりいただき、誠に有難うございます。本日は楽しんで、いい思い出を作りましょう。乾杯!」
キリコさんの挨拶に、皆が元気に乾杯と返し、ドリンクを飲む。そして、拍手が起こった。
レネさんがあと一ヶ月で卒業することに。
私は出会ってまだ数ヶ月だけど、いつものメンバーから一人いなくなるんだもの。寂しくなるわよね。私も含めてだけど、妹のキリコさん以外はレネさんと顔を会わせる機会が大きく減ってしまうから。
卒業するっておめでたいけど、寂しいことなのね。
「僕とガルシアが出会ったのが、ついこの前のことみたいなのに、もうそんなに経っちゃうのか……」
「年寄り臭いなぁ。私が卒業したら君が最高学年だぞ、ハルト。しっかりしてくれ。君がリーダーになるんだよ」
「そ~よ~」
「……ご覧。ベルメールには任せられない。君がダメならミケーレだ」
「え、僕ですか!?」
高学年組は付き合いも長いから話が盛り上がっている。逆に中~低学年組は、レネさんにこれからサプライズで渡す卒業祝いについての段取りの最終確認をしている。私もその中に入って動きを確認しつつ歓談する。
レネさんはこの7年間の成績がかなりよく、学年全体で5位には必ず入っていた。年末に行われた模擬戦闘試験の成績も非常に良く、それらも加味されて王城の宮廷魔導士として働くことが内定した。本人は家業に携わるつもりでいたけれど、試験管である王城の宮廷魔導士の熱烈なスカウトのラブコールにより、王城へ入ることになったの。
秋からは宮廷魔導士としての仕事が始まるため、身の回りの整理や支度などを先月行われた卒業試験後からやっている。だから、私達在校生組は卒業祝いの品を議論した。
アドバイザーには王宮騎士団のラツィオやギュンターさん、それから戦士の厨房の皆さんがついている。実用的なのがいい、流行りのものがいい、使い勝手が良く長く使ってもらえるもの、宮廷魔導士として相応しいもの、など意見が上がった。
私はそういうものが良くわからないから、出来たのは会場を押さえることとアドバイザーの紹介くらいだったけど。でも、私からすれば大快挙。しかも、『戦士の厨房』の貴族とかちょっとお金持ち用の二階の個室部屋を貸しきりよ! 我ながらいい仕事をしたわ。
その分、私が裏でたくさんの雑用というお手伝いをコツコツとしていたお陰でもあるのだけど。全属性の魔法には大変お世話になりました。
「ガルシア先輩はすごいなぁ。俺達もでっかい夢を掴みとりたいな!」
「そうだね、兄さん。もっと農園を大きくして、行く行くは薬草だけじゃなく薬も自社生産していきたいよね」
「わぁ、すごいビックドリームね。アンリ、マティス兄弟には負けてられないわね、私も」
キリコさん達の会話を、私は眩しいと思った。
夢。私の夢は、暗い夢が根幹にある。
私は自分を殺す魔法を発見すること、国家魔導賢者になること、主にこの二つだけど、最近もう一つできて。今はこれを真剣に頑張っているのよね。
ハルトを世界旅行に連れていく。だから、ハルトが卒業するまでには、人を連れての空間転移魔法を自在に使いこなさなきゃいけない。ハルトの願いとはちょっと形は違うけど、叶えてあげたいからね。
流石に誘拐はちょっと……だけど。ハルトや周りのみんなには内緒よ。
そう言えば、ハルトって将来の夢とか希望する進路とかってあるのかしら。聞いたことないけど……。
「ハルト、君は家のこともあるだろうが、まずは卒業できるように。それからどんな貴族になりたいか、どんな事業を起こしたいか、夢を持ってるか? 君の場合、夢と成績、それから経験次第でどんなことだってできるだろう。頑張るんだよ」
「うっ……先輩からの一言は重いなぁ」
「君ねぇ……」
「でも、確かにそうだよね。ありがとう、ガルシア。その言葉、先達のありがたーいお言葉として受け取っておくね」
「君ってやつは……」
レネ先輩と歓談するハルト。会話からは彼の将来が見えなくて。私は彼と最初に出会ったときの事を思い出していた。
会も終わってレネさんが下級生組を送りに先に帰っていき、私は率先して後片付けを指揮していた。今は私の家だしね。
その片付けの最中、私はハルトに将来のことについて聞いてみた。
「ねぇ、ハルト。さっきレネさんからありがたいお言葉をもらっていたみたいだけど、ハルトは卒業したらどこへ行くの?」
「え、僕?」
ちょっと間をおいて彼は卒業後を語りだす。
「僕はね、生まれたときから将来が決まっていたんだ。僕がなりたいと思った職業には、どうしてもなることはできなくて、ただ一つの道しか進むことを許されなくて。僕はやっぱり貴族だからね。卒業後、王宮へ入ることになっているんだ。そこで大事な仕事を行う。誰にもできない、僕にしかできないことを。卒業後、僕には今ほどの自由がなくなるんだ。だから、……君には例の件を実行してもらいたい。僕がまだ、僕であるうちに」
そう願われてしまったら、やるしかなくなってしまう。私は願いを叶える神様じゃないけど、ただ一人の魔法学校での友人の頼みを無下にするなんてできそうにないから。
「でも、ベルメールみたいな僕の手足になってくれる人はたくさんいるから、いろいろな情報が手に入るってのは利点かな。君やベレジュナーヤ先生の時もそうだったから。会えてよかったし、友達になれてよかったよ」
「貴族のツテってやつね。一方的に私の情報があるのが気に入らないのだけど」
「それはごめん。でも、君が世にも珍しい無属性持ちで、この学校に来るという情報は、僕にとっては死にかけていた心を生き返らせるほどのすごい情報だったんだ。君は情報だけで僕を救ってくれた、本当にすごい女の子なんだよ」
ここまで言われたら個人情報の取り扱いについて怒るに怒れないじゃない。
どうしたって、私はハルトには勝てない。このとんでもなく心から人を武装解除させていくスタイルの最強人たらしに一体誰が勝てるのよ。
白旗を揚げて彼の願いを聞くしかない。こんな思いを恋だと、世間では言うのかしら。人生経験がとても少ない私には判断できなかった。
今日(2023/01/28)の0:00に更新と言いながら、更新が遅れました。待っておられた方々、申し訳ございません。2月からは遅れないように気をつけますので、今後ともよろしくお願いします。




