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無属性の勉強をするキュリア。
ついに予知の成果が!?
ようやく、私の見た夢が現実と結び付いた。三日前に見た夢が現実のものとなったの。まぁ、たったの数秒だけどね。
どんな夢かというと、ハルトが昨日考えたというスケートをしながら水を出す芸をするのだけれど、失敗して私に水をかけるという内容。ハルトってスケートが上手なのね! 華麗な二回転ジャンプをきめるものだから、とてもスケートが上手で驚いたし、美しかったから見とれて避けられなかったのよね。ちょっと力んで魔法の出力を間違えたの。初披露なら、力も入るわよね。
夢でも現実でも避けられなかったけれど、彼の驚いて、それで慌てた顔が見られたのは良かったし、ちゃんと人の子なんだって安心した。
「ごめんよキュリアァァァ!!」
「わかったから、泣きながら走らないでよ。それよりどこに向かってるのよ? ここ、火属性科でしょ?」
「友達に温めてもらう~!」
うわあああああ! って叫びながら、びしょ濡れの1年生の女の子を抱えて走る水属性科の6年生。これって軽く事案じゃないかしら?
周りも何事かという目だし、何が起こっているのか理解できないって顔をしている人もいる。
大変お騒がせして申し訳ないわ。
「ガルシア!! ガルシアー!!」
目的の教室に辿り着いたようで彼は大声で人の名前を叫ぶ。教室中の視線が私達に集まるのは恥ずかしい。これで自分が発熱して服が乾かないかと思うも、そうもいかないのよね。
一人の女生徒がブーツの音を響かせて歩み寄ってくる。火属性を持つのに相応しそうな人。炎のような赤い髪は後頭部で一つにまとめられ、炎が背中に流れて燃えているみたい。金色の目もきれい。この人も美しい。
「……事案?」
「誤解だ!」
耳元で叫ばないでくれないかしら。揺られて酔いかけなのよね。
「……踊れ、コウカ」
赤く輝く宝石がガルシアさんの手から燃えだし、炎が私の周りをくるくると素早く走るように取り囲んだ。
ガルシアさんの手から宝石が燃えたことに驚いたし、目の前で炎が躍り迫っていることにも驚いたし、ガルシアさんは火傷していないか不安だし。ハルトの服をぎゅっと掴んでしがみつくしかなかった。
ハルトは大丈夫だから、と私を引き剥がそうとしていた。いや、炎が迫っているのに何を呑気に。
「コウカは火属性のイメートで、濡れた君を乾かそうとしてるのよ。大丈夫よ、燃やさないから」
自分の持っていたタオルで私の頭を拭きながら諭すようにガルシアさんは言った。それを聞いてハルトから手を離し大人しく頭を拭かれることにした。
しかし、水を含んだローブはなかなか乾かない。しまいにはハルトも魔法で脱水を試みてくれてなんとか昼休憩中に乾いてくれた。その間に何があってこうなったのか、事情をハルトはガルシアさんに説明する。
それにしてもこの炎のイメートっていうの? これ、温かくていいわね。この季節にピッタリだわ。これなんなのかしら。どうやって手に入れるものなのかしら。
「……やれやれ。ハルト、君ねぇ。そういう事案みたいなことはやめた方がいいぞ」
「こ、今回はちょっと失敗しただけなんだ! わざとじゃない!」
「わかったわかった。それより、ちゃんとこの子に謝ったんだろうね?」
「あっ。……キュリア、本当にごめんね」
「もういいわよ。私も濡れるってわかっていたのに避けられなかったから」
予知していたのに避けられなかった。魔法で水を防ぐ術だってあったのにしなかったし。濡らさない工夫や対策だって私なら取れたはずだったのにね。まぁ、いろいろとハルトの勢いで動転していたのだからお互い様ってことで。
「あらかじめ分かっていたなら、何でこうなっちゃったの?」
「予知していたので」
「……はいぃ?」
どういうことだ、とガルシアさんは聞いてきた。
私が今年入った無属性科の生徒であること、ようやく無属性魔法の実技に入って予知の勉強をしたことを話す。
「君があの……って、ハルト、てめぇやっぱり事案じゃねーか、この」
「ストッープ!」
コウカが大声を出す。
まぁ、なんとなく続く言葉の予想がついているから、別に遮らなくてもいいんだけど。元奴隷だし。それよりもひどい言葉を浴びせられてきたし。15年ぐらいしか生きていない人間の罵倒なんてたかが知れてるし。
子供の教育に悪いとか言ってコウカは私の耳を優しく覆う。そのコウカの外見だけど、主に似た燃える(こちらは物理的に)炎の髪、女性の体、踊り子風の衣装、それから背中から腕は一直線に炎の線が入っている。そこから微かに炎がちろちろと踊っている。なんだか鳥っぽい。暖かい。寝そう。
「まぁいい。この件は放課後たっぷり裁判をするとしよう」
「裁判なんて、そんなぁ」
「問答無用! コウカ、後であいつらのところへ伝令に行ってくれ。君も参加してほしい」
「別に予定はないから参加してもいいわ。ハルトがどうなるか興味もあるし」
そんなぁ、と声を漏らすハルトには申し訳ないけど、ハルトの仲間を知るいい機会だし。裁判、というのは穏やかじゃないけど、面白そうだし。
放課後を楽しみにしながら私はハルトに付き添われて(実際は落ち込んだハルトに付き添ったから逆なんだけど)、それぞれの教室に戻って授業を受けた。ハルト、授業に集中できなかっただろうなぁ……。
カンカンッ!
