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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
魔王城の住民編
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芽生える想い

ご観覧頂きありがとうございます! もし気に入っていただけたらブクマ、評価、感想などよろしくお願い致します! 僕が喜びます!

 あのパーティからそれなりの時間が経ち、魔王城はいつも通りの平和な状態に戻っていた。

 だからといって兵士達や、騎士達が鍛錬を疎かにすることは無いが、それはいざという時に備えてであり、鍛錬しているからといって平和ではない訳じゃない。


 ただ、いつもと変わらない風景にも多少の変化は訪れるもので……


「……どうしましたセラフィ様?」

「サクラか。どうしたとはなんじゃ? 特段何もないが……」


 魔王城の廊下でセラフィとサクラがすれ違うことは別に珍しい訳では無い。

 この場にヨゾラがいないことも、気にするようなことではなく、殆どの時間をヨゾラとセラフィは共に過ごしているとはいえ、別々の時もある。


 では何故サクラはセラフィにどうしたのかなどと聞いたのか……それはセラフィが何かを悩んでいるように見えたからだ。

 傍から見ればセラフィにそんな様子は殆ど見えないし、サクラ以外の誰も気が付かないだろうが、ヨゾラの次にセラフィと共に過ごしており、更には崇拝しているとも言えるようなレベルで慕っているということもあり、微かな違和感に気が付いたのだ。


「いえ、何か悩んでいらっしゃる様子でしたので……」

「……ふむ、どれだけ隠しててもバレてしまうんじゃな……まあ、なに、大したことではない」

「いえ、ヨゾラ様にも話していないようですし……私で良ければ相談してください!」


 セラフィは滅多に、それこそ見たことは殆ど無いレベルで何かに悩んだりはしないが、仮に何か悩みごとがあればヨゾラに相談するだろうとサクラは考えている。

 だが、ヨゾラはセラフィの悩みを解決する素振りを見せない。つまりは気が付いてはいるだろうが、直接は聞いていないし、セラフィが隠しているということを察して触れていないのだと思うのが普通だ。


 ヨゾラにも相談できないこととなると、後は女性として何らかの悩みを抱えていると推測したサクラは、ヨゾラの代わりに自分が相談に乗ることを買って出たのだ。


「……そうじゃな……では頼めるかサクラ?」

「はい! お任せください」


 セラフィ自身1人で悩んでいても答えは出ないと分かり始めていた頃だったので、丁度よかったのかもしれない。


 まずヨゾラには聞かれたくないので、セラフィとサクラは適当な空き部屋の中に入る。

 話は簡単に終わらなさそうだと察したサクラは、先に飲み物と軽く摘まめる物を用意してから一息付いた。

 サクラも随分とお茶の腕を上げたものだとセラフィは思いながら、話を始める。


「まず、儂が悩んでおることについてじゃが……なんとなく分かってはいると思うが、ヨゾラに関することじゃ」

「そうですね……なんとなくは分かっていました」

「儂にとってあやつは特別な存在じゃ。そもそもヨゾラがきっかけで儂という存在が生まれたからの……特別なのは言ってしまえば当たり前なのじゃが……ただ、最近……いや、思えばもっと前からそういった理由で特別という訳では無くなっていた気がする……」


 ヨゾラという特異点により生まれたセラフィは確かにヨゾラが特別な存在なのだろう。

 ヨゾラにとっても、セラフィは初めて出来たパートナー、相棒相方……そういう意味で特別なのは間違いない。


 だが、セラフィも気が付かないうちに、その特別の意味は変わっていっていた。

 生まれたきっかけだからではない、ヨゾラと共にいることで芽生えた想い。新しい特別の形。

 しかしながら理級精霊であるからか、セラフィにはその特別の意味を理解することが出来ていない。とても大切で、理解しなければいけないとこであるのは分かっているのだが、それでも答えに辿り着けないから悩む。


「あやつは儂を、サクラもそうじゃが、家族と呼んで絶対的な信頼を置き、そして何としても守ろうとする。じゃが、何故か分からぬが、あやつの言う家族では安心というか……満足出来ない自分がおるんじゃ……」

