転移スクロール(C)
「いやぁ、良かったですね~」
「……どういう意味だ?」
「色々ですよ色々。主さまこそ、どうですか? 魔眼の使用感というか」
ずっとニヤニヤしてるのが気になるが……まあいいか。
「……そうだな。想像してたよりもずっといい感じだ。MPの関係で効果時間は短いが、あの程度のコストで手に入ったと考えるとかなりお得だな」
「あ、それなんですが」
ディアは腕を組んで思案げな表情になる。
「たぶん主さまの特殊称号に影響してるんだと思いますよ」
「特殊称号? ……ああ、そういえば変わった効果のやつがあったな」
ディアが言っているのは、おそらく『ビギナーズラック』という特殊称号だろう。あれには戦闘スキルの効果補正があったはずだ。
「レア個体のオークを倒したという『オーバーヒート』にしてもそうですが、低コストで生成できるオーブのスキルなんて、辛うじて実感できる程度の効果しかないか、ピーキー過ぎて使い物にならないのが普通なんですよ」
「……そんじゃあ何か? 『ビギナーズラック』の戦闘スキル補正(中)ってのが絶大な効果を発揮してるってことか?」
「おそらくは。……合計討伐数が0体の状態でレア個体を討伐なんて、そうそうあることではありませんから。それ相応の恩恵があると考えるのが普通です」
と、そこで言葉を区切り、一度俺の方を見ると、「ぷっ」と小さく噴き出した。
「……さっきから何なんだよ」
「いえ……ぷっ。い、言わない方が……」
「…………いいから教えろ」
ディアは「わかりましたよぉ」と言いながら、魔力を練り上げて等身大の楕円形の物体を作り出した。
「これは……鏡みたいなもんか」
「ええ、幻影魔法を使った姿映しです」
水面の反射くらいならまだしも、こうしてちゃんと自分の姿を見るのは久しぶりだ。
地球人なら違ったろうが、この国では鏡なんて高級品を個人で持ってるのはお貴族様くらいだからな。
近づいて見てみると、眼帯を外した俺の姿が映し出されていた。
少し灰色がかった髪に黒い瞳。この国……というか大陸では珍しくもない組み合わせだ。自分の容姿について考えたことはあまりないが、特別カッコよくもブサイクでもない、何の変哲のない顔立ちをしている。
「なっ」
まあそれはいい。問題は眼帯を取った右目の方だった。
義眼とは思えないほど精巧にできていて、形は左目と比べてもほとんど差異はない。
……しかし、瞳孔の部分だけが非常に鮮やかな青色になっており、さらには十字架のような模様まで浮かび上がっていた。
まごうことなきオッドアイ。しかもかつてゴブリンに付けられた瞼の縦傷とリンクし、十字架模様がより痛い感じになっている。
「いやぁ、マジかっけーですよ。主さま、マジ卍。あ、卍じゃなくて十字架か」
……勘弁してくれ。
十四歳の少年だったら喜ぶかもしれんが、俺はいい歳した大人だ。
「オトコノコはいくつになっても、こういうの好きなんじゃないんですか? Zさんはあの歳でも好きだったみたいですよ」
うっせぇ。Z氏の趣味をとやかく言うつもりはないが、俺は特別好きでもないし、ましてや自分がこうなってしまったら完全に恥ずかしさが勝る。
これ、どうにかならんのか……。
「さっき、魔力を込めた瞬間にそうなったみたいですね。魔眼の性質というか、一種の化学反応みたいなものなので、たぶん治ることはないと思います」
「…………」
ニヤつくディアを八つ当たり気味にデコピンしながら、俺は人前では眼帯を外さないようにしようと固く誓った。
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
目立った傷はなくとも、心に少なくないダメージを負いながら、6階層の探索は進んでいく。
ヘルハウンド、ゴブリンの群れ、そして何気に初遭遇となるコボルトを倒し、道中の宝箱から低級ポーションと、MPを回復させる魔力ポーションを一本ずつ手に入れた。
魔眼の使用で30ほど消費したMPは、約二時間半ほどで全快した。十分につきMP1回復って感じだな。INTの上昇に伴って回復量も増えるのか、それとも回復量は不変で、『魔力回復量上昇』などのスキル効果でのみ増えるのかは不明だ。
ちなみに、さっきから魔力だのMPだの言っているが、二つはほとんど同じ意味だ。
