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魔法の勉強。
今回の無属性で学ぶのは?
持ち物は『壊れてしまったもの』。
今日の無属性の授業は持ち物があった。壊れてしまった物を持ってくるように、というベレジュナーヤ先生からの指示だ。『壊れた』ではなく『壊れてしまった』という言い方が妙に気になるのよね。この言葉にどんな違いがあるのか、それを考えるのに一週間かけた。
それの答えが合っているかどうかが、今日の授業でわかる。私は自分が使っていて『壊れてしまった』モノ、『壊されてしまった』モノ、先輩たちから借りた『壊れた』モノを持ってきた。
壊れてしまった誰かとの絆、みたいなモノは流石に無理だったけど。むしろソレだというなら、どう持ってくればいいのか。
「先生、こちら『壊れてしまった』モノ、『壊れた』モノ、そして『壊されてしまった』モノです」
「言葉の意味をよく考えたな」
先生は私の言葉を聞きながら私が集めてきたモノを眺めた。先生の言葉に私は頷く。
「先生、はっきりと言わせていただきます。……私には、この言葉の違いを正しく理解することができませんでした。『壊れてしまった』と、『壊れた』の違いは何でしょうか?」
「………………違いはないが、ニュアンスの問題、だな」
ズコッと体勢を崩してしまったわ。
え、そんな違いもあやふやなことに、すっごい真面目に一週間も考えたって言うの?
「考えた時間返せよ」
「!?」
突然の暴言に目を丸くしてるわ、先生。
失礼しました。
気を取り直して授業の続き。
まぁ、壊れたものということから察するに、時間を巻き戻して直す、ということをするのだと思う。“直す”と“治す”。私がかつてよく使っていた魔法。と言っても、当時の私は無意識で使っていたから、正しいやり方や魔力の操作はわからない。けど、何度もやっていたからすぐにできると思う。
今回はちゃんと理論とか、やり方をしっかり教えてもらいたいわね。これも役に立つ魔法の一つだし。
「ということで、もう察しているだろうが今日は時魔法だ。時間を戻して物を直していくぞ。生物に転用すれば、傷ついた者を治す治療にも役立つ。……これは、君が一番良く知っているな?」
その言葉に頷く。もし、この魔法をあの実験体だった時に知っていて使えていれば、或いは無属性に目覚めず、またその使い方も知らすに仲間と一緒に逝けたなら……。なんて、色々考えてしまう。
きっと、神様に聞いたって何が良くて何が悪いのかは教えてくれない。でも、この力を学べば、その答えは出るはず。
だから、まずは知る。
知れば、良かったのか悪かったのか、その答えが出ると信じて。
先生と始めて会った時に言った、好きになる、という言葉。学んで好きになれたら、良かったという答えだ。
「先生、教えてください。私がずっと使ってきたこの魔法を」
「いい目だ」
先生は魔法陣が描かれた紙を広げた。
魔法陣は円や三角、四角、五芒星や六芒星など、図形を組み合わせて描かれ、それに魔力を込め呪文を唱えることで物体に作用させることができる。魔法陣自体はそんなに難しくない。一度覚えてしまえば魔力で描ける。
基礎的な初級〜中級の魔法陣は流す属性の魔力と量、呪文の詠唱とイメージで効果と威力が変わる。上級からは魔方陣が複雑化するので、魔法陣を描いた紙や魔法陣を刺繍してある布など、予め魔法陣の描かれた魔匠具で使う方が早いしラクだ。先生が広げた紙のように。
無属性の魔法陣は円と六角形が主体だ。大きな円と中央に小さめの円。大きな円の中には六角形。向かい合う角から雪の結晶のように線が引かれているのが基本形。
そこから更に、関連する属性に該当する角に小さな円と六芒星が重ねて描かれる。関連する属性が増えれば小さな円が角に追加で描かれていく。無属性が主で他の属性の力を利用する場合は難しい図形は必要ない。基本形の角に六角形、属性の位置関係、この二点が通常の属性魔法に加わっただけ。覚えるだけなら簡単だ。
ただ、使える人は私達、無属性持ちに限られるけど。
現状、私や先生のように無属性を持つ人しか無属性の魔法を使えない。無属性を持つ人なんてなかなか現れない。
たしか、500年くらい前のモクシュカ・ジャドゥという国で、普通の魔導士がいきなり使えるようになったという例があった筈。持っていることに気づかないでいたとか、何らかの影響があって使えるようになったとかで、自分が無属性持ちであることを自覚するパターンもある。
私は、強いストレス、生きるという意志が働いて目覚める説を提唱したい。これは私と先生に共通してることだし。
さてさて、閑話休題。時と場所を戻しましょう。
今回の課題。時間を戻して物を直す魔法。
使うのは主が無属性、副は闇属性。
まず1番、物が壊れる前のことを知るために物の記憶を読み取る必要がある。その為に闇属性で隠された情報を知る、記憶を読み取る魔法“メモリード”の魔法を絡める。