開廷の合図(木の机に何か硬いものが叩かれた音)が響く。私は静粛に始まりの言葉を待った。
「これより、被告人ハルト・ウォードの女児誘拐未遂事件の裁判を始める。被告人ハルト・ウォード、前へ」
ガルシアさんの掛け声により、生徒会室で裁判が始まった。いや、この学校に生徒会室があったことに驚きなんだけど。ガルシアさんが生徒会メンバーっていうのも驚きだし。あと、意外と本格的な裁判っぽい。
そんな中、ハルトは前に出てくる。
弁護人席には真面目そうな男子生徒が、検察席には遊び人風な派手な女生徒が座っている。両方とも知らない上級生ね。陪審員席には、これまた知らない三人の生徒が座っている。私より少し上くらいの学年かな。
うん、本格的。傍聴人はいないけど。
私? 私は被害者兼証人尋問の席よ。
「罪状を読み上げる。被告人ハルト・ウォードは本日正午、無属性科の一年生に事故で水をかけ、奇声を上げながら火属性科の私のところへ行く先も告げずに抱えて走ってきた。行く先も告げずに抱えて連れ去ることは誘拐事案に相当する。これに間違いはないか?」
「そんなつもりではなかったけど、……そう言われると誘拐事案っぽく見えます」
そこは黙秘でいいんじゃないかしら。それか違うなら違うで。
そして、弁護人の弁護、検察の尋問が続いて、いよいよ私の出番だ。そう、証人尋問ね。検察側の派手な女生徒が問う。
「証人キュリアさんに聞くわ〜。被告人はぁ、行き先を告げずに濡れた貴女を抱えて走り出したのよねぇ?」
「はい。彼はやってしまった後悔でひどく取り乱していました。私が無属性魔法を使えば脱水どころか、濡れた事実さえ巻き戻してなかったことにできるのを忘れるほどに」
「それ早く言ってよキュリア……」
「貴方が言わせる暇もなく連行したんじゃないの」
静粛に、と声がかかる。本物っぽい。本物知らないけど。
いろいろあってもう判決だ。結果はもうわかりきってるけど。
「被告人ハルト・ウォードは無属性科の1年生を連れ去り、誘拐未遂事件を起こした。よって被告人を有罪とし、今週の学食奢りの刑に処す。これにて閉廷!」
「っシャアァァァ!!」
「タダ飯だ~い!」
「デザート付きぃ~」
なんだろ。この人達、変な人だけど面白いかも。支払い係になってしまったハルトにはちょっと同情だけど。
因みにハルトが7、弁護人が3の割合で払うらしい。ハルトが勝てば検察役と陪審員で検察側に賛成した人が払う、ということらしい。いつもそういうルールで裁判をしているのだとか。
「改めて自己紹介しようね。私は火属性科7年のレネ・ガルシア。皆からはガルシアと呼ばれている。うちのクラスにレネが二人いるからね」
「弁護役だった僕は土属性科5年のミケーレ・ロダン。よろしくね」
「検察役は〜、闇属性科6年のベルメール・レインよぉ。ほしい情報があったらぁ、集めてあげるわ~」
「センパイこっわ。俺は光属性科4年のアンリ。こっちは弟のマティアス。風属性科の3年」
「マティアスです。よろしくです」
「火属性科3年、キリコ・ガルシア。レネ姉さんと姉妹ね」
私も皆に倣い、改めて自己紹介をする。無属性科だと言えば皆が驚きや喜びの声をあげる。欠けていた属性の仲間だと喜ばれるのはちょっと新鮮。けっこう好意的に受け入れられてるのは私としても嬉しいし。ハルトの友人達からは他の生徒達のような悪い感じがしないのはいいことだし。
ハルトが前に言ってたけど、自分の友達は周りの奴らみたいにクズじゃないって。本当にその通りで皆いい人そう。
「明日から君もハルトに集っていいよ。なんたってお昼代はハルト持ちだ。好きなものを頼むといい」
とても嬉しそうな顔してますよ、レネさん。でも、一週間も奢ってもらうなんて大丈夫なのかしら。私みたいに平民だったら無理だけど。
とか思っていたけど、翌日のお昼はしっかりハルトに奢らせた。
人に奢ってもらうお昼も、沢山の仲間と食べるお昼も、本当に最高ね!
登場人物については次回、本編で説明。
もうすっかり冬です。ハルトのようにスケートを楽しむ人も、屋内でぬくぬく温かくして過ごす人も、寒冷地で雪かきをする人も出てくる季節です。今が紅葉の見頃・見納めなど地域によって変わりますが、風邪を引かないように過ごしたいですね。
今回も読んでいただきありがとうございました。




