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戦力強化

 オークとの死闘から二日後、俺はマイホームもとい自分のダンジョンへと帰還していた。

 王都からダンジョンまでは片道二日の道のりだが……何も、治療院を出てからすぐ超特急で帰ってきたわけではない。丸一日、思いっきり身体を休めて、美味い飯を食って、ついでにDPで生成した貴金属を売って王国銀貨30枚ほど――一ヶ月は問題なく暮らせる程度の金を手に入れてから来た。


 何故、短時間で戻ってくることができたのか。

 その秘密は、『転移スクロール』という巻物型のアイテムだった。


 1万DPで生成できるこの使い捨てアイテムは、ダンジョン内の行ったことのある任意階層の入口に転移できるという非常に便利な効果がある。

 三大迷宮など、階層数の多い広大なダンジョンでは、探索者が目的の階層に向かうだけで数週間かかってしまうこともあり得る。それを解決するための手段として、ダンジョンで稀に入手できるのが『転移スクロール』だ。

 一つで最大十人が同時に転移でき、窮地に陥った際の緊急回避手段としても使える。

 最深層を攻略するようなトップ探索者パーティは、必ずと言っていいほどこのアイテムをストックしており、E級、D級くらいでは手が出ないような価格で取引されている。

 それがDPで生成すれば1万と、決して安くはないが十分手が届く価格だ。


 このアイテムを上手く売り捌けば大金持ちになれるのでは? と思うかもしれんが、そう簡単な話でもない。


『転移スクロール』は、入手したダンジョンにのみ転移可能となっている。『彷徨いの迷宮』で手に入れたスクロールは、『彷徨いの迷宮』の任意階層にしか転移できない。


 それなら、俺がDPで生成した『転移スクロール』はどうなるのか。


 ……その答えがこれだ。


 安宿の一室で転移スクロールを使った瞬間、俺は自分のダンジョンの入口に立っていた。ちゃんと使える保証はなかったため、無事に帰ってこれてホッとした。


 さて、DPに変換するようなアイテムも持っていないのに、何故ダンジョンに帰ってきたのかというと、それは偏に俺自身の戦力を強化するためだ。


 ダンジョンに潜ってみて改めて実感した。

 あそこはソロで攻略するもんじゃない。パーティ単位で、しっかりと役割分担して臨むものだ。


 しかし、俺には絶対他人に明かせないダンジョンスキルがある。他のダンジョンマスターに勘づかれたくないというのもあるし、周知された結果、人類の敵認定されることだってあり得る。

 確実に信頼できる人間でもいたら別だが、基本的にパーティメンバーを集める気はなかった。


(メニューオープン)


 段々見慣れ始めてきたメニュー画面の、『モンスター召喚』の欄を参照する。上限は3万と考えて、それ以下のコストのモンスター一覧を昇順で表示する。


 俺が諸々の事情をクリアする方策として考えたのは、モンスターを召喚して仲間にすることだった。

『アイテム生成』以外のダンジョンスキルは、ダンジョン外ではグレーアウトして使えなくなっていたから、わざわざ帰ってきたというわけだ。


 ギルドや他の探索者に聞かれたら、モンスターを手懐ける『テイマー』のスキルを習得したと言い張るつもりだ。コスト5万DPの『隠蔽』でステータスを書き換えれば、まずバレることはないだろう。


 モンスター一覧に表示されたのは、計二十体のモンスター。上はゴブリンから、下はオーガや、サーペントというヘビに似たモンスターまでいる。

 ……あまり威圧感のあるやつは避けたいな。むやみに目立ったり、ダンジョン内で他の探索者に攻撃されることも考えられる。それと、現状火力はある程度足りているので、どちらかというと補助要員を呼び出すのがいいかもしれない。


 そう考えながら一覧を眺めて、俺は一つの名前に目を止めた。


『ケットシー』


 見たことはないが、二本足で歩く猫のような見た目のモンスターらしい。Z氏の知識ではモンスターというより妖精的な存在だが、それを言ったらゴブリンはどうなんだという話になってくるのでスルー。

 コストは2万で、簡単な回復魔法や相手を騙す幻影魔法が使えるらしい。役割的にはぴったりだし、実は……こう見えてもわりと動物好きなので、思う存分毛並みを撫でたいという邪な思いもあった。


 他にも色々と見てみたが、ケットシー以上に心惹かれるモンスターはいなかった。


 よし、と決心してモンスターを選択……したが、すぐには召喚されず、オプション画面が新たに表示された。


 なんだこりゃ?


 確認したが、どうやら追加でDPを払うことにより、初期ステータスに上乗せする形で強化できるらしい。試しに数値を上げてみると、それぞれ50%増くらいが上限で、全ステータスを目一杯上げると二倍ほどに召喚コストが上昇した。

 あと気になるのは、INTとは別に知性という項目があることだ。注視して詳細を調べると、『モンスターの頭の良さ』という、わりと抽象的な説明が出てきた。しかもこの項目だけ異様にコストが高く、初期値の30から上限の80まで上げることで1万DPほどかかってしまう。


 これは……どうするのが正解だろうか。


 素直に考えるなら戦闘力を底上げするのがいいのだろうが、この知性という項目が非常に気になる。知性が低い状態で呼び出してしまうと、もしかすると命令を聞かなかったりするのか?

 ケットシーの初期ステータスは、身体能力は俺より若干低いが、魔法関連の能力は軒並み高い。マスターに対して反旗を翻したりはないにしても、誤って俺に魔法を放ったりすることも考えられる。


「…………」


 しばし迷ったが、結局知性を上限の80、残りのステータスはMPとINTを若干上げて、コストは3万2000DPだ。

 想定より少しオーバーしているが、許容範囲だと思おう。


 それじゃあ、改めて――


「いでよ、ケットシー!」


 こんなこと言う必要はないが、雰囲気作りのためにあえて言ってみた。

 ……初めての『モンスター召喚』にテンションが上がっちまった。ちょっと恥ずかしい。


 しかして、地面からそれっぽい魔法陣が現れて、その中心から小柄な猫が――猫……猫かこれ?


 四本足でモフモフしてるし尻尾もひげもあるが、なんというか、結構ぬいぐるみじみたファンシーなやつが出てきた。

 もっとリアル調なやつだと思ったんだが……。


 魔法陣が消えた後、ケットシーは二本足でゆっくりと立ち上がり、そして――



「お初にお目にかかります。主さま」



 なっ!?


 しゃ、しゃべりやがった!!

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