2番、読み取った情報を基に、その物が壊れる前の状態をイメージしながら元の状態になるまで魔力を注いで時を戻す。魔法で魔素に働きかけて結合して貰うのだ。
生物なら元に戻ろうと、治ろうとする治癒力を魔素で活性化させる。非生物の物体なら、パーツを魔素で結合させる。足りないものは魔素が自動的に補ってくれるが、両者とも欠損が大きすぎると術者の魔力を大量に使用しなければならない。だから、なるべくパーツは拾い集めておく方がいい。
この魔法は、読み取りつつ時間を限定的に局所的に操って直すという魔力の制御も必要になる。無属性は勿論、元々、闇属性も魔力の制御・調整が難しい繊細な属性魔法だ。2つの属性を同時に扱うのは、高い魔法技術の持ち主である証でもある。
高度な魔法技術への挑戦としても、便利な魔法だから覚えるにしても、臨むところよ。
「複合魔法は他の授業で習っているな。魔力の操作はそれに近い。主と副の属性にかける魔力6:4〜8:2の割合だ。ただし、魔力の制御はいつも以上に丁寧に慎重に、だ。闇で対象を理解、対象の壊れる前をイメージしながら壊れる前の状態になるまで局所的に時間の流れを歪めろ」
「はい」
「まずは……自分が使っていたり、壊れる前の形が思い出せる物の方が簡単だろう」
「それなら……」
これが良さそう。手に取ったのは私が使っていた鉛筆。まだ長いそれは無惨に真ん中辺りで折られてしまった。目を離した隙に誰かに壊された。短くなってしまったけど使えないことはない。けど、直せるなら直して一本の元の長い鉛筆として無駄なく使いたいじゃない? それに、目の前で直したら物を壊すのは無駄な行為だって相手に示せるし。
というわけで、この折られた鉛筆を元の一本の鉛筆に直してみようと思う。
先生が用意してくれた魔法陣の描かれた紙の上に鉛筆を置く。この2つのパーツがくっついて再び一本の鉛筆になるように。イメージして願いを込める。
それらの上に両手を翳して魔力を集め、高めていく。
「時よ、戻れ」
魔方陣が薄紫色に光る。私の髪みたいな色。闇属性で読み取りながら鉛筆の記憶を遡る。(あ、折ったのコイツね。今度、魔法実技でコテンパンにしてやろ。)
元の状態は真っ直ぐな棒。構造は木材と練られ固められた黒煙。うん、両方とも理解できたから、今度は無属性で時間を戻していく。範囲は魔法陣の上から両手の間の空間。
鉛筆がひとりでに動き出して、それぞれの断面が引きつけられていく。白い光の粒子みたいなものが断面に向かって集まってくっついていく。
魔力の操作を慎重にした。ゆっくりと丁寧に。ちぎれた紐を一本一本繋ぐように。ミシミシっと小さな木の音、ピシピシっと鉛筆の芯が繋がる音。そんな微かな音が聞こえる。もう少しだ。
局所的に魔力を更に注いでいく。鉛筆全体というより、もう鉛筆自体、折れた断面を中心に。いつの間にか魔法陣から魔力の光が浮き上がり、鉛筆を中心の軸にするようにして回っていた。
ピンッ!
高い澄んだ音がして魔方陣の光が弾けるようにして光の粒子となって空中に溶けるように消えた。
長い一本の鉛筆が紙の上に転がっていた。真っ直ぐなその姿は紛れもなく壊される前の姿だった。
「ぉ、おお〜、鉛筆だぁ……」
「フッ……あぁ、元に戻せたな」
鉛筆を手に取って、透かしたり眺めたり、傾けたりする私に先生は笑った。
それから、集めた物を同じ手順で直していった。
物の記憶を読み取り、元の姿をイメージし、時間を局所的に戻して魔素で繋いで固定する。パーツが足りなくても魔素や空気中の元素で補われて元の形に戻されていくこともわかった。その分、どのくらい自分の魔力がどのくらい消費されるのかも。
それにしても、物の記憶を見ると、この物体が何を見ていたのか、誰にどう使われたのか、大切にされていたのかがわかるのは面白い。ところで、私の物を壊してくるヤツの顔が見れたので、そいつらに対してはきっちりとお礼参りをしようと思う。
時々、怒りで失敗してしまうこともあったけど、心を落ち着ければ直せるので、物体を直すことはできたことになる。怒るな怒るな、キュリア。冷静にならないとね。
さて、そうなると、次回は……。
「次回からは生物に対して“治す”ことをして行く。手順も同じだ。最初は植物から挑戦だ。くれぐれも自分で生物に対して練習しないことだ。変な方向に骨や皮膚がくっつくのは嫌だろ?」
「それはそうね。今日の復習だけに留めておくわ」
私の言葉に先生は頷いた。
ちなみに、後日、魔法の実技授業の模擬戦で、私の物を壊した奴らはコテンパンにやっつけてやったわ。
それから、物を直す魔法を皆の前で使って見せて、物を壊すのは無意味だということを知らせてやったからか、もう物が壊されることはなくなった。
直したり、治したり。やっぱり元の状態に直す・治す場合は時間を巻き戻す、なんていう話になりますね。
デニムとか、膝の穴とかを塞ぐ場合にアップリケだとか布を使うってなると、それはリメイクであって、リペア(修復)ではないって感じがします。難しい。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