「なるほど……」


 サクラはセラフィの話を聞いて、セラフィが何に悩んでいるのか、どういった感情を抱いているのかをすぐに理解することが出来た。

 何故なら、彼女自身もそれに似たような想いと悩みを抱えているからだ。


 サクラはヨゾラとセラフィの従者であるというスタンスを己の中で決め貫いている。

 どれだけ家族と呼ばれようとも、どれだけ気軽に遊びに誘われようとも、ヨゾラという1人の男に対して相応の感情を抱いていようとも……


 本当ならば気持ちを伝えたい。しかしその勇気と自分の矜持が邪魔をする。

 何かきっかけさえあればきっと伝えられるのだろうが、今はまだ難しい。


 だからこそ、目の前で悩んでいるもう1人の主を……自分と同じくヨゾラに恋心を抱いている少女の背中を押してあげたいと思った。


「……セラフィ様、ヨゾラ様とずっと一緒にいたいですか?」

「うむ」

「困っていた時は支えてあげたいですか?」

「うむ」

「誰よりも……大切ですか?」

「うむ」

「大丈夫ですセラフィ様。貴方が抱いた感情は正常で、とても尊いものです」

「し、しかし儂にはこの感情がなんなのか分からぬ……」

「単純ですよセラフィ様。好きなんです、ヨゾラ様のことが。どうしようもなくヨゾラ様のことを愛しているのです。確かに家族にあるような親愛が今はあり、それはとても大切なものですが、セラフィ様は先程満足出来ない自分がいると仰っていました。それは恋人としての愛が欲しい、と感じているのだと思いますよ」


 サクラの言う通り、本当に答えは単純だったのだ。しかしセラフィは理級精霊であり、そもそも精霊に恋愛というものは存在しない。

 理級精霊として様々な知識を持った状態で生まれたセラフィだったが、恋愛に関する知識は残念なことに持ってはいなかった。

 しかしヨゾラにより擬人化して、人の限りなく近づいたことにより様々な感情を抱くようになったセラフィは、しかしどうしても恋愛感情だけは理解することが出来なかったのだ。

 故に戸惑い、悩み、こうしてサクラに言われるまでは気が付くことはなかっただろう。


「そうか……これが恋というものだったんじゃな……ありがとうサクラ」

「いえ。それよりも、これからどうするのですか?」

「分からぬな……ヨゾラが今以上の関係を望んでいるのかも分からぬし、儂の中にあるこの気持ちの伝え方も……」


 セラフィは自分の中にある気持ちを知ることが出来た。だが、だからといってヨゾラが今以上の関係を望んでいるのかは、ヨゾラと最も近いところにいるセラフィにすら分からない。


 初めてのことだった……初めてセラフィは怖いと感じた。

 今の関係が壊れるかもしれない、ヨゾラに拒絶するかもしれない、そう思うと、言い訳ばかりが浮かんできてしまう。


 実際は何も悩む必要が無いことなど、当事者には確信出来ないものだ。

 それを確信出来ているのは、もう片方の当事者と、そして両方のことをよく知る者だけだ。


「セラフィ様、私セラフィ様とヨゾラ様には幸せになってほしいです……」

「サクラ……」

「怖がる必要はありません! ヨゾラ様がセラフィ様を大切に想っていることはセラフィ様が一番知っているはずです!」


 まあ結論から言ってしまえば、これ以上は悩むだけ無駄なことなのだ。

 2人を知っている者だったら誰でも分かる。ヨゾラが断る訳が無いということくらい。むしろ、まだ付き合ってなかったのかという者すらいそうなレベルである。


「……そうじゃな。確かに悩んでいるばかりでは仕方ないのかもしれぬな。サクラ! 何か良い案はないか?」

「その意気です! セラフィ様!」


 セラフィも心は決まったようで、先程とは変わってやる気に満ち溢れている。


「そうですね……定番ですが、何かプレゼントなど用意してみるのはいかがでしょう?」

「プレゼントか……うむ、確かに儂は今までヨゾラに何かを貰ったことしかない。これまでになかったことであれば、案外刺さるやもしれぬな」

「そうと決まればお任せください! 良いお店をいくつかピックアップします!」


 それからセラフィとサクラは数時間も話し合いをしていた。

 全てはヨゾラに最高の形で気持ちを伝えるために……


 出会ってからかれこれ十数年が経ち、遂にというべきか、ヨゾラとセラフィの関係に大きな変化が訪れようとしていた。






 ――――――――――






 そして数日後、城でセラフィの帰りをサクラと待っていたヨゾラの元にミヤがやってきた。

 ミヤが来ることはあまり珍しいことではない。サクラを遊びに呼び出した時に、サクラがミヤも連れてくることも度々あり、ビャクとサクラを除けば最も会話をする使用人と言える。


 だが、その時はいつもと様子が違い、酷く焦ったような様子でやってきた。


「どうしたミヤ? 何かあったか?」

「は、はい……その、ヨゾラ様……」


 ここまで深刻な様子は今までに見たことが無かった。

 しかし、それも仕方が無い。次にミヤから発せられた言葉は、あまりにも衝撃的だった……


「セラフィ様が……セラフィ様が何者かに攫われました!」


自由な女神「え……セラフィちゃんが攫われた……? 次回から新章だっていうのにどうなっちゃうの!?」

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