正確には残存魔力=MPだが、MPやINTなんかのステータス値は『鑑定』では見えない項目のため、オーブ名の方には『魔力』の表記が採用されているんだろう。
ちなみにディア曰く、『超鑑定』の情報量はメニュー機能と同等らしく、名前や所持スキルだけではなくステータス値も表示される。MPやINTの概念が一般に出回っていないのは、『超鑑定』のスキルオーブをマスターが出し渋っているのか、それとも国による情報統制でも敷かれているのか……実際のところはわからんな。
外の時間ではもうじき日が暮れる頃だ。ここで探索をやめて野宿するのもありだが、7階層への階段が近かったため、進んでしまうことにした。
7階層に登場するメインのモンスターはヘルハウンドだ。
すでに見慣れた感があるが、6階層まででは一体、多くて二体だったのが、ここでは三体の群れで現れることもある。今までの感じだと、よほど油断でもしない限りは大丈夫だと思うけどな。
さて、ここまでは最短距離を進んできたが、そろそろアイテム回収をメインに考えてもいいだろう。
頭の中の地図を頼りに、アイテムのありそうな場所にあたりをつける。
宝箱の置いてある場所というのは、ある程度探索者たちにも知れ渡っているが、時たま思いもよらない場所に置いてある場合もある。全てはダンジョンマスターの御心次第、だな。
「おっ」
何度目かの角を曲がり、行き止まりまで歩いて行くと、そこに今までよりも少し豪華に見える宝箱があった。
浮かれそうになる心を抑え、まずは宝箱が本物か確認することにする。7階層では極まれにミミックも登場するからな。
一応ディアにも確認してみたが、「たぶん違うと思いますけど……わからないですね」と答えられた。そういうスキルを持っているわけでもなし、仕方がない。
剣の先端で数度つついてみて、飛びかかってきても対処できるよう心構えをしながら宝箱を開く。
幸い、宝箱はミミックではなく、中には一度見たことのあるアイテムが入っていた。
「これ、あれですよね?」
「ああ……転移スクロールだな」
これが『彷徨いの迷宮』の転移スクロールか。見た目は俺のダンジョンのスクロールと全く同じだな。
これで、緊急時のダンジョンからの脱出手段が増えたな。俺のダンジョンのスクロールを使うのもありなんだが、王都から突然消失することになるので怪しまれるリスクが伴う。
このスクロールなら、『彷徨いの迷宮』の行ったことのある任意階層に転移することが――
「……主さま?」
その時、ある考えが頭に浮かんだ。
「……なぁ、これ、DPに変換したらどうなると思う?」
「はい? …………そりゃDPが増えると思いますけど、ボケたんですか?」
「ちげーよ」
ダンジョンの知識が標準装備されているディアにはピンと来ていないようだった。……いや、だからこそか。
「アイテムをDPに変換すると、そのアイテムを再生成することができるようになるよな」
「ええ、そうですね」
最初に知った時は「質屋かよ」と思わずツッコミを入れたが、『アイテム生成』にはそういう便利機能がある。
レアオーク戦で鞄を外身ごとDPに変えたが、その後再生成して同じ鞄を使ったりもしている。
ちなみに、同種なら最初に取り込んだアイテムと全く同じアイテムのみが生成されるようになっている。じゃないと、取り込むたびに大量の項目が『アイテム生成』に追加されてちまうからな。
「この転移スクロールを取り込んだら……今、『アイテム生成』に表示されてる転移スクロールはどうなる?」
「それは…………どうなるんでしょう」
ディアはハッとした表情で考え込む。俺のダンジョンの転移スクロールと、『彷徨いの迷宮』の転移スクロールが同種判定なら、ただDPに変換されてしまうだろう。
だが、もしそうじゃなかったとしたら。
「……試してみる価値は、ありそうですね」
俺は無言で頷き、転移スクロールを握り込んだ。
そのまま、強く『取り込む』とイメージすると、転移スクロールは光の粒子となって俺の中に吸い込まれていった。
メニュー画面を確認してみると、収支履歴には+10000(5000DP)と表示されている。生成コストは同じだな。
そして、『アイテム生成』の方を確認してみると……。
「転移スクロール……(C)と(Z)?」
表示されている転移スクロールは二種。
その末尾に、括弧で囲まれた二つのアルファベットがあったのだった。




