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今日の魔法の勉強は、ちょっとだけ肝が冷えた。
夢による予知を頑張ってはいるものの、その成果はあまりよくない。雑念があるのか、それともやり方が合わないのか……。
因みに同じ無属性の魔法でも物を移動させる転移魔法はすんなりとできた。もっと練習すればあと1、2年の内に自分を移動させることに挑戦できるみたい。頑張らないと。
かなり早いペースで実技が進んでいるため、もしかしたら飛び級もあり得るかもしれない、と先生は言っていた。でも、それは先生との授業が早く終わることを意味している。せっかく会えたのに、もっと学びたいのに……。
そんな思いとは裏腹に、私の他の魔法実技は5年生のレベルになろうとしていた。1年生で5年生の魔法をバンバン使いこなしているから、学校側や現役で学んでいる5年生からは驚かれたり嫉妬されているのは……まぁ、酷いいじめを受けていないのだけは救いね。下手したら私の方が魔法の威力が高いし、5年生は結構大人だからそういうみっともない攻撃なんてことをしてこないし。
さて、今日の授業よ。今日は特に気を引き締めないと。なんたって今日は―――。
「今日は生物を使って授業をしよう。生き物の移動だ。大丈夫。失敗しても私がフォローする」
「はい、先生。でも、ついに生き物を移動させるなんて、緊張するわね。いくら失敗してもいい駆除対象の魔物だとしても……」
いよいよだ。
教室には2つの檻。一つは空、もう一つには魔物が入れられている。
今日行うのは昨日先生と一緒に捕まえた魔物を檻から別の檻へ移す作業。この魔物は駆除の対象になっているから、失敗しても特に問題はない。
でも、この授業の目的は無傷の五体満足で移動させること。失敗してもいいとは言われているけども、授業の目的が果たせないなら、いつまでたっても上達なんてしない。それに使い勝手のいい大事な魔法だもの。成功したいわね。
手を伸ばして前方に魔力を込めれば、空間転移用の魔方陣が浮かび上がる。魔物の檻と、これから魔物が移動する檻の2箇所。
今まで無属性の魔法を使った時は無意識で使っていたけれど、今日は改めて、初めて意識して無属性の空間魔法を発動させる。そのため位置を指定する。こっちからあっちへ移動させる、ということを明確にイメージさせることが魔法を成功させる秘訣だって先生が教えてくれた。
魔物の方も自分の身に何かが起こるとわかったらしく、ギャーギャー、と叫び声をあげている。檻が揺れるほど暴れるので失敗してしまうかもしれない。檻がガタガタ揺れる度に少しずつ移動している。魔法陣の中に入っているから大丈夫だけど、本当に体の何処かを置いて移動させてしまうかも。
絶対痛いやつだから、暴れないでほしい。誰だって痛いのは嫌でしょ?
そんな風に、変に力が入ってしまっている私を見て、先生は声をかける、なんてことはしない。ただ、見守るだけ。
集中しなきゃ。
心を落ち着けなきゃ。
失敗しないようにしなきゃ。
私には目標があるもの。そのために成功しなきゃ。
『自らを葬るため。自らをその時まで生かすため』
口の中で呟く。
いつか自分の魔法で自分を殺す。私の最期は誰かに殺されることではなく、自分自身の手で終わらせる。それまでに私は、自分を殺す魔法を見つける。それまで生きていなければならない。
それを可能にするためには魔導賢者になって魔法を極める。
気持ちが落ち着いてきた。今ならできる。
だから、迷わずに唱える。
「転移」
檻の中が白く眩しく光ったと思ったら、そこにもう魔物はいなかった。代わりに用意されていた別の檻では、先程の魔物が元気そうに騒いでいる。
成功した、みたい。見たところ、どこも忘れ物なんて見られない。五体満足そう。その反応で少し安心した。
「見事だ」
先生が言う。その言葉に今度こそ本当に安心して腰が抜けた。
慌てて先生が駆け寄って私をひょいと抱き上げて椅子に座らせる。温かいハーブティーを用意して私に飲ませる。どっと汗が出たような、ちょっと生きた心地がしなかったような、そんな疲れで体が震えていた。
「今日の授業はここまでにしよう。初の生物の移動は精神的に疲れたろう。少し休んでから帰るといい」
先生は上着を私の膝にかけて、未だに騒ぐ魔物へ歩み寄る。右手に紫の魔法陣を展開させ、魔物にかざす。魔法陣を手でそっと押し出す動作をすると、魔法陣が魔物の頭に吸い込まれていく。魔物の声がゆっくりと小さくなり、そして大きな目は閉じられて、バタリと倒れ込んだ。
今のは闇属性の眠りの魔法。勿論、私も使えるけど先生のように無言で呪文詠唱を抜きに発動させることはできない。簡単な魔法ではあるけど、それをスマートにサッとやってのける先生をかっこいいと思う。
思えば、先生の魔法はどれも手際が鮮やかだし、呪文の詠唱はほとんどしない。きっと生活の一部になっているのだと思う。いちいち動作をクチに出して確認する、なんて日常生活でそうそうないし。安全確認とか何かしらの確認作業が必要なら口に出して確認するのはあるけど。
日常の生活の中で、それも呼吸をするように自然に魔法を使う。それだけ魔法を使い慣れているということでもある。普段の生活の中で魔法を使う機会を増やしてみようと思う。日常的に、自然に使えるよう、魔法だけでなく精神的にも鍛えないといけないだろうし。
後から聞いた話だけど、先生はこの時、私に失敗してほしかったみたい。常に成功し続ける私にここらで一度、失敗と挫折を教えたかったんだって。将来その経験をしておかないと他人を理解してあげられない人間になるのだという理由で。
言いたいことはわかった。そして、その失敗する時は今じゃないことも、私にはわかっていた。なんとなくだけど、失敗するのはもう少し先のことだと、そういう予感がしていた。
これも予知なのかしら?
人命に関わるような、大きな失敗でなければいいんだけど……。
◆転移
無属性の空間魔法。物体を別の場所へ移動させる。慣れれば短距離から遠距離まで人を移動させることも可能。遠距離の場合は魔力を多く消費するが旅をしたり、すぐに遠くへ出なければならない場合は非常に便利な使い勝手のいい魔法。ただし、無属性を持つ者にしか使えない。
慣れていないと『置き忘れ』と呼ばれる転移ミスが発生する。内臓の置き忘れが起こった場合、相手はほぼ確実に死ぬ。移動させる際は自分が行ったことがあり、その目で見たことのある場所をイメージする必要がある。
すっかり寒くなってきました。今回は少々肝の冷える体験をしたという内容のお話でした。この魔法は使い方次第で自分を守ったり、攻撃にも転用できたりする
ので、便利だと思います。本当に使い勝手が良さそう。 でも、現実でもし可能になると、旅行業者や宿、交通機関が儲からなかったり、食い逃げとかの犯罪の逃走、休みでもすぐに会社に来いと言われてしまったりとかがありそうです。
現実世界に魔法がなくてよかった。
ということで、今回も読んでいただきありがとうございました。
(10/22、授業場所が教室であることの描写を追加し、自然な文章になるように一部変更